World_Congregation_of_Muslims_2013,_Tongi,_Bangladesh
 バングラデシュの熱心なイスラム教徒たち

 バングラデシュの首都ダッカで起きた日本人7名が犠牲となったテロ襲撃事件は、海外で仕事をする邦人が危険にさらされている現実を改めて見せつけました。邦人被害では2013年1月にアルジェリアの化学プラントで、日本の日揮の社員10名がイスラム武装集団により殺害された事件に次ぐ規模でした。

 事件が起きたのは、イスラムのラマダン明け直前の出来事。過激派集団イスラム国(IS)は、ラマダン期間に自爆テロなどで犠牲になれば、死後の世界で通常の何倍もの恩恵を受けると吹聴しています。その観点からすれば、ラマダン月最後の金曜日に外国人が外出する危険性が十分に認識されていなかった事になります。

 それに「日本人だから、撃たないでくれ」とテロリストに懇願したという話も漏れ伝えられています。それが本当なら決定的な間違いで、日本人の宗教的感性のなさが発した愚かな頼みだったといえます。宗教的感性とは、特に一神教の宗教を持つ信仰者が理解できないことです。これは時としてグローバルビジネスに決定的ダメージを与える失敗を産み出しています。

 一神教的価値観とは、簡単に言えば信じている教義が、人が生きる人生観、世界観、価値観を完全に規定するということです。つまり普遍的価値観を信じているわけです。日本人のように精神的平安のため、あるいは安全とか健康、金運祈願などの御利益を得るために宗教があるという考えとは、まったく異なる宗教観です。

 例えばキリスト教においてもイスラム教においても、教義では同性愛は禁じられています。つまり、本当のキリスト教徒であれば、同性愛は排除すべきものです。イスラムの国であるサウジアラビアやインドネシアでは、同性愛は実際には罰金や鞭打ちになる場合もありますが、原則、死刑です。

 サウジでは不倫した女性も石打ちによる死刑が行われています。カトリック教会は、同性愛は認めていませんが、生まれながらの同性愛者の存在を認め、彼らに憐れみを持って寄り添うという公式見解を出しています。

 友人のアフガニスタン人の科学者が「イスラムの教義から、やってはいけない実験がたくさんある」と証言しています。アメリカでは今も進化論を排除する運動が続いています。神が創造した人間は、最初から人間なのであって、猿から進化したのではないという主張です。

 天地創造は神が行ったという聖書の観点が宇宙の研究にも影響を与えています。つまり聖書の観点からすれば、人間より高等な生き物は存在せず、宇宙人は存在しないわけです。

 明確な世界観を持つ宗教は当然、異なる価値観に立脚した宗教とは衝突を起こします。歴史上、多くの宗教戦争が起きたのも当然のことです。フランスでテロが多い理由の一つは、1000年以上前から十字軍を覇権し、イスラム教徒への虐殺行為を繰り返してきたことと繋がっています。

 ところが、仏教が同性愛に反対したとか、神道の世界観でキリスト教徒と戦争したことはありません。あるのは天皇よりも神を上だとするキリシタンを迫害したことですが、天皇主義が確固たる世界観を持っているわけではありません。経済中心に動いているように見える世界では、世界中で出会うビジネスマンは大した信仰を持っていない場合が多い。そのために日本人は誤解してしまうわけです。

 バングラデシュに進出し、雇用を生み、国の経済発展に貢献する日本人をテロの標的にするはずがないので「日本人だから助けてくれ」といったとすれば、それは過激なイスラム教徒には逆効果です。人間は長い歴史の中で培われた価値観を変えることありません。だから日本人がイスラム教とは異なった価値観や慣習を持ち込み、イスラムの慣習に無関心なことには不快感を覚えるわけです。

 事実、犯人はバングラデシュ従業員と現場で「イスラムとは異なる慣習(アルコールや肌の露出)を外国人が持ち込んでいる」と苦言を呈していたといいます。友達にはなれても家族にはなれない。日本人は、世界に存在する主要宗教に対して理解を深めておく必要があります。間違っても経済支援しているから、相手国の人々は感謝すべきだろうなどという思い上がった考えを持つべきではありません。