安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが体験を踏まえ現在の世界を読み解きグローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 日本で働く外国人にはさまざまな悩みがあるといわれていますが、その一つは人間関係です。日本の某IT系企業で3年前から働くアメリカ人D氏はツイッター上で「日本人は組織の犬だ。友達には到底なれない」と口の悪いコメントをツイートし、何人もの外国人が共感したという話があります。

 D氏は2年間一緒に働いた同僚の一人とはプライベートでも一緒に週末、テニスをしたり、旅行に行ったりする仲で、時には彼の悩み事にも同僚は耳を傾けてくれて、いい友達が日本にできたと喜んでいたそうです。ところが1年前、同僚は人事で地方に配属され、最初の数カ月は、LINEで交信していたのが完全に音信不通になったそうです。

 日本で働く外国人たちが英語でシェアするサイトで、フランス人女性が「私は”組織の犬”というのは言い過ぎだと思うけど、私も10年以上付き合った会社の同僚が転職して、相手にされなくなって、ショックを受けたことがある」と共感を表明、次々に同様な体験をした外国人たちが自分のショッキングな体験をシェアしています。

 あるシンガポール人は、過去に職場で仲の良かった日本人の友人と久しぶりに再開したら「まるで別人のようで、よそよそしいのに衝撃を受けた」と体験を語っています。彼は「日本人は、高校などの同級生とは関係を続ける人もいるけど、会社とか住むところが変わると簡単に関係が切れてしまう」といっています。

 日本という異文化で働く外国人にとって、日本人の友人作りは重要です。私も某自動車メーカーで講演した時、海外赴任して異文化を理解する方法を質問され「決して多くの友人を作る必要はないが、数人のナショナルスタッフやプライベートで会う現地の人と深い友人関係を作るのは重要。そこから相手の文化が見えてくる」と答えたことがあります。

 私の妻はフランス人ですが、日本人同士の夫婦でフランスに赴任し、彼らが5年間で学ぶフランス文化を私は多分数カ月で学んだと思います。なぜなら、妻を通じて、かなりディープなフランスに接しざるを得ないからです。だから、一人でも現地の人と深い人間関係を作れたら、理解できることも多いというわけです。

 日本人のメンタリティは変化しつつあるといいますが、日本人の組織への帰属意識の強さは、それほど変わっていません。帰属する組織や場所によって、自分のアイデンティティは変化し、なかなか所属とは関係なく、人生の友を作るのは、日本人同士でも難しいと思われます。

 5年間フランスに赴任していた日本人と仲よくなったと思っていたフランス人が、日本に帰国した友人と関係を続けようと思ったのに、まるで他人のような反応に変わったことに驚いたなどという話はよく聞く話です。村社会の日本では、村(組織)の中では守られ(最近は守ってくれない組織も少なくありませんが)、村の外に対しては排他的です。

 終身雇用で組織への忠誠心を強化してきた日本企業も大きな曲がり角に来ています。転職が当り前になる時代が訪れようとしています。そうなれば組織や職位は便宜的なものでしかないという欧米的な考え方にも変わっていくでしょう。そこで重要になるのは自分自身の変わらないアイデンティティです。

 組織に対して従属的姿勢を持ち続ければ、外国人が指摘するように生涯に渡り、付き合える友人はできにくいかもしれませんが、組織に対して独立した個として主体性を持って取り組めば、組織によって自分を変えていくという現象は起きにくいといえます。そうなれば外国人とも長い付き合いができる人間になることもできるのではないでしょうか。

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 トランプ米大統領は以前から、金融とITを嫌っていたといわれます。理由はトランプ氏が得意とした不動産ビジネスに比べ、どちらも実物の物が存在しないことや、ITに関していえば、リベラル系の人間が多いことも嫌悪する原因だといわれています。つまり、その業界に集る種類の人間をトランプ氏は好きになれないという言い方もできるかもしれません。

 とはいえ、今や世界で巨額の利益を産んでいるIT業界はアメリカにとって非常に重要な存在であることは認めており、たとえばフランスがグーグルやフェイスブックなどアメリカの巨大IT企業をターゲットにしたデジタル課税を導入したことに対して、フランス経済に深刻なダメージを与えかねないフランス産ワインに100%の関税をかける対抗措置をとることをちらつかせています。

 ヨーロッパにいると、アメリカの強さは日本とは別の視点で見ることができます。それは同じ西洋人中心の社会でも、精神年齢の違いが極端だからです。すでに文明的には完成の域に達したヨーロッパ先進国は、精神的には老人です。短時間の仕事と庭いじりやDIYを楽しむ決まりきったライフスタイルのサイクルは、日本人には手の届かない豊かさです。

 山のような世界遺産を日々磨き、そこを有り難がって訪れる自国の人口より多い外国人観光客が金を落とし、紀元前から磨きをかけるワインを毎年、1,800億円分もアメリカに輸出し、香水やモード、洗練されたフランス料理という商材で世界を魅了し続けています。

 とはいえ精神的老いは確かで、次々と時代の先をゆくようなテクノロジーを産むとか、世界が嫉妬するような新しいビジネスモデルを産んでいるわけでもありません。30年前は日本の経済覇権に怯え、今では中国に脅威を感じるよりも、尻尾を振っているのがヨーロッパです。

 アメリカがもたらしたコミュニケーション革命ともいうべき新たなプラットフォームビジネスは、巨額の利益をもたらしましたわけですが、その背景にはイノベーションを繰り返す精神的若さがあります。世界中から集る若いドリーマーが競い合う環境が整っていることも重要です。

 同時にコミュニケーションツールの開発には、アメリカが世界的に見てローコンテクスト文化、つまり常識の共有度の低い社会だということも挙げられます。日本のような常識への共有度が高いハイコンテクストの文化では、以心伝心、いわずして忖度する社会なので、コミュニケーションツールは発達しにくいといえます。

 人と人を結びつける新たなコミュニケーションツールの開発は、コミュニケーションに壁のある多文化社会のアメリカだからこそ生み出したものです。歴史的にメディアが発達したのも同じ理由です。逆にいえば、人と人との結びつきが弱まれば、他の歴史のある国以上に状有できる常識がないために一体感がなくなり、国家としての運営が難しくなる側面もあります。

