安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが体験を踏まえ現在の世界を読み解きグローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

 最近、高度な技術を持つ某日系企業が中国進出が仇となり、倒産に追い込まれたニュースが流れました。原因は中国当局から生産拠点の移転を迫られ、移転先をめぐってトラブルに巻き込まれ、その間に会社倒産の風評が広がり、従業員によるストライキ等で彼らへの多額の経済保証金が発生し、想定外の資金的負担と生産体制の混乱で巨額の赤字に陥ったことだとされています。

 いわゆる「中国リスク」に陥った例です。高い技術で定評があり競争力もあったその企業は、発注元の関連メーカーが次々に生産拠点を中国に移す中、24年前に中国進出を果たし、2000年には日本の生産拠点を完全にたたみ、中国生産に一本化していたそうです。

 リスクマネジメントの観点から見れば、リスクの分散がされていなかったことが失敗の原因の一つともいえる例です。同じような事例は少なからずあり、中国経済が減速する中、中国政府の目まぐるしい方針転換により、今後、さらに増えることも予想されます。

 実は生産コストを下げることで競争力を強化するための海外進出には、多くの落とし穴が潜んでいます。たとえば、労働コストは大幅に下がっても、日本と同じ品質の生産を進出先で確立するためには社員教育や生産体制の確率、ナショナルスタッフの定着率を高めるためなどに多大なエネルギーを費やすことに追われ、生産性向上にまで意識がいかなくなるケースもあります。

 日本国内で高い労働コストのために効率化や生産性の向上に注力してきた日本企業の中には、海外進出で発生する別の課題処理に追われ、結果的に全体としての企業力を弱体化させてしまうケースもあるという話です。基礎体力のある大企業は何とか資金的に持ちこたえられたとしても中小には生死につながりかねない高いリスクになる可能性もあるということです。

 上記は進出先のビジネス環境の変化への対応で労務管理リスクに見舞われた例ですが、その他にも日本では考えられない部品や会社資金の横流し、技術の漏洩などの不正行為、為替リスク、商習慣や法律への無知が引き起こすリスク、資材調達や輸送に関するリスク、さらには自然災害やテロ、クーデターなどのカントリーリスクなど枚挙に暇がありません。

 実際に邦人が殺害されるテロ事件がアルジェリアやバングラデシュで近年起きており、さらには駐在員の健康被害は深刻で中国および途上国では、信じられない話と思うかもしれませんが、毎月のように駐在員の死者も出ているのが現状です。

Global risk management 1

 最近、日本企業の中には、グローバル人材育成に対して事前教育を行う意味を見いだせず、海外に送り出すケースが増えています。原因の一つは、たとえばグローバル研修の場合、効果や習得内容の定着を見える化しにくいため、費用対効果に疑問が生じていることが挙げられます。

 研修する側も、海外業務経験のある講師の場合は、その経験が古すぎて今の現実には会わなかったり、語る内容に昔ながらの精神論が多く、時代に合わなくなっていることも考えられます。逆に学者などの専門家は、ビジネス経験がないために観念的になりやすく、効果が見られず、結果として何もしないまま現地に送り込んでも大丈夫ではと考える企業が増えている可能性もあります。

 しかし、それは大きな間違いといえます。なぜなら、海外で直面するリスクは日本の常識の想定以上のものがあり、十分な知識とリスクへの備えがなければ命取りになりかねないからです。それにリスクマネジメントの基本は「被害の大小を左右するのは8割が備えにある」からです。

 つまり、相手国の政治経済状況、商習慣、治安状況、宗教事情、衛生状態、インフラ整備、ビジネス環境などを事前に十分理解しておくことと、実際にリスクマネジメントを行えるスキルを習得しておくことは必須事項です。大企業でさえ、現地のトラブルで相談を受け、僣越ながら「そんなことも知らずに仕事をしていたのか」と驚かされる例も少なくありません。

 実はリスクマネジメントは、今まだ起きていない危機に対して行う性質のものなので、その必要性を実感しにくいものです。しかし、起きてしまえば命取りになりかねません。海外でのリスクは日本国内の何十倍もあり、そのリスクへの十分な知識と万全な備えは絶対的に必要なものです。

 私は何度も危機に陥った日系進出企業を見てきました。その多くは、リスク回避や軽減のためのマニュアルづくりなどを怠ったことで起きています。実際、東日本大震災で起きた原発事故へのフランスの対応は見事でした。ちょうど東京にいたフランス人妻を通じて、その対応をつぶさに知ることになりました。

 地震と原発事故によるリスクの把握、評価検討を迅速行い、準備していたカントリーリスクマニュアルに従い、原発施設から何キロ以内にいるフランス人への避難警告、1日4回以上の在日フランス人への状況を伝えるメール送信、軍用機を飛ばして子供や高齢者から本国へ移送する対処など、日頃のフランス人からは想像できない迅速な対応に驚かされました。

 行けば何とかなるというのは、現地を知らない傲慢さからくるものだと私は思っています。よく聞くのは「彼らは非常に優秀だから。何があっても適切に対処できますよ」という送り出す側のコメントです。また、行く本人も「なんとか対処できますよ」という人は少なくありません。

 グローバル人材育成にはリスクマネジメントスキルは必須であり、それは事前の備えを意味します。ただ、このスキルは危機が起きた時に効果を明確に確認できるので、無駄に思えば何もしません。しかし、日頃から健康管理をしっかり行い、大病しないように健康を保つことを心がけることと同じで、必要不可欠なものだと認識すべきです。

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“HOMAGE TO MONET 5,” 2009, ALEX KATZ, OIL ON CANVAS, 182,9 X 365,8 CM. (c ALEX KATZ, 2019. PHOTO: PAUL TAKEUCHI, ADAGP, PARIS, 2019)

 アメリカの現代アートが世界を席巻した1970年代、時代の寵児となったのはアンディ・ウォーホルやロイ・リヒテンシュタインなどポップアートの画家たちでした。しかし、世界で最も大衆文化が定着するアメリカ社会が生み出したポップアートは世界に強烈なインパクトを与えた一方、世界的広がりは一時的なものでした。

 無論、ポップアート自体は、カテゴライズするのが好きな美術評論家や研究者が勝手に分類したもので、画家本人は、たとえば、モネが印象派の画家といわれることを快く思っていたなどということはなかったでしょう。歴史に残る巨匠は、たとえ一時期、ある美術運動に共感し、影響を受けても、最終的には、その画家独自の世界を見いだしているものです。

 生粋のニューヨーカーでポップアートの申し子のようにいわれるアレックス・カッツも、当人は自分独自の世界を見いだし、黙々と作品を制作し続ける画家で、この20年間、世界に共感の輪が広がっている希有な優れたアメリカ人画家です。

