安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 世界の注目を集めるアメリカの大統領選挙は、自由と平等、公正さを国是として人口的に作られた超大国の民主主義の行方が問われるものとして注目されています。特に一党独裁の管理型国家体制の中にいる中国人には、小さな政府による自由と民主主義を標榜するアメリカの選挙は自国にないものとして注目を集めています。

 混乱が続くアメリカ大統領選挙は、中国共産党政府にとって民主主義の崩壊、自国のシステムの正当性を証明するまたとない機会でしょう。暴動がエスカレートし、死傷者が大量に出て政治、経済、安全保障が揺らげば、中国式社会主義の勝利ということになります。

 中国が1980年代初頭に改革開放に舵を切った時点で、日本人は共産主義を捨てたと認識する人は多いのですが、欧米ではそう単純には見ていません。経済は確かに自由化されましたが、それは自由貿易を利用して経済を成長させるだけで、国家自体は完全に共産党政府に管理された社会主義国だからです。

 特に日本人が軽視しがちな信教の自由は保障されておらず、宗教をアヘンとした共産主義の考えは捨てていません。同時に宗教的信念を含む言論の多様性も認められておらず、香港にもその考えを適応し始めました。それに漢民族中心の民族主義も捨てておらず、新疆ウイグル族への弾圧を繰り返しています。

 自由経済システムを利用しながら、着実に超管理型の21世紀の中国式社会主義を世界に浸透させ、本音は中華思想にある世界支配をめざしているのが中国です。宗教、民族への弾圧、言論の自由の封殺を変える考えは毛頭ない以上、共産主義の血が流れているといえるでしょう。

 そんな中国の経済的に豊かになってからの新しい世代は、実はアメリカへの憧れは非常に強いものがあります。無論、子供の時から共産党政府による徹底した反民主主義的愛国教育を受けているので、簡単にアメリカに亡命するわけではありませんが、いつも気になっている存在です。

 そこで民主主義に表れる意見の多様性が、どのように調整されていくのか、民意はどのようなプロセスで反映されているかは彼らは気にしているところです。そこでの注目点の一つが意見の対立です。日本でも対立そのものが良くないという考えが強く存在します。

 「長いものに巻かれろ」「寄らば大樹の陰」という諺にあるように、権力者や世相の大方の流れに従うことが身を守る処世術だと考えられています。自己主張が強い人間は煙たがられ、会議や交渉で対立が起きると、まずは対立を抑えることに走るのは「和を持って尊し」とする精神でもあります。

 しかし、本来、西洋で生まれた民主主義の原則は、言論の自由が保障され、対立すること自体は正常な状態です。ユダヤの世界では会議参加者が全員賛成したら決めないという慣習があります。反対意見があるからこそ客観性が担保され、リスク認識もできると考えているからです。

 無論、この場合は対立には条件があり、それは紳士的に行うことです。それは意見と人を分けることでもあります。自分の意見に反対する人間を憎めば、民主主義のルールからは逸脱することになります。さらにそこには参加者の良識も必要です。

 また、大原則はヴィジョンを共有することです。なんのための議論かということです。理性的議論には上下はなく、ヴィジョンに向かって意見の対立点を明確化し、そこからより良い結論を導き出すのが民主主義の原則です。

 ところが東洋では意見と人間を分ける文化がありません。儒教の影響もあり、人間の上下関係が強調され、同時に「支配するかされるか」という意識が強く、議論で勝てば人を支配でき、負ければ屈伏せざるをえないということになり、権力主義、権威主義に陥りやすいのが東洋です。

 無論、西洋でも、特に勝負の好きなアメリカには弱肉強食の考えが強いので、勝ちに行こうとする傾向は強いのですが、その一方でキリスト教の人を憎むことを良しとせず、許しと寛容さの精神が働いているのも事実です。この考え方は民主主義を支える上でかなり決定的です。

 アメリカでは、分断という言葉が盛んに使われていますが、政治家は偽善的で社会の分断を加速させたオバマ政権のバイデン副大統領が、トランプ政権による分断を避難する資格はないと思いますが、意見の対立そのものは民主主義社会では正常なことです。

 その正常さはアメリカでは今も機能しているし、アメリカの人種差別を批判できる国は世界のどこにもありません。むしろ、この試練で民主主義が強固になると思われ、今は一時的に中国が自国のシステムの正当性を証明できたと思うかもしれませんが、そのうち歯噛みする時がくると私は見ています。

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 われわれは今、過去にない露出度の高いトランプ米大統領のおかげもあって、大統領選への関心度は多分、過去最大級に高まっています。同時に自由と平等、公正さを旗印に人口的に作られた希有な多民族国家が構築してきた民主主義の行方を世界は目の当たりにしているといえます。

