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大変な思いをしてドイツに辿り着いたシリア難民だったが

 ドイツ政府は今年4月、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によって選定された1万人の移民受け入れに同意したことを明らかにしました。メルケル独首相は「この受け入れ合意により、不法移民の流入を防ぎ、合法移民の受け入れに置き換えていきたい」と述べ、難民受入れを継続する意思を示しました。

 しかし、どの国から難民を受入れるのかについては言及しませんでした。当然、誰もが知るドイツが受け入れた大量難民はシリアから来た人たちですが、ドイツは今、シリア難民の母国帰還という新たな現象に直面しています。それはシリア情勢が改善したという理由とは言い難いものがあります。

 UNHCRによると、欧州へのシリア人の難民申請数は、内戦発生から今年1月までの間に約100万人に達し、うちドイツへの申請数は約50万人を超えているとしています。3年前からシリアやイラクから大量に押し寄せた難民や移民のドイツの受入れ数は100万人に達し、一時はシリア国内でドイツ語を学ぶブームが起きたほどでした。

 しかし今、そのドイツを脱出し、トルコに戻り、再びシリアに入国する動きが出ています。英BBCは、ドイツから再び祖国をめざすシリア人たちを追うレポートをしています。戻ろうとする故郷は復興の兆しがあるわけではなく、内戦も終結しておらず、何も先行きは見えない中での帰国です。

 レポートによれば、ドイツを脱出するシリア難民たちは「われわれはドイツで差別され、テロリスト扱いされた」「ドイツ人はシリア人を二流市民と思っている」「イスラム教の生活文化は認められない」などと口々に語り、ドイツへの失望感を露にしていました。

 ヨーロッパを知る人間にとっては、さもありなんという印象です。無論、ドイツ人は善良ですが、排他的な村社会で、知らない人には同じ会社内でも挨拶しない人たちです。感情は露にせず、凍りついたような硬い表情と世界一といわれるダイレクトな物言いは、相手への配慮を感じさせません。それに日本人同様、決まり大好き人間です。

 隣の家の庭の芝が伸びていたり、よその家の窓に置いてある花が枯れていると、わざわざ言いに行く人たちです。分別ゴミにも厳格で皆が守るよう目を光らせています。当然、異文化の持ち込みには慎重を要します。手を広げて歓迎した難民・移民に対しても、すぐに社会ルールを守るようプレッシャーが掛かります。

 たとえば、フランス人もそういうドイツ人が苦手です。ましてシリア難民が強姦事件を起こしたりすると野蛮なシリア人へ嫌悪されます。今月はユダヤ人でもないドイツ人の青年が、ユダヤ教徒が頭に着用するキッパを悪ふざけでつけていたことで、シリア難民の若者に路上で襲われる事件が起きたばかりです。

 一方、シリア難民のリターンは、欧州に新たな脅威を生んでいます。彼らは難民認定により、特殊な欧州のパスポートを支給されています。そのパスポートさえあれば、欧州連合(EU)内を自由に行き来できます。そのパスポートが今、ドイツに向かうシリア移民から売り出されているというのです。

 BBCのレポーターはトルコで、そのパスポートの入手を試み、いとも簡単に入手できたことを潜入レポートで紹介しています。ネット上には大量のパスポートが売り出されており、これから欧州に向かうシリア人やイラク人が購入している新たな現象が起きているというわけです。

 問題は、このパスポートを持ったテロリストが欧州に流入することです。欧州への入国と移動が保障されたパスポートは、テロリストにとっては好都合です。シリアやイラクの過激派の拠点が失われる中、欧州でのテロを実行するための戦闘員が欧州に入ってくることを警戒している最中、このパスポート問題が出てきたわけです。

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