安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが体験を踏まえ現在の世界を読み解きグローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 元首相の安倍氏は、歴代首相で最も外遊した国の指導者と言われています。外務省のホームページを見ると2006年10月から2023年9月までの歴代総理の外国訪問回数では81回と断トツです。ところが流ちょうに英語を話すわけでもなく、異文化理解の深さも疑問が残ります。

 一国を率いる政治家ですから、国際会議などでプレゼンスを高めるために努力していたことは認めます。後ろに外務省がいてアドバイスもしてきたのでしょう。すでに本人が他界しているので理由は分かりませんが、主要7か国首脳会議(G7)という首相にとって最重要な会議の服装には違和感がありました。

 持ち前の明るさや好感度の高さで問題視はされませんでしたが、トレードマークのように明るめのブルーのスーツを毎回着ていました。国際会議の常識的ドレスコードは、ダークスーツと相場が決まっています。理由は服装で虚勢を張って相手を威嚇しないためです。ビジネスの世界も同じです。

 このルールは、様々な説がありますが、アングロサクソンが決めたという節も有力です。時には開催国の民族衣装を着て、リラックスした雰囲気を演出することもありますが、正式な会議の場はダークスーツが基本です。G7で最も古株な安倍氏がそれに従わない理由は様々考えられます。

 かつて首相だった中曽根氏はG7の記念撮影で当時のレーガン米大統領の横に割り込んで立ったのが映像に残っています。周囲の空気を読みながら、全体の流れに従うことが最も得意な日本人は、野心をむき出しにするのはみっともないと考えるので、いつも端っこに立っていました。

 フランスのシラク氏は大統領時代のG7で、ダークスーツは守りながらも、三つボタンスーツを着ていたことがあります。これも結構目立っていましたが、フランスの大統領が国際会議で末席に立つことはほとんどありません。

 トランプ氏は大統領として北大西洋条約機構(NATO)の本部を首脳会議でい訪れた時、参加していた首脳を押しのけて先頭を歩いたのは印象的でした。最も巨額の負担をしている米国の首脳が新米扱いを受けたからなのか、他の首脳が距離を起きたかったからなのか、リスペクトする雰囲気出なかったのは確かです。アメリカを最も偉大な国と主張する当人は不快に感じる態度でした。

 東洋人はその風貌からも存在感が薄いのが現状です。安倍氏のように人並外れた交換を持たれるタイプなら、別に明るいブルーのスーツを着なくても存在感はあったと思いますが、日本の政治家は通常、地味で目立つことさえ、出る杭は打たれろで、控かえ目に姿勢が評価される傾向があります。

 無論、場慣れというのも大きいでしょう。場慣れしていない大国の政治家といえば、最近、中国訪問したチャック・シューマー上院院内総務は最近、習近平国家主席はじめ、共産党幹部と会った際の映像で、アメリカ人らしくなくペコペコ頭を下げていました。

 アジアに行けば皆頭をペコペコ下げるとの思い込みがあったのかもしれませんが、たぶん、日本の影響でしょう。中国人は頭をペコペコ下げる人間をみると卑屈に感じ、相手に服従する姿勢と受け止めるので、中国人はビジネス交渉でも容易に頭は下げません。

 中国人の交渉スタイルの基本は「上」からです。堂々としていることはいいことだとの考えです。シューマー氏は民主党の議員で超内向きで、国外で場数を踏んでいません。アメリカが世界の中心で国外への関心は皆無に近いため、頭をペコペコするステレオタイプのアジア人対応を取ってしまったのでしょう。

 グローバルビジネスや政治外交の目的は成果を出すことですが、基本は信頼関係の構築です。短い数分の会見で相手に不必要なストレスを与えず、一気に人間関係を気づくことが重要です。第一印象9割とも言われる相手への理解は、異文化でも同じです。

 これは技術だけに頼るものではないのも事実ですが、アジアの中でも集団の中で個が埋もれることを良しとするハイコンテクストの日本の精神文化で育った日本人には、プレゼンスを高めるための努力が必要です。



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 コロナ禍明けのウクライナ紛争に続く、イスラエル戦争、日本は今、世界最大の軍事大国がウクライナとイスラエルの防衛に同時に関与する中、台湾有事が手薄になる不安を抱えています。

 アメリカのプレゼンスが弱ったとはいえ、欧州連合(EU)のボレル外交上級代表は「アメリカのウクライナ支援が途絶えれば、欧州はアメリカの代わりはできない」と述べました。

 つまり、アメリカのウクライナ支援規模は、英国を含む欧州28か国を合わせた支援よりも大きいということです。そこに今度はイスラエル危機に対して、アメリカは全面的支援を表明し、ウクライナより明確な意志を示しています。アメリカは躊躇なく、イスラエル政府が打ち出すハマス壊滅作戦に本腰で参加するでしょう。

 そこで思い出すのは、第2次湾岸戦争の時に当時、米国防長官だったラムズフェルド氏が記者団から、「湾岸戦争を戦いながら、アフガニスタンのタリバン掃討作戦の2面戦争を同時にアメリカは戦えるのか」という質問に「イエス」と答えた記憶が蘇ります。

 今回はもし、ウクライナ、イスラエルに加え、台湾有事が起きた場合、3つの大規模戦争にアメリカは対応できるのかという疑問が浮上しています。ただでさえ、ロシアによるウクライナ侵攻で、液化天然ガス(LNG)などのエネルギー価格は高騰しました。

 エネルギー価格が不安定化すると、多くのエネルギーを生産で必要とする産業は深刻な影響を受けます。 火力発電の燃料となるLNGを海外に依存する日本も影響を受けました。特に日本経済を下支えする中小企業を直撃しています。