 つまり、そのような環境だからこそ、新たなコミュニケーションツールを生み出せたといえます。それは世界の誰れもが必要とするツールなために、恐ろしいほどの利益をもたらしているわけです。アップル OSやWindows OSも、プラットフォームビジネスですが、これが作れていないのが今の日本です。

 新たなビジネスモデルをもたらす基本は若者です。経験主義で終身雇用や年功序列の職人文化では有能な若者を活用して新しいビジネスモデルを作ることはできません。

 今はどうしているか知りませんが、30年前にフロリダのオーランドのディズニーワールドを取材した時に聞いたのは、非常に才能のある10人の若い社員に毎年1億円渡し、年に1回、新しいアイディアを出させることをやっていたことです。

 採用されるのは1つか2つで、結局、10人の中には何年もアイディアが採用されないという状態も生まれます。つまり、毎年10億円を投じるのは企業にとって大きな懸けということです。そんなリスクの高い賭けよりも地道な研究や安定した生活を求めているのが今の日本でしょう。

 一部の日本のIT系企業が、新卒採用者に1,000万円の給料を支払うケースも出ていますが、小学校の時から同じ色に染め上げ、自己主張を押さえ込み、自由を毒とする文化が変わっていない以上、若者への高額報酬が機能するかは疑問です。当然、企業は高額報酬に見合った結果を求め、耐えられないようなプレッシャーをかけ、逆効果になるかもしれません。

 日本の場合は仕事とプライベートの境がなく、会社に家族的感覚を抱くために、職場に年功序列が持ち込まれ、窮屈にしています。1個の人間として年上を敬う長幼の序は大切ですが、利益追求最優先のビジネスの場においては個人と仕事は切り離すべきです。

 人生が仕事というのも問題です。手段が目的化してしまっているわけで、プライベートの豊かさや意味のある人生の追求のための仕事と考えれば、職場の人間関係は違ってくるはずです。日本人が新たなビジネスモデルを作れなけば、外国人にチャンスは奪われるほど、事態は切迫しています。

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 フランスは、なんと毎年、約16億ユーロ(約1,885億円)相当のワインをアメリカに輸出し、対アメリカ輸出は海外輸出の20%を占めています。しかもワイン生産者の多くは、これからもアメリカのワイン市場は成長が望まれると見ています。

 その期待感とは裏腹に、トランプ米大統領がフランスが導入するグーグルやアマゾン、フェイスブックなどの大手IT企業を対象としたデジタル課税への対抗措置として、フランス産ワインに100%の関税を賦課する可能性を示唆していることから、フランスのワイン生産者の間に不安が拡がっています。

 フランスのとって、ワイン産業は基幹産業の一つで、この30年間、安価で質のいいオーストラリア、チリ、カリフォルニアワインなどに押され、厳しい競争に晒されています。そこにアメリカの報復関税が現実のものとなれば、打撃は避けられないため、ワイン生産者は警戒を強めています。

 事の発端は、今月9日に米資産家のスティーブン・ロス氏が、ニューヨーク州ロングアイランドのハンプトンズでトランプ氏への資金提供者を集めたパーティーを開いた際、大統領がワインへの報復追加関税に言及したことが拡がったとされています。

 ホワイトハウスはコメントを控えていますが、米通商代表部(USTR)は19日に、米IT企業から、フランスのデジタル課税の導入をついての公聴会を開催し、26日まで意見聴取を続けるようです。その結果次第では、フランス製品に対する新たな関税を導入する中にワインを含める可能性があるという話です。

 具体的には、フランス生産者にどの程度影響があるかは不明ですが、以前から日本とのビジネスの手伝いをしているブルゴーニュのトップ3のドメイン所有者の一つ、ミッシェル・ピカールによれば、ワイン生産業者にとっては、低価格帯ワインのダメージが多いとの見方を示しています。

 その意味では生産量でも輸出量でも圧倒的に多いボルドー地方の生産者の方が危機感を募らせているかもしれません。また、価格を抑えた地酒ワイン生産者も影響を受けることが予想されます。ただでさえ低価格のチリワインなどに押される低価格帯ワインは、アメリカ市場での競争力を失う可能性は高いといえます。

 無論、価格が高くても美味しいワインを好むアメリカの富裕層には関係のない話で、アメリカではフランスの高級ワインの評価は定着しているため、大きなダメージは受けないとの見方もあります。

 フランスのデジタル課税は仏国内で売上高が2,500万ユーロ(約29億4,700万円)以上の大手IT企業を対象に売上高の3%を課税するというもので、フランス企業も対象に含まれますが、規模からいえばアメリカ企業が圧倒的で、標的にされているのも確かです。

 デジタル課税を巡っては欧州連合(EU)レベルでの導入が検討されましたが、慎重論も多く、フランスは独自の課税を決定した経緯があります。アメリカとしては、他のEU加盟国にデジタル課税が拡がることを警戒しており、フランスへの対抗措置は必至と見られます。

 実はトランプ大統領は1年以上前からフランス・ワインへの関税の低さに不満を表明しており、不公正さを問題にしていました。地球温暖化対策やイラン問題で対立が深まる米仏関係、通商面でも対立が深まる可能性も出てきたことから、ワイン生産者は戦略の変更を強いられるかもしれません。

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  フランスの内政、外交で過去から重要な役割を担うブレガンソン城砦の別荘

 フランスの歴代大統領が使用する夏の保養のための別荘、仏南東部ブレガンソン城砦に19日、ロシアのプーチン大統領が現れました。24日から仏南西部ビアリッツで開催される先進7か国(G7)首脳会議を控えた時期にマクロン仏大統領が招待したことによるものです。

 2014年のロシアの軍事侵攻によるウクライナ南部のクリミア併合以来、ロシアはG8から締め出され、プーチン氏は今もG7には招かれざる客です。今回の仏露会談で話し合われた内容全てが明らかになったわけではありませんが、少なくとも今年4月にウクライナの大統領に選ばれたゼレンスキー氏とプーチン氏の首脳会談の可能性が議題になったことなどが明らかになっています。

