安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 創設75周年を迎えた国連の恒例の今年の国連総会での注目のトランプ米大統領の演説は、予想通り中国批判が目立ち、中国の習近平国家主席は応戦に廻るといった状況でした。

 アメリカ人の友人で国連を高く評価している人間はほとんどいません。国連が世界の深刻な問題の解決に大きく貢献していると信じるアメリカ人はいないからでしょう。パリに本部を置く国連機関OECDへアメリカの復帰に松浦晃一郎前事務局長が尽力しましたが、アメリカは再度脱退しました。

 日本にとっては敗戦後の国際信頼回復の舞台が国連であった経緯もあり、国連は極めて重要な国際機関と位置づけられてきました。20世紀の2つの大戦で戦場となったヨーロッパも「戦争を繰り返さない」という意味で国連重視の姿勢を貫いています。

 しかし、世界の紛争地域を取材して分かることは、日本やヨーロッパが考えるほど国連軍は成果を上げていない現実があり無力です。むしろ場合によっては状況を複雑化させたりしています。OECDを含む国連機関の中身を見ても腐敗が激しく「何もしない」状態が散見されます。

 事実、松浦氏が事務局長に就任した1999年当時は、まず世界から集まった職員、特に幹部職員の腐敗を一掃することが最大の課題でした。どこからも大したプレッシャーが掛からない高給取りの名誉職的意味合いが強く、パリの一等地で優雅な生活を送ることが日常化していました。アメリカが高額の分担金を払うのを嫌ったのは当然です。

 今、米中対立、保守派とリベラル派の対立、独裁国家の権力者と民主化を求める民衆の対立、一部の世界的成功を収めたGAFAなどのグローバル企業と国家の対立、富裕層と貧困層の対立など、ポストコロナは分断が止まらない世界を作り出し、場合によっては物理的部分戦争も起きています。

 歴史家の中には、戦後の東西冷戦こそ特殊な時代だっただけで、世界は元の弱肉強食の混沌とした状況に戻っただけだと指摘する人もいます。本来、冷戦終結で国連の役割が増すと考えられたのが実際には分断が進んでおり、「共存」のキーワードは危うい状況で日本は国連重視外交の見直しを迫られています。

 一方、欧州連合(EU)は、一貫して多国間主義を主張し、国連重視の姿勢を崩していませんが、紛争が激化し、手に負えなくなるとアメリカを頼りにしているのが現実です。イラク戦争、シリア内戦、ISとの戦いではアメリカ率いる有志連合にEUは加わる形が多いのが現状です。

 人類の歴史を見れば、強い者が弱い者を飲み込み、高度な文明が下等文明を吸収することを繰り返してきました。帝国主義はその典型ですが、東西冷戦でも自由主義陣営に属すか共産主義陣営に属すかを多くの国は選択するしかない状況で、共存とはほど遠い状況でした。

 一方、戦争などの最悪の選択をしなければ、公正な競争環境は人類の発展には欠かせないという考えもあります。公正さを保つルール作りが国連の機能の一つですが、競争にはリスクも伴い、勝者が敗者を支配することにもなりかねません。これも共存は甘い夢でしかないことを思い知らせるものです。

 さらに東西冷戦がイデオロギーの戦いであったように、今は中国が21世紀の社会主義モデルを世界に伝播すると息巻き、アメリカを上回るパワーを得ることに必死です。彼らの中では最も強い者が世界のルールを決められるという信念があります。これはまさに帝国主義時代に聞いた話と同じです。

 そのパワーを得るために、不当に知財を入手し、不公正なやり方で発展を遂げる中国の手法も、一種の価値観に属するものです。地球温暖化に非協力だった中国が、あたかも自分たちが環境問題で先頭を走り、指導的存在だと主張する呆れた態度も日常化しています。

 新疆ウイグルや香港の弾圧も国家の治安維持の大儀を持ち出す中国に対して、欧米諸国は民主化や人権で対抗していますが、解決の道は見えていません。つまり、物事の善悪という意味での「価値観」で共有できないものがあるということです。

 自由世界からみれば「悪」とした思えない犯罪行為に対して、多国間主義は無力で偽善的理想主義に見えます。EUは対中政策を強硬路線に転換したといっても、善悪の価値観は相対的で不明確なままで腰が引けています。

 多国間主義で強調される「共存」は、悪の要素の排除がなければ、手段を選ばない野蛮な支配欲の強い国が善良な弱い国を飲み込む可能性は十分ありえます。日本は海を隔ててそういう3つの国の国に接している極めて危険を抱えた国といえます。夢見心地の多国間主義の幻想は役に立ちそうにありません。

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 これまで幾つかの大手IT企業でグローバル研修を行った結果、意外だが当然ともいえる課題に突き当たりました。それは大小のIT企業で働く人間たちの異文化耐性が実は低いことです。それを裏付ける話をネット上で読み、ますます確信を深めています。

 日系の某大手IT企業で働くエリート社員のグローバル研修を担当した時、「先生はフランス人と結婚しているそうですが、異文化って面倒くさそうですよね。なぜそんな面倒くさい結婚をしたんですか?」という質問を受けました。質問に耳を疑った私は「未知のフランスとの遭遇で自分の世界が拡がり、フランス人の親戚や友人もできて本当に良かった」と答えましたが、彼らには不思議だったようです。

 最近、ベンチャー企業で活躍する男性社員のインタビューをネット上で読みましたが、彼は理系の一流大学を卒業後、大手IT企業に就職し、5年後に対して起業したそうです。ところが3年間、黒字化できず、会社を畳んで、今は中堅の急成長IT企業で高いポジションで活躍しているそうです。

 その男性が起業しながら失敗した原因を自分なりに分析しているのですが、その主因が実は一緒に働いていたインド人、マレーシア人、ベトナム人との協業が、まったくうまくいかなかったことにあるというのです。「とにかく、彼らの発想や考え方、仕事の進め方の違いに非常に強いストレスを感じ、成果を出すどころではなかった」というのです。
 
 彼は英語もアメリカ留学の経験から得意で、ITの世界は共通言語もあり、コミュニケーションは容易に取れると思い込んでいたそうです。ところが文化の壁は厚く、「何度もケンカし、混乱が深まるばかりだった」というわけです。