 さらに輸入大国日本にとっては、国際的な長距離輸送の高騰にも繋がっています。イスラエル危機がエスカレートし、アメリカとイランの対立が激化すれば、ホルムズ海峡が閉鎖され、日本は原油供給に深刻なダメージを与えます。

 さらにイスラエルには、最先端のハイテク産業が集積しており、日本企業もすでに影響を受けています。イスラエルの戦争化は、敵対するイスラム圏の国々の反発を買っており、彼らによるテロが世界に広がる可能性があります。西側諸国が早期解決に動いている背景の一つはテロを封じ込めたいからです。

 加えて台湾有事が発生すれば、中国、台湾にビジネスで大きく依存する日系企業は経済活動そのものが維持停止に追い込まれる可能性があります。国外の紛争には一切かかわらないという不戦の誓いを憲法に掲げる日本ですが、直面する現実は十分に国際紛争の影響を受けており、戦争はビジネスとは無縁という論理は通用しなくなっています。

 それでも武力紛争には一切かかわらないというならば、外交力が問われるわけですが、武力行使なしに紛争解決の仲介で日本がノルウェーなどのように大きな役割を果たしたことはありません。民族や宗教対立のような根深い問題を抱える紛争解決で日本は国際的評価を得ているといえません。

 今、多くの国々がウクライナ紛争、イスラエル戦争でどちらかに支援を表明しているのは国益あってのことです。グローバルサウスの国々がウクライナ紛争でロシア制裁に明確な態度を取らないのも国益を考慮しているからに他なりません。

 日本の紛争仲裁能力の低さの原因は、日本自体が態度を明確にしない八方美人的態度にあると考えられます。いずれにしても明確なスタンスを持たなければ、信頼獲得は無理です。何を支持し、何を支持しないかという価値観を持たなければ、紛争の時代を良く抜くことはできないでしょう。



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 パレスチナの武装イスラム組織ハマスがイスラエルに対して数先発のロケット攻撃を行うと同時にイスラエル内にも地上侵攻し、数百人のイスラエル人を拉致したと報じられています。イスラエル側も大規模な空爆を繰り返し、現地メディアの報道では双方の死者は1,000人を超えると報じられています。

 武装勢力との衝突によるイスラエル側の人的被害は、2006年にレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラと交戦した時を上回る近年で最悪の結果です。今後も日々刻刻と事態は変わっていくことでしょうし、グローバル企業は注意深く見守っています。

 無視できないのは、ハマスがいら立つのはパレスチナ自治区に次々にイスラエルの入植者が軍に守られながら住宅を建設していることにあります。米英仏などが入植行為の停止を訴えてもイスラエルは言うことは聞きません。ハマスは近年、エジプト経由で武器を調達、イランの支援を受けて、より高度な軍事作戦が可能になったと指摘されています。

 欧州最大規模の600万人とも言われるアラブ系移民社会と約60万人といわれるユダヤ社会を抱えるフランスでは、パレスチナとイスラエルの緊張が高まるたびにフランス国でも双方の間で衝突やテロが起きています。

 フランス内務省はイスラエルへの渡航を控えるよう勧告を発しただけでなく、フランス国内でもユダヤ礼拝堂シナゴーグやユダヤ人学校、ユダヤ文化センターなどユダヤ権益の警備強化を行っています。これは今回のハマスの攻撃以前から、テロがユダヤ歴に伴う行事に合わせて起きていることから9月中旬以降、強化されていました。

 第一次湾岸戦争以降、イスラエルを数度訪問し、取材してきた筆者にとって、あるいはフランスの治安分析官を30年近く続け、私の周辺にユダヤ人がいることもあって、日本人の中ではこの問題に身近に向き合ってきたといえるかもしれません。

 ある時、パリからアムステルダムに向かい電車の車中で向かいの座席に座ったアメリカ人旅行者とイスラエル問題を話したことがあります。50歳前後のアメリカ人としては珍しい国際情勢に詳しそうな彼は、私がジャーナリストだと知ってパレスチナ問題をどう見ているか聞かれました。

 私は、そもそも紀元前から流浪してきたユダヤ人がイスラエル建国で、三大陸の結節点に位置し、エジプトを始め激しく領有権が争われたイスラエルの地を自国として再建したが、そこに2000年以上住むパレスチナ人を追い出すことの正当性は、中東では今でも認められておらず、大いなる疑問があると答えました。

 そのアメリカ人旅行者は「ヨーロッパで日本人からそんなコメントを聞くとは思わなかった」と驚かれたことが記憶に残っています。その数年後、米9‣11同時多発テロが起き、その時はテロの首謀者がテロ実行の合言葉として「グラナダの悲劇を繰り返すな」と発したことが報じられました。

 800年近く、イベリア半島を支配したイスラム勢力は、キリスト教勢力に敗北し、それを象徴するのがグラナダの大虐殺です。イスラム教徒が西洋ユダヤ・キリスト教世界に抱く恨みの原点です。戦後は、その主戦場はパレスチナに移り、ユダヤ教とイスラム教の対峙を背景に象徴的な場となっています。

 私は車中で出会ったアメリカ人に世界の言論界を支配するのは、ユダヤ人ジャーナリストではないか、事実、ユダヤ人がパレスチナ人に1人殺されてもニュースは世界に配信されていると指摘しました。困惑気味のアメリカ人は「日本人からそんなことを言われるとは思っていなかった」と言っていました。

 四国と大して変わりないイスラエルの中で起きる衝突は国を再建したユダヤ人にとっては聖地であるだけに重要です。今はウクライナ紛争を見て冷戦以降に構築された世界のフレームワークが崩壊の危機にあり、ハマスも領土問題への世界の無関心による風化を恐れ、大規模な攻勢に踏み切ったと見るべきかもしれません。

