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 今年5月、39歳の若さでフランスの大統領に就任したエマニュエル・マクロン氏の支持率が急落したニュースが流れました。今月23日に公表された最新の世論調査で、支持率が前月から大幅に下落し、就任早々のフランス大統領としては1995年のシラク大統領以来の大幅な下落率です。

 公表されたのは、調査機関Ifopが、仏週刊紙ジュルナル・デュ・ディマンシュのため実施した調査で、「大統領に満足している」との回答は54%で、6月の64%から一挙に10%もポイントが下落し、調査ではフィリップ仏首相の支持率も前回より8ポイント低下し、56%でした。

 トランプ米大統領を革命記念日に招待し、各国首脳と国際舞台で渡り合う姿だけ見れば、フランス国民にとっては頼もしい大統領に見えていたはずです。さらには自身が一年前に立ち上げた政治運動を政党化し、6月の総選挙で大勝し、議会の過半数の議席を占めている強固な基盤もあります。

 支持率急落を招いた原因の一つとされるのが、フランス軍トップのド・ビリエ統合参謀総長の辞任で、マクロン大統領が指示した防衛費予算の大幅カットに承服できないド・ビリエ将軍の抗議の辞任でした。

 ド・ビリエ将軍は、軍内部で信望が厚く、誰からも尊敬される存在だったため、辞任の衝撃は非常に大きいものでした。多くの軍関係者に見送られながらオフィスを去る姿が報道され、本来なら盛大な辞任式が行われるところを静かに去っていく姿に波紋が拡がりました。

 ド・ビリエ氏は、マクロン大統領と一対一で面談し、予算削減は国の安全を大きく脅かすことを説明し、交渉に臨んでいたそうです。実は軍は予算の増額を毎年のように要求しながら、それが実現しなかった経緯もあります。

 ところがマクロン大統領は、説明を繰り返すド・ビリエ氏に対して「決めるのは私だ」と言って、話し合いではなく、一方的な命令を下したのです。その一言が引き金になり、ド・ビリエ氏は辞任を決意したというわけです。

 実はマクロン氏は、もともとロスチャイルド銀行の管理職だった人物で、大統領としては珍しい金融界出身です。さらに大統領選を戦うまで一度も国政選挙を経験したこともなく、昨年夏まで経済相を務めていました。

 「決めるのは私だ」というフレーズは、企業内で部下が抵抗した時に上司が最後に発する
最後通牒のような発言で、リーダーとしては評価されない一言です。マクロン氏は大統領職に金融機関のCEOのようなリーダーシップを持ち込んでしまっている印象です。

 同じビジネス界出身で政治家経験のないアメリカのトランプ大統領は、強引に見えますが、民主主義の手続きを無視はしていません。年齢的な違いもあるのでしょうが、公益を追求する政治は、ビジネスとは決定的に違い、あらゆる決定には民意が反映されなければならないため、独裁者的リーダーシップは機能しないのです。

 それも命令系統が最も厳格な軍のトップの将軍に向かって「決定権を持つ人間が誰かわからないのか」というのは、失礼というしかありません。