 某大手日系IT企業は、欧州に進出し、日本にいる時から会議は英語で行うなどグローバルビジネスには自信を持っていたのが、ナショナルスタッフやビジネスパートナーとの協業がまったくうまくいかず相談を受けたことがあります。エリート意識は高いのですが、実は異文化には非常に弱いことが見て取れました。

 これを裏側から見てみると、英国の日系IT企業で人事担当として働く英国人に話を聞くと、彼は自分の経験から、採用の面接では「仕事のプレッシャーがない職場で働きたいのなら、この会社は適しています。でもスキルアップは望めない。それでも良ければ」とアドバイスするそうです。

 理由は、日系企業の多くにいえることですが、「何でも最終決定は日本本社なので、現地には裁量権がなく、さまざまなアイディアを出しても無駄な場合が多い」「日本の上司は部下一人一人のスキルを引き出す能力に欠けている」「スキルアップには繋がらない仕事を山ほどさせられる」などといっていました。

 無論、この10年間、現地のリーダーに権限委譲する日系企業が増えているのは確かです。一方、リーダーを管理職枠で採用する欧米企業に対して、たたき上げの多い日本企業のリーダーのマネジメント能力には疑問が持たれています。

 話をIT業界に戻すと、年齢が若いこと、対面の人間関係を築くのが苦手な人が多く、日本人の中でも孤立しやすい傾向があり、トータルな人間力という意味では未成熟といわざるを得ないことです。同じ感性や趣向を持つ人間が仲間意識で仕事をしているケースが多く、年齢層の幅も非常に狭く、結果、人間の幅も拡げる機会が乏しいといえます。

 バーチャル空間は国境も人種の壁もないかといえば、そんなことはなく、むしろ相手の顔が見えにくいだけに発想や考え方の違いが決定的な問題に発展する頃が多く、異文化となると、その壁を超えていくのは容易ではありません。私の知る限り、IT系で働く人々の多くは自分と極端に違う人は敬遠する傾向が強いと見えます。

 たとえばIT系の職場で働く人は服装が自由です。アメリカIT業界から持ち込まれた文化でジーンズにTシャツ姿で自由に働ける職場が人気を集めています。ところが個性や自由を重んじる一方、対人関係を拡げる社会性には乏しく、自分を変えようとか、時には自分を否定することなどということにはできない人間も多いのが実情です。

 これはビジネスに欠かせない人間力という意味では深刻な問題です。今、ほとんどの業務はチームワークが基本です。それにダイバーシティ効果はますます注目されています。ところがビジネス界の先頭走っているかのようなIT業界で人間力が不足しているとすれば、早期の改善が必要です。

 SNSの時代のキーワードは「共感」です。ところが共感は諸刃の剣です。たとえば今世界で起きていることは、保守的な人たちは保守的な意見を持つ人やメディアにしか耳を傾けず、リベラルな人はリベラルな個人、メディアのいうことしか聞いていません。これでは完全に世界は分断されるでしょう。

 自分とは異なった人の意見にも耳を傾け、議論を重ねることは極めて重要です。意見の対立は悪ではなく、むしろ全員が同じ考えを持つ方がはるかに危険です。ダイバーシティ効果の一つはゼロベースで物事を考えられることですが、小さな世界で共感を頼りに仕事するのは時代に逆行し組織は弱体化させます。

 デジタル化で人間のライフススタイルが大きく変わるとしても、人間に備わった文化は変わりません。デジタル化でそれについていける人間とそうでない人間の分断が始まるとすれば、デジタル化は人間を不幸にするツールになるでしょう。デジタルは文化の壁を超えていく最強ツールではないというのが私の見立てです。

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 デジタル革命は18世紀、19世紀に起きた産業革命以来の人々の生活も社会構造も根底から変える革命といわれています。それはあらゆるものが飛躍的に効率化され、便利になり、自動車業界とIT業界のように異業種の融合で、事故のない社会がそこまで来ているような期待感もあります。

 ITバブルでいきなり金持ちになった若者の登場で、英国などは伝統的階級社会が大きく変化し、さながら19世紀後半に登場した新興ブルジュワジーが既存の階級社会を壊したような現象が起きています。

 ところが産業革命を支えた「科学」「技術」が席巻した19世紀から20世紀を振り返ると、科学は宗教を社会の片隅に追いやり、拝金主義とモラルの低下、帝国主義と世界規模の戦争に明け暮れ、人を不幸に陥れた独裁と共産主義が蔓延した不幸な時代だったことも見逃せません。

 つまり、大きな変化にはリスクはつきものです。せっかく日本では菅新政権のもとにデジタル化を加速させ、これまで解決できなかった問題を一挙に解決することで国を発展させようとしている時に、水をさすようなことをいっていると思われるかもしれませんが、私は慎重であるべきと考えています。

 国家がデジタル化を推進する場合、2つの懸念が考えられます。一つは情報管理の問題で国家による監視社会が生まれ、個人の自由や権限が大きく制限されるのではないかという情報管理への懸念です。もう一つはセキュリティーの問題で、デジタル化に伴う新たな手口の犯罪はすでに起きています。

 前者はたとえばコロナ禍で各種給付金を支給するのにデジタル化が遅れているから支給に想定外の時間を要している問題を、デジタルのシステムを導入することで解決できる可能性があります。しかし、同時に個人のあらゆる情報が政府に集まることでの弊害は無視できません。

 デジタル庁の新設で省庁を超えて情報管理を行うようになれば、政府はあらゆる監視も可能になり、それは個人の自由とプライバシーを脅かすかもしれません。管理する側にアメリカのように役人の情報管理の違法行為が国家の安全保障に及べば終身刑もありうるという厳しい法整備が必要です。

 一方、セキュリティー問題も深刻です。情報管理同様、デジタル化は完全なグローバル化と繋がっている話です。情報が一元化されれば、国外から違法にその情報を入手しようとする犯罪行為が蔓延るように、世界中のあらゆる個人や組織が新たな犯罪手口で個人や企業に脅威を与えるのは確実です。

 その場合、日本がコロナ対策で性善説に則って、要請レベルで感染を抑えているようなことは、グローバル環境ではまったく通じません。あらゆる悪を想定しなければデジタル化は人をこれまで以上に危険に晒すのは確実です。多分、日本人だけではデジタル化のシステム構築は無理でしょう。