 はっきりしていることは、ユダヤ人によるヨルダン川西岸の植民地化はもはや引き返せない段階に達し、30年前のオスロ合意は骨抜きになったことで、パレスチナは牢獄と化し、その領土は日々縮小され、希望が失われていることです。結果、許すことのできないハマスの暴力行為が加速しています。

 ところが西洋ジャーナリズムはパレスチナに同情することなく無関心を装い、外交的解決の道は閉ざされています。西洋メディアはハマスの卑劣行為は熱心に非難する一方、壁に閉じ込められたパレスチナ人を理解する報道はありません。オバマ元大統領が世界の警察官を辞めることを宣言して以来、中東和平から手を引いた結果、パレスチナは完全に置き去りにされました。

 日本には関係のない話と受け止められるかもしれませんが、コロナ禍のグローバル化の再始動でグローバルビジネスを行う企業にとっては無縁の話ではありません。中東の石油に依存する日本は、アメリカとイランの関係悪化がエスカレートすれば、ホルムズ海峡の封鎖により、日本も深刻なエネルギー危機に見舞われる可能性は消えていません。

 状況悪化が長期化すれば、他の領土問題を抱える地域に飛び火し、ウクライナ危機以上の悪影響を与えるかもしれません。欧米列強の抑えが利かない今、国連も機能不全に陥っており、世界経済への影響は深刻になる可能性は高まっています。



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 欧米やアジア諸国で契約を結ぶ際、現地の弁護士に契約書作成のアドバイスを受けると、日本人は内心「ここまで相手を疑う文面が並ぶと信頼関係は構築できないのではないか」と心配になるケースが少なくありません。そこで浮上するのが性善説と性悪説の問題です。

 典型的な例でいうと、新型コロナウイルスで感染拡大予防のため、多くの国でマスク着用が義務化された時、義務化に伴って多くの国で罰則が設けられました。アジアでは警官が違反者を棒でたたく姿も報道され、フランスのように罰金を科す例も少なくありませんでした。

 国民に何かを守らせようとする法律を施行する際、違反者への罰則は必須というのは法治国家では一般的な考えです。背景には「人は決められたルールを容易には守らない」という性悪説があるからです。フランスでも公共交通機関でのマスク着用が当時、義務化され、違反者を警官が取り締まっていました。

 ところが日本では、マスク着用の義務化に伴う罰則はなかったにも関わらず、一般人の間で違反者を非難する声もあるくらいで自主規制が機能し、政府も罰則を設けることはありませんでした。当時政府は「日本人の公衆道徳意識は高い」との認識を示し、まさに性善説そのものでした。

 無論、性善説はしばしば危機にさらされてきました。例えばビルの耐震偽装、大企業の会計偽装や検査義務違反、食肉偽装、車検業務偽装、最近では巨大芸能プロダクションの社長が長年、所属タレントに性的暴力を振るっていたことが長期隠ぺいされていた問題など、性善説による甘さが露呈する事例は増える一方です。

 つまり、日本も性善説だけでは社会を維持できない段階に入りつつあると見るべきでしょう。さらに途上国からの30万人ともいわれる技能実習生受け入れで、1万人近くが行方不明になっている問題も、根底には受け入れ企業が不当な労働環境を与えていることが指摘されています。

 役人は制度を決め、実施すれば、それが機能しているかどうか監視しないというお役所仕事がまかり通っています。よほどの問題が起きない限り、当事者に対しては性善説で向き合うのが慣例となっており、制度の裏をかく人間の存在は考慮に入っていないのが実情です。

 これまでグローバルビジネスの常識は、国内では性善説、国外では性悪説の使い分けをすることでした。ところが実際にはその使い分けさえできず、海外で厳しい状況に追い込まれる日系企業が少なくないのが現状です。それでもグローバルリスクマネジメントの意識は高くはありません。

 理由の源流を辿れば、宗教上の原因が見えてきます。一神教の原点は人間は創造された初めに堕落し、原罪を持っているので、善人か悪人かに関わらず、環境によって誰でも罪を犯す可能性があるとの認識があるのが性悪説です。

 日本には現在意識は皆無で、仏教に人間の業は説かれていても基本人間は善良な存在という考えがあり、むしろ罪を犯してもそこに至った事情の背景を考慮し、情状酌量の余地を残すのが基本です。絶対悪は存在せず、人は信じることで良心的行動を取ると信じられています。

 基本、日本社会はモラルコードで動いている一方、海外ではリーガルコードが基本です。例えば自動車の運転でも交通法規を守ることが交通事故回避の基本のはずですが、日本では免許の更新時の広州でも交通法規の理解の徹底より、「緊張感」とか「慎重さ」など精神論が強調されます。

 日本人は目に見える文面化された法律より、目に見えないルールが山のようにあり、それを守ることが前提の社会でした。しかし、それは日本人にしかわからないルールであり、その常識は今では若い世代は持ち合わせない場合も多く、そうなるとあてになるのは文面化された法律しかない状況に移行しつつあります。

 学校の道徳の時間は機能しておらず、特に人権意識の低さは特筆すべきものがあります。窃盗などで逮捕された若者が「楽しそうだったからやった」などと答える姿は深刻というしかありません。残念ながら日本の政治家が考えるほど日本人の公衆道徳は機能しておらず、性悪説的発想を必要としているといえそうです。

 グローバル化が進む中、ビジネスの世界は特に性善説的発想だけでは無理があるのは明白です。人を信じてあげることは重要ですが、一方でリスクマネジメントへの意識を高める時代に入っているといえそうです。



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 英BBCのパラブ・ゴーシュ科学担当編集委員は、今や「この宇宙のどこかに生命体がいるのだろうか」ではなく「我々はいつ、生命体を見つけられるのか」に関心が移っていると指摘しました。ほかの惑星に実際に確認に行く以前に、高度な最新鋭の宇宙望遠鏡が生命体の発見に貢献する時代も到来しています。

