Samsung_headquarters
  韓国サムスン・グループ本社

 日本が長時間労働や過重労働の是正のための働き方改革に取り組む中、実は日本よりさらに長時間労働している国が近くにある。それは韓国です。その韓国で労働法が改正され、7月から労働時間の上限は残業時間を含めて週52時間となり、それまでより16時間短くなったというニュースが報じられています。

 この新法に違反した雇用者は、罰金や最高2年の禁錮刑が科されるということで、社内の消灯を19時にするなど、強引な策が講じられているようです。実は韓国人の平均労働時間は日本人より週6時間も長く、経済協力開発機構(OECD)加盟国中、メキシコと並び最も長いという統計が出ています。

 当然、韓国の1時間当たり労働生産性は、OECD加盟国の中でも最も低いランク。そのため昨年秋、OECDは韓国の生産性の伸びの急速な鈍化について「デジタル化:韓国の次世代生産革命の動力」という異例の報告書を出し、いわば「イエローカードが突き付けられた」と世界のメディアに報じられました。 

 その報告書によれば、過去25年間、加盟国の中で突出して急速な生産性拡大して韓国が、2012年以降は成長モデルが勢いを失い、労働生産性が加盟国中最下位レベルに転落したと指摘していました。OECD調べで「上位17カ国に対する労働時間当たりの生産性」のランキングによると、韓国は35カ国中33位で、ギリシャよりも低い。

 韓国経済は、未だに前近代的な財閥系大企業偏重で、輸出主導型の産業構造の中、優秀な人材が大手企業に集中し、そこでは生産性が高まった一方で、中小企業は人材不足で生産性は大企業の半分という実態が指摘されていますが、韓国人の知人の息子が勤めるサムスンでも長時間労働は今も行われていました。

 今回の労働法改正は、OECDの警告に答える形で行われたようですが、実は財閥支配や産業構造の問題ではないと個人的には見ています。1980年代後半、初めてサムスンを取材した頃、本社内では夕方6時になると牛乳とあんパンが支給され、その後、9時、10時まで働くのは普通のことでした。

 さらに同社研修センターでは、早朝5時前から起床、ランニングや体操、国歌と社歌を高らかに歌いながら、非常にハードで長時間の研修が行われていました。 「韓国には徴兵制があり、その軍事訓練に比べれば、なんてことはありません」とセンターの責任者はいっていました。

 それから10年が経った1996年、韓国は今回、生産性問題を指摘したOECDに29番目の加盟国として加盟しました。当時、韓国メディアは「ようやく韓国は先進国入りした」などと報じましたが、翌年には通貨危機に陥り、国際通貨基金(IMF)の支援を受ける事態になりました。

 今のOECDは「先進国クラブ」の性格は薄れましたが、韓国の先進国入り願望は日本人が考えるよりはるかに強いものです。逆に近年の成長鈍化で国際的存在感が薄れていることへの危機感は、非常に強いものがあります。特に日本に対する露骨な競争心を持つ韓国人の心は複雑です。

 今や世界的企業に成長したサムスン・グループの創業者、李秉抻瓩蓮∋笋取材を初めた頃は生きており、1年のうち多くの時間を日本で過ごし、日本の成功に必死で学んでいた時代でした。スマホ分野でアップルと市場を分かつほどに成長したサムスンですが、外国資本の比重が高く、韓国企業とはいえない状況もあります。

 今回の韓国の労働法改正の中身を見ながら、私は日本への対抗意識に燃えてきた韓国が日本をモデルとしてきた弊害が出ているようにも見えます。30年前、なぜ韓国人は深夜まで働くのかという問いに「相手に追いつき、追い越すためには、人の3倍働かなくてはならないでしょ」という答えが返ってきました。

 この答えは日本でも1960年代から聞かれたことで、その体質は今でも変わっていないように思われます。相手が1日8時間働くのであれば、その倍は働かなくては相手に勝てないという非常に単純な考えです。無論、その後、効率性が重視されるようになりましたが、基本は変わっていないように思います。

 この固定観念を根底から修正しないかぎり、長時間労働を解決する道はないと思います。皮肉にも20年前から始まった花形産業の日本のIT分野でも長時間労働は当たり前です。最も合理性、効率性を重視し、生産性向上に動くはずのIT分野で想像を絶する長時間労働が行われている実態は何を意味するのでしょうか。

 最も酷いのはベンチャーですが、ベンチャーはまさに途上国型の働き方で成長を遂げようとしているわけですが、これは大きな誤りです。それは日本が過去散々やってきたことであり、成功の鍵が時間的投資と信じ込んでいるわけですが、これは大きな誤認です。

 そこで働かされる社員は、確約もない「将来的成長」という人参をぶら下げられ、馬車馬のように働いている姿は、1970年代、80年代に見た日本と変わりはありません。製造工場は確かに生産性をあげるためのイノベーションを繰り返し、短時間に多くの成果を出すシステムを構築してきましたが、それ以外では、生産性は低いままです。

 「勝つためには、とにかく人の倍、3倍働く」という考えは、途上国型の貧しい哲学です。韓国の場合も財閥支配、輸出依存型の産業構造以上に、間違った哲学が定着していて、それを変えられないことに大きな問題があると私は見ています。それは多分、OECDには見えない精神面の問題でしょう。

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