brexit-referendum-uk-1468255112FBb

 英国では、デイビッド・デイビス欧州連合(EU)離脱担当相とスティーブ・ベイカーEU離脱担当閣外相が8日に辞任を表明したのに続き、ボリス・ジョンソン英外相が9日、辞任しました。3人はいずれも離脱強硬派として知られ、穏健な離脱に傾くテリーザ・メイ英首相に反発した形です。

 ブレグジットのEUとの協議が佳境を迎える最中の閣僚の相次ぐ辞任、それも2016年のメイ政権発足とともに離脱交渉の鍵を握ってきた人物の辞任は、メイ政権の最重要課題であるブレグジット交渉が暗礁に乗り上げただけでなく、政権そのものが崩壊の危機に直面したといってもいい状態です。

 ブレア元英首相は今年に入り、難航するEUとの通商協議を前にして、ブレグジットの撤回はありうると発言し、注目を集めました。離脱決定した2016年以降、国民投票を再度行い、国民の意思を確かめる必要性を訴える世論はあったわけですが、穏健離脱派と強硬離脱派の決定的亀裂を前にブレグジットそのものの撤回を要求する声が勢いを増すことが予想されます。

 デイビス離脱担当相の辞任を受け、最大野党・労働党のコービン党首はツイッターで「これほど大切な時期にデイビッド・デイビスが辞任するとは、テリーザ・メイに何の指導力も残されていないことの表れで、その下でブレグジット実現は無理」と批判しました。

 そこにさらに次期首相候補ともいわれるジョンソン外相が辞任したことで、政府が機能不全に陥り、メイ首相の指導力は限界点に達したとの見方も出ています。それだけでなく、いらいらしながら離脱交渉に当たっていたEU側も戸惑いを隠せないだけでなく、離脱撤回への期待感も出ている状況です。

 そもそも今の状況を産んだのは、16日に再開予定のEU側との離脱交渉に向け、行き詰まりを打開すべく英内閣が6日、E Uとの強固な経済関係の維持を来年3月の離脱後も維持するというメイ首相の方針を承認したことによるものです。その後、閣内及び保守党内の強硬離脱派が「もはやメイ首相にはついていけない」との結論に達したということです。

 強硬派の主張は、今回の辞任声明でジョンソン元外相が述べているように「ブレグジットは(英国に新たな)機会と希望をもたらすものであるべきで、物事のやりかたを変え、より鋭敏でダイナミックになり、オープンで外向きの経済大国としての英国固有の利点を最大限に生かすチャンスであるべきだ」というものです。

 つまり、EUとの関係は完全にリセットし、EUのルールや意思決定の支配や影響を一切受けず、全て自国で選択し決定する体制をめざすべきであり、EUとの妥協は一切しないということです。メイ政権は「(英国を)植民地の地位に向かわせている」というジョンソン氏の言葉がそれを象徴しています。

 メイ首相の足元では、金融関係者、製造業などから、関税障壁が生れることへの懸念から穏健な離脱を望む要求が寄せられ、強く圧力が加えれてきました。ヘタをすれば、ロンドン・シティは世界の金融の中心地の地位を失い、英国内のグローバル企業の製造拠点が大挙して大陸欧州に移動し、雇用が大幅に失われるかもしれません。

 離脱強硬派は、EUとの関係を完全にリセットするには、一時的な経済的ダメージはいたしかたないという考えですが、実は強硬派は、その後の経済再生への具体案は示しておらず、無責任という声もあります。それにそもそもEU27カ国と英国1国の交渉で英国に都合のいいことだけを主張しても、前に進まないのは当たり前です。

 就任当初は、EUと完全な決別をめざすハード・ブレグジットを表明していたメイ首相ですが、その後の総選挙で挫折し、さらには保守党内の分裂や今回の強硬派の内閣離脱で、果たしてEUとの交渉は前に進めるのか、英国内は蜂の巣をつついたような議論になっています。

 今後も目の離せない状況ですが、意思の強いメイ首相が、このまま突き進むのか、それとも手を離して選挙や国民投票を行うのか、その場合は野党はどう反応するのか、ブレグジットを決めて以降、最大の危機に陥っています。いえることは、この不透明感の長期化は経済に深いダメージを与えるということです。

ブログ内関連記事
英議会でEU離脱法承認 本当はノーディール時間切れのリスク
ブレグジット交渉難航で経済界は時間切れを懸念
後戻りできない英国のEU離脱、未だ悲観論は消えていない
英国のEU離脱撤回の可能性はどこまであるのか