 宇宙外生命体の存在は、人類史にとって科学的には大発見ですが、それが仮に人間と同等以上の生命体となれば、宗教的世界観を根底から書き換えなければならない大事件です。なぜなら、例えば、世界で最も信者の数の多い、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の1神教は神による被造世界の創造を根拠にしているからです。

 一神教が共有する神は聖書の創成期に書かれている天地を創造した神であり、今でも篤実なキリスト教徒はダーウィンの進化論を信じておらず、アメリカでは州により学校で進化論を教えることは禁じられています。宗教と世界観が結びつかない日本では関係のない話のようですが、1神教の世界では大問題です。

 神が自然のすべてを創造し、最後に人間を創り、動植物を含む自然全てを人間のために与えたという創成期の物語によって、1神教の世界観は構築されました。無論、15世紀にコペルニクスが太陽系の発見につながる太陽を中心に地球を含む惑星が回転していることが指摘され、科学の進歩で多くの神話が否定されていきました。

 一方、特にキリスト教の否定に余念のなかった共産主義勢力は、ダーウィンの進化論を前面に出し、人間はサルが進化したもので、土から生まれ土に帰るだけの物質という唯物思想で神の創造を否定し、その後の新旧の聖書につづられた歴史を否定するために唯物史観まで主張しました。

 これが東西冷戦のイデオロギー対決の背景にあった世界観の対立で、当然ながら日本人にはピンとくる話ではありませんでした。だから地球生命体、特に人間より高度の生命体が発見されることに危機感はないかもしれませんが、たとえ単細胞の生命体が発見されても、聖書の記述にない存在として1神教にとっては脅威となるでしょう。

 異星人は今はまだ、SFの想像の産物ですが、科学的実証が進めば、聖書の世界観を大きく揺るがすことになるのは間違いありません。結果的に約35億人にいるといわれる1神教の信者に動揺が走るかもしれません。 

 そもそも科学の登場は当初、宗教から敵視されていました。近代科学の祖といわれたガリレオやニュートンも宗教的、政治的、社会的弾圧を受け続け、苦労の絶えない人生でした。まことしやかに語られる神話は権力者によって利用され、神話の否定は反権力と見なされました。

 しかし、地球外生命体の存在の発見は、過去のいかなる発見より衝撃的かもしれません。人間は地球以外に居場所を見つけられるかもしれません。それに西洋を敵視する中国共産党にとっては、地球外生命体の発見で、西洋文明を地に落とすまたとないチャンスと考えていることでしょう。



 

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 世界は今、驚くほど急激に変化しようとしています。中身は東西冷戦後に構築された世界のフレームワーク、ソ連帝国に勝ったアメリカの自由貿易がけん引したグローバリゼーションが根底から変わろうとしていることです。

 特に、自由と民主主義を掲げ、自由貿易で巨万の富を築いたアメリカに従うと思われたグローバルサウスの国々は、欧米一辺倒ではなくなり、ウクライナ紛争でのロシア制裁でも足並みは揃っていません。きっかけは皮肉にもトランプ政権のアメリカで「アメリカ第1主義」が起き、小国も同じ志向になったことです。

 リーマンショックやギリシャの財政危機、コロナ禍によって、その欠陥が露呈すると同時にインドや中国、ブラジルなどの新興国だけでなく、途上国も大国に振り回されない国に生まれ変わるべく動き出しました。それも国益最重視の体制構築には大国の指図を受けにくい独裁体制が選ばれる傾向が出ています。

 アフリカではマリ、ブルキナファソ、ニジェール、ガボンなどでロシアの民間軍事組織ワグネルの支援のもと、クーデターが起き、旧宗主国フランスは独立以来の影響力を失う流れにあります。インド太平洋地域では、ソロモン諸島、パプアニューギニア、モルジブなどが中国の一帯一路に組み込まれようとしています。

 さらに、EUの弱小国スロバキアもロシアよりの政権が誕生し、ウクライナへの軍事支援をしないことを宣言したことで、EU及びNATOは全会一致決議が必要な時に難航が予想されます。

 グローバルサウスの大国インドとブラジルもロシア制裁には加わっておらず、ブラジルのルラ左派政権は中国、ロシアよりで、インドはバランスを取りながら生き残っていく道を模索中です。そうみると欧米中心だった世界は終えんを迎え、自由と民主主義も大きく揺らいでいる状態です。

 当然ながら、海外進出している企業も、この変化を正確にとらえておく必要があります。特に日本を含む西側諸国が信じる経済と政治は別物という考えは、権威主義国家、独裁国家には通じません。彼らは経済を政治利用するのは当然と考えており、今は特に中露で露骨にその態度が出ています。

 グローバルサウスの国々から世界を見た場合、例えば圧倒的な軍事力と経済力、世界に対する影響力を持つ国があっても、国益にかなう協力をしてくれない場合は従う義務はないと考えるでしょう。それに援助する時に上から目線で口も出す大国は好まれないでしょう。

 そうなるとアメリカに従うメリットは大きいとは言えなくなります。そこに欧米大国の18世紀、19世紀以来の帝国主義で資源と人を奪われ、弾圧されたグローバルサウスの国々に寄り添って支援ができるのは中国とロシアということで、当然ながらこの機を中露が逃すはずもありません。

 20世紀まで自分が蒔いた種を完全に生産できずにいる欧米列強は、歴史が積み残した負の遺産に向き合されているといえます。日本も中韓の恨み節を70年以上聞かされ、彼らは反日を国内政治に最大限利用してきました。戦後の欧米支配を不快に思うグローバルサウスも同様といえます。

