盗聴事件や警察官の買収疑惑など違法な取材手法が社会問題化し、廃刊に追い込まれた英大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」のオーナーでメディア王として君臨してきたマードック氏が19日、英下院委員会の証人喚問で証言し、「今日は人生の中で最も謙虚になるべき日」と述べ、謝罪する一方、辞任の考えがないことを明らかにしました。 

同スキャンダルでは、「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」を発行していた会社のCEO、レベッカ・ブルックス女史が逮捕された他、ロンドン警視庁のポール・スティーブンソン警視総監が17日、辞任を表明しました。同総監に対しては、「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」の元副編集長で先週逮捕されたウォリス容疑者を警視庁のPRコンサルタントとして一時雇っていたことで関係が疑われています。 

今回のマードック氏及び息子でニューズ・コープ副最高執行責任者(COO)のジェームズ・マードック氏に対する証人喚問の焦点は、傘下の「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」の携帯電話の伝言の違法盗聴や警察への買収、特に同紙の記者が2002年に当時行方不明だった13歳の少女ミリー・ダウラーさんの携帯電話を盗聴していたことを、最高経営責任者として関与または把握していたかどうかという点でした。 

予想通り、マードック氏は、実際に違法行為を行ったのは記者らで、新聞社への背任行為に当たる非難し、違法行為を行った一部の社員による裏切り行為として自分に責任がないことを強調しました。さらに、今回の問題処理ができるのは自分しかいないと述べ、現職に止まることが妥当として会長職を辞任する考えのないことも明言しました。 

今回の公聴会では、傍聴者の一人が、シェービングクリームを塗った皿をマードック氏の顔に投げつけようとして、マードック氏の妻が俊敏に反応し、その傍聴者を平手打ちして夫を守った映像が世界に配信されました。中国生まれの40歳近い年齢差の3人目の妻ウェンディーの行動に驚かされた人も少なくありませんでした。 

一方、キャメロン英首相が、ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙のアンディー・コールソン元編集長(逮捕・保釈中)を官邸報道局長として重用していたことも問題になっています。さらにマードック氏が首相官邸の裏口から出入りし、首相がニューズ・インターナショナルの幹部やマードック氏一族と親しく交際していたことや、マードック氏傘下の英大衆紙サンが、昨年の総選挙で反労働党キャンペーンを展開したことも問題になっています。 

いずれにしても、英キャメロン政権にも深刻なダメージを与えそうなスキャンダルは、今後はアメリカにも飛び火、9・11の犠牲者の遺族への盗聴疑惑も問題になりそうです。違法情報収集に関わったとされる記者たちは、情報ソースを公にする義務はないなどの常套文句で切り抜けようとしていましたが、それも難しくなっています。 

そして、この不祥事は、マードック・メディア英国の崩壊の始まりと見る専門家も少なくありません。マードック氏は、自分の傘下には200のメディアがあり、廃刊したニューズ・オブ・ザ・ワールド紙は全体の1%にしか過ぎない規模のもので、他は問題ないと息巻いています。