 パリのオランジュリー美術館では「アレックス・カッツ 睡蓮 モネへのオマージュシリーズより 2009-2010年」展(9月2日まで)が開催中です。自然に関心を寄せるようになったカッツが、ニューヨークの北方メイン州の自然に囲まれたアトリエで睡蓮の咲く沼を描いた連作で、モネへのオマージュとして描かれたものです。

 カッツは1927年生まれですから、80歳を超えてから制作されたことになりますが、モネへのオマージュといいながら、たとえば日本画を彷彿とさせる構図、マチスがたどり着いた絶妙な形と色彩が織りなす世界が脳裏に走るのは私だけでしょうか。

 モネが日本の浮世絵に多大な影響を受け、太鼓橋や睡蓮の浮かぶ池を庭に造ったのは有名な話ですが、そのモネを念頭に置くカッツの作品にも日本画的要素が見られるのは当然といえることです。円熟期に入ったカッツが巨匠の域に達していることを強く感じさせる作品群です。

 混迷する20世紀のアートはグローバル化が進み、最先端の現代アートの発信地はパリでもニューヨークでもなく、世界各地に分散しています。西洋美術という括りも過去のものになりつつあります。そんな中、カッツの存在感は増すばかりです。高齢にも関わらず、21世紀の美術シーンに一つの回答を与えているように思います。

 19世紀に日本美術に影響を受けた西洋絵画は、戦後、中心はアメリカ移り、その後、国籍を失った感があります。中国人作家のポップな作品が人気を集め、アフリカの強烈な原色で描かれた躍動感あふれる絵画も注目されています。

 そんな中、20世紀のあらゆる要素を凝縮し、21世紀に道を開いているのがカッツではないかと密かに思っています。アフリカでも彼は教祖化しているといわれるのも理解できます。

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    最新版でランキング1位だったスイスのジュネーヴ

 英金融大手HSBCホールディングスが毎年発表する「世界で住みたい・働きたい国ランキング」の2019年版が発表されました。調査対象は出身国以外で働く高度人材(通称、エックスパット)、1万8000人以上から回答を得ています。

 調査内容は「生活」「キャリアの機会」「家庭生活」の3つを指標からなっており、いわゆるワーク・ライフ・バランスの観点で見ているといえるでしょう。

 トップ10の常連国は1位スイス(2018年版8位)、2位シンガポール(1位)、3位:カナダ(4位)、4位スペイン(13位)、5位ニュージーランド(2位)で、オーストラリアは今年も昨年も6位で安定しています。

 新参としては昨年22位だったトルコが7位、18位だったベトナムが10位にランクインし、3位だったドイツは8位に転落しています。最も転落が大きかったのは昨年7位だったスウェーデンが20位に落ちていることです。確実にランキングを上げているのがフィリピンで26位から24位に上昇し、アメリカの23位に迫っています。

 日本はといえば、2017年22位だったのが2018年に30位、2019年度版では32位にランクが落ちています。外国人材の本格導入に入った日本としては厳しい数字といえるかもしれません。
HSBC: Expat Explorer Survey

 一方、エックスパットが、どこの国で平均給料をいくらもらっているのかのランキングでは、1位スイス(2,029万円)、2位アメリカ(1,851万円)、3位香港(1,787万円)、4位中国(1,727万円)、5位シンガポール(1,622万円)、6位アラブ首長国連邦(1,550万円)、7位インド(1,318万円)などとなっており、日本は9位で1,274万円でした。

 働きたい・住みたい国と報酬が一致しているのはスイスやシンガポールくらいで、他の国はあまり比例していません。もちろん、物価の非常に高いスイスでは、それなりの報酬が必要ですし、働きやすいとか住みやすいを度外視して稼げる国が報酬ランキングとも簡単にはいえません。

 今は昔の日本と違い、海外経験者は自国に帰国後、昇進する例が多い一方で、多くの国の中で最も海外に行きたがらないサラリーマンが多い国ともいわれています。海外での収益が国内を上回る日本企業が増える中、これは深刻な問題と捉えるべきでしょう。

 たとえば、フィリピンが働きたい・住みたい国ランキングで上昇しているのを見て、日本人は頭を傾げるかもしれません。大統領が旗を振って犯罪者を次々に射殺するような治安の悪い国で働くなんてという日本人も少なくないでしょう。

 ところがフィリピンは、米シンクタンク、マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)が昨年秋に発表した報告書によれば、向こう10年間に持続的な成長を続ける準備が整っている数少ない新興国市場の1つとしています。実際、私の従弟はフィリピン駐在2年ですが、快適に生活しているようです。

 駐在員は、せいぜい2年から5年間しか駐在せず、それも一般市民が生活するような地区ではなく、最も富裕層が住む安全なエリアで生活し、会社も通常、都市のオフィスビルか隔離された郊外の工業団地です。多くの途上国、新興国では駐在員家庭はメイドを雇い、運転手付きの車に乗り、特権階級の生活が味わっています。

 日本では通勤に2時間近くかけ、満員電車に揺られ、住む家も小さく、特権階級とは程遠い生活で、人間付き合いで神経をすり減らす生活をする都会人は多いわけですが、駐在期間は冠婚葬祭からも解放され、家族で過ごす時間も多くなり、自由度も増します。

 スイス、シンガポール、カナダなどのランキング上位国は、食住の生活の質が高く、治安が安定し、自然環境にも恵まれ、職場もゆったりし、キャリアも磨けることが魅力といえます。その意味では今後、日本がランキングを上げていくのは至難の業かもしれません。

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 徴用工問題や違法輸出問題で大阪G20サミット開催までに韓国から回答を得られなかったことなどを理由に、日本政府は先週、日本製の半導体材料が北朝鮮などが第3国に流れ、大量破壊兵器の製造に転用されている安全保障上の理由から、輸出規制を強化したため、日韓関係は極度の緊張状態にあります。

 反日姿勢を前面に出す文在寅政権の日本政府への抗議と非難、憤慨ぶりが伝えられていますが、韓国を特別優遇してきた日本としては、優遇措置を解除し、普通の状態に戻しただけなのに、何をそこまで怒っているのか、やっぱり韓国人には普通の常識が通じなんだと日本はあきれ顔状態です。

 日本側からすれば、輸出規制強化の根拠としている第3国への不正輸出や徴用工問題で明確な回答さえ得られれば、ここまで事態を悪化させずに済んだのにと思うかもしれませんが、韓国が怒っている問題の本質は、実は韓国の国際的メンツがつぶされたことにあると私は見ています。

 大量破壊兵器製造に転用可能な製品を一部の韓国企業が違法に輸出していたことが、国際社会に対して白日の下に晒され、それを見逃していた政府も含め、韓国のビジネス面での国際信用度が下がることを問題視しているということです。

 欧州は安全保障貿易管理において、韓国を最も信用度の高いホワイト国にしていません。北朝鮮問題を抱える韓国に対しては当然の措置だと思いますが、日本は近年、日韓関係重視の観点から韓国をホワイト国に指定しています。この指定も日本政府は今回、解除し、欧州と同じ扱いにすることを表明しています。