 決定的なのは、戦後のアメリカが世界秩序が自由貿易に不可欠なので、その秩序維持のためなら、地球の裏側までいって多額の投資を行うことをいとわなかったのが、オバマ政権以降、その関与をやめたことです。トランプ氏が主張する前から世界の警察官を続ける意思はなかったわけです。

 そんな中、グローバルサウスの国々が21世紀にめざす強国は、政経・安保一体型の自立国家ということになれば、それはアメリカではなく、中露ということになります。同じ植民地主義時代に惨めな経験をし、欧米に小ばかにされてきた彼らにとって強国の中露は魅力的です。

 今、紛争国、貧困国から逃れてくる不法移民を欧米先進国は締め出すのに躍起です。これがグローバルサウスにとってはいい印象はありません。

 実はビジネスや外交の世界で1990年代から常識化したWin-Winの関係構築は、今の世界情勢に対応していません。アメリカが国益を守りたければ嫌われても世界の警察官をやめるべきではないでしょう。Win-Win(中国で互恵関係)は聞こえはいいですが、ビジネスの世界で競争は必須で勝者、敗者は出るものです。

 冷戦後、経済最優先も世界が出来上がったことで、世界はカオス化しています。自由主義が社会主義や権威主義の前で明らかに弱体化する今、人間が自由を失って幸福になれるとは到底信じられません。自由がないところに新しい発見、発想はなく、発展もありません。その自由は黙っていて保証されるものではないのも事実です。


 

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 日本でコンサルの第一線で活躍してきたマッキンゼー日本支社を率いた平野正雄氏は「過去30年間に企業経営は大いなる進化を遂げ、それを駆使した欧米企業は飛躍的な成長を享受した」。一方「欧米社会は疲弊を示しており、そのことを突いた扇動的政治が台頭し、社会の不安定化が進んだ」と書きました。

 扇動的政治とはトランプ政権のことを指しているのは明白です。残念に思うのは欧米社会が疲弊したから扇動的政治が台頭したとの文脈では、そもそも欧米社会の疲弊の原因がどこにあるのか言及がないことです。卵が先か、鶏が先かの議論にも見えますが、私は疲弊の原因は行きすぎたリベラル化にあると見ています。

 日本人には理解しにくい話ですが、保守が伝統的価値観を守ることを重視し、リベラル(日本では革新)が伝統よりも改革を優先するとすれば、行き過ぎたリベラリズムはアメリカの建国から流れる伝統的キリスト教の価値観、家族主義、宗教的自由を破壊しようとしていると見るべきでしょう。

 オバマ元大統領が最もこだわった国民皆保険(オバマケア)は、保守派からすれば、アメリカが建国以来、最大限重視してきた個人の選択の自由と保険への強制加入は相いれないものでした。保守派は社会保障は最低限にして、富裕層のドネーションなどで弱者を支援すべきというのも個人の選択を重視するからです。

 リベラル派は妊娠中絶の肯定、女性の自由の権利強化、性的マイノリティ―(LGBT)の権利拡大、同性結婚の合法化を主張していますが、建国以来維持してきたキリスト教的価値観からすると中絶もLGBTも同性婚も禁止され、女性の過度な自由は家族主義を弱体化させると考えられています。

 キリスト教の教義はアメリカの歴史に深々と刻まれている中、キリスト教の中心的テーマは「愛の秩序」です。妊娠中節を求めないのは胎児の生命の尊厳といいますが、前提として、やみくもに男女が性的関係を結ぶことを禁じてきた背景があります。同性愛やLGBTも人間社会の秩序を壊すことが批判されているからです。 

 そういったもともと宗教的規範に基づくルールを完全に取り除きたいリベラル勢力が目指すアメリカは、熱心なキリスト教福音派からすれば、アメリカ社会を「何でもあり」の旧約聖書に出てくるソドム・ゴモラ化しようと映り、結果的にアメリカを衰退させる危機感を強く抱いています。

 一方、宗教の自由という点でいえば、ホワイトハウスの敷地内に初めて聖地を作り、聖書の勉強会や祈りの場を提供したのもトランプ氏でした。

 日本ではトランプ氏について扇動政治家の側面だけが報じられていますが、クリントン氏のように自分が選ばれれば、大統領就任式の式典で聖書に手を置いて宣誓しないと宣言していたのは、政治から宗教を排除するリベラル派の象徴的主張です。

 一方、アメリカ人は大統領などの政治家に対して、聖人君主的なものは求めていないので、トランプ氏のような世俗的人間でも、福音派は支持しています。とにかくリベラル派に負けない強さが大統領には絶対必要ということでした。

 とにかく、欧米社会が疲弊しているのは確かなことですが、その結果として扇動的なポピュリズム政治家が登場したわけではなく、グローバル化が間違った方向に向かい国民に多大な不利益をもたらした一方、そのグローバル化のおかげで1部のIT企業、金融などが大儲けしたことへの反動という意味の方が大きいといえるでしょう。

 事実、高給取りのGAFAの従業員は基本的にアンチトランプの民主党支持者が圧倒的に多く、本来の保守的な金融界も、ブルームバーグや左派のバイアスが掛かったCNBCのような経済情報サービス会社は、完全なアンチトランプです。日経との提携も不可解です。

 社会の分断をトランプのせいにするメディアは多いのですが、分断の最大の原因は左派が今でも使用するキャンセリングカルチャーです。保守的主張や議論そのものを完全封殺するキャンセリングカルチャーは、民主主義社会の分断と疲弊を加速させています。

 最も社会の分断が進んだオバマ政権下、中国が覇権主義を強化し、アメリカ国内に計画的なネットワークを構築し、大量のスパイを送り込み、技術や機密情報を盗み、大学に孔子学院を乱立させ、中国社会主義思想を拡散させたことに気づかされたのはトランプ政権でした。