 働くことを嫌い、努力なしに人の金を盗み取ろうとする人間は世界中にいます。それは今も増え続けているといわれています。デジタル化では日本人が想像もできないような人生観で生きている人間を想定しなければならないわけで、性善説社会に生きる日本人だけでは防げないと思います。

 リスクマネジメントの基本は「便利はリスク」です。産業革命は多くの便利をもたらした一方、多くの危険も生んできました。そのため、デジタル化には思想が必要です。人間一人一人の尊厳、幸福追求など、どのような社会を築きたいのかは科学者、技術者の見識だけでは議論できる問題ではないということです。

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 欧州連合(EU)離脱で複雑になる英本土と英領北アイルランド間の物品輸送を支援する政府のシステムについて、富士通率いるコンソーシアム(企業連合)が契約を獲得したと英BBCが報じました。システムへの投資額は最大3億5500万ポンド(約480億円)としています。

 日系大企業の海外展開としては、特にコロナ禍でグローバル市場に閉塞感が漂う中では朗報といえます。ただ、今はジョンソン英首相が提出した国内市場法案が英議会並びにEUとの間で紛糾中な上、EUとの貿易協定そのものが合意のないままに完全離脱する大混乱も懸念され、取り巻く環境には楽観視できない要素もあります。

 今年1月末に発効した国際条約「離脱協定」は、北アイルランドとアイルランド間に税関業務を含む国境を設けることを回避するためEUの経済ルールを引き続き適用すると定めれています。結果的に海をまたいだ英本土から北アイルランドへの物品輸送には税関申告業務が生じ、政府が関係取引業者の負担軽減のため無料で利用できるシステムの導入を計画しています。

 そのシステムを富士通連合が受注したわけですが、システムには極めて政治的影響が濃厚で、不透明なものが多いといえます。なぜなら来年1月以降には不確定要素が多く、国際条約である「離脱協定」では、北アイルランド問題は継続的な検証が含まれ、不都合なことが多ければ、最終的にアイルランドとの間で検問する最悪の事態も考えられます。

 今、問題になっている離脱協定を保護にする国内市場法は、北アイルランドとのモノの移動で不都合が生じた場合、英政府は離脱協定を破り、英国本土と同じ扱いを北アイルランドに適応するというもので、EU側は今月末までに同法案を撤回しない場合、法的措置も辞さないと強く反発しています。

 同法案については、現在、決裂の可能性も高まっているEUとの通商交渉を年内合意に持ち込むため英国側が圧力加えていると見られています。結果、EU側の態度が硬化させ、通商交渉は決裂しハードブレグジットへの流れが強まるとの見方が高まっています。

 そのため、英本土と北アイルランドの物流には、かなり高いレベルの政治的プレッシャーが掛かってることは否定できません。それでも来年1月から移行期間を終え、離脱協定に基づいたヒトとモノの移動が英本土と北アイルランド間で始まるのは確かなので、しばらくは物品輸送を支援するシステムは必要不可欠です。

 グローバルビジネスは、国内ビジネス以上にリスクを伴うものです。日立製作所は今月16日、英ウェールズでの原子力発電所の建設計画から撤退する方針を明らかにしました。新型コロナウイルスの感染拡大などで投資環境が悪化したこともあり、事業の再開は不可能と判断したと説明しています。

 国内以上にさまざまなコストの掛かるグローバルビジネスだけに、常にリスクを折り込みながら展開する必要がありますが、果敢に挑んでほしいものです。日立の車両部は英国の鉄道事業に本格参入して10年以上が経ち、さまざまなノウハウを蓄積しています。

 富士通は北欧フィンランドで6年前に完全人工光型植物工場の製造、販売会社を設立しました。日照時間の短い北欧で成功モデルを作るのが狙いです。しかし、同事業には中国企業も参入し、競争が高まっています。ただ、日本の問題はグローバルビジネスを担う人材が不足していることです。

 事業拠点撤退の影には、グローバルリーダーシップやマネジメントの欠落があることは少なくありません。ナショナルスタッフの能力を引き出し、エンゲジメントを高める方法は日本とは大きく違います。カルチャーダイバーシティは成功すれば高いパフォーマンスを得られますが、失敗すれば地獄のような混乱が生じます。

 日本で実績があるからというだけで海外にその人物を送るのは間違いです。日頃から地道にグローバる人材育成を行っている会社が成功を収めているといえます。

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「フランス歴史物語より」チェリー・ロードラン、2019 c Thierry Laudrain / Chateau de Versailles

 フランスやベルギーには日本の漫画に相当するバンド・デシネが19世紀から存在します。意味は「描かれた帯」すなわち連続漫画で、たとえば、ベルギーの作家エルジェによる「タンタンの冒険」は、半世紀以上前から、フランスやベルギーの国民的愛読書です。

 「タンタンの冒険」や「アステリックス」といったバンド・デシネ本は、ほとんどがハードカバーのしっかりした装丁で、絵もしっかりしたものです。作家には絵画を正式に学んだ人間もいて、エルジェは晩年、モダンアートに興味を寄せていたといいます。

 私がフランスに住み始めた1990年代は、「キャプテン翼」などの日本のTVアニメが大量に放映されていました。日本の漫画やアニメは1980年代までは稚拙なデッサン力による安っぽいバンド・デシネと見られていました。

 そのイメージを根底から変えたのが確かな描写力と緻密な絵、練られたストーリーによる宮崎駿によるアニメでした。それ以来、日本の漫画やアニメの地位は飛躍的に向上し、今では書店の一角は日本漫画で占められ、欧州最古で最大級のバンド・デシネのイベント、アングレーム国際漫画祭でも大きな存在になりました。

 フランスではバンド・デシネは、建築、彫刻、絵画、音楽、文学、演劇、映画、メディア芸術に次ぐ「9番目の芸術」と位置づけられ、2016年にはルーヴル美術館で初めてバンド・デシネの本格的な展覧会が開催されました。

 フランスでは現在、ヴェルサイユ美術館で「バンド・デシネの中のヴェルサイユ」展(12月31日まで)と、パリのピカソ美術館で「ピカソとバンド・デシネ」展(来年1月3日まで)が開催されています。