 韓国は経済協力開発機構(OECD)に加盟したのは、1996年で29番目の加盟国になりました。当時、韓国では支援を受ける国から支援する国に発展し、先進国の仲間入りを果たしたと大騒ぎしました。当時、元駐デンマーク韓国大使で日本の士官学校出の張氏に会う機会があり、彼は「先進国には程遠い」といっていたのを思い出します。

 それでも、通貨危機を乗り越え、韓国の経済規模は2倍、輸出額は6倍に増え、サムスンは米アップルのiphoneとスマートフォンの世界市場を激しくぶつかるまでに成長しました。彼らにとっては、1にも2にも国家のプライドで、一流国の評価を得ることは何にも代え難いほど重要なことです。

 特にとっくの昔に先進国入りしている日本に対する競争心と嫉妬心は、日本人の想像をはるかに超えたものです。今回の1件は、本当の意味で先進国に上り詰める重要なステージに立つ韓国が経済危機に直面する中、本当は頼みにしていた日本にハシゴを外された形です。

 日本からすれば、頼みにしているのなら、徴用工や従軍慰安婦問題で誠意を示し、日本から輸出した製品を違法に第3国に売るようなことはしなければいいのにと思うかもしれません。しかし、反日世論で選ばれた文在寅政権は、日本の要求を受入れれば、1970年代に共に左翼運動で戦って今は閣僚にもなっている同士や反日世論から突き上げられるのは必至です。

 国内総生産(GDP)だけみれば、韓国は昨年は世界9位で、輸出は世界6位となり、アジアでは日本に次いで2番目に世界の主要国入りしたいところです。だからこそ日本に対して強気なわけですが、実態は韓国でしか作れない技術はなく、多くを日本のテクノロジーに依存し、ノーベル賞受賞者もいない上げ底実情です。

 韓国は今回、日本の主張を完全否定しながら、10日には約30社の韓国企業トップが大統領府に集められ、改めて毅然として日本に撤回を求める方針を表明しましたが、大統領が一方的意思表明するだけで企業幹部と意見交換する場でなかったあたりは、韓国や中国らしい一方通行の会合でした。

 さらにサムスンの実質的なトップ、李在鎔副会長が理由は明かさないまま来日し、対応に追われている様が見えています。韓国政府は、アメリカに助けを求めるべく、康京和外相が10日、ポンペオ米国務長官と電話会談し、輸出規制が韓国企業だけでなく、アメリカ企業、さらには世界の貿易秩序にも否定的影響を及ぼすと訴え、世界貿易機関(WTO)でも日本の決定の不当性を主張しました。

 自分の評価を上げるために自ら努力するより、相手の国際的評価を貶めることに腐心する韓国の典型的な手法は、良識ある先進国に通用するとは思えません。朴槿恵前大統領がヨーロッパ歴訪で日本の悪口を言い続けたことを思い出します。徴用工や従軍慰安婦問題を世界にアピールするのも日本の世界的評価を貶めるためです。

 今回は日本に韓国的手法を使われたと韓国は思って焦っているのでしょう。ただ、日本は逆に国際社会に対する発信力が極端に弱く、今回の措置の正当性を誰もが理解できる客観性を持って説明できていないのは不安要因です。重要なことは、正当性のある主張を何度でも繰り返し述べ続けることです。

 日本政府は韓国への配慮もあって、G20まで韓国の回答を待ったと思われますが、心遣いがあだになることもあります。文在寅政権への読みが甘かったともいえます。

 それに結果として、回答しなかった文在寅氏をG20大阪で安倍首相に冷遇したことは、文在寅氏は、きっと一生忘れないでしょう。何でも根に持つ国民性の韓国人にとってサミットで恥をかくことは絶対に受け入れがたいことです。それなら誠実な姿勢を先に見せればいいのにというかもしれませんが、反日大統領にはそれはできません。

 日本は、十分で正確な説明をすることが重要で、状況によって言い方を変えたりせず、一貫性をもって主張し続けることです。日本人は1回いえば十分と考えがちですが、変化する状況の中、異文化の相手が理解するまでには忍耐強く説明を繰り返すしかありません。それでも正確に伝わらないのが異文化というものです。

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 日本人の多くは、アメリカのトランプ大統領が日米安保条約について「不平等発言」したことや、ホルムズ海峡の石油タンカー防衛を「有志連合で行うべき」としたことで、「おいおい、アメリカは今まで通り、日本を守ってくれないのか」と不安に思っているはずです。

 その背景には「アメリカは日本が憲法上、海外での軍事行動は一切行わないという原則を理解してくれているはず」という認識があるはずです。戦後、アメリカやアジアを脅威に晒さらした日本を封じ込めることが時代の要請だった時代、アメリカも日本周辺諸国も日本の軍備増強は望まなかったのは確かでした。

 戦後の日本外交は、アメリカへの忖度、アジアへの気遣いに追われ、アメリカが日本の頭ごなしに中国に接近すると、日本軽視を心配し、米朝首脳会談が進むと日本は蚊帳の外かと心配し、これまで特別な優遇支援を繰り返してきた隣国韓国の反日姿勢に怒りを覚えています。

 一方、英国もアメリカ建国に深く関わって以来「特別な関係」を維持してきた立場で、イラク攻撃では、当時のブレア英首相は「アメリカの外務大臣」などと呼ばれ、大量破壊兵器の存在の確認もないまま、一心同体状態で参戦しました。その特別な関係があるからこそ、英国はブレグジットに自信を持っているわけです。

 ところが、トランプ政権の登場で疑うことのなかった「特別な関係」への不安が広がっています。最近では駐米英国大使がトランプ氏を「無能」「適任でない」と極端に馬鹿にする評価を本国に送り続けていたことで、両国関係にはひびが入っています。英国のアメリカへの上から目線が露呈し、一般のアメリカ国民も英国への心証を害しています。

 この英国大使の間違いは、他国に対する基本的姿勢を大きく逸脱したものです。通常、自国の政権に対して自国民がどんな悪口や批判をすることも許されますが、他国民は同じことをやってはいけないのがルールです。なぜなら、誰でも愛国心はあるので、他国民からは言われたくないからです。グローバルビジネスの基本中の基本の考え方です。

 英国大使の本国への報告は、長年、世界を上から目線で見てきた大英帝国時代からの悪しき慣習によるものと思われます。反トランプの英BBCは、それでも英国大使を擁護しており、日本のNHKもBBCの論調に追随しているのは嘆かわしいことです。日本だって、駐日英国大使が本国にどんな報告をしているか分かったものでありません。