 マクロン大統領は、来年5月にモスクワで開催される対独戦勝75周年記念式典に正式招待され、出席を表明、プーチン氏はクリミア問題で冷え込んだヨーロッパとの関係を修復する糸口にしたいところだと思われます。来年はロシア文化イベントが仏全土でも開催予定です。

 同時に、マクロン氏は最近、ロシア国内で起きる反政府デモへの当局の度を超えた取り締まりに不快感を表したのに対して、プーチン氏はフランスで長期化する黄色いベスト運動を持ち出し、同じようなことは避けたいと切り返し、話は平行線に終わったようです。

 実はブレガンソンは、私もヴァカンスで訪れており、そこの城砦近くのレストランのオーナーにおもしろい話を聞いたことがあります。近年南仏には多くのロシア人富裕層が押し寄せているそうですが、彼らのマナーの悪さに辟易し、入店を拒否しているという話です。

 彼らは、レストランに入るなり、メニューにある料理を全て持ってこいと注文し、周囲の客に迷惑になるような大騒ぎをし、食い散らして帰っていくというのです。私が、そのレストランにいた時も10人ほどのロシア人客が入り口でオーナーと激しい問答をしていました。

 そんなことを知るはずもないプーチン氏は、マクロン大統領から歓迎を受け、上機嫌だったようです。マクロン大統領にとっては、ロシアからの天然ガスのパイプライン計画でトランプ米大統領に批判され、経済も低迷しているドイツのメルケル首相や、英国内でロシアの元スパイを毒殺されロシアとの関係が冷え込む英国のジョンソン首相に先んじて、対ロシア外交で主導権を握りたいというところでしょう。

 G7直前に議長国として、ウクライナ問題で締め出されたプーチン氏に会い、フランスが独自の外交ルートを開くことは、地球温暖化対策やイランの核問題で対立するアメリカのトランプ大統領への牽制にもなる話です。

 フランスはマクロン政権になった2017年以降、米英独などの批判をよそにロシアとは定期的な接触を繰り返しています。過去の歴史でロシアを孤立化させていいことは一度もなかったし、プーチン氏の真意がどこにあるかを知ることも重要です。一方のロシアは経済面においてヨーロッパは欠かせない存在です。

 今回の首脳会談直前、ロシアの司法当局は、汚職容疑でロシアに拘留されていたフランス人銀行家のフィリップ・ドゥルパル氏を釈放することを突如発表しました。プーチン氏はマクロン氏とのパイプ作りに積極的な姿勢を見せた形です。

 フランス・メディアは、すぐに結果の出る問題ではないが、何もしないよりはいいし、G7の首脳間の関係がギクシャクする今、マクロン氏は、誰もが憧れる南フランスの地中海に面した別荘でリラックスした形で会談することで、自身が信じる多国間主義をG7にも示したかったと書いています。

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 欧米のビジネススクールに登場する悪いリーダーを表現したイラストに、椅子にふんぞり返って座った上司を部下が担ぐ絵があります。27年前、フランスのビジネススクールで教鞭を執り始めた頃、当時注目を集めていた日本的経営の一つとして「御神輿経営」の説明がありました。

 バブル崩壊直後で日本経済の世界的存在感は、まだまだある時期、アメリカに10年遅れをとるといわれたヨーロッパでの日本研究は、終身雇用、年功序列、家族的経営、企業への忠誠心などと並び、御神輿経営も取り上げられていました。

 興味深いのは、日本の研究者も英語で日本的経営を海外に紹介する論文を当時、書いていましたが、実は欧米諸国の価値観を考慮した客観性はなく、欧米のビジネススクールの研究者たちの受け止め方は、日本人が考えるようなものではなく、かなりの溝がありました。

 たとえば、1999年に日産自動車のトップになったゴーン前会長は「終身雇用は理想的考えだが、会社が成長を継続する前提の上にしか成り立たない」「年功序列は問題だ」との認識を示していました。無論、年功序列というと、猛スピードで出世したゴーン氏は当てはまりません。

 将来の日本の首相を嘱望される小泉進次郎氏は、政治家になった当初「最初は雑巾がけから」といいましたが、儒教や徒弟制度の職人文化が浸透する日本ならでは考え方です。その考えでは時代の変化への鋭い感性を持つ30代、40代の首相や大統領を産んでいる欧米のようにはなれないでしょう。

 日本でも過去のような御神輿経営文化はなくなっているとしても、メンタリティとしては強く残っています。1980年代に「新人類」という言葉が流行り、会社や上司、周囲の空気が読めない新しい人種といわれましたが、彼らによって企業文化が根本的に変わることはありませんでした。

 今、日本企業の社員研修で、30歳戦後の受講者に聞くと「今、入ってくる新入社員は大した業務経験もないくせに偉そうなことをいうのに驚かされる」といいます。自分の意見が通らなくて辞める新入社員も少なくなく、「石の上にも3年」などという考え方は、今は通じないともいわれます。

 しかし、企業側から見れば、軽率な判断で辞めていくような社員はいらないという考え方もあります。今も昔も向上心が強く、努力を惜しまない人材が評価され、結局、企業が最も必要としているのは将来のリーダーになれる人材で、兵隊を引き止めることではないという考え方もあるわけです。

 AIとビッグデータを駆使する時代変化の中で、単に記憶力と脳の処理能力が高いよりは、誰もが考えつかないような発想力やクリエイティブマインドを持ち、時代を見据えた高度な判断ができる人材、誰もがハッピーについていける人間的魅力を持つリーダーが必要な時代です。

 どちらかというと突出した才能や能力よりも、チーム力を高める一定水準の人材、悪い言い方をすれば優秀な兵隊を揃えることを重視してきた日本企業は、優秀な外国人との協業時代に入り、大きな岐路に立たされているといえます。

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 ではなぜ、欧米のビジネススクールや一般社会で、御神輿経営スタイルを強要するリーダーを「bad boss」というのでしょうか。無論、今ではパワハラで訴えられる権力を振りかざし、部下を罵倒するリーダーは欧米企業にも過去にはいました。セクハラはそもそも権力を利用して行われるのが常なので、パワハラと同根です。