 ロシア、中国、イラン、北朝鮮にとって、弱体化し、社会が分断されたアメリカは攻勢のチャンスです。トランプ氏の評価はともかく、アメリカ社会の疲弊は世界にとっていいことは一つもありません。

   

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 コロナ禍で一気に加速したリモートワークは世界中の人々の働き方を変えました。結果的に今、オフィスワークが最も効率的と主張するオフィス復帰(RTO)派、月に数回オフィスで働き、あとは自宅というデュアルライフ派、完全リモート派、フレキシブル派など働き方の議論は結論のない状況です。

 アメリカでは勤務医でさえ、臨床医でない場合はリモートが増え、医師には好評ですが、医療の質低下を危惧する声も消えていません。そもそも働き方は職業によって多様であり、特に現場にいてフィジカルに働く職業や、高額で高度な機器を共有している職業のように、その場にいる必要がある職業はリモートは困難です。

 日本の某大手鉄鋼メーカーは、コロナ禍のリモート急増で、本社の入った高層オフィスビルのコストカットのために数千人分が働いていた数フロア―を解約していたのが、今、従業員がオフィスに戻れず、纏まったスペース確保で苦しんでいるといいます。

 世界中の経営者は、2020年以降に経験した従業員の働き方に関する暗中模索から、何らかの結論に達したという話は欧米のビジネススクールの調査でも見えていません。

 RTO派の主張は、経営者は従業員とのコミュニケーション問題が大きいほか、オフィスでの従業員同士の何気ないおしゃべりがモチベーション向上に大きな効果があるとの指摘もあります。新人の人材育成の観点ではリモートは先輩の指導を得にくいので不可という意見は多い。

 さらに自宅に仕事を持ち込むことで、プライベートライフが仕事に浸食されたという意見は、リモートネガティブ派に少なくありません。リモート支持派にとっては、住む場所の選択肢が広がったこと、通勤時間の節約、オフィスにいる時より自分の仕事の成果に意識を持つようになったなども意見もあります。

 産業革命以来、最も大きな働き方に関する変化といわれる、この数年の状況について、リーダーは従業員と積極的に協力して、バランスの取れたアプローチを見つける必要性に迫られています。

 中でも雇用主と従業員、上司と部下のコミュニケーションは鍵を握るテーマです。そこで1つ参考にコミュニケーションに欠かせない質問スキルで、GROWモデルを紹介したいと思います。

 傾聴の重要さが使役される昨今、アクティブリスニングスキル向上は必須といわれますが、中でも質問力はすべてを支配するといっても過言ではありません。GROWモデルの手順は以下の通りです。

GROW
 あらかじめ、質問の手順を結論を出す方向で準備し、コミュニケーションの効率化を図るのがGROWモデルです。

 リモートでコミュニケーションがうまくいかない人にはお勧めで、習得しておくと便利です。リモート維持か、RTOかの議論を突破するには、そもそも論として仕事のヴィジョンを共有しているのか、その核心の1つである利潤追求が共有されているのかなどを意識する必要があるでしょう。

 集団主義、人への忖度が強烈な日本人にとってはリモートワークは、民族として始めて、個の意識や自律性が重視される段階に入ったといえます。少なくとも上司の顔色をうかがう部下と権威主義の上司の関係は消えることを期待します。


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 地中海の海路から押し寄せる大量の密入国者への対応に苦慮するイタリアのメローニ首相は、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員会委員長に対応を要請し、今月17日に同委員長と首相は最も移民船が到着するイタリアのシチリアのランペドゥーザ島を訪問しました。

 ランペドゥーザ島にはその前の週の2日間だけで島の人口を超える7,000人の密入国者が到着し、島の住人が危機を訴えました。背景にはアフリカの政情不安、地震や洪水などの自然災害などが上げられ、快晴が続いたことやチュニジアの密航業者が転覆しやすい木造船から丈夫な鉄製の船に変えたことが、密航者の増加に繋がっていると指摘されています。

 ところがヨーロッパは今、ウクライナ紛争中であり、ウクライナからの難民も大量に受け入れており、アフリカから受け入れる状況にはありません。フランス政府はイタリアに上陸する不法移民の受け入れをしないことを表明しており、2015年に100万人以上のシリア・イラク難民を受け入れた時とは、まったく状況が変わってしまいました。

 欧州連合(EU)は、この10年、アフリカから地中海を命がけで渡ってくる密入国者対策で、例えば、難民申請をアフリカ側のリビアやチュニジアなどで行ったり、不法移民から高額な手数料を取る悪質な人身売買の密航業者を取り締まることや、出発地点であるリビアやチュニジア側の地中海上空を監視するなど、ありとあらゆる対策を講じてきました。

 しかし、アフリカでの内戦や干ばつ、経済状況の悪化、テロなどを嫌い、ヨーロッパをめざすアフリカ人の数は減る気配がなく、最近ではロシアや中国が政治不安定なサヘル地域などに入り込み、クーデターを支援し、ますます混迷を深めています。

 EUは原則、移民は域内に到着した場合、到着した国で移民・難民申請をすることになっていますが、イタリアは受け入れ能力を超えており、収容施設からの脱走も増えていまう。隣国フランスは国境警備を強化し、不法移民の流入を防いでいますが対応できていません。

 イタリア側は、現在機能不全に陥っているEU加盟各国が平等に移民受け入れを担う欧州連帯メカニズムの再開をEUに要求していますが、加盟国は積極的ではありません。

 今後、フランス政府は旧植民地ニジェールに駐留する仏軍部隊を年内に撤退させる方針で、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ガボンといったフランスの旧植民地でのフランスの存在感は急激に低下することが予想され、反政府勢力やテロ組織が台頭し、混迷を深めるばかりです。