 とはいえ、英国はアメリカと特別な関係維持にはいつも必死です。英国外交では欧州連合(EU)との関係以上に重視されている最重要事項です。隣国よりもアメリカ重視は日本とそっくりです。超大国アメリカは太平洋を隔てた日本、大西洋を隔てた古い友人、英国と特別な関係を築いてきたことで、アジアと欧州の足掛かりとしてきたのは事実です。

 日本も英国も戦後はアメリカからの恩恵で生きてきた要素が強く、今も世界を席巻するアメリカ初のITビジネスモデルに追随しています。無論、英国のようなキリスト教という精神的価値観をアメリカと共有していない日本は、アメリカ文化は今でも、かなりの異文化であることは確かです。

 しかし、駐日本大使が英国大使のように上から目線でアメリカの政権を見て本国に報告しているとは思えません。ただ残念のは、今でも英国外交を日本がお手本にしていることです。当然、その伝統的外交からすれば、トランプ氏には非常に批判的なはずです。安倍政権がトランプ寄りなので仕方なくついていっている状態なのでしょう。

 問題はトランプ氏が繰り出す外交政策,通商政策、防衛政策が従来の日米、英米の特別な関係を根底からリセットしようとしていることです。

 その本質を見ずに、たとえば石油タンカーなどの自由な航行確保について、アメリカは負担の大きさを嫌い、関係当事国で有志連合を作る方針を打ち出しているのに対して、日本メディアが「対立するイランに対して、アメリカは仲間が多いところ見せたいだけ」と報じているのは非常に不適切といわざるを得ません。

 これでは世界の変化を見誤る可能性が非常に高いといえます。アメリカが一方的にリセットしたい様々な取り決めや条約、ルールには、同盟国の甘えの構造を断ち切る狙いもあるのは確かです。たとえば、ペルシャ湾岸諸国で採れる石油に依存しないアメリカが、石油タンカー防衛を担い続ける不合理を
理解すべきです。

 日本が隣国から攻撃を受ける可能性が極度に高まっても、日本は先制攻撃ができないために、アメリカに頼り、アメリカ軍の参戦の結果、アメリカ軍に犠牲者が出る状況に対して、アメリカ権益を攻撃されても日本は何もしないのは不合理というトランプ氏の主張も合理性はあるはずです。

 多分、日本人の大半は「戦争」という2文字を聞いただけで、強いアレルギー反応を示し、議論すらしたくないのが現実だと思いますが、アメリカとの特別な関係も変化しているし、世界も大きく変化しているということです。つまり、議論は避けられない状況にあるということです。その理解がないと、ますます日本は世界の現実から遠ざかっていくことが懸念されます。

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 アメリカの世界に対するプレゼンスが大幅に弱まった内向き政治のオバマ政権時代、「アメリカは世界の警察官であることを放棄」とか「パックスアメリカーナの終焉」などといわれました。中国やインドが台頭する中、ヨーロッパでは異なった国々が共存する多極化均衡論の正当性が強調されました。

 そこにアメリカ第一主義を掲げて登場したトランプ政権は、特にアメリカが世界の安全保障において、従来の中心的役割を継続的に果たすことに疑問が投げかけ、北大西洋条約機構(NATO)においては、ロシアの直接的脅威に向き合うヨーロッパ諸国に、さらなる分担金の増額を要求しました。

 また、北朝鮮の脅威と直接向き合い韓国や日本に対しても、防衛に携わるアメリカの負担が多いことに不満を表明し、事実、韓国は分担金を増やしています。つまり、世界の安定こそ、アメリカの国益に繋がるという従来の考え方による巨額の防衛軍事負担を継続する姿勢は、リセットの時期を迎えたということです。

 その意味で、トランプ大統領がイランがホルムズ海峡を航行する石油タンカーの防衛は、実際に石油を運んでいる日本や中国が行うべきで、石油輸出国で中東の石油に依存していないアメリカが防衛の中心的役割を担う必要はないというのは、一見合理的な主張ともいえるものです。

 このことについて、保守系メディアの米ウォールストリートジャーナル(WSJ)が掲載したトランプ政権への警告は、絶大な軍事力、経済力を持つアメリカの世界における役割の今後を考える上で示唆に富んだものといえそうです。それに結果的に日本の石油輸送への防衛責任も問われています。

 「アメリカが世界の石油供給を守るべき理由」と題された7月9日付けのWSJの記事は、まるでトランプ氏に説教するような調子で、中東でのアメリカの役割を説いたものでした。WSJは、まず、40年以上に渡り、ペルシャ湾岸諸国から運ばれる石油輸送の防衛について、トランプ氏がアメリカがリーダーシップを取る意味はないという主張には一定の説得力があることを認めています。

 WSJは「アメリカがそれでもこの役割を受け入れるべき――実はそれを望むべき――理由には、実際的なものと地政学的なものがある」とし、「実際的な理由は、アメリカ経済は依然として石油供給の混乱に対して脆弱(ぜいじゃく)であるという事実に起因する」としてます。つまり、世界のどこであれ石油価格の不安定化は世界のビジネスに直接影響を与え、アメリカにも影響が及ぶということです。

 そのことを考えると、中東の石油の安定供給にとって重要な防衛は「アメリカ軍がそれを他の誰よりもうまくやれるという点」で、アメリカは継続的にリーダーシップを取るべきとWSJは主張しています。これはアメリカ保守派の伝統的考えでもあります。

 さらにジョージ・W・ブッシュ元大統領の時代に国務次官を務めたバーンズ氏の意見を引用し「われわれは中東において、中国やロシアによる主導権獲得を望むようなことはあってはならない」「彼らはアメリカやイスラエルにとって長い間の敵対者たち――イラン、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラ、シリア政府など――の勢力を支援している」という指摘を紹介しています。

 つまり、アメリカが国際社会での指導的地位を守ることに興味を失えば、結果的に対立国らに主導権を奪われ、アメリカは国益を害するという論理です。結論として「アメリカが国際的な石油供給を防衛すべきかどうかではなく、いかに防衛するかである」として、同盟関係にある石油輸送の当事国への責任の分担を要請する必要性を説いてます。

 これらの指摘は確実にホワイトハウスに影響を与えるものとものと思われます。すでに航行の自由の安全確保でアメリカ軍は有志連合結成で関係国との協議に入っていると報じられています。つまり、日本がアメリカ軍に対して「うちのタンカーがホルムズ海峡でイランの攻撃を受けたので、防衛宜しくお願いします」とはいえない時代が、すぐそこに来ているということです。

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 欧州中央銀行(ECB)の次期総裁に欧州連合(EU)首脳が選出したのは国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事(63)でした。女性初のECB総裁となるラガルド氏は、自らの野心で高い地位を得るためにもがいてきた人物というよりは、時代の波に乗って周囲から押し上げられた人物という印象です。