 たとえば、アメリカ人が理想とするリーダー像に旧約聖書に出てくるモーセがいます。奴隷生活を強いられたイスラエル民族をエジプトから開放し、神が準備したカナンの福地をめざすリーダーの話ですが、目的に対してブレない不屈の精神、神を信じる絶対的な信仰が理想的リーダー像になっているわけです。

 聖書の中ではモーセが神の十戒の石版を得るため、一人でシナイ山に登り、40日も帰ってこないので待ちきれなくなった民たちが、日頃からモーセに不服従のアロンに頼み、モーセに代わって民を率いる金の子牛を作り崇めました。これに激怒し民を滅ぼそうとした神をモーセがいさめ、もう一度チャンスをもらうという場面があります。

 結局、神が激怒したのかモーセが自分の感情を治められなくて石版を割ってしまったかは見解が分かれるとされますが、いずれにせよ、右へ左へと揺れ動く民に対して信念がブレないモーセは、キリスト教徒だけでなく、一神教のユダヤ教徒、イスラム教徒にとってもリーダーの鏡となっているわけです。

 一方、絶対的存在である神を信仰しない東洋では、人間を超越した存在への畏敬の念より、目の前にいる人間を崇拝する傾向があります。一神教では、モーセは人間崇拝の対象ではありません。なぜならモーセは人間であり、神は人間を超越した存在という決定的違いがあるからです。そのため、リーダーを人間崇拝することはありません。

 一方で東洋には仏教と儒教が根付いており、年上の人を敬い、大切にする習慣があり、組織では上司や中心に立つ人は特別に扱われます。最近、長年同じ部署で人材育成に当たっていた友人が他の関連会社に出向するため送別会をした時、部下の女性たちの何人かが泣いたということを聞きましたが、日本企業ならではともいえるものです。

 日本で今は消えつつあるとはいえ、御神輿経営スタイルのリーダーシップを非常に悪いものとして批判する声は、日本では欧米ほどにはあまり聞かれません。その善し悪しは文化の違いから生じていることは明らかですが、どちらかというと部下の人権重視の方向に世界は動いているのは確かでしょう。

 リーダーシップが重要さを増す日本企業ですが、多文化で働く状況が増しているのも事実です。一ついえることは洋の東西を問わず、いいリーダーに恵まれることは部下にとっても組織にとっても幸せだということです。その意味では、いいリーダーの定義をしっかりすることが重要でしょう。

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 数年前まで仕事場として借りていたパリ14区のアパートのオーナー、マダム・フシェは、仏南西部の高級リゾート地として知られるビアリッツに住んでいました。彼女は夫を早くに亡くし、パリから自分の別荘があるビアリッツに25年前に引越し、パリに所有するアパートの一つを貸していました。

 アパートのあった14区は絵描きが多く住んでいたこともあり、借りていたアパートは日本でいえば8階(フランスでは7階)でしたが、吹き抜けのサロンに高さ6メートルのガラス張りの天井、室内の階段で中2階に登っていく構造でした。なかなか気に入っていて、古くて狭いエレベーターも風情がありました。

 別荘が老後の住処になるパターンは、フランスでは珍しくありません。現役時代は喧騒な都会を週末だけ逃れて過ごしていた別荘が、退職後は終の住処になるというわけです。フランス人にとっては理想のパターンです。マダム・フシェはそんなことも考え、30年以上前に病院や施設も充実しているビアリッツに別荘を持ち、今はそこで暮らし、最近、聞けば介護付きの高齢者施設に入ったそうです。

 そんなビアリッツで8月24日から3日間、先進7カ国(G7)首脳会議が開催されます。ビアリッツはフランス人のみならず、ヨーロッパでビアリッツを知らない人はいないほど、フランス屈指のリゾート
地です。

 「西海岸の宝石」と讃えられ、大西洋に面し、イベリア半島の付け根に位置し、スペイン国境にまたがるバスク地方の文化が色濃い保養地で、ヨーロッパの王侯貴族の保養地として知られています。今回のサミット会場にも使われる「オテル・デュ・パレ」は、19世紀に皇帝ナポレオン3世が王妃ウージェニーのために建てた豪奢な離宮で、現在もイギリス王室が利用しています。

 一流ホテルにカジノ、高級レストランからタラソテラピーまで、美しい大西洋に面したビーチを囲み、高級リゾート地としての全ての条件を満たしています。加えてヨーロッパのサーフィン発祥の地として知られ、いくつものサーファー・スクールがあり、ヨーロッパで2番目に歴史の古いゴルフコースもあります。そのため世界中の若者やビジネスマンにも人気があります。

 ニースやカンヌ、サントロペなど地中海に面した高級リゾート地同様、ドーヴィルと並び大西洋に面したビアリッツも、ヨーロッパの王侯貴族たちによって開発され、今に至っています。私のフランス人の友人の一人はビアリッツの魅力にとりつかれ、数年前に引っ越していきました。

 そんなビアリッツで開催されるサミットですが、期間中は近くの空港や鉄道駅、ビーチまで閉鎖され、ホテルは一般客の宿泊はできず、サミット関係者で埋まっているそうです。この5年間、テロが頻発するフランスだけに、テロに対する厳戒態勢を敷く一方、仏内務省は、無政府主義組織や過激な環境保護団体、黄色いベスト運動などが乗り込んでくることも警戒しています。

 ビアリッツのブナック市長は、町の知名度を世界的に上げるチャンスと意気込んでいますが、サミットに眉をひそめるレストラン店主や住民は少なくないようです。静かに老後を過ごす住民の多くは、これを機会にマナーを守らない観光客が大量に押し寄せることを心配しているそうです。

 次第に存在価値が薄れつつあるG7ですが、世界経済の舵取りに欠かせない高い見識やモラルを持つ国は多いとはいえません。その意味で不透明感の漂う世界に明確な方向性を示してほしいものです。

 経済問題に加え、気候変動やアフリカの開発、公正な貿易システム、国際租税、個人情報保護、デジタル課税と議題は多岐に渡りますが、政治家のリーダーシップが求められるところです。


