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 シンガポールと言えば、ピカピカの街並みと東南アジアの中ではずば抜けた安定した経済力を持つ国というイメージが一般的です。しかし、シンガポール人の友人の話を聞くと、地理的、歴史的要因も加わり、そこにはしたたかで日本人が想像するものとは違った世界が浮かび上がってきます。

 まず、東南アジアで地理的にも人口的にも小国のシンガポールながら、超富裕層の割合が断トツに多いことで知られ、その個人資産は金融を含め1億ドル(約107億円)を超える世帯が多いという数字もあります。

 その一方で、ベトナムやカンボジアなどの近隣諸国からだけでなく、インドやフィリピンなど離れた国から来ている出稼ぎ労働者の数も多いのがシンガポール社会の特徴です。さらに欧米・日本企業のアジア拠点として、オーストラリアなどのオセアニア諸国の白人西洋人を含む欧米人も住んでいます。

 この多様性こそがシンガポールの底力になっているのも事実です。しかし、中華系のシンガポール人の友人は、自分たち中華系の人間たちは、この200年間、欧州諸国のアジアの植民地化と中国本土の治世の混乱、戦争に翻弄される中、ようやくシンガポールに自由を見出したと言っています。

 今月16日の旧正月の春節、街中のショッピングモールが閉まる姿は、改めて中華系の人々が中心の国であることを思い知らされる時です。私の数人の友人を含め、彼らの背景は複雑です。祖父の代に中国を逃れ、ベトナムやカンボジアを経由し、ベトナム戦争の時にシンガポールに移住した人も少なくありません。

 そのため親戚のネットワークはアジアのみならず、アメリカなどにも拡がっている。その背景から人々の独立心は非常に強く、たとえば、社会保障の根幹でもある年金制度がなく、老後の生活は自分で貯めるというマインドが常識化しています。

 取り巻く環境が目まぐるしく動いた過去を持つシンガポール人の多くは、政府などにあてにしていません。これだけ富裕層がいるのだから社会保障を充実させればと日本人なら思うところですが、彼らはそうなっていません。

 今は変わったとはいえ、富の再分配を基本に置く共産主義国家、中国とはま逆のメンタリティを見ることができます。結果として老後の資金を得るための金融資産を増やす能力は日本人など足元にも及ばないかもしれません。

 最近、シンガポール航空のCAだった娘の友人がシンガポール人と結婚し、娘が結婚式に招待されました。夫はIT関連の会社を立ち上げて成功し、35歳にして富裕層に属しています。披露宴のパーティーには世界中の友人に招待状を出し、飛行機代から宿泊費まで出し、高級ホテルは借り切り状態だったといいます。

 シンガポールという地で自由を得た中国人たちの経済力を見ると、改めて華僑パワーの凄さを感じます。しかし、オーストラリアでビジネスを学んだシンガポールの私の友人は、日本や欧米大国に比べ、上辺は良くなったが、まだまだ人は途上国の人間だと言い切ります。

 超先進的なものと途上国のマインド、多様な人種が混在するシンガポールは、アジアのダイバーシティ国家の代表とも言えます。