 ヨーロッパには、1980年代に活躍した故サッチャー英首相を皮切りに、国を率いる女性指導者としては、メルケル独首相、最近辞任したメイ英首相などが世界的にも知られています。今回の次期欧州指導体制では、最終決定ではないにしろ、欧州委員会の次期委員長にドイツのフォンデアライエン国防相が指名されています。

 実はラガルド氏の出身国であるフランスは、欧州内では政治やビジネス界の重要ポストに占める女性の割合がけっして高いとはいえない国です。政治の世界もサルコジ大統領就任時の2007年に閣僚のジェンダーバランス優先で、当時、アメリカの国際ロー・ファームであるベーカー&マッケンジーの幹部だったラガルド氏が財務相に起用され、G8最初の女性財相にもなりました。

 2006年に米経済誌『フォーブス』が世界最強の女性30に選出された1人となったラガルド氏は、当時、フランスで最も英語が流暢な政治家といわれました。シンクロナイズドスイミング(現アーティテュックスイミング)の選手だったラガルド氏は、アメリカ法曹界で頭角を現した女性でした。

 財務相だった彼女に、さらに風が吹き、国際機関トップに女性が就くべきという機運の中、IMF専務理事の座が与えられ、今度はIMFの実績を評価され、ECB総裁としては、中銀出身者でもない初の女性総裁に選ばれたわけです。

 欧州議会での指名承認でもフォンデアライエン氏のような懸念は示されておらず、ラガルド氏はドラギ現総裁の政策を踏襲すると見られ、好感が持たれています。

 メルケル独首相は「ラガルド氏が選ばれたのは、IMFで誰もが認める指導的役割を引き受けたためだ。その役割を果たすことができる人物ならECBを率いることもできると思う」と述べ、マクロン仏大統領は彼女のECB総裁としての資質と能力を評価し「市場の信頼もある」ことを強調しました。

 ECB総裁にラガルド氏が指名されたことで、同じ弁護士出身のパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長率いる米金融当局ととともに、エコノミスト出身ではない人物が世界経済をけん引することになります。

 ラガルド氏の強みは、IMFで鍛えた危機への対応で、経済的危機に陥った国の再生に取り組んできたことです。不透明感の高まる世界の中で、欧州の将来はけっして順風満帆とはいえず、ブレグジットを控え、ユーロの信頼と安定を含め、難題が山積しているのも事実です。

 トップへの女性起用には、2つの効用があるといわれています。一つは目標が定まれば、それに向かって突進する推進力です。メイ首相は本来、EU残留派でしたが、国民投票で離脱が決まり、首相を引き受けた当初は国民の意向だとしてハードエグジットで突き進み、総選挙で敗北するとソフトエグジットに転換し、再び妥協なく突き進んできました。

 結果的には辞任しましたが、何度も挫折しながらも周囲の予想以上に執念を燃やしたのは事実です。その執念は男性も舌を巻くものでした。女性は男性以上に猪突猛進する性格が強いともいわれますが、無論、それは諸刃の剣で方向を間違えば深刻なダメージを与えるリスクも抱えることになります。

 もう一つの効用は、男性が好むプライドをかけた勝ち負けよりも調和を好む性質があることです。意見調整では男性以上の手腕を持つともいわれています。猪突猛進型の頑固さと調和重視は矛盾するようですが、どちらも女性の強みといえ、そのバランスが保てれば、組織に大きく貢献できるともいえます。

 ダイバーシティの代名詞にもなっている女性登用は、今後も世界で推進されることでしょう。世界一の男性社会の日本も遅ればせながら、そういう時代に差し掛かっているといえそうです。

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 アメリカのトランプ大統領が北朝鮮の金正恩労働党委員長と板門店で電撃的に会ったことを受け、日本は東アジア外交で蚊帳の外に置かれたとの悲観的見方が一部メディアから指摘されました。私個人は、まったくそんな風には受け止めていませんが、一ついえることは、海外での紛争で軍事的関わりを一切禁じる非常に特殊な日本は、そもそも外交問題では蚊帳の外が多いということです。

 それを象徴するのが昨年、アメリカがイラン核合意から離脱し、イランが核開発を加速させている問題です。実は2015年に締結したイラン核合意の長年の交渉には、国連安保理常任理事国5か国にドイツが加わっていました。この外交交渉で、ドイツは国連での地位を一挙に高め、日本と同じ第2次世界大戦の悪の枢軸国の座を脱した感があります。

 ドイツが参加した理由は、イランの原発施設の技術支援にドイツが深く関わっていたからですが、ドイツは、国際社会での信用回復の機会を見逃しませんでした。イランから石油を買う日本は交渉の矢面に立つことはありませんでした。

 その日本は今回、アメリカが核合意から離脱後の緊張高まる中東和平に一役買おうと、安倍首相がイランを訪問したばかりですが、あまりにも複雑な経済利権と非常に難しいイスラエルとの対立の中で、できることは限られています。

 フランスのマクロン大統領は7月6日、イランのロウハニ大統領と電話会談し、7月15日までに核合意当事国と対話再開の条件を検討することで合意したと伝えられました。その翌日にはイラン原子力庁の報道官が、イラン核合意の一部履行停止の第2段階として核合意で定められたウラン濃縮度の上限3.67%を超えて、5%のウランを製造する作業に着手したと発表しました。

 アメリカのトランプ政権が昨年、イラン核合意からの離脱を表明して以来、イランへの経済制裁が効いており、イラン経済は悪化しています。欧州側の合意当事国である仏独英は合意の継続を表明していますが、事実上、イランの生命線である石油輸出を制限するアメリカの制裁が圧倒的比重を占めるため、経済的に困窮するイランは核合意の履行一部停止に踏み切った形です。

 フランスの保守系日刊紙フォガロは先月「イラン合意はすでに死文化」との記事を掲載し、その中でアメリカが昨年5月に離脱表明した後、イランは新しい遠心分離機の開発に着手し、今年5月8日にはイランの核開発に関する共同包括行動計画(JCPOA)」の履行を一部停止したことで、合意は「昏睡状態に陥った」と指摘しました。

 イラン核合意は、米仏独伊中ロの6か国が長期にわたりイランと交渉し合意にこぎ着けた背景がある一方、専門家の間では合意内容は漸弱で不完全なものと指摘されていました。フィガロ紙は、アメリカの離脱以降「イランは、もはや高濃縮ウランの製造制限に縛られているとは感じていない」と指摘しています。

 オバマ政権時代に結ばれた核合意に批判的なトランプ政権が離脱を決めた理由はの1つは、イランによる核開発に対する制限が10年から15年の期限付きで、その間経済制裁解除で得た資金を元手に期限が過ぎれば核開発を一挙に加速し、中東の軍拡競争が加速するリスクがあることでした。

 さらに合意では弾道ミサイルの開発を制限していないこと、イランが周辺国で「テロ組織」とアメリカが看做す勢力を軍事的・経済的に支援している現状があること、加えてトランプ氏と良好な関係になるイスラエルのネタニアフ首相の要請もあったことです。