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 ヨーロッパの優等生といわれたドイツ経済が減速を見せ初め、景気後退の影が迫っているとヨーロッパメディアが一斉に報じています。ヨーロッパ第1位の経済大国ドイツの4〜6月期の実質GDPは、前期比0.1%のマイナス成長、第2位の英国も0.2%のマイナスに落ち込みました。

 主要因は合意なき離脱の可能性が高まる英国の欧州連合(EU)離脱と米中貿易戦争の長期化で輸出が経済の牽引役であるドイツにダメージが及び始めていることです。ドイツは欧州はもとより、南北アメリカやアジア地域など広範囲と通商関係を持っており、貿易が大幅に鈍化していることが経済を直撃しています。

 ドイツの工場経営者たちは危機感を募らせており、実際、この1年間で受注が全体で8.6%減少し、輸出の牽引役である工作機械に至っては第2四半期に22%も減少しています。仮に第3四半期もGDPがマイナス成長となれば、EU最大の経済大国が本格的な景気後退局面に入ることになります。

 一方、フランスは0.2%と検討しているものの、イタリアは0%で、今後、政治が混乱をきたせば、マイナス成長に陥る可能性が指摘されています。ユーロ圏全体でも0.2%増にとどまり、景気にブレーキがかかった状態です。

 英独共に製造業の減速が著しい中、英国は国境を越えた生産体制を敷く自動車産業がEU離脱の迷走に直撃されています。近年高まる環境政策強化で、ディーゼル車の需要の落ち込みも影響しています。今後、トランプ米大統領がEUの自動車やワインに追加関税を導入すれば、欧州経済には一段の打撃と受けることが予想されます。

 しかし、ネガティブな要素ばかりとはいえません。何人かのエコノミストはアメリカ、ヨーロッパ、日本経済は、基本的には堅調で、トランプ米大統領が米中貿易戦争で事態打開に乗り出しているように見えることから、世界経済が極端な景気後退に陥ることはないとポジティブに見ています。

 大きな目で見れば、世界の先進国は行き過ぎたグローバル化経済が調整局面に入っており、各国がこれまで以上に国益を重視する方向に動いていることは確かです。これまで世界の工場として利用され、今では巨大市場に成長した中国への見方も大きく変化しており、世界経済は調整局面が続くと見るべきでしょう。

 たとえば、フランスは、この1、2年、世界に拡散した生産拠点がフランスに戻る現象が起きており、この30年間、10%前後で推移した失業率は8%台に下がっています。トランプ大統領も次期大統領選を念頭に、極端にアメリカ経済を減速させる経済政策をとるとは思えません。

 確かなことは経済活動にこれまで以上に政治が影響を与えていることです。そのため国際政治情勢を注視し、危機を煽るようなニュースや政治的意図をもった煽動的フェイクニュースに振り回されないことが重要です。

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 メキシコ国境を超えてアメリカに流入してくる不法移民へのトランプ政権の厳しい対策が注目されていますが、実はフランスでも不法滞在者の問題は長年、社会問題化しています。昨年11月からフランスで始まった政権批判の黄色いベスト運動に触発され、アフリカからフランスに流入した不法滞在者らが正規滞在許可証の発効を求め、黒いベスト運動と称する抗議運動を続けています。

 同運動に集るメンバーは1,000人から1,500人と多くはありませんが、彼らの背後には30万人とも見られる不法滞在者がフランスにはいます。彼らの背景はさまざまで、20年近く不法滞在している人から数カ月前にフランスに到着し、キャンプ生活をする人までいます。出身国もアフリカの広い範囲だけでなく、中東出身者もいます。

 昨年9月、マクロン仏政権は移民法を強化する改正案を議会で可決し、昨年は当局による不法滞在の拘束者数が欧州連合(EU)で最も多かったそうです。改正法では不法滞在者の取り扱いについて、許可証を持たない者の合法性確認のための拘束時間を16時間から24時間に延長され、出身国への問い合わせを含め、審査に時間が掛けられるようになりました。

 指紋の押捺を拒否した場合、改正法では即刻国外退居処分となり、不法滞在者の拘留期間を最長45日から、状況に応じて90日間まで延長できることになったため、釈放か国外退去かの判断に充分な時間が与えられたとされています。

 背景には2017年以降、北アフリカのリビアなどから地中海を渡り、イタリアに流れ着いた難民や移民が、審査を待たずに国境を突破し、フランスに大量流入したことや、彼らにまぎれて犯罪者やテロリストなどの危険人物が入国した事例が確認されている問題があります。

 移民法を強化したのは、これまで充分な検証時間がなかったために誤って危険人物を釈放してしまう例もあったからだと政府は説明しています。実際、不法移民問題はフランスの長年の課題で、オランド前政権でも議論が沸騰しました。

 不法滞在者とはいえ、人道主義的観点から彼らの人権を守ることを強調する左派は、増え続ける不法滞在者の保護を主張してきましたが、中道右派のサルコジ政権時代に移民法は強化され、その後の中道左派のオランド政権でも、それは踏襲されました。

 マクロン政権になって移民法はさらに強化されたわけですが、政権与党・共和国前進の国会議員や大統領に近い有識者の間からは、新たな改正法は難民や移民に対して抑圧的だとの批判も消えていません。一方、野党・右派は移民や難民に対して寛容過ぎるとして、移民法の抜本的見直しを要求しています。

 現在、フランスでは不法滞在者の中の約2,000人が公園や道路脇でテント生活を強いられており、警察による強制撤去が断続的に行われています。人道団体や左派・野党は、警察に対して公権力の暴力や人種差別、人権侵害を批判していますが、どちらかというと一般市民は不法滞在者にうんざりしています。

 黒いベスト運動には、人道団体などの支援もあり、パリ市内の歴史的建造物や広場など注目度の高い場所で、抗議運動を継続しています。壊れかけたボロ船に乗って命懸けで地中海を渡ってきた彼らの扱いは簡単ではありません。問題の一つは難民認定に時間が掛かることで、政府は改善に努めていますがうまくいっていません。

