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 アメリカのトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認定し、テリアビブの駐アメリカ大使館のエルサレム移転を指示したことに対して、非難の声を上がっています。すでにパレスチナ自治区では各所で散発的に抗議デモが起き、催涙弾が飛び交っています。

 パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏は7日に演説し、アメリカを激しく非難し、「インティファーダ(反イスラエル闘争)」の実行を宣言しました。欧州連合(EU )のモゲリーニ外交安全保障上級代表は6日、パレスチナ自治政府のアッバス議長と電話で会談し、来年1月に議長を招いて加盟国外相らと対応を協議する意向を示しています。

 この問題では、英仏独首脳が懸念を表明しており、現在、日本が議長国を務める国連安全保障理事会も8日、緊急会合を開いて同問題を協議することになりました。クリスマス時期に決定した今回のエルサレム首都認定問題は、各所で懸念されるイスラム過激派によるテロの脅威をさらに高める可能性が出てきました。

 そもそもイスラエルのエルサレム首都問題は日本人には遠い話です。もともとパレスチナ人とユダヤ人が共存していた地域に第2次世界大戦後、ナチスドイツによるユダヤ人大虐殺を受け、ユダヤ人の祖国再建のシオニズム運動が最高度に高まり、アメリカや英国が支援する形で1948年にイスラエル国家が誕生しました。当初は、当地のパレスチナ人も周辺のアラブ諸国も理解を示していました。

 実はユダヤ国家建設には政治的、宗教的、文化的な要素が複雑に絡み合っており、その複雑さが今の理解しがたい状況を作り出しているとも言えます。たとえば宗教的には、ユダヤ教は未だに救世主を待ち望んでいる宗教で、その救世主によってユダヤ国家再建や約束されていると信じる伝統的ユダヤ教徒にとっては、救世主抜きのユダヤ国家再建はありえない話です。

 しかし、国土を失って世界に散在してきたユダヤ人にとって、自分たちの国家が建設されることは、迫害されながら流浪し宗教的、文化的アイデンティティを解放することに繋がったことだけは確かといえます。ところがパレスチナとの共存はうまくいかず、度重なる内戦で今はガザ地区などにパレスチナは追いやられ、2国家体制を模索中です。

 エルサレム旧市街にある神殿の丘にある岩のドームは、メッカのカーバ神殿、メディナの預言者のモスクに次ぐイスラム教の第3の聖地のモスクです。ところがこの神殿の丘を囲む城壁の壁にユダヤ教徒の聖地、嘆きの壁があり、丘自体がユダヤ教徒にとってアブラハムにまつわる重要な聖地です。

 つまり、旧約聖書を共有しているユダヤ教、キリスト教、イスラム教にとって、エルサレムは3宗教の聖地であり、イスラム教は神殿の丘の上にモスクを建て、ユダヤ教徒は、それを苦々しく思いながら、何度もその奪還を試みてきた経緯があります。

 パレスチナ国家が正式に誕生した場合、彼らは東エルサレムを首都と定めることを宣言しており、イスラエル政府は主要政府機関をエルサレムに置いています。しかし、武力でエルサレムを奪還したこともあり、国際社会は首都として認定してこなかった経緯があります。

 歴代大統領が先のばしにしてきた今回のアメリカの決定に対して、メディアの中にはトランプ大統領の娘婿でユダヤ人のクシュナー上級大統領顧問を含む在米ユダヤ人に配慮したものと指摘する見方もありますが、在米ユダヤ人の中でも意見が分かれている問題で単純ではありません。
 
 同時に欧米の政治指導者は可能な限り、外交においては宗教的要素を避け、深刻な対立を生まないよう努力しているわけですが、今回のアメリカのイスラエル政策の転換には、宗教的シグナルも含まれています。

 それはユダヤ教、キリスト教を兄弟的に扱い、イスラム教を排除するアメリカのキリスト教保守派の意見に合致するからです。アメリカ合衆国首席戦略官だったバノン氏は、昨年の大統領選以来、たびたびエルサレム首都認定を主張する発言を繰り返してきました。
 
 前オバマ政権でアメリカの国際社会に対するプレゼンスは急激に落ちたことが指摘され、パックス・アメリカーナの終焉が語られてきましたが、今回のアメリカの政策転換は、実はアメリカのプレゼンスに関わる大きな意味を持つと見られています。

 日本人は経済的な面から世界を見るのが正当と考える傾向が強いのですが、欧米諸国だけでなく、中東や東南アジア、アフリカに到るまで、宗教は未だ大きな影響力を持っているのも事実です。今回のトランプ大統領の発信したシグナルをどう読むか、各国の反応と合わせ、アメリカのプレゼンスが試される時を迎えたと言えるでしょう。

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