 ホルムズ海峡沖では今、アメリカ艦隊の増強や、日本の安倍首相のイラン正式訪問時に起きた海峡航行中の日本のタンカーへの爆弾攻撃、アメリカの無人偵察機の撃墜などで、ますます軍事的緊張が高まっています。4%を超えて核濃縮が行われた場合、核兵器への転用の時間が一気に短縮されるとされており、核合意履行停止が2段階目に入ったことで、アメリカの軍事行動の可能性も出てきました。

 アメリカは過去、自国の石油枯渇でサウジとの関係を強化するとともに、イラク、シリア、イランへの支配を強める方針を打ち出し、それがイラク戦争の1つの理由でした。たとえ大量破壊兵器がなくとも攻撃する理由があったわけです。しかし、シェールガスの発見で事態は変わり、オバマ政権は中東支配から手を引き、イランに甘い核合意を受け入れました。

 その結果、オバマ政権がプレゼンスを弱めたシリアでは、過激派組織イスラム国の台頭を許し、テロが世界の広がり、制裁が解除されたイランは、中東でアメリカ側に立つサウジアラビアなどと対立する勢力に武器や資金を提供し、中東は一挙に不安定化しています。

 フランスを始め、合意当事国である英国やドイツにしても、合意は維持したい背景には、イランでの経済利権を手中に収めたい思惑もあります。一方、イランの台頭で中東が不安定化するだけでなく、再び、欧州内でテロが起きるのは避けたいところです。

 そのフランスにはイラン反体制派組織、モジャーヘディーネ・ハルグが本部を置き、昨年来、反体制派グループの集会で指導者暗殺をイラン諜報部が計画したことが明らかになりました。欧州諸国もテロ対策としてはイランへの制裁では合意しています。

 イラン情勢を取り巻くアメリカ、欧州、中東の関係は、ドロドロした石油利権、経済利権と核戦争に発展しかねない武力のせめぎあい、イスラエルがもたらす宗教対立などが複雑に絡み合い、それも互いに軍事力行使という腕力のオプションを持って戦っていることです。中東は殺戮と闘争が常だった旧約聖書そのごとくの状況です。

 これがまさに世界の現実ともいえるものです。この状況下でイランから石油を買い続け、武力行使という腕力のオプションを持たない日本が仲介役を果たすには、非常に特殊な外交力が必要だといえます。

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 今や世界中で一大勢力に成長した反グローバリゼーションともいわれるポピュリズムやナショナリズムは、メディアが批判するほど危険で、とんでもないものなのでしょうか。

 世界一の強大国アメリカのトランプ大統領でさえ、ポピュリズム政治家と呼ばれるわけですが、特にリベラル系の多い世界中のメディアは、ポピュリズムという言葉をネガティブに使うことがほとんどで、警戒感を持って報じられることが多いのが現状です。

 5月末に行われた欧州議会選挙で、ナショナリスト政党やポピュリズム政党が伸長したことが報じられました。実際の結果は議会の決議に決定的な影響を与えるレベルではありませんでしたが、なぜか日本では大げさに報じられ、懸念の広がりを伝えています。

 確かに今月3日の欧州議会で議長に選出されたイタリア出身の社会民主系のデイビッド・サッソリ議員は、ポピュリズムに欧州が傾かないよう戦うと演説しましたが、ポピュリズムは特に中道左派系政治勢力が目の敵にしていることも原因しています。

 英国のBBCは、トランプ大統領が大嫌いです。左翼系のフランスのルモンド紙ならともかく、あの客観報道で知られるBBCが、気でも狂ったようにトランプ政権に対するネガティブ報道を続けています。そのBBCを模範とする日本のNHKも、なぜBBCがトランプを嫌うかの根拠も曖昧なまま同じ論調で報じています。

 一般的にメディアは、中道左派のスタンスが売れるといわれています。なぜなら権力の番人という使命があるからです。権力者におもねることのないスタンスで、どこに軸足を置くかという点で、権力の横暴を許さない姿勢を維持するために反権力のリベラル思想が採用される例が多いからです。

 当然、伝統的価値観に寄り添う保守、権力者、大企業に厳しい姿勢を取るリベラルメディアは、伝統や既存権力に支配されない新しい価値観としての社会主義的理想、人道主義を根幹に置くケースが多く、ポピュリズムやナショナリズムには非常に否定的です。

 それにポピュリズムやナショナリズムは、国民感情によって動くため、理性主義のリベラル派には軽蔑の対象にもなっています。しかし、民主主義の基本が主権在民である以上、国民の感情を反映するという意味では、必ずしも無視できるものではありません。

 実際、ビジネスの世界は現実主義なので、左派系、リベラル系のメディアの論調は参考になりません。なぜなら、彼らは現実よりも現実離れした理想に軸足を置いているからです。通常、世界の経済メディアは保守的で、米ウォールストリートジャーナルも英フィネンシャルタイムスも保守系です。

 何を間違ったのか、日本には経済メディアがアメリカのリベラルメディアと手を組んでいるケースもあり、売るための戦略かもしれませんが、頭を傾げます。無論、何の見識もない軽薄な保守系ジャーナリズムは問題ですが、実は保守系の方が思想性が乏しいために、立ち位置が難しいのも事実です。
 
 問題視されている欧州のポピュリズムですが、この10年で彼らの戦略は大きく変わっています。1980年代にフランスのルペン氏が始めた極右・国民戦線は、当初は反移民、反共が旗印でした。その反共ぶりは、私がルペン氏と食事をした時にも非常に明確でした。食事中にも反共、反ソ連のジョークが飛び出すほどでした。

 ところが冷戦終結で敵を失い、反移民に関しては数年前に大量の移民・難民が欧州に押し寄せた時がピークでしたが、今は大きな争点になっていません。政権政党をめざす国民戦線(現国民連合)は、娘のルペン氏の時代に入り、貧困層への生活支援など福祉政策の充実を前面に出し、従来の左派系支持層の票を奪っています。

 理由は、もともと反グローバル化のナショナリスト政党は、格差拡大をグローバル化のせいにしてるため、生活者重視も彼らの政治信条からすれば整合性があるからです。移民排撃だけでは限界があり
、ナチズムのレッテルを張られれば、政権政党になれる可能性もないため、路線変更したといえます。

 つまり、もともと日米の経済攻勢に対抗するため、欧州諸国が結束して存在感を示す目的で深化拡大したEUですが、そこで生まれたポピュリズムも中国が台頭する中、トランプ政権の登場で、グローバル化が足踏みし、国益重視、国民生活重視の内向きに傾き出していることが影響しているわけです。

 これはポピュリズム政党に関わらず、既存の中道右派や中道左派、極左政党でも有権者の支持を集めようとすれば、似たような政策を打ち出すしかない状況です。つまり、全体としてEUが掲げてきた高邁な理想主義は大きな壁にぶつかっているといえます。