 「バンド・デシネの中のヴェルサイユ」展は、ヴェルサイユ宮殿を舞台にしたバンド・デシネ作品を紹介する特別展で、オリジナル原稿や原画、下絵など約100作品の普段目にすることの出来ない作品や資料が展示されています。同時に19世紀から2019年までのバンド・デシネの変遷や発展をヴェルサイユ宮殿の歴史と共に振り返っています。

 フランス大革命やウィーン体制下の復古王政と7月王政が続く19世紀前半、2月革命後のナポレオン3世が実権を握った第2帝政になった19世紀後半だけ見ても、ヴェルサイユ宮殿はフランスの重要な歴史の舞台でした。バンド・デシネの作者たちは、偉大な人物から宮殿の威厳を支えた建築、庭園などまでを描き出しています。

 作品には宮殿や庭園、登場人物を単純化して描いたものから、細密画のように建物や庭の細部を描き込んだものまでさまざま。ヴェルサイユ宮殿で宮殿を舞台としたバンド・デシネに関する展示は初めての試みです。権力と頽廃の舞台だった同宮殿は数多くの文学小説を生み、漫画家の想像力を刺激しました。

 一方、「ピカソとバンド・デシネ」展では、ピカソの作品とバンド・デシネとの関係を探るものです。この試みも初めてです。ピカソは若い時から晩年に至るまで、新しいものへの好奇心が旺盛で、風刺画やイラストレーション、バンド・デシネに興味を抱いていたといいます。

 逆にバンド・デシネの作家のクレマン・オブジェリー、ライザ、アート・スピーゲルマンたちがピカソ本人を漫画の中に登場させたりしています。幼少期にアメリカのコミック漫画に触れたことが、ピカソのさまざまな絵画様式の試みに影響を与えたとの仮説も同展のテーマです。

 バンド・デシネは、作家のセンスと西洋絵画の優れた技法に支えられ、そのストーリー性とともに人々の生活を豊かにする存在として、フランス語圏で芸術的評価も受けています。同時に若者の間では日本の漫画やアニメが定着し、それが日本に対する興味を増幅させています。

 バンド・デシネが大きく日本の漫画と異なるのは使い捨ての消費型文化でないことかもしれません。「タンタン」は、今でも大人が休日に何度も読み返しているからです。

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   べチューンの街に衝撃が走る


 日本のタイヤメーカー、ブリヂストンは今月16日、グループ会社ブリジストン・フランスが保有する仏北部べチューン工場の閉鎖に向けた関係者との協議に入ったことを明らかにしました。乗用車用タイヤ市場の収益構造悪化が主な理由としていますが、地元自治体、政府を巻き込んで大騒ぎになっています。

 コロナ禍で深刻なダメージを受ける企業が秋以降、次々に人員整理に乗り出すことが懸念される中、従業員数863人のべチューン工場閉鎖発表は、政府や組合側との協議なしの決定打として、仏メディアも大きく報じています。

 労働市場の流動性が低いフランスの場合は、人員削減や工場閉鎖はすぐに大きな社会問題に発展します。この30年間、10%前後の失業率を大幅に改善することがなかったフランスでは、常に雇用問題が政治の主要テーマです。オランド前大統領の支持率が史上最低で終わったのも失業問題で改善がなかったからです。

 工場のあるオー=ド=フランス地域圏議会のベルトラン議長は「工場閉鎖は地元にとって自殺行為」と語り、雇用を守るためのあらゆる方法を模索すると約束し、政府はそのための資金の準備もあるとしています。

 ボルヌ仏労相や経済・財務省のパニエリュナシェ副大臣は、ブリヂストンの工場閉鎖計画について「まったく同意できない」と述べ、同社に対して工場閉鎖以外の選択肢を詳細に分析、検討するよう強く要求したことを明らかにしました。

 ブリジストン側にとって都合が悪いのは、同社は2008年には50万ユーロの公的資金援助を受け、2016年には12万ユーロを超える職業訓練資金を受け取り、2018年には高額の税控除も受けていることです。公的資金の注入にあたり、同社はさまざまな事業改善を約束させられていたはずです。

 仏政府は今回、「ブリヂストンは長年にわたり他の欧州拠点を優先し、ベチューン工場には投資を怠った結果、競争力を失った」と指摘し、仏公共TVフランス2は「ブリジストン側は他のアジアのメーカーとの競争に晒され、持ちこたえられなくなったと説明しているが、仏政府は弁解に過ぎないと一蹴している」と伝えています。

 同工場の非効率な状態は度々指摘されながらも改善されなかったことが主要因だと政府も地元自治体もメディアも指摘しています。ブリジストン側は、連結業績に与える影響は算出可能になり次第、速やかに開示し、理解を求めるとしていますが紛糾は避けられない状況です。

 フランスの場合、生産拠点が地方の小規模都市にあり、その工場に勤める住民が5割を超えるケースも少なくありません。2009年、仏南西部の小さな街にあったソニーのビデオカセット製造工場が閉鎖になった時は、工場責任者が労組によって数週間監禁されたこともありました。

 別の日系企業の工場閉鎖では市長がハンガーストライキで抗議し、仏西部ブルターニュのヴィトレにあった日本系電機メーカーの工場閉鎖では、地元メディアに叩かれ、社会問題化しました。

 海外進出は撤退の可能性も織り込み済みですが、フランスで某日系企業の撤退処理に関わった経験から、撤退をスムーズに行うには日頃からの経営改善努力が必要なことを痛感します。ブリジストンの場合も、効率化に対する投資を怠ったことが批判されており、経営の中身に踏み込んだ批判です。

 労使双方がこれまで納得のいく業務改善に真剣に取り組んできたのか、これから明らかになるのでしょうが、多くの場合はさまざまな悪習が放置されていたケースが少なくありません。規模縮小などのリストラで大きな抵抗もない事例を見ると、企業としての透明性が高く、日頃から従業員からのフィードバックに経営者側が耳を傾けているケースがほとんどです。

 むしろ、従業員側が事業の改善に積極的で、さまざまな提案をしていて、それが実際に反映されていることは重要です。無論、規模縮小と撤退は話が違いますが、その場合は転職先の斡旋、他の企業への売却などを検討したかどうかが問われます。

