パリ・サンジェルマン・デプレには、パリ最古の教会があいますが、そのすぐ裏手フィルスタンベールと呼ばれる小さな広場に面してドラクロワが最後の住居とした家が残されています。今は国立ウジェーヌ・ドラクロ美術館になっており、最初に私が訪れたのは30年も前のことでした。

 サンジェルマン・デプレと言えば、実存主義者のサルトルやフェミニズムの創始者ボーヴォワールが通ったカフェ・ドゥ・マーゴがある場所で、多くの観光客で賑わうサンジェルマン通りは喧騒を究めています。ところがそこから数百メートルのところにあるドラクロワの館は信じがたいほどの静寂の中にあります。

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    今は美術館になっているパリの喧騒とは無縁のドラクロワのアトリエ

 ドラクロワは今でもフランスが生んだ不動の巨匠で、そのドラクロワの生活の臭いがするのが、この館です。パリの一等地に広大な庭と立派な館を持つ彫刻家、ロダンの家が美術館になっていますが、それと並ぶ芸術家だったことが伺えます。

 この館にはドラクロワが晩年に使っていた絵の具箱、パレット、身の周りのものが残され、同時に文筆家でもあったドラクロワの書簡集なども展示されていています。

 激動の時代を生きたドラクロワは大革命後の1830年に起きた7月革命に革命に共感して「民衆を率いる自由の女神」を描いていますが、自由を求めて立ち上がるパリ市民、女神の横でピストルを高く掲げる男がドラクロワ自身という説もあり、彼の革命への支持表明だったと言われています。

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民衆を率いる自由の女神 1830年ドラクロワ作 c Musee du Louvre / E. Lessing

 そんなドラクロワの「ドラクロワ (1798-1863)」展が今月末から7月23日までパリのルーヴル美術館で開催されます。ニューヨーク・メトロポリタン美術館との共同企画の回顧展で、1820年代のサロンへの出品から最晩年の作品まで、180点におよぶドラクロワの絵画作品が展示されます。

 今回は、これまでほぼ未公開であった珍しい作品も展示され、1963年の生誕100周年記念展以来の大規模な回顧展となるそうです。強烈なドラマ性を持った大作の多いドラクロワは、フランス近代絵画の原点にもなった画家と言えます。