 各国の置かれた状況は違うし、認定基準も様々なので単純比較はできませんが、例えば、最近のヨーロッパでの認定率は、ドイツで25.7%、約14,700人、フランスは17.3%で約25,000人ですが、日本の認定率0.2%、42人とは比較になりません。それに日本以外では人道的在留許可というカテゴリーもあります。

 ただ、フランスでは不法滞在者同士の衝突や彼らが一般市民に対して行う窃盗や暴力行為も社会問題になっています。黒いベスト運動参加者は、不法滞在者の多くが法的な保護のない不当で過酷な労働を強いられていると主張していますが、黄色いベスト運動ほどに盛り上がらなければ、政府の方針が変わるとは今のところ思えません。

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 フランスの政治学者でパリ政治学院教授のザキ・ライディは、以前私に「日本は欧米が信じる自由主義の価値観をどこまで信じているのか欧米人は疑問に思っている」といいました。それは戦後、戦勝国に封じ込められたドイツと日本の違いではないかというのです。

 そんな疑問が香港問題で浮上した自由主義と社会主義中国の対立で脳裏をかすめました。香港問題は日本の姿勢が明らかに問われることになり、親トランプの安倍政権も、どこまでアメリカの価値観に同調するのか試される時がきているようにも見えます。

 重罪犯の中国本土引き渡せしを可能にするる逃亡犯条例の改正に端を発した香港の抗議デモは、収まる気配を見せていません。香港のすぐ隣の深圳近郊では中国人民解放軍の戦車が配備され、事態によってはいつでもデモ隊鎮圧のために香港入りする準備が整っており、第2の天安門事件に発展する懸念が拡がっています。

 1997年の返還後最大規模となった抗議デモは、中国中央政府が約束した一国二制度が怪しい状況に陥っていることを如実に表し、香港の統治制度を支える自由主義と中国共産党が掲げる社会主義の対立に発展する様相を呈しています。アメリカはすでに香港への監視を強めており、経済戦争である米中貿易摩擦は、香港問題で冷戦さながらのイデオロギー対立になりかねない状況です。

 世界第2位の経済大国を自負する中国は、経済発展のために自由主義世界をうまくくぐり抜けてきた過去と違い、堂々と自国の正当性を主張し、アメリカの介入に神経を尖らせています。特に人権や言論の自由を持ち出されることを極端に嫌う中国は「文化の違い」を前面に打ち出し、戦う姿勢を見せています。

 アメリカのトランプ政権のみならず、反トランプの米民主党でさえ、中国が経済発展すれば社会主義体制を放棄する時がくるというシナリオが間違っていただけでなく、世界支配までも狙っているという認識では一致しており、中国共産党が支配する中国を叩くのは今しかないという点では異論のない状態です。

 特に習近平政権は21世紀の社会主義モデルを世界に示すと豪語し、中国の覇権に強い意欲を示しており、政権批判する反政府運動家の取り締まりを強化し、共産党幹部の汚職摘発で恐怖による支配を強めています。経済発展した中国にとって香港の利用価値は薄まる一方、一帯び一路の大経済圏構想に突き進んでいます。

 経済依存が深まる世界では、戦争が起きる可能性は低いと見られていますが、国と国との戦争は起きにくいとしても内戦は起き続けています。その内戦には後ろには対立する勢力を支援する国家があり、世界の安全保障という点では国連も充分に機能していない状況です。

 イデオロギー対立の時代は米ソ冷戦の終結で終わったといいますが、中国は冷戦で負けたはずの社会主義を継続し、民主主義に移行する気配は見せていません。冷戦期からアメリカが明確にしてきた自由、平等、公正、正義の価値観は、ヨーロッパ諸国も支持し、そのベースの上で自由主義経済がグローバル経済を牽引してきました。

 皮肉にも自由市場主義を最大限利用した社会主義国の中国が世界への覇権を拡げています。よく中国は共産主義国ではないといわれますが、長い中国の歴史の中で生き続けた中華思想の夢は、世界支配によって世界が中国にひれ伏すことであり、その野望の実現に国家統治が容易な社会主義が利用されているという見立てが適切と思われます。

 いずれにせよ、日本を含め、自由主義世界といわれる国々は、言論や信教のの自由が保障され、人権が尊重され、主権在民という民主主義を正しい選択としているわけで、中国とはまったく相いれない考えをベースに国は運営されています。

 にも関わらず対立=悪という日本的考えから、対立点には蓋をして友好関係を結ぶ日本と、人権蹂躙など受け入れられない点では正面から非難する欧米とは姿勢が異なります。

 日本が欧米並みに中国の人権問題を批判すれば「敗戦帝国主義の国が何をいうか」という言葉がかってきそうですが、相手の論理にはまり続ける理由はなくなっています。つまり、日本は明確でポジティブな次の外交戦略が必要で、独立国家として独自の選択を示す時が来ているといえます。

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 人間の知識や処理能力が人工知能(AI)に取って代わろうとする時代が到来する中、経営の世界でもクリエイティブな能力が世界的に注目されています。クリエイティブといえば、アートがその代表格ですが、先進国、途上国を問わず、日常にアートが身近な国、そうでない国があるのも事実です。

 文化大国というイメージが世界的に定着しているフランスと30年以上関わり、フランスを中心に欧米のみならず、アジアやアフリカのアートの動向をウォッチしてきた私は、同時にアートが日常生活やビジネスとどう関わっているかにも注目してきました。

 たとえば、フランス人のみならず、多くの外国人芸術家を世界に輩出してきたフランスには、芸術を生み出す土壌があったといえます。それは芸術家の創作意欲をかきたてる豊かな自然と創作活動を保障する自由な環境があり、同時に彼らが作り出す作品を鑑賞し、楽しみ、評価する人々や市場の存在があるということです。

 加えて多様な文化が共存することも重要です。また、芸術は優劣を競う差別的教養主義ではなく、実際に日常に欠かすことができない人間を豊かにする必要不可欠なものとして存在するという考えが一般的です。

 長い文明歴史を持つヨーロッパは、エジプト・ローマの時代から芸術は権力者の力の誇示、市民の信仰の強化など、王侯貴族から一般市民までアートは日常生活に欠かせないものだったことが理解できます。特に宗教と芸術の関係は非常に重視され、イスラム世界にも繊細で完成度の高い装飾美術が残されています。