 どうやら今回はブリジストン側がいう業績悪化の説明だけでは、従業員も政府も納得してくれない状況です。こんな展開で中国企業が買収に乗り出すことも考えられます。徹底した合理化、効率化、生産性向上に取り組み、同時にアグレッシブな営業戦略で前進する努力があったかどうかが問われています。

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 安倍前政権で日本の存在感を世界に示せたことで、菅新政権への海外の注目度もある程度高いといえそうです。前政権の路線踏襲が基本路線としていますが、近隣の日本との関係が重要な中国、韓国からは、改めて新政権の動きが注視されています。

 インド太平洋の発展は日本の国益に合致します。同時に戦後の日本の信頼回復に繋がるという大義名分もあり、さらに近年は覇権を強める中国の封じ込め外交も重なり、莫大な資金援助、技術協力、人材協力を繰り返してきました。官民上げて海外投資といえば、インド太平洋重視は変わっていません。

 しかし、相手国の発展に応じ、その姿勢は変える必要があります。その意味でアメリカ、欧州の対中外交には学ぶべきものがあると感じています。相手が途上国、新興国である場合は、支援の側面が強く、技術供与や人材供与は当然のように行われます。

 多くの途上国は政治が不安定で民主主義が成熟していないだけでなく、独裁国家や社会主義という日本と異なった統治システムを採用している国もあります。そのため、権力者の都合で頻繁にルールが変えられたりします。さらに個人も組織も遵法意識に乏しく、ルールを守る保障もありません。

 特にアジアはルールより人間が上に立っている場合が多く、人間同士の信頼関係だけで動いている場合があります。それもいつも裏切りに注意が必要です。かつての日本も1990年代前半まで、大企業が反社会性力でもある総会屋を使い、株主総会を管理する海外企業には理解不能な慣習が存在しました。

 既得権益を守り、超内向きの論理で動いていた日本は経済発展と同時に市場開放のための規制緩和をアメリカから迫られ、透明性を高めるためにも総会屋を一掃する方向に舵を切ったのは1990年代のことです。つまり、アメリカでいえば大企業がマフィアとの関係を持っていたようなもので、日本ではその関係を切ったのは1990年代に入ってからでした。

 今回、欧州と中国が年内の投資協定の合意をめざし、欧州連合(EU)のミシェル大統領、欧州委員会のフォンデアライエン委員長、議長国ドイツのメルケル首相が、中国の習近平国家主席と首脳会談を行った際、欧州側は3つの条件を出しました。

 1つは中国政府が公正な競争を妨げる多額の補助金を中国企業に出しているのをやめること、2つ目は知的財産権を盗み取るのをやめること、最後は新疆ウイグルへの宗教弾圧、人権弾圧及び香港市民の言論の自由を封殺するのをやめることでした。

 興味深いのは、中国側は「内政干渉」と反発しながら、欧州とのパートナーシップを強調しているのに対して。欧州側は途上国ならともかく、世界第2位の経済大国を自負する中国が欧州と対等の関係を望むなら、欧州で受け入れられない事項については変更してもらう必要があるという姿勢を鮮明にしたことです。

 日本もアメリカが日本に市場開放と規制改革を迫ったことで、前近代的な慣習を一掃し、より透明性を高め、グローバル化への参画、国際的発言権の確保に繋がったわけです。結果、日本はアメリカのパートナー国として信頼される国になり、戦後の国際社会での信頼回復にも繋がりました。

 その日本も大国志向の強い中国や日本への対抗意識が強い韓国に対して、かつてのアメリカの日本に対する姿勢や、今の欧州の対中外交のように「パートナーになりたければ、一定のヴィジョンとルールの共有は必須で、それなくしては対等な付き合いはできない」という毅然とした態度が必要です。

 資金、技術、人材支援の段階を終え、先進国が守るルール、守るべき価値観を中韓に求める段階に入っています。欧州首脳は中国との投資協定は「相手を変えるチャンス」と見ています。呼び水を十分与えられた中国、韓国は発展したことで、次の段階に入る運命にあるということです。

 それは日本が戦後辿ってきた道でもあります。人の物を盗むだけでは先進国になれず、地味な必死の努力なくして、世界が認める一流国になれないという信念を日本側が持つことが重要と思われます。恩恵を受けとることに慣れ、先進国に対して甘えの中にある中韓を自立させるのも日本の役割です。

 もし、中韓がそれを拒み、自分たちを変えようとはせず、今までどおりの関係を望むなら、日本は対等なパートナーシップを拒否すべきです。それに中韓のみならず、多くのアジア諸国が民主主義を成熟させ、ルールを守るようになれば、日本にとって繁栄のチャンスにもなります。

 間違っていることを間違っているといえる外交、それを相手に納得してもらうコミュニケーション力、共に発展するための価値観やヴィジョン、ルールの共有を生命視する姿勢を明確にすることを管政権に望みます。

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 コロナ禍で男性よりも女性の方が苦労しているという話は日本ではあまり話題になっていません。ロックダウン(都市封鎖)、保育園を含む学校封鎖、自宅でのリモートワークなどで、育児や家事のあり方は過去にないレベルで変更を迫られています。

 9月に入り、子育ての一翼を担う保育所や学校が本格的に再開したとはいえ、時間制限、人数制限があるだけでなく、感染第2波でフランスやスペインで一部地域で学校封鎖が起き、予断を許さない状況です。

 ロンドンで共稼ぎの娘夫婦は小学校前の子供2人を抱え、妻は昼間、リモートワークで6時間は働き、その間、夫が子供面倒を見ながら家事をこなし、夜には交代で、夫がリモートワークで妻が子供の世話や台所の片づけを行っているそうです。

 金融機関に勤める夫は子煩悩なので、その分担は成立していますが、彼の多くの男性の同僚は日中、リモートワークを行ない、妻が仕事以外に家事、子育てに多くの時間を費やしているといっています。日本よりは女性の社会進出が進んでいる欧米ですが、コロナ禍の女性への負担は想像以上です。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が今春実施した調査を紹介し「女性は家事育児に費やす時間が男性より週平均15時間多く(65時間対50時間)、コロナ流行前(35時間対25時間)より差が拡大した」と指摘しました。日本はそれ以上でしょう。