 しかし、ヨーロッパにとってアフリカは今後もビジネスチャンスもあり、資源の供給源であり、必要不可欠な存在です。そのため、アフリカと決別する選択肢はありません。ただ、アフリカもグローバル化の波の中で旧宗主国にだけ頼る状況にはない現実もあり、特にロシア、中国に荒らされる現象が起きています。

 英国は押し寄せる密入国者をアフリカに押し返すためにスナク政権がアフリカのルワンダと契約し、強制輸送する措置を取ろうとして人権上の問題で批判されています。

 身の危険を逃れて英国に密入国した人間を、ルワンダがやれることは出身国に追い返すことしかできず、残酷な措置というしかありません。そもそも密入国者を含む移民・難民の希望は安全確保だけではありません。彼らも人間として人生に希望を抱いており、目指す国で成功したいと考えています。

 受け入れる側が安全は確保したから、社会の隅でおとなしくするか、ルワンダに移送するといわれるのは、彼らを人間として考えていない証拠です。2015年にドイツやスウェーデンに住み始めたシリア移民が、差別に耐えられなくてトルコの難民キャンプに戻るのと同じです。

 命がけで逃れてきた彼らが定住先で差別や迫害に遭う悲劇は無視できないものがあります。



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 だいぶ前の話ですが、本を執筆していた時にビジネス系の方が出版社の方から本のタイトルの打ち合わせで「異」という言葉が入った本は売れないという話を聞いて驚かされました。その出版社に限ったことかは未だに不明ですが、日本社会にとって「異なる」という表現は敬遠されるということでした。

 和を持って尊しの日本では、違うということ自体が何か悪いことと捉えられていることに驚かされ、同質社会、村社会で思い当たることは多くありました。満州大連から18歳の時に引き揚げてきた母は、日本社会の様々なルールに神経を尖らせていました。外地の常識が通じないカルチャーショックに苦しんでいたことを後で知りました。

 そういう母に育てられた私自身も日本社会の常識が身についておらず、何度も人から違和感を持たれた経験があります。フランスに住んで安心したのは、フランス人が他の人に干渉しないことや、様々な文化的背景のある人が生活しており、日本のような目に見えない暗黙のルールが少ないことでした。

 同時に日本で違和感を持たれた経験が何を意味していたのか、客観的に理解するようになりました。特に保守的な日本人は、日本が世界で最も優れているとか、日本の常識以外(アンチ西洋とか)は受け付けないとか、暗黙の了解で伝わらない人間は排除するということを理解できるようになりました。

 私が、こブログを書いている理由の一つは、グローバルな時代、ダイバーシティが求めらる時代に役立つために、海外からの視点や情報を提供することで視野を広めてほしいと思ったからでした。しかし、時代はグローバルどころか超内向きで、海外に無関心な若者が増え、少々戸惑っています。

 一昔前までは、西洋は日本より優れているという意識が強く、特にアメリカを向いていた時代がありましたが、そんな時代は過ぎ去り、日本は世界の中でも非常にうまくやっている国という思考を強く持つようになり、海外に学ぶものなしという日本人も増えています。

 しかし、明治維新以降、西洋コンプレックスもありましたが、実際、多くの日本人が大学で学んでいる学問のほとんどが、西洋で確立した科学的アプローチによる普遍性の追求で、理由は科学的に体系化されているからです。それを価値あるものと判断した日本は近代化に成功し、アジアで唯一主要7か国(G7)のメンバーになったわけです。

 今や教えた方より、教え子の日本の方が結果を出していることを誇るべきで、フランスの東洋で和辻哲郎の研究者でもあるオーギュスタン・ベルグ氏は「日本人は優等生だ」と私に言ったことがあるくらいです。戦後、アメリカの統治を受けて様々な改革が進んだ結果、アメリカ以上の成果を出せたことで1980年代、ジャパンバッシングが起きました。

 ただ、日本は多文化社会でなかったことが成功のカギを握っていたというべきで、そうもいかなくなった今の状況では、大きな壁にぶち当たっているといえそうです。

 そこで重要さを増しているのが異を持って尊しという精神です。ところが日本人は経験したことのない未知の領域なだけに抵抗感も強く、その領域に入っていくことは時間と労力とリスクもあります。リスクとはダイバーシティマネジメントで発生するミスコミュニケーションや混乱のことです。

 ただ、ダイバーシティ=何でも受け入れるのは間違いです。そのために明確な普遍的ヴィジョンが必要です。女性活躍の時代といいますが、女性が男性化することではなく、男性の持っていない発想や思考が必要だからです。外国人と協業するのも同様な目的を明確化する必要があります。

 ダイバーシティというと女性の権利やLGBTの人権と受け止める人もいますが、寛容さは大切ですが、普遍的価値観も必要です。共生を破壊する価値観は意味がありません。

 その一つは異文化への関心です。アジアの技能実習生の逃亡が相次ぎ、うまく活かされていない理由は、彼らが日本という異文化でどう生きているのか、課題は何かに関心がないからです。しかし、日本の経営者は日本人従業員がどんな課題を持って働いているかにさえ関心がないのが現実でしょう。

 つまり、人権意識が低いために個人をリスペクトする文化が薄いために、それが外国人にも出てしまっているということだと思います。そう考えると多文化環境で働くことは、日本人の人権への意識を高めることに繋がるメリットもあることです。

 つまり、日本人だけで仕事をしていると気づかないことに気づかされるメリットがあるということです。これが異を持って尊しの1例です。



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 今月20日から、即位後初となるフランス公式訪問の日程をこなす英国王チャールズ3世は21日午前中、仏上院議事堂で上下両院議員約300名を前にスピーチを行いました。同国王は自由と民主主義の価値観を死守するための団結を訴え、ウクライナの勝利を強く支持しました。

