ブレグジット交渉は、最重要課題である通商交渉に移る段階を模索中ですが、ここで簡単に解決しそうで実は深刻な問題をはらんでいた北アイルランドの国境問題が注目されています。

 英国が欧州連合(EU)を離脱すると陸続きの北アイルランドはEUの一部ではなくなり、国境検問が必要になります。それが北アイルランドの和平合意を台無しにする可能性があるからです。

 長年のプロテスタント系住民とカトリック系住民の宗派対立は、多くのテロ事件を引き起し、9・11同時テロ以前は、イスラエルのパレスチナ問題とともに世界にテロのニュースが配信されていました。

 1998年の和平合意で南北アイルランド間の国境検問は廃止され、人と物の移動が自由化され、運輸面での飛躍的な効率化で経済的繋がり深め、両者に恩恵をもたらしてきました。
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 ところがブレグジットで再び国境検問所が設けられれば、宗派対立が再燃しかねないと特にEU残留のアイルランド政府は懸念しており、ビジネス、特に物の移動の非効率化を招くことが心配されています。とはいえ、今までどおりとは行かなくなるのも現実です。

 この国境が香港返還時の中国との政治統治体制の違いではなく、宗派対立をはらみ、なおかつ統合ではなく離脱という所に難しさがあります。現実問題として国境を通過する道路は300本以上、そこを多くの物資が輸送され、実際、アイルランドの輸出の8割が英国向けとなると国境検問は悪影響を与えるのは確実です。

 今まで両国を結びつけていた製造業のサプライチェーンは、国境検問に時間が掛かるようになり、今後は関税問題も浮上する可能性もあるとすれば、ビジネスに深刻な痛手となることは必至と言えます。

 国境を復活すれば、圧倒的EU残留支持派だったアイルランド国民も直接的被害を被り、若者の間では残留支持派と離脱派の対立が起きると予想するアイルランドの専門家もいて、微妙な問題に発展しそうです。

 英国側はジョンソン外相は最近、北アイルランド国境問題と通商交渉は別問題だと断言し、EU側が交渉カードにしていると批判しました。

 ところが今年の総選挙で敗北し、アイルランドと距離を置くことを主張する北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の閣外協力でなんとか議会の過半数を保っているメイ英政権にとっては選択の余地は限られています。

 そのため、北アイルランドに1国2制度的な香港方式を適応し、国境検問を復活させないというアイルランド政府の提案に応じるのは困難かもしれません。ただ、宗派対立という特殊な爆弾を抱えた地域だけに、扱いを誤れば悲劇が起きる可能性も消えていないのが現状です。