Border_Wall_at_Tijuana_and_San_Diego_Border

 アメリカの国土安全保障省の移民に関する最新の統計によると、この数年のアメリカが受け入れる移民は毎年年間110万人ペースで増えているという。1990年代に10年間に1,000万人弱増だったことと比較しても驚くほどの増加です。

 正確な数値は分らないにしても、そこに1,000万人を超えるといわれる不法移民を加えると21世紀になってからも、増減はあるにせよ膨大な数の移民がアメリカに押し寄せていることになります。

 トランプ政権になって以来、ドリーマーと呼ばれる不法移民のことばかりが話題になり、不法移民が連れてきた子供を親から隔離したことが批判されたりしています。しかし、移民急増の数字からすると、従来からアメリカに住む一般市民からしても、いくら国土が広いとはいえ、移民の増加を日常生活で肌で感じていることは間違いないでしょう。

 ドリーマーたちに合法的滞在許可を与える運動は、今もリベラル派を中心に熱心に行われている一方、それに反対する勢力がトランプ支持に回っているのも頷ける状況です。

 ドイツは、この数年でシリアやイラクの紛争地域から逃れてきた約100万人の難民を受入れましたが、人口約8,200万人のドイツで過去最高の移民受入れを行ったわけですが、人口3億2,000万人のアメリカは、年間110万人ペーストという数字は、多いといわざるを得ません。

 ヨーロッパで急増するアラブ系移民は、ヨーロッパの精神文化とは異質のイスラム教を持ち込んだことで社会を2分する政治・社会問題になっており、治安の悪化もあって、極右政党が支持を集めています。

 最初から移民で構築されたアメリカと歴史の長いヨーロッパを簡単には比較できませんが、欧米先進国の移民受入れには、人道主義が深く影響を与えていることは間違いありません。統計値だけで見れば、2016年のアメリカの移民出身国のトップはメキシコ、次がインド、3位が中国となっている一方、増加率ではアジア系が急増しています。

 彼らの多くはニューヨークやシカゴなどの大都市を目指しており、1989年にシカゴのデイリー市長にインタビューした時は「シカゴには中国人コミュニティー、ヒスパニックコミュニティーなど多様なコミュニティーがある」と自慢していました。

 しかし、シカゴの2016年の移民数を見ると総人口の3.4%と増えており、ニューヨークに至っては全人口の16.5%が移民という増加ぶりです。1980年代後半に多文化都市を自慢していたような余裕のある発言は今は聞かれず、この30年間、繰り返し厳しい移民政策を行使したにも関わらず、移民は増え続けています。

 特に移民問題が社会問題化するのは治安問題とリンクするからですが、特に麻薬絡みの殺人事件を含む犯罪で刑務所に収監された約4分の3が中南米出身者で占められていることを考えると、トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を作りたいという主張も頷けるものがあります。

 しかし、必ずしも移民が治安を悪化させるという論理は統計上からは見えてきません。特に急増するアジア系移民の犯罪占有率は低く、むしろ、治安改善に貢献している。フランスでもベトナム難民を積極的受け入れた1980年代、ベトナム系の子供が通うパリの小学校は他の学校より学力が向上する現象が起きました。

 ニューヨーク市の2016年の人種別犯罪逮捕者率では、軽犯罪では黒人が全体の40.6%、ヒスパニック慶賀36.1%、白人が18.1%で、殺人では黒人が52.9%と圧倒的に多く、それに比べれば、若年層の数は少ないアジア系は5%前後で推移しており、治安の改善に貢献しています。

 移民問題は人種差別という人間の心に自然に発生しやすい感情が絡む熱くなりやすいテーマです。人道主義や寛容さという理想論だけでは、全ての人を納得させることは難しいわけですが、アメリカでは、理想論を唱えながらも現実の解決策を示せていないリベラル派とアメリカ第1主義を支持する保守派に極端に色分けされ、まともな議論ができていないように見えます。

 アンチトランプの論陣をはる英BBCなどは、トランプの移民政策や人種差別、非人道性をやり玉に挙げ批判していますが、オバマ政権時代に黒人の暴動が何度も起きた経緯は忘れているようです。不法移民の親子が引き離された映像だけが一人歩きし非難を浴びても、まともな議論には繋がっていません。

 原因は、アンチトランプもトランプ支持者の間で感情論が先行し、それをメディアが煽っているような構図で政治利用され、なかなか冷静な議論ができていないことだと思います。誰が取り組んでも解決策を見つけるのは困難な移民問題ですが、マスメディアが正確な情報提供を怠っている側面もあります。

ブログ内関連記事
ダイバーシティ国家アメリカの人種差別を批判できる国はない
トランプ米大統領の初の一般教書演説は一貫して伝統的保守を意識したものだった
アンチ・オバマを貫くトランプ米大統領の一貫した姿勢の裏側
現代の奴隷は難民、移民から産まれている