 さらに、国王が最も力を入れる気候変動対策を訴え、スピーチに対して、スタンディングオベーションを受けました。

 今回のフランス訪問でもチャールズ国王はライフワークの環境活動家としての顔を見せ、訪問最終日にはボルドーを訪問し、昨年の熱波による大規模な森林火災を受け、気候変動による森林の研究を行っているフロワラックの実験林訪問が最終日に組み込まれました。

 英国で注目されたのは、環境活動家の国王が訪問先で、最近、スナク英シュシュが発表したガソリン車製造販売を2030年までに停止する期限を2035年に延長した政策について何を述べるかでしたが、外交の場では政治的中立を守る国王は政権批判はしませんでした。

 さらに母、エルザベス前女王がどれほどフランスを愛していたかにも触れ、過去の100年戦争を戦った仏英関係は女王の親仏姿勢が両国の良好な関係維持発展にいかに貢献したかを印象付けました。

 英国はブレグジットで小国になったように見えますが、チャールズ国王はコモン・ウエルス(通称、英連邦)56か国の上に今でも君臨しており、その人口は約26億人で世界の4分の1の人口を占めています。英国の世界に与える影響は今でも強く、その象徴的統治者がチャールズ3世国王です。

  最近、5人のロシアのスパイ容疑者が英国で起訴され、それ以前にもスパイの逮捕が続きました。英国は対ロシア強硬派というだけでなく、世界に影響力を与えている国とロシアは考えているということです。

 最近、英政府は世界の先進国に先駆けてロシアの民間軍事会社ワグネルをテロ組織に認定しました。対ロシア外交で弱腰なバイデン氏に代わり、ウクライナ支援で影響力を発揮しているのは英国です。議会制民主主義を世界に先駆けて確立した英国には、自由と民主主義を守る主張に説得力があります。

 君臨すれども統治せずの英君主ですが、とかく母親と比べられるチャールズ国王は、ダイアナ元妃を差し置き、浮気に走る貞操感のない人物と国外では思われがちです。しかし、皇太子時代から地味な人道支援活動を継続してきたことは国内では広く知られています。

 特に貧困に苦しむ若者支援では成果を出しています。そのため、若者層に一定の支持者がいるのは確かといわれています。

 上院議場でのスピーチで、第2次世界大戦で仏英が一体となって対ナチス・ドイツ戦争で戦ったことを引き合いに出し、ウクライナ紛争で不安定化するヨーロッパで両国が協力して戦い、勝利することを訴えたことは、フランスの国会議員たちの心に響いたように見えました。

 

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 パリ市に隣接する南東郊外のアルフォーヴィルの中学校の教室に、警官が現れ、いじめ加害者容疑の中学生が逮捕されるという前代未聞の出来事が起きました。おりしも政府がいじめとの断固として戦いを表明し、9月の新年度から校長と自治体首長に加害生徒の強制転校の権限が与えられた同じ月に起きました。

 嫌がらせをした学生を逮捕するために警察が中学に突入したことは、「学校は社会の中でも閉ざされた聖域と考える一部の保護者や学校管理者に衝撃を与えた」(仏週刊誌レクスプレス)と報じました。

 日本なら少なくとも担任が校長室に連れて行き、生徒の目に触れないところで逮捕したかもしれません。フランスもかつてはそうでしたが、校内暴力が激化し、高校では凶器をもったテロに関わる生徒が出現し、学校と警察は連携を取るようになっていましたが、いじめでは初めてのケースとなりました。

 実は今回のいじめ加害者と被害者は別の中学校に通っていました。クリテイユ検察当局によると、被害者の15歳のトランスジェンダーの女生徒に対して、加害者の14歳の男子生徒はトランスジェンダーに対する嫌悪から「彼は性的指向を理由に、殺害の脅迫と意図的な精神的暴力の容疑で送致された」との説明がありました。

 同件はすべて基本、ネット上で起き、被害者の親が学校長に直接相談していました。警察の対応は非常に迅速だったとされますが、背景には9月の初め、パリ西部郊外のポワシーで15歳の生徒ニコラ君がいじめを苦にして自殺した事件があったことが考えられます。

 この自殺が注目されたのは長期に渡るいじめに苦しむ両親が学校に何度も訴えたにも関わらず、教育委員会から非常に冷淡でむしろ両親を脅迫するような文面の手紙が教育委員会から送られていたことでした。この手紙が公開され、アタル国民教育相は「恥ずべき手紙」と強く非難しました。

 いじめをないことにしようとする姿勢は日本も似ていますが、教育委員会は休み時間中に校庭でしばしば起きた肉体的暴力を伴う被害届を、基本的に学校の責任と認めませんでした。

 フランスは昨年3月、急増するいじめによる自殺が政治問題化し、いじめを刑事犯罪と位置づけ、罰則として実刑の刑務所収監や罰金を定められました。教育委員会が隠ぺいしようとしても警察が迅速に対応する法改正が行われました。フランス、いじめ厳罰化「加害者を転校させる」背景

 果たして警官が授業中の教室に入ってきて生徒を逮捕するのが適切かどうかは意見が分かれるところですが、少なくともいじめ抑止に繋がるのは確かです。時には命を絶つまで追い込み、いじめのトラウマが一生消えない行為は、整えられた環境で教育を公平に受ける権利を奪っているのは事実です。

 日本では加害者の将来を考え、加害者の名前を公表することも少年法で守られ、結果的に被害者が泣き寝入りするケースは本人が自殺しても見過ごされるのがほとんどです。成長途中の未成年者とはいえ、犯罪者として責任を問うのは被害者から見れば当然といえるでしょう。

 フランスも日本同様、いじめに蓋をしてきた過去はありますが、今、フランス教育界は過去にない本腰を入れているといえます。