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 フランスのビジネススクールの教授や学生と話をしていると、必ず出てくるのが日本人の働き方への疑問です。その疑問は単純です。あれだけ経済力を持つ日本で、どうしてサラリーマンたちは長時間労働を続け、ライフワークバランスが極端に仕事に偏っているのかというものです。

 増える海外からの観光客たちの間で、驚きの光景の一つが飲み屋や電車の中で泥酔するサラリーマンたちの姿です。安全だから公の場で泥酔できるという日本の特殊事情もありますが、なぜ、長時間働いた後にさらに帰宅を遅らせるようことをしているのかという疑問です。

 この10年、日本企業では生産性の向上、仕事の効率化などが叫ばれてきましたが、事態はそれほど変わっていません。そこにはいくつもの原因があると考えられますが、その一つは日本の企業文化が極端に男性に偏りすぎていることです。

 男性は往々にして仕事に満足感を感じ、女性は子育てや私生活を豊かにすることに満足感を得る傾向があると言われます。無論、女性も仕事にやり甲斐を感じるのは同じですが、男性の脳の中の仕事に占める割合は圧倒的です。

 最近の研究では、ライフワークバランスが取れている社員の方が、圧倒的に効率性が高く、仕事への満足度も高く成果も出していることが分かっています。

 たとえば、国土の狭い資源のないオランダでは、国民生活をより豊かにするという目的から育児を基本とする国民の家庭生活を支える制度の大胆な改革を続けている。特に職場と家庭のライフワークバランスについては、オランダモデルと言われ注目を集めています。

 オランダでは1996年に法制化された労働時間差別禁止法により、育児に時間が必要な女性たちが仕事に就きやすい環境が整備され、2000年には働く側が労働時間の増減を決める権利を持つというフレキシブルワーク法(労働時間調整法)が施行されました。

 同法では1年間以上同じ職場で働いた被雇用者は、雇用者に対して労働時間の増減を要望する権利が与えられ、育児に時間が必要な女性が仕事開始時間や帰宅時間を調整することができるようになりました。無論、妻だけでなく夫も同等な権利を持つわけです。

 さらに雇用者側が労働時間で差別的扱いをした場合や時間調整に応じない場合は、監視委員会の調査が入り、適切な厳しい指導が行われることになり、当初は中小企業の抵抗もあリましたが、今では完全に定着している。

 この制度の導入で、女性管理職も、たとえば労働時間調整法を利用し、週4日、朝10時から午後3時まで勤務するなどという勤務スタイルが生まれました。中には夫が保育園に子供を迎えに行くため、毎日4時に退社するケースもある。

 もう一つ、オランダではフルタイムとパート、派遣の待遇の境を取り払っていて、自分に与えられた仕事をこなすことについても柔軟な考えを持てるようになっています。無論、今の状況を作り出すために何年も要したの事実です。

 オランダモデルを調査している友人のフランス人教授は、「今のような働き方に変化するには時間が掛かったのも事実。これは働くすべての人々の意識が変わらない限り、一社だけでは実現できない。つまり、経営者、ビジネスパートナー、顧客の幅広い意識転換が必要だから」と指摘しています。

 日本には戦後の急速な経済成長で成功体験の多い昭和世代が築いた長時間労働、過重労働を強いる経営スタイルが、今も根強く残っています。しかし、その結果は家庭を崩壊させ、女性の社会進出を阻み、少子化をもたらし、自殺者も出している。

 成功体験したなかった昭和世代は、この失われた20年ですっかり自信を失い、かといって根本的に働き方を変えるための知識も勇気を持ち合わせていません。上司は自分が育てられてように部下を育てるわけですから、出口は見えません。

 残念ながら海外から見れば、バブル崩壊後に足を止めて本当の豊かさを追求するというリセットが日本はできなかったように見えます。そんな平成も終わりを迎えるわけですが、凍りついた消費を溶かすためにも、人間がどんな状況で本当に満足するのか、その中身を問い直す必要があるように思います。

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