日本ではまだ公開されていない英女優エマ・ワトソン主演する「ザ・サークル」という映画は、ソーシャルネットワークを運営する巨大IT企業の裏の顔を暴く問題作として注目されています。

 その世界1注目を集める巨大企業「ザ・サークル」のトップ役には、アカデミー俳優、トム・ハンクスが起用され、極めて現代的テーマに取り組んだ作品です。たまたま飛行機の中で観る機会がありました。

 映画は、ザ・サークルを率いるトム・ハンクスが社員に訴えるプライバシー撲滅運動で、世界中の人が24時間繋がり、一切の隠し事がなくなれば、嘘や犯罪はなくなり、世界から悪が取り除かれ、皆が幸せに暮らせるという企業ヴィジョンの発表で始まります。つまり、新しいテクノロジーで透明性を高め、世界を変えようというわけです。

 テクノロジーの進歩とそれを使用する人間の関係は、人類歴史の大きなテーマですが、今はソーシャルネットワークなどの人と人を繋げるコミュニケーションテクノロジーが社会を大きく変えようとしてます。人間はそのテクノロジーを適切に使えているのかというのが大きなテーマです。

 映画では、世界の若者なら誰もが憧れる巨大IT企業に入社したエマ・ワトソン演じる女性が自ら志願して社長のヴィジョン実践の第1号となり、自分自身や自宅にカメラを付け、その映像がリアルタイムで、ソーシャルネットワークに流されるというものです。

 完全に自分を世界に晒して生きていくことで何が起きるのかということも興味深いわけですが、彼女も会社の裏の顔の犠牲者となりつつあることに気付き、奮闘するという話です。表の思想である「皆が繋がれば、世界は平和になる」と言いながら、そこで集まる膨大な個人データで別の巨大ビジネスが「秘密裏」に動いている矛盾が扱われています。

 「皆が繋がれば、世界は平和になる」との考えは非常に軽薄で、この考えに従う若者たちにはあたかも「心の悪」は存在しないようです。ところが実際には、残虐なテロを繰り返す悪魔の化身のようなイスラム過激派の広める聖戦思想はソーシャルネットワークを通じて広まっていった実体は、どう説明するのでしょうか。
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 ウォールストリートジャーナルは、これら巨大IT企業が昨年のアメリカの大統領選で、リベラル派を代表するクリントン候補を露骨に支援し、社員たちによる巨額の政治献金が行われていた実体を明らかにし、同時にその政治色濃厚な行動で今、トランプ政権と支持者たちによって窮地に立たされている実情を紹介しています。

 特にオバマ時代に強力な支援企業となり、社員がクリントン陣営へ献金した額は160万ドル(約1億8200万円)に達したインターネット・プラットフォームを運営するグーグルの親会社アルフェベットのエリック・シュミット会長は、まるでクリントン陣営のスタッフのようだったとされていました。

 しかし、公正さを堅持すべきインターネット・プラットフォームは、ロシアによる大統領選へのネット介入を許す結果を生み、今ではグーグル側が同問題に対して「透明性の向上、情報開示の推進、外国人に対する虐待の縮小のための取り組みを支持する。当社のプラットフォーム上でできる措置を現在検討中」との声明を出すありさまです。

 さらに「今後は最善の解決策を模索するため議員や業界と緊密に協力する」と述べ、巨大ITハイテク企業に圧力を加えるトランプ政権に配慮した声明を出しています。オバマ時代にあり余る恩恵を享受したインターネットIT企業は今、大きな岐路に立たされていると言えます。

 「手段が目的化する」というパターンは近代以降の大きなテーマですが、手段に過ぎないインターネットが巨万の富を築き、影響力が拡がる中、「世界を変える」と豪語するのは奢りでしかありません。確かに人類の抱える幾つかの問題解決に貢献するのは確かですが、それで「世界を変える」などと宗教めいたヴィジョンをビジネスに持ち込むのは大きな間違いだと思います。

 便利になって失った物も多いというのが今の世界でしょう。インディオが暮らすパラグアイの奥地を取材した時、アメリカからアドベンチャープログラムで来た若者たちが「あんな暮らししかできないインディオは馬鹿なだけだ」と言い捨てて帰ったのが印象的でした。

 そのインディオでさえ、スマホを持つ時代ですが、彼らはそこで得た情報で、自分たちのライフスタイルを大きく変えようなどとは思っていません。繋がればなんでも変わる、それもいい方に変わるなどいうのは幻想でしょう。それにそのインターネットのプラットフォームを運営する企業が公正さを欠き、政治活動に熱を上げるのは大きな間違いだと言えます。