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 異文化環境で仕事をする上で、文化の壁はいつも問題になるわけですが、その壁を超えるために「ロジカルであること」が重要だといわれます。日本人はロジカルに思考し、ロジカルに話すことが得意な方ではなく、理屈の大好きな中国人にロジカルに責められると引いてしまう傾向があります。

 とはいえ、ロジカルで全てが解決するわけではないことを長い海外生活とフランス人妻との30年以上に渡る生活の中で、私は嫌というほど経験してきました。つまり、論理的にも文化は大きな影響を与えているということです。

 たとえば合理的という言葉があります。理に適っていれば、文化の壁は関係ないという人もいますが、実は、その「理」自体に文化は大いに影響しています。つまり、アメリカ人の理屈、中国人の理屈、ドイツ人の理屈は、それぞれ違うということです。

 自分の言っていることが、ロジカルだと思っても、それは自分が育った環境で経験し、刷り込まれた文化、あるいはコンテクスト(文脈)をベースにしたものでしかありません。特に価値観は大きな影響を与えており、たとえばインドのようにヒンズー教、イスラム教など、さまざまな宗教がもたらす価値観は、論理そのものに大きな影響を与えています。

 たとえば仏教の国タイでは、感情をコントロールできないことは仏教の教えから、非常に良くないと考えられています。ある日本人上司がタイ人が行った不正行為に腹を立て、本人の前で怒りを爆破させた一方、怒りの根拠は結構ロジカルに話した例があります。

 その時、タイ人は上司のロジックよりも、自分の感情をコントロールできない上司に対して、人徳がなく、上司にはふさわしくない人間と思い、憐れささえ感じたと、本人から聞いたことがあります。つまり、ロジカルに説明したはずの上司の怒りの原因は、何も届かなかったということです。

 ロジカルの限界を超えるためにロジカルの中に科学性を導入すると、より客観性が増すので説得力があるといわれます。たとえば、理系の技術分野であれば、数学や科学の世界共通言語があるのでグローバルな現場でも仕事がしやすいというわけです。

 一方、営業のような仕事は、その国の文化が直接影響を与えている人が相手なので、文化への理解がなければ結果を出すことができないといわれます。

 自然科学の共通項は文化の壁を超える大きなツールなことは確かですが、そこでも仕事の進め方をめぐって摩擦が起きることは少なくありません。たとえば個人よりチームを優先する日本の文化を異文化にそのまま適応させると、たとえエンジニアでも自分の仕事領域が明確でないと混乱が生じます。

 それにハイコンテクストの日本人のコミュニケーションスタイルでは、多くのことが「説明しなくても分かるでしょ」という構えで省かれるので、科学的ロジックが通じるといっても、言葉が十分でないために意図が伝わらないトラブルは多く発生しています。

 そこで重要なのは、日本人に対するよりも何倍も丁寧に話すことと、相手がそれを正しく理解したかどうかフィードバックを受けることです。自分は努力してロジカルに話したのだから、理解できない相手が悪いなどと考えるのは、グローバルの現実を理解していない証拠です。

 インドに赴任する某日本企業の社員が、そんな話を聞いて「何倍も丁寧に話すとしつこいと思われないですか」とか「相手は自分が頭が悪いので丁寧すぎるくらいに説明しているのではと思われたりしませんか」と質問されたことがあります。

 グローバルな現場では、そんな心配はまったくありません。むしろ、コミュニケーションの精度を高めるための努力は高く評価されます。むしろ、曖昧さや暗黙の了解、一を知って十を知る的な日本的考えの方が問題です。ロジカルであることは必須ですが、それでも文化の壁は容易には超えられないということを知っておくべきでしょう。

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