 女性がコロナ禍で仕事を犠牲にし、キャリアを積むことを諦めるケースが多い理由について、「男性パートナーの収入の方が多いせいだ。国勢調査データによると、2018年には共働き異性夫婦のおよそ70%で、夫の稼ぎが妻を上回っていた」というカリフォルニア大学へイスティングス・ロースクールのジョアン・ウィリアムズ教授の指摘を掲載しています。

 「たとえ男性が家事をもっと引き受けたいという強い思いがあっても、職場でフルに働くことを期待されるために挫折する場合がある」と同教授は指摘しています。無論、家庭でも稼ぎの多い男性に働いてもらう方が得策と考えるでしょうし、女性の方が育児や家事に向いているという従来の考えもあるでしょう。

 子供を持つ女性が働くために欠かせない保育や学校という社会保障機能が、コロナ禍で失われたり、弱められることは、男性よりも女性に深刻なダメージを与えています。少子化を女性の社会進出のせいとする伝統保守的な男性は、コロナ禍で女性は本来の使命に戻れると考える意見もありますが、会社でも女性の力が必要な時代、女性がキャリアを積めないのは社会的損失です。

 古い男性なら、「俺が一生懸命働くから、お前は家を守れ」というかもしれませんし、会社によっては職員のリモートワーク中の育児を禁止するケースもあります。夫婦に同じ条件が課せられた場合は、女性が仕事を諦めるしかありません。

 子育ては家庭と公的機関が一体となって行うのが先進国の原則ですが、公的機関のサービスがなくなれば深刻なダメージを受けるのは当然で、特に女性を直撃しています。日本のように継続的キャリアがなければ復職が困難な国では、一旦一線から退くと後がなくなるため、もっと深刻です。

 Withコロナは確実に働き方を根本から変えさせようとしています。キャリアを求める女性が、ますます結婚を避けるようになれば、少子化は加速するでしょう。日本の菅新総裁は「一生懸命仕事をすれば、必ず道は開ける」といっていますが、その伝統的考えは到底普遍化できません。

 男性も女性も活き活きと暮らせる社会を作るという意味で、コロナ禍は大きなリセットを要求していますが、それはけっして元の伝統的男女の役割に戻ることとは思えません。それより男性中心の働き方によって生産性を追求してきたシステムを根本から見直す時期が到来しているということだと思います。

 無論、本腰を入れて働き方改革に取り組む企業もありますが、コロナ禍で改革は急を要している状況です。デジタル化で仕事の効率化、生産性向上がもたらされる中、一人の人材の背後にある家庭を考慮した働き方改革を早急に進めなければ少子化はさらに深刻化する可能性があります。

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 日本は戦後、アメリカの圧倒的存在感により、アメリカの背後にある欧州は軽視するようになりました。そのため20世紀の2つの大戦以前に世界を主導してきた環大西洋同盟への意識は、あまりありません。無論、今はインド・太平洋が世界経済の中心になりつつあるわけですが、そこに先手を打っているのが中国です。

 今や中国にとって最大の敵となったアメリカに対して、中国から見える世界は大西洋につきだした日本とはまったく異なり、かつてのシルクロードをもとにユーラシア大陸の支配こそがアメリカに対抗する唯一の道です。広域経済圏「一帯一路」構想は、東の中国が西の到達点である欧州を手中に収めることです。

 欧州連合(EU)は14日、中国とオンラインによる首脳会談を行ないました。EU側からは議長国ドイツのメルケル首相、フォンデアライエン欧州委員長ら、中国側は習近平国家主席が出席しました。目的はEUと中国の投資に関する包括的合意達成を目指す首脳間の確認。

 年内に合意に至れば、欧州にとっては貿易の条件を定め、中国の補助金や欧州が保有する知的財産権の保護といった問題に対処でき、メルケル独首相の想定通りに事が進めば、気候変動対策における中国の役割を規定することにもなります。無論、中国投資による経済力恩恵への期待感が背景にはあります。

 では、中国にとってはどうなのか。一帯一路構想の最終到達点である欧州を手中に収めることでユーラシア大陸を支配し、さらにはアフリカ支配も視野に米・欧の大西洋同盟を完全に切り崩すくさびを打ち込むことが目的と見られています。

 当初、難色を示していた政府補助金の規制に対しても柔軟な態度に変わろうとしている中国は、米大統領選を視野に何がなんでも欧州との関係構築を急ぐ構えです。8月下旬から欧州を歴訪した中国の王毅外相は、今回の中・欧首脳会談の地ならしが目的でしかが、新疆ウイグル族や香港への弾圧に非難が集中し、欧州の空気の厳しさを痛感した旅でした。

 しかし、中国は多国間主義の欧州が、アメリカとは異なった世界観を持っていることを知っており、人権や政治問題と経済を切り離して考えていることも知っており、地政学的にも欧州に隣接するロシアへの警戒感は中国に対してはないと見られています。

 トランプ政権発足以来、大西洋同盟は陰りが見られ、特にメルケル氏はトランプ氏を敵視ししており、それが中国に対して脇を甘くしています。それに欧州産業界にとっては、成長するアジア市場へのアクセス確保は、EUの景気回復のために不可欠の条件です。

 欧州は対中警戒感が強まっているといいますが、アメリカ側に完全につくこともありえない状況で、大西洋の向こうアメリカと、シルクロードの向うにある中国を天秤にかけながらバランス外交を展開中です。本当はシルクロードの先にある日本との関係強化が重要ですが、中国にとってはアメリカとの関係の強い日本は邪魔の存在でしかありません。

 今回の首脳会談は 中国国営新華社通信が伝えるところでは、習氏は「平和共存、開放的な協力、多国間主義、対話と協議」の4つを強調し、言外に「アメリカこそ世界の破壊者」との認識を示し、多国間主義で嫌米のメルケル氏に共感を求めた模様です。

 欧州人は現実主義のアメリカ人、日本人と違い、理念的で観念的な美辞麗句が大好きです。中国共産党が最も得意とするところでもあります。コロナ禍で弱体化した欧州は中国にとって覇権外交の千載一隅のチャンスです。