 当然、緊縮財政は批判され、財政の健全化は遠のき、下手をすればギリシャ化する可能性もありうるという話です。その意味では経済政策は重要さを増す一方で、経済不調打開に中国の港湾インフラ開発に巨額を投資するといった甘い誘いに乗るイタリアのような国も出てくるわけです。

 第二次世界大戦で疲弊し、東西に分断された欧州が、果たして国家を超えた理想主義を、どこまで追及し続けられるのかが問われているといえそうです。

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Leadership-Role

 タイで現地採用され、10年以上日系企業で働くAさんは私に、日本から送り込まれる経験豊かな上司が、いつも原則論を振りかざすのに辟易しているという話をしてくれました。「彼らは問題が発生すると、必ずとタイでは通用しない日本的原則論を持ち出して、そこに無理やりタイ人を当てはめるようとするんですが、うまくいった試しはありません」とAさんはいうのです。

 原則論とは、その上司が日本で成果を出していた経験に基づくもので、それなりに確立されたものです。グローバルビジネスの現場では、文化の違いからくるコミュニケーションギャップなどから、仕事が滞ることが多くあります。典型的なのは日本の政府開発援助(ODA)などで日系建設会社が請け負った病院やインフラ工事の納期が極端に遅れることです。

 そのため、日本の大手ゼネコンの多くは利益の上がらないODAから手を引いているほどです。しかし、中身をみると、多くの場合は現地企業との共同事業なので、現地企業との協業がうまくいかず、現地での資材調達などでも度々、問題が発生し、全体のマネジメントがうまくいっていないのが原因というケースが多いのが現状です。

 日本から送られた上司の中には、原則論ばかりを強調し、問題解決できないままに現場は動かなくなり、時間ばかりが過ぎ去っていくケースは私の経験上も世界中で散見されます。なぜ、原則論が機能しないかといえば、それは日本社会の中で日本人にだけ通じる特殊性が含まれているからです。

 無論、日本は製造業で、世界中が見習うような素晴らしいシステムを持っています。しかし、そこで働く人間は日本人が前提です。ルールを守ることを小さい時から教育されている日本人には原則的ルールを遵守するのは当たり前のことですが、ルールが先にあるわけではないアジアや中南米、アフリカでは、ルール以前の問題があります。

 そういうと先進国ではルールが優先されていると思われがちですが、ルールそのものの解釈は様々です。たとえばドイツ人はルールが大好きなので、歩行者も車が一台も来ていなくても赤信号で渡る人はいませんが、フランス人は平気で渡ります。彼らの解釈では信号は人間の判断を助ける程度のもので、ルールの目的からすれば、危険性がない時には赤信号を守る必要ないということになります。

 さらに、進捗状況の把握で報連相を導入したら、不正確な嘘の報告をされて現場が混乱したなどという話をよく聞きますが、律義に上司に必要な情報を忖度して、正確な報告を上げるのは日本人くらいです。自分に不利な報告や相談はしないとか嘘の報告をするのが海外の常です。

 つまり、日本で機能しているものの中には日本だからこそという前提があるわけです。その多くは素晴らしいシステムであったとしても、前提の違う国では機能しません。特に建設業のように何層も下請けが存在し、そこに業界の暗黙の了解のルールが働くような職種は、グローバルビジネスでは苦戦を強いられています。

 とはいえ、製造業の場合はビジネスに耐える一定の製品を、それも量産体制で作り出せなければ成功しませんし、サービス業でも質の高さは問われるところです。無論、細部に渡り職人的こだわりが強すぎると永遠に結果は出せない状態に陥る可能性があるのがグローバルな現場です。

 私は、手順として日本で培った原則論の中で、異文化では適応が難しいものを、できるだけ早く発見し、その国や地域の文化に合ったシステムに改善することを推奨しています。さらに日本のシステムの中で譲れない不動の部分に関しては、ナショナルスタッフが対応できるように忍耐強く教育することです。

 たとえば日本的進捗管理の報連相は、ハイコンテクスト(高い常識の共有度)の日本人同士なら、上司と部下、同僚同士の信頼関係構築が容易だし、上司を部下が支える忖度の文化もあるので導入は有効です。しかし、その前提のないナショナルスタッフに対しては、最終目標は日本的報連相の確立であっても、その前段階(日本では必要性が低い)での丁寧な人材育成が必要です。

 グローバルな現場がうまくいかない多くの原因は人間関係にあり、コミュニケーションのあり方が影響を与えています。どんな素晴らしいシステムや原則を持っていたとしても、それを動かすのは人間です。そのため相手にどの程度正確に伝わっているかの確認作業は日本の10倍は必要です。

 海外で成功している企業は、組織の透明性が高く、風通しがよく、ナショナルスタッフからのフィードバックに耳にを傾け、それを迅速に反映させる対応をしている企業です。同時にヴィジョンや目標達成への不動の決意を持っているリーダーが存在していることです。これは外国人材が増える日本国内でもいえることです。

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 香港での大規模デモへの圧力を強める中国と1997年まで香港を統治してきた英国の間の論戦がエスカレートし、特に中国の劉暁明・駐英大使の過激発言で英国は改めて現実を思い知らされた形です。

 ことの発端は、1日にデモ隊が香港立法会(議会)の建物に突入した際の香港当局の暴力的鎮圧について、メイ英首相が「デモ参加者の圧倒的多数が平和的かつ合法的に行動していた」との見方を示し、1984年の「中英共同宣言に定められた香港の高度な自治と市民の権利および自由が尊重されることが重要だ」という認識を示したことでした。

 さらにハント英外相が「香港市民の事件を侵害すれば、中国政府は深刻な結果に直面するだろう」と警告しました。これに対して劉大使はテレビで放映された同日の中国大使館での記者会見で「英国は植民地時代の妄想に取りつかれている」と非難し「英国政府は間違った側につくことを選んだ上、不適切な発言で、香港の内政に干渉するだけでなく、法を破った暴徒らを支援した」と強く非難しました。

 劉暁明大使は、北朝鮮駐在大使も務めたベテラン外交官であるだけに、発言は中国中央政府の考えを代弁したものと思われ、改めて中国政府が英国政府の統治時代を過去の遺物として完全に葬り去りたい意向を持っていること見せつける結果となりました。

 劉暁明大使は、さらに「英国は香港当局が犯罪者に法の裁きを受けさせるのを妨げようとしており、それは香港の法の支配への完全な干渉だ」と非難しました。駐在する大使がテレビの前で、駐在する国の政府を露骨に非難するのは異例ともいえることです。英外務省は劉大使を呼び出し、発言に関する説明を求めましたが、対立は続いています。

