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 今、ロンドンの地下鉄に乗ると白人を見つけるのが難しいほど、さまざまな人種の人々が同乗しています。多文化主義の英国はフランスと違って、イスラム教徒の女性が公の場でスカーフを頭にかぶることも、シーク教徒がターバンを巻くことも許されています。

 無論、階級社会の英国では、自分の立ち位置によって見える風景は異なります。これはフランスもそうですが、中流階級以上の白人は郊外電車をあまり利用しないとか、ロンドンの金融街シティに行けば、白人だらけだとか、ロンドン東部に行けば、黒人、アラブ系が多いなど風景はさまざまです。

 実際、英国の人口の87.1%が白人、黒人はわずか3%です。今回、ヘンリー王子と婚約発表した相手の米女優メーガン・マークルは白人と黒人のハーフと言われています。町の風景には観光客も多く、住む場所によって黒人やインド人が多く見えたりしていても、フランスのように人口の1割が北アフリカのアラブ系というわけではありません。

 王室に異人種が入ることから人種差別問題が浮上しています。しかし、日本で天皇の継承権を持つ人物が外国人と結婚すればどうでしょうか。今の皇太子殿下が韓国人と日本人のハーフ、あるいはアメリカ黒人と日本人のハーフと結婚していたら、世論はどうなっていたでしょうか。

 アメリカのメディアは黒人の血を引く女性が英王室に入り、プリンセスになることへの英国民の反応を見ながら、英王室の閉鎖性やエリザベス女王の夫フィリップ殿下の人種差別主義を引き合いに出していますが、日本では未だ皇室の国際結婚はありえない話と言えます。

 今回の騒ぎで思い出すのは、1昨年亡くなったインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙(現インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ)のコラムニスト、ウィリアム・ファフ氏が、ダイアナ英元妃の交通事故死の後に書いた英王室についてのコラムです。

 ファフは私と同業ということもあり、何度が会って話をする機会もありましたが、彼はダイアナ元妃が嫁いだ英王室の腐敗ぶりについて書いていました。それは直接的にはチャールズ皇太子とカミラ現夫人の長期に渡る浮気のことでしたが、英王室中枢には、一般庶民が想像できない道徳観念が存在しダイアナ妃は潰されてしまったという話でした。

 無論、ダイアナ妃の事故死を軽視したエリザベス女王への批判が高まり、王室存続の危機にまで発展したことで王室は変化しており、ウィリアム王子も中流階級の一般女性キャサリン妃と結婚しています。

 しかし、その時でさえ、エリザベス女王は結婚を急がないように王子に忠告し、メディアの中にも破局を望むような論調が見られました。

 今回、英王室が晒されている試練は、彼らが最もこだわる血の問題であり、階級差以上の出来事と言えそうです。アメリカで黒人のオバマ大統領を批判することは人種差別に繋がるとして、随分得をしたと言われていますが、英国はアメリカとは異なり、白人が圧倒的マジョリティというだけでなく、伝統を守る王室だという点が大きく異なります。

 開放的で伝統を持たないアメリカ出身で、しかも黒人の血が入っているのはアメリカでは普通のアメリカ人ですが、英国では話が違います。今後、マークルを待ち受けている試練は想像しがたいほどの困難が予想されます。

 無論、お騒がせヘンリー王子のスキャンダルに英国民は慣れているとも言えますが、どこまでマークル女史がうまく立ち回れるのか、英王室はどう変わるのか見物です。