 アメリカという敵と敵対する欧州を見方に取り込む敵の敵を味方につける外交戦力は、中国の非常に古くからある戦略の一つです。しかし、欧州では中国に甘いメルケル氏への批判の声も高まっており、旧中・東欧には多国間主義を偽善と見る見方も出てきています。

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leadership

 新型コロナウイルス対策でも「安倍政権はうまくやっている」というのが一般的な国際評価であり、経済運営でも先進国の中では「安倍政権は大きな失点はない」と見られています。国内保守派も総裁選では安倍政権の継承に総意があるように見えます。しかし、継承はうまくいくのでしょうか。

 「日本はうまくやっている」というコメントは国内外のメディアから聞こえてくることは多いのですが、それは日本人の国民の平均的知性レベルが高いこと、格差が拡がっているといっても欧米ほどの貧富の差がないこと、個人より集団の利益を優先させてきたこと、政治が安定していることなどが挙げられると思われます。

 そう書くと、日頃、安倍政権に批判的な人は不快に思うかもしれませんが、欧米の教育格差の現実は驚くべき状況にあり、アメリカやフランス、英国、ドイツなどでも勉強についていけないマイノリティー家庭の子供には冷たく、義務教育の途中で学校をドロップアウトする青少年は少なくありません。

 彼らが窃盗、傷害事件、麻薬売買に手を染め、治安を悪化させ、社会を不安定化させています。さらには彼らの中からテロリストも生まれています。差別と貧困、犯罪から抜け出せない状況の中、治安を守る警察は強硬な態度に出ざるを得ない悪いサイクルが出来上がっています。

 これは古くて新しい課題で、1970年代後半から80年代にかけて荒廃したアメリカの大都市のマイノリティー居住地区をテーマにしたアメリカ映画は少なくありません。それは収まっているかといえば、残念ながらそうではないために黒人差別への抗議運動も起きています。

 騒乱の鎮圧のために軍が動員される状況は日本にはありません。市営住宅などの貧困地区がテロリストの温床になっているとか、一般市民は危険で歩けない地区があるという状況も日本にはありません。フランスのように2年間も反政府の黄色いベスト運動で毎週末は繁華街が封鎖されることもありません。

 逆に言えば、国民があまりにも道徳基準が高く、優秀なので政治家に実力がいらないともいえます。優秀な官僚が作った政策を政府が施行しさえすれば、あとは真面目に国民はついてくる国など、そうはありません。マスクさえも着用義務への反対運動が起き、罰則のある措置がなければ国民は政府の要請を守ったりしない国が普通です。

 つまり、大した強いリーダーシップはいらないともいえます。報連相で管理するやり方も「人は嘘はつかない」「作り話はしない」という性善説が通用する日本社会だからこそのマネジメント手法です。上が下に対して進捗を厳しく管理する必要性も感じていません。

 日本では長く続いた官僚主導と縦割行政を脱却するため、政治主導に切り替えるため内閣府ができ、内閣人事局で各省幹部約600人の人事を行うようにしました。その制度はまだ、6年しか経っていません。意思決定権を持つ政府の方針に各省は従う体制を整えたように見えますが、弊害も出てきています。

 1980年代後半、欧米日本が中心となって立ち上げたビジネスプロジェクトに関与し、その時、意思決定や権限、人材配置で論争したことを覚えています。アメリカ出身者が「トップに選ばれた者が自分の意に沿うエグゼクティブスタッフを決めるのが当然だ」といい、「それでは権力が暴走する」と日本側が抵抗したことを覚えています。

 今の日本政府は、その欧米型の意思決定スタイルを踏襲しようとしていますが、その前提になる意思決定の透明性、徹底した議論、ヴィジョンを共有するためのリーダーの発信力、説得力はあまり論じられていません。政府が決めた政策に疑問を呈する官僚は排除されるだけでなく、昇進もできなくなる状況も生まれ、官僚の士気があがらないだけでなく、優秀な人材の官僚離れも起きているそうです。

 つまり、権限の棲み分けはできたのみで、リーダーシップの素質そのものへの問いかけ、マネジメントの仕方は未成熟なままに見えます。成功する組織は実力者が群雄割拠し、競争原理が働くと同時に自由に異なった意見がいえる環境があり、リーダーは強権を発するだけでなく、多くの意見に耳を傾けながら、最大限の納得感、共感を全員に与えるリーダーが必要です。

 その意味で日本の政治は過去にない大きな岐路に差し掛かっているように見えます。それに日本のトップリーダーは、いつの時代より日本のアイデンティティを明確にする必要があります。

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 欧州連合(EU)から年末に完全離脱を予定する英国に対して、日本はEUとは別に貿易協定を結ぶ必要を迫られ、約3か月という異例のスピードで交渉は決着し、関係者を驚かせました。それも英政府がEUとの離脱協定を反故にする国内市場法を議会に提出し、EUと英国の関係が悪化する最中でした。

 日本は政権交代を控え、閣僚や担当者が変わる前の決着が急がれ、英国もEUとの貿易交渉が頓挫する可能性もあり、早急にポジティブな材料が必要だったとも指摘されています。ただ、日本とEUの経済連携協定(EPA)をほぼ踏襲する内容だったことを考えれば、スピード決着も不思議とはいえません。

 両国間の貿易額の輸出入総額は現在約4兆円といわれていますが、英政府の試算によれば、貿易協定の締結でさらに約2.1兆円の上積みが見込めるということです。EU離脱後に貿易協定がなければ、関税引き上げや通関手続きの複雑化で企業は大混乱に陥るリスクがあっただけに、日本の経済界も歓迎しています。

 無論、完全離脱を待たずして国益重視を露骨にするジョンソン英政権は、国際法に違反し離脱協定をねじ曲げてでも自国の都合を優先する姿勢を見せています。その意味で日本にとっては、対EUよりリスクは高いともいえます。「あの英国が協定を簡単に反故にすることはあるまい」とはいえない状況だからです。それに施行は相当先に話になりそうです。

 ビジネスは信頼関係の上に成り立っており、対英ビジネスで不安要因がないとは言いきれなくなりました。それに今回の日英貿易協定では投資紛争の解決手続き(ISDS制度)導入が見送られました。環太平洋連携協定(TPP)の参加に意欲を見せる英国には、同制度が導入されているTTPへの参加交渉のハードルは高いかもしれません。