 この論戦で登場した中国の主張は、過去に行った共同宣言への考え方の国際常識との違いを見せつけたものです。劉大使は「香港は中国の特別行政区であり、英国の植民地支配下にある地域ではないことをあらためて強調したい」と述べ、中国外務省は今週、中英共同宣言について「もはや実質的な重要性はない」との認識を示し、「中国に手を出すな」と警告しました。

 劉大使は、逆に「返還後に一国二制度を成功させてきた中国に敬意を払うべき」ともいいました。ハント外相はツイッターで「両国の良好な関係構築は、法的拘束力を持つ合意が土台となる」との認識を示しました。

 今回、中国は、特に香港の旧宗主国である英国が、香港の政治に口出しすることは認めないとの考えを明確にした型です。それよりも一国二制度を運営する中国政府を賞賛すべきとまでいったわけです。中国らしい対応だったといえます。

 論争の中心になっている1997年の返還を念頭に1984年に定められた中英共同宣言について、英国は国際条約であり、今も有効で守られるべきと主張しているのに対して、中国側は当時交わした過去の文章であって、今、香港を特別行政区として統治するのは中国で、効力はないと主張している点です。

 これは、どこかで聞いた話とよく似ています。徴用工や従軍慰安婦問題で過去の賠償が終了している問題を反故にする判決を最高裁が下した韓国の認識にも繋がるものです。つまり、法的拘束力を持つはずの国際条約の解釈が、まったく異なっているということです。

 これが世界を揺るがしている問題の核心の1つです。なぜそうなのかというば、中国や韓国などアジア地域には、法は支配者が支配のために定めるもので、権力者の都合によって解釈は変わり、死文化することもありうるということです。特に外国と結んだ条約や協定を遵守し続ける考えはないともいえます。これはビジネスにも繋がる話です。

 当然、香港の一国二制度をいつ変えるのかも中国政府の自由であり、事実、1997年の返還から50年間適応されるとした中英共同宣言について、2014年11月に駐英中国大使館が「今は無効」との見解を英国側に伝えています。実際、中国当局は英下院外交委員会議員団による宣言の履行状況の現地調査も「内政干渉」として拒否しています。

 香港の騒乱への中国政府の対応や、一連の論争は、英国及び欧州諸国に国際条約を守らない中国の正体を見せつけた形です。そのため、中国への幻想は、遅まきながら、ますます消えようとしています。

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 国益最優先のアメリカのトランプ政権は、環太平洋パートナーシップ協定経済協定(TPP)から脱退するなどして、2国間交渉で自由貿易協定(FTA)を結び直す方向に動いてきました。これは同政権が目指す、東西冷戦以降に構築されつつあったグローバルフレームワークの漸弱性や忍び寄る中国の脅威に対して完全リセットに挑む一貫ともいえるものです。

 自由市場主義を巧みに利用しながら、人、物、技術、情報を自国に集中させ、世界支配を狙う中国の狙いが明確になる中、自国産業を守るためにアメリカのような何でも2国間交渉で解決しようとする手法だけでは、限界もあるのが、今のグローバル化し、複雑化した世界といえます。

 一方、日本はアメリカのような経済力、軍事力を持たず、戦後、70年経っても外交で腰が引けている一方で、得意とする「連携」「協力」「協調」という意味で、先進的な動きを見せています。それは、一つはアメリカがTPPを離脱した後、11か国で協定を取りまとめることを成功させ、2018年3月に署名に至ったことでした。

 もう一つは、妥結に至るまでに5年近くの歳月を要した日本と欧州連合(EU)間の経済連携協定(EPA)で、今年2月に発効しました。これは安倍政権の特筆すべき実績といわざるを得ないもので、経済大国としてリーダーシップを発揮した成果でした。

 TTPはアメリカの離脱の衝撃でとん挫の可能性もありましたが、日本のリーダーシップでまとめることができました。EUとのEPAでは、実は厳しい交渉とは別にEUにとって日本に関する見方の変化があったことは見逃せません。それは遅まきながら、EUも中国の脅威に気づいたことです。

 FTAは特定の国や地域間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減あるいは撤廃するのが目的ですが、EPAは締約国間の貿易の自由化だけでなく,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での踏み込んだ協力の要素を含んでいます。幅広い経済関係の強化という意味ではFTAの進化型ともいえるものです。
 
 TTP、EPAは、国家間や地域間の対立が激化したり、不安定化すれば、大きなリスクを抱えることになり、ブレグジットのような混乱に陥る危険性もあります。その意味では性善説を信じる日本ならではの得意分野といえるかもしれません。

 しかし、裏を返せば経済関係の深化をもたらすTTPやEPAは、国家や地域間の安定に寄与する効果もあり、リスクをとっても推進する価値があるというのが日本の判断なのでしょう。いずれにせよ、日本人が自覚する以上に世界に定着している日本の経済大国としての信頼性は、経済協定では存在感を示しています。

 では、次の一歩は何かといえば、無論、TTPやEPAの進捗管理を行い、改善しながら、実効性を高めていく努力も必要ですが、日本は戦後、腰が引けていた政治力を発揮することだと私は見ています。そういうと多くの日本の識者は「やめたほうがいい」というかもしれませんが、今後、米中関係の緊張が高まり、経済戦争の激化が予想される中、日本の政治的立ち位置が問われるのは必至です。

 私は、このブログで触れましたが、冷戦後の1990年代からの欧州要人への連続インタビューから導きだされた結論は、やはり政治力の絶対的必要性です。よく冷戦終結でイデオロギーの時代は終わり、経済中心の時代に入ったといわれますが、政治、外交力の重要性は増すばかりです。

 日頃、反トランプの論陣を張るリベラルメディアの米ニューヨークタイムスが先月16日付で、中国との競争にアメリカが打ち勝つには同盟国である日本とEUとの連携が不可欠というバイデン元米国副大統領の補佐官だったジュリアンヌ・スミスの論説を掲載しました。無論、トランプ氏のアプローチとは異なるものですが、私も日米欧が世界のフレームワークづくりでカギを握ると見ています。

 私がヨーロッパの要人とのインタビューで「政治的関係がなければ国家や地域間の関係は深まらない」という認識は、当時の日本ではあまり耳にしないものでした。冷戦時代にも政治的対立にコミットせず、経済に集中してきた日本は、経済関係の深化で関係は深まると勘違いするようになっていたのかもしれません。

 それが八方美人的な商人国家のイメージを作り上げたのでしょうが、グローバル化が進み、世界が不安定化する時、最終的には政治力が物をいうのも確かです。その意味でTTPやEUとのEPA締結の次の段階は、対中政策、対ロ政策、対中東政策で、日本が米欧と政治的連携を強めることが重要だと思います。

 それは経済協定とは別のレベルで覚悟が必要な話です。今の60代以上の日本人は、腰の引けた外交でお茶を濁すことで、波風立てずに商売だけしていればいいという認識なのでしょうが、本当に国際貢献したいのであれば、頭を切り替える必要があります。

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