Audrey_Azoulay

 アメリカが国連教育科学文化機関(ユネスコ)からの脱退を通告し、大嵐が吹き荒れる最中に行われた次期事務局長選出選挙は、オードレ・アズレ仏前文化・通信相(45歳)を事務局長を指名しました。ユネスコへの最大の資金拠出国アメリカの脱退で資金調達と組織改革で手腕が試されことになりました。

 今回の選挙は、アラブ世界から初めてユネスコのトップが選ばれる可能性があり、アラブ諸国の間に期待が高まっていました。しかし、決選投票でアズレ氏が30票を獲得し、カタールのハマド・ビン・アブドルアジズ・カワリ前文化相が28票でアズレ氏に軍配が上がりました。

 仏通信社AFPなどの報道によると、アズレ氏は同日の決選投票に到る投票でエジプトのムシラ・ハタブ元家庭相を破り、決選投票では、首位に立っていたカワリ氏をアズレ氏が追う展開でしたが、サウジアラビア、エジプトなどによるカタールへの経済封鎖が響き、カワリ氏は湾岸諸国からの支持を得られず、敗北した形でした。

 アラブ諸国は、イスラム過激派を支持するカタールを経済封鎖するアラブ湾岸諸国の対立の中にあって、イスラエル寄りのアメリカのユネスコ脱退の荒らしが吹き荒れる中、初のアラブ出身の事務局長誕生の夢は消え失せてしまいました。

 しかし、皮肉なことに選ばれたオードレ・アズレ前仏文化は、パリ生まれのフランス人とはいえ、モロッコ系ユダヤ人だということです。それもバリバリの左派のリベラル政治家という点、世界記憶遺産のような政治的偏向に公正さをもたらすという点で果たして適任かどうか疑問視する声もあります。

 ユネスコは日本の松浦晃一郎氏の後任だったイリナ・ボコバ現事務局長の任期2期8年の間に、松浦氏が推進した改革を停滞させ、反イスラエル寄りの政治的偏向でアメリカの不信感を招き、2度目のアメリカ脱退に繋がりました。

 組織の変革や放漫財政、政治的偏向の是正の使命を負うアズレ次期事務局長は、歴代2人目の女性事務局長となるわけですが、建て直しは容易なことではありません。今回事務局長選で敗北したアラブ諸国との協力関係構築にユダヤ系事務局長の登場は、どのような影響を与えるのでしょうか。

 オランド仏前政権下で文化・通信相を務めアズレ氏はパリ生まれですが、父親はジャーナリストで銀行家、現在はモロッコの国王ムハンマド6世の顧問を務めるモロッコ人です。彼女はパリ大学で経営学を学び、英ランカスター大学で経営学修士(MBA)を取得し、エリート官僚養成校の国立行政学院(ENA)を出た後、政治の世界で経験を積みました。

 同時に若い時から、中道右派や極右政党と戦う左派政治活動家であり、左派政治家として頭角を表し、オランド前仏大統領に用いられた経歴の持ち主です。確かにバリバリのヨーロッパ系の白人ではないところは利点かもしれませんが、ユネスコの重い舵取りは年齢的な若さもメリットとは簡単に言えないでしょう。

 それに左派政治家の方がクリーンともいえず、ユネスコの巣くう腐敗構造を断ち切る作業には高いモラルと妥協を許さない信念が必要です。ユダヤ系ということでイスラエルやアメリカとのコネクションは改善されるかもしれませんが、ユネスコ内の政治的偏向の是正もバランスのとれた公正さが必要で、そこにも疑問符があります。