 20年前から、グローバルビジネスに関わる欧州のビジネスマンたちは、環大西洋の同盟国が世界を主導する時代は終わり、インド太平洋の時代に世界経済の軸は動いたという認識で合意しています。その意味でもEUを離れる英国が英連邦の大国オーストラリアもある環太平洋に軸足を移すのは当然といえます。

 特に大英帝国時代に築いたグローバルネットワークを手放さない英国は、過去に覇権を持った環太平洋に商機を見出そうとするのは当然の流れです。しかし、アヘン戦争以降英国を嫌う中国も待ち受けており、共通の価値観を共有するアジアの大国、日本との関係強化は最優先課題です。

 ジョンソン政権にとっては、ブレグジットに理解を示すトランプ米大統領との間で有利な英米通商協定を結ぶことで、環太平洋の盟主の日本とアメリカとの新たな関係を築くことは、離脱後の英国経済にとって極めて重要です。とはいえ、頭の固い英国人はアジアに偏見がないわけではありません。

 未だに英国のビジネススクールでは、日本及びアジアを見下げる傾向は消えていません。大陸欧州に至っては、さらに現実離れしたアジアに対する上からの目線があります。インド太平洋に商機がある一方で文明的蔑視も存在します。

 もしかしたら遵法意識の低いアジアの途上国では、国際法を無視する横暴な態度の英国だからうまくやれるという皮肉な見方もできるかもしれません。ただし、大英帝国時代のようなアジア人蔑視の不遜な態度は許されないことも確かで、成功するかどうかは英国次第ともいえます。

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 英政府が9日、昨年10月に欧州連合(EU)と締結したEU離脱協定に反する国内市場法案を議会に提出したことを受け、EUは法的措置も辞さない構えで大きな騒ぎになっています。さらには北アイルランド和平協定を危険に晒すとしてアメリカ議会も米英貿易協定に署名しないと警告を発しました。

 今回、英政府が議会に提出した国内市場法案は、離脱移行期間の終了後、離脱協定で定められた北アイルランドに関する議定書の一部を無効とする条項を含むものです。合意されている離脱協定では、アイルランドと北アイルランドの間で国境がなく自由に往来している現状を維持するため、年末の移行期間終了後も北アイルランドをEU単一市場にとどめる条項が存在します。

 結果として北アイルランドと海を隔てる英本土の間では離脱後、異なった税制やルールが課されるため一定の検査や手続きが必要となる見通しです。2016年の国民投票後の離脱交渉で、北アイルランド問題は交渉を長引かせた最も難しい問題でした。離脱強硬派は、北アイルランドを貿易ルールで分離する案は、一つの英国の原則を脅かすとして、反対していた内容です。

 とはいえ、北アイルランドとアイルランドの間に国境を設け、関税を巡る煩雑な手続きを生じさせれば流通は滞り、経済的ダメージが大きいだけでなく、北アイルランド和平協定(ベルファスト合意)を危険に晒すとして、アメリカは懸念を表明し、結果的に国境検問は設けず、北アイルランドだけはEU単一市場にとどまりながら、離脱後にさらなる検討を定期的に重ねることで合意していました。

 ところが、ジョンソン英首相は、離脱協定にある英・EU間の貿易協定が成立しない場合に発効するモノの移動に関するルール、企業に対する国家補助の取り決めを、英政府が一方的に無効化する権限も含まれた法案を提出しました。その権限には国際法に反しても適用されるべきと明記されています。

 これに呆れたEU側は、欧州委員会のフォンデアライエン委員長が「国際法に反するのみならず、信頼の喪失につながる」とツイッターに投稿しました。EU側は離脱協定の修正を試みれば自由貿易協定(FTA)は実現しないだけでなく、交渉を巡る混迷がさらに深まると不快感を示しました。

 法案を提出したジョンソン英首相は、離脱協定の北アイルランドに関する条項について「極端、あるいは不合理な解釈から英国を守る法的安全網」と英下院の答弁で説明しましたが、年末までに合意をめざす通商交渉に悪影響を与えるのは必至です。

 これを深読みすれば、現在、貿易協定の最終交渉プロセスにある中、英国側は英国に有利に貿易協定を締結するため、EUを脅しているともいえそうです。それで思い出すのは、昨年9月、離脱協定で紛糾する英議会を強引に閉会し、議論を封殺しようとしたことです。

 ジョンソン氏の目論見は最高裁判所の判決で違法とされ、結果的に公約していた10月31日の離脱は今年1月31日に持ち越されました。自分の思うようにならないと、最後は超法規的行動に出る癖があるともいえそうです。同時にEUに対する疑心暗鬼がありすぎるのかもしれません。

 ジョンソン首相は「英国の統一を維持すると同時に、ベルファスト合意を守ることが私の仕事」とした上で、「北アイルランドと英本土の間に国境線が引かれるような事態から英国を守る安全措置が必要」と訴えています。

 この揉め事に英国の後ろから米国のペロシ下院議長が参戦し、英政府の提出した国内市場法案について、トランプ政権が英国と締結をめざす自由貿易協定について、北アイルランド紛争の和平合意(ベルファスト合意)を危険にさらすのであれば、米英貿易協定が議会を通過する可能性はない」と警告しました。

 トランプ氏はジョンソン氏にEUからの合意なき離脱でも強硬離脱を支持し、米英貿易協定で英国経済は上向くとしていますが、トランプ政権と鋭く対立する民主党のボスであるペロシ女史は、これには反対です。アメリカの大統領選も絡んだジョンソン氏の国際法無視の法案はどうなるのでしょうか。

 問題は、政策を推し進めるために民主的な手続きを無視し、国際法に違反することも辞さない態度が、どこかののし上がった自称、経済大国の態度に似ていることです。議会制民主主義発祥の地である英国は、大英帝国の時代から遵法意識に欠ける同じような強引な行動を繰り返してきました。

 中国批判に舵を切っている欧州ですが、正式な協議で自分のヴィジョンに合わない結果になると、契約やルールを強引にねじ曲げようとするのは文明国のあり方とはいえません。それに離脱後もEUと共存・共栄しようという態度とはほど遠い傲慢な態度です。大英帝国の妄想に囚われたパラノイアともいえそうです。

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