 日本は鎖国していた江戸時代、庶民の中に浮世絵や歌舞伎が日常生活に溶け込んでいました。床の間に美術工芸品を飾り、愛でる生活は鎌倉時代に遡ります。貴族の高尚な美術品蒐集から大衆の粋の世界までアートは日常に広まっていた時代がありました。

 AI時代に入り、一時はサイエンス崇拝、大量生産大量消費社会の中で軽視されてきたアートが、再び脚光を浴びています。それもビジネス・エリートたちが、予測不能な激変するグローバルなビジネス環境の中で、重要な意思決定を行なう際に、従来の理性や論理を重視するサイエンスの世界だけに頼るのではなく、「感性」や「直感」を導入する考えが浮上しているわけです。

 サイエンス至上主義を超えたポストモダン的考えは、若者を中心に1970年代後半から急浮上しましたが、それはSFの世界やテレビドラマ、映画、アニメに拡がりました。しかし、ビジネス界は合理性、論理性、数値に裏付けられた科学性が圧倒的に支配し、理系が文系を圧倒してきました。

 しかし本来、自然科学で教えられる数学は人文科学で教えられる哲学と密接な関係にあり、工学部で教えられる建築も本来は芸術として欧米では扱われてきた領域です。

 アートは本来、サイエンス脳で処理されるものではなく、同時に膨大な知識から生れるものでもありません。さらに自分のアイデンティティがしっかりしていなければ、クリエイティブにはなれません。美を感じる感性に知的能力は関係ありません。

 ただ、勘違いされがちなのは、アートと自意識の関係です。芸術が職人文化と密接な関係にあった西洋美術は、19世紀後半から独立した個人が自由に自分の世界を表現する「芸術家」という新しい概念に変貌しました。そのためアートというと個性的で自己主張の強いイメージがありますが、それはアートへの誤解です。

 アートが脚光を浴び、ビジネスにも役立つと考えられるようになったのは、長年、私が考え続けたことと繋がります。ただ、アートには環境が必要であり、環境整備のヴィジョンが必要です。フランスのトロートマン元文化相は「文化財とそのサービスは、人々のアイデンティティと社会的絆を守るための特別な機能を持つ」と述べ、文化政策の価値を強調しました。

 フランスの文化政策に費やされる予算は、総国家予算の0.9%に相当し(日本は0.13%)、文化の力への視点の違いは明白です。同時に男中心、日本人中心という多様性のない日本のビジネス環境もアートの視点からは問題です。

 それとアートに象徴される感性や直感には単なる美意識だけでなく、倫理的側面もあります。アートが宗教と近い所以ですが、良心の啓発にも繋がるもので、リーダーの不祥事を回避する効果もあるという話です。

 豊かさの追求とアートの世界は表裏一体といってもいいすぎではありません。それも単なる一過性の刺激を求めるものではなく、永続的な喜びと共感をもたらすものが求められています。

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 今や韓国政府の日本への報復行動は笑い話になる状況に陥っています。日本が韓国を輸出規制のホワイト国から除外した報復として、現在、29か国を対象に韓国が優遇措置をとっている国から日本を除外するだけでは腹の虫が収まらず、2段階しかない規制枠の下にさらに検査を厳しくする枠を設け、そこに日本を入れると発表しました。

 その理由も日本が韓国から輸出した製品の管理に度重なる不正が疑われると、日本が韓国に対していった内容を、そのままオウム返しするもので、日本から見れば呆れる内容です。きっと世界は韓国を笑い物にするだろうと思う日本人は少なくないと思いますが、日韓関係の事情など知りもしない世界の国々は、単なる国家間の経済紛争と見ているだけです。

 文在寅政権の終わりの始まりと見るべき状況ですが、彼らのなりふり構わない世界への発信力に比べれば、通り一遍の原則論を繰り返す日本政府の対応で出口を見出せるのか、甚だ疑問です。サッカーの日韓ワールドカップで韓国代表チームに有利になるよう審判を金で懐柔したのは有名な話ですが、有利な結果を得るために手段を選ばない国です。

 ここで出口を見出す上で考慮すべきは、日本が対峙する韓国は今、反日、反米、親北で凝り固まったバリバリ左派の文在寅政権下にあるという認識を明確に持つ一方で、一般国民の考えを正確に知っておく必要もあることです。

 最近、話した韓国の長老級の某有識者は「文在寅に支配される韓国は悪魔に見入られた状態で哀れで恥ずかしい。韓国は民主国家からはほど遠い」と嘆いていました。

 日本政府が出口を熟慮した上で、輸出規制強化に乗り出したかどうかは読めませんが、北朝鮮問題に対峙するという意味で、日米韓が緊密で良好な関係を維持することは必要不可欠という認識に立てば、今の現状を見る限り、けっして日本の決断が評価できるものだったともいえません。

 すでに文在寅大統領は、北と経済的に一つになって日本に打ち勝つなどと口走っており、アメリカの理解が得られなければ、苦し紛れに中国に走っていく可能性も否定できません。あまりに長い間、中国の属国として生き延びてきた韓国にとって、中国に再び接近する選択肢はないとはいえないからです。

 盧武鉉前大統領と1970年代から政治活動家の同士で、右腕だった文在寅氏は、盧武鉉氏が反米、親北路線を前面出して失敗したこと政権内にいて目撃していた人物です。本来は反米にも関わらず、反米路線は避けていますが、彼の支持基盤である反米左派には不愉快な状況です。そのため、もう一つのカードとして左派が喜ぶ反日のカードを切り、国内受けを狙ってきたといえます。

 しかし、文在寅氏が立っている政治基盤は、けっして韓国の良識を代表するものではありません。感情に流されやすい韓国民は、盧武鉉大統領の時も政治に無知な若者に盧武鉉氏の取り巻きがネットを通して流した保守批判と反米デマゴーグが選挙で功を奏しました。

 理性よりも感情に突き動かされる傾向を持つ韓国民は、自国を客観視する目は持っていません。嘘や作り話が横行しやすく、シャーマニズムが根強く残る国なために権力者が戦略的に作るストーリーを信じる傾向が強い一方、親族や近い人々に利権誘導する腐敗も頻繁に起きる国です。

 ここまで悪化した日韓関係は、韓国内の世論を大きく揺り動ごかしていますが、致命的ダメージを受ける可能性のある韓国は、日本なしの国家発展どころか存続もありえない現実を知る必要があるでしょう。過去の恨みを強調すればするほど自分の首を絞めることにも気がつくべきでしょう。

 韓国民の多くは、特に教育を受けた若年層を中心にそれを知っていると思われ、嘘で塗りかめられた反日教育は機能不全に陥っていく可能性があります。この機会に未来志向でしか出口がないことを知る時が来年以降にはくるというふうにポジティブに考えたいところです。

 日本はまず、日米韓の良好な関係構築が東アジアの安全保障上、非常に重要であるという立場を堅持し、繰り返し、その方針を示し続けることでしょう。同時に敗戦国としての弱みを利用されないよう韓国を含むアジアに貢献し続けた実績を具体的に国際社会に示し、今後もその方針が変わらないことを示しつつ、忍耐強く相手の世論を変化させる情報を発信し続けるべきでしょう。

 それに怒るときは怒っていることを明確に相手に伝え、原則論で突き放すのではなく、常に意思表示を自分の感情と共に伝えるべきでしょう。

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Ai_Weiwei_2008
 
 先週ドイツのウェルト紙(電子版)に掲載された中国の著名芸術家で人権活動家でもある艾未未(アイ・ウェイウェイ)氏のインタビューは、衝撃的でした。2015年から中国政府の弾圧を逃れ、ドイツに滞在する同氏が「ドイツは開かれた国ではなかったので他の国に移動する」という意向を示したからです。

 同氏によれば、東洋人として日常生活で差別を受けてきたと主張し、具体的にはタクシーの乗車拒否に度々遭い、タクシー会社に人種差別だと抗議したら、単なる文化の違いで人種差別はしていないと説明された例などを挙げています。私は彼の風貌も乗車拒否の原因ではと見ていますが。

 艾氏は「これでは中国政府がたびたび欧米諸国から批判される人権侵害について、文化の違いと反論しているのと同じだ」と不快感を表しています。同氏は、ドイツが「開かれた議論の余地や、異なる声への尊重の精神がない」国だとして「自己中心的なこの国は、私を必要としていない」という結論に達したといいます。

 自由を何よりも必要とする芸術家にとって、ドイツは期待したほど自由で開かれた国ではなかったという話です。しかし、最も言論や表現の自由が制限されている共産党一党独裁の国から逃げてきた人間の弁だったことに、ドイツ人の中には不快感を表す声も聞かれます。

 この話を聞いて、すぐに脳裏をかすめたのは、友人である東洋美術研究者で国立ベルリン東洋美術館のヴィリバルト・ファイト元館長が私にいっていた話です。彼は中国人の妻のために真剣にドイツを離れることを考えていたのですが、理由は妻が感じる人種差別が限界に達しているからだといっていました。

 実は、2015年に起きたシリアやイラクで発生した難民・移民のヨーロッパ大量流入で、ドイツは欧州連合(EU)加盟国で最も多い約100万人を受け入れました。しかし、蓋を開けてみれば、アラブ系イスラム教徒への差別などで、ドイツに馴染めず、シリアに引き返す現象が起きました。

 これは、難民を積極的に受け入れたスウェーデンなどでも起きている現象で、ドイツ、スウェーデン、デンマークでは、移民によるレイプ事件が多発し、社会問題化しています。女性がブルカなどで顔も体も覆うイスラムの国から、積極的に肌を見せる女性の多いヨーロッパに来て「女たちは男を誘っているとしか見えない」というシリア人は少なくありませんでした。

 実はドイツを初め、中央、東ヨーロッパの人々のメンタリティは、決して異文化に開かれているとはいえません。それは彼らの歴史からくるもので、国境を挟んだ侵略によって、支配するかされるかの歴史を繰り返してきた彼らの外来者への不信感は相当なものです。シリア難民を国境で阻止したハンガリーのリアクションも理解できます。

 ドイツも完全な村社会で、地域性が非常に強く、会社内でも知らない人には挨拶しないことなどで知られています。私も教鞭を執っていたフランスの大学の教務室で、毎週会うドイツ人教授が挨拶しないことに、当初は悩まされました。知らないものには本能的に壁を築き防御するのがドイツ人です。

 私自身はドイツでタクシーの乗車拒否に遭ったことはありませんが、予約していたホテルで予約はないといわれたことはあります。私のフランス人の妻は4年間、ドイツにいたことがあり、ドイツ語も堪能ですが、ドイツ人の閉鎖性に恐怖さえ感じたといっています。

 一方、ヨーロッパには文明的優位性がたたき込まれているので、アジア人は文明的に低いという固定観念があるのも事実です。30年に渡る私のヨーロッパ滞在経験から、その偏見は大きく変わりましたが、ドイツ人の優越心や独善性はEU一の経済大国という自負もあり、非常に強いものがあります。

 つまり、優等生特有の上から目線が外国人にはきつく感じられるということです。本人たちに悪意はなく、言わば本能的に保身に走るのも、たくさんの国境と接し、闘争を繰り返してきた彼らの歴史から来るもので悪意からではないのですが、決して多文化に開かれたとはいえません。

 たとえば隣の家の芝が伸びすぎていたり、窓辺の花が枯れていると露骨に注意しにいくのがドイツ人です。隣人に一切干渉しないフランスとはま逆です。日本人以上に決まり大好きのドイツ人は、その決まりを全ての人に守らせようと圧力を掛けてきます。実はその裏には理解できないものに遭遇した時に異常なまでのストレスと恐怖を感じるドイツ人の国民性もあります。

 そういえば、ノーベル平和賞受賞者の故劉暁波氏の妻がドイツに出国して住み始めています。彼女も数年経つとカルチャーショックに耐えられなくなる日がくるのでしょうか。長い歴史を持つヨーロッパに非ヨーロッパ人が住むのは容易ではなく、アメリカなどの歴史のない国よりは、開かれていないと感じるのは当然ともいえることです。

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