 メディアは、投票日から最終結果が確定していないことを異常な状況と報じていますが、この葛藤や混乱こそ、民主主義の真価が問われていると思います。自由を保障しながら平等を確保し、その両者のバランスを取るための公正さを重視するアメリカの理想は他の国の追随を許さない高さです。

 その理想と現実のギャップの大きさも計り知れず、人種や男女の違いだけでなく、知的レベルや教養、スキル、貧富の差など、ありとあらゆる差を持つ人間が、同等な権利を持ち、主張することができる社会を実現使用という試みは、長い歴史を持つ国々が実現したことのないものです。

 今回の大統領選で見誤りがちなのが、連邦政府と州政府の関係です。普通の国は、国の政府が圧倒的権限を持つわけですが、アメリカは連邦政府はできるだけ小さくして影響を行使せず、州政府に裁量権がある国です。六法全書が存在せず、州ごとに法律も異なり、州知事は一国を率いるリーダーのようです。

 アメリカ国民といいますが、パリに来るアメリカ人旅行者に「どこから来たのか」と聞くと「オハイオから」とか「ロサンゼルスから」と州や都市の名前で答えるのが常です。「アメリカから来た」と答えるアメリカ人に会ったことはありません。

 同じことは英国にもいえ、私が教鞭を執っていたフランスのビジネススクールで英国人教授に「どこから来たのか」と聞くと、「私はウエリッシュだ」とか「スコティッシュだ」と答えるだけで、せいぜい「ブリティッシュ」というのが精一杯です。スコティッシュにイングリッシュといえば怒られます。

 英国は2016年に欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で決めましたが、今年1月の離脱に至るまで4年半を要しました。その間、何度も離脱協定が議会で否決され、政権もメイ氏からジョンソン氏に変わり、離脱交渉に費やした費用も莫大な金額です。それは民主主義の手続きの煩雑さを表しています。

 アメリカの大統領選も州ごとに郵便投票の扱いが異なり、有効票の消印問題や何日まで郵便投票を受け入れるかも違います。ジョージア州は結果が僅差なので「正確を期すため再集計する」と表明しました。集計を巡ってはトランプ大統領が法廷闘争に持ち込む構えです。

 巷では両陣営の対立が深まり、衝突も起き、暴動に発展しないよう当局が警戒を強めていると報じています。

 今や大手メディアの世論調査は信用されず、SNSなどで保守、リベラルともに互いを非難しながら多様な意見が交わされています。オバマ時代から深刻化した分断はブレーキがかからない状況です。

 民意を反映するのに既存メディアの影響が驚くほど低下した今、多分、有権者が再びメディアを信用する状況に戻るかは疑問です。というのも8割がリベラルといわれるアメリカのメディアは最初からトランプ氏への嫌悪感を露わにし、バイデン氏に加担してきたからです。

 英国でも客観報道で世界的評価を得、日本のNHKが見本としてきた英BBCは、クリントン候補が落選し、トランプ政権になって以来、完全に客観報道を止め、反トランプキャンペーンに終始してきました。トランプ支持者の英国人の友人は「今は一切、BBCの報道は見ない」といっています。

 同じ英語圏のアメリカに対するBBCの態度は、今は完全に上から目線です。自国でもないのに、まるで遅れた独裁国家の独裁者を扱うようにトランプ大統領を扱い、選挙で選ばれた国家の首長をリスペクトすることなく、傲慢な内政干渉報道を繰り返してきました。

 歴史的に英国がアメリカを生んだという背景があったとしても、国力は比べられず、英国の世界へのプレゼンスは大英帝国時代に比べ、見る影もありません。それなのにアメリカを上から目線で見て、批判を繰り返す頭の古さには首をかしげます。それより自国の民主主義の停滞をなんとかすべきでしょう。

 とはいえ、社会主義国や独裁国が民主主義の弱点をついて、巧妙に他国に侵入し、覇権を強める今の時代、民主主義国家が自信を失っているのも事実です。やっぱり権力が集中し、意思決定が早い独裁国の方が物事を進めるには有効という事実を中国のコロナ対策は見せつけました。

 国民の自由と言論を封じ、中央政府の決定に絶対服従する独裁国家が世界に脅威を与えています。煩雑な意思決定プロセスが存在する民主主義はスピード感がなく、いつまでも揉め続け、政策が実施に移されるまで膨大な時間と労力が必要です。

 しかし、絶対君主制の歴史経験から権力が一定の個人に集中する弊害を学習したヨーロッパ、その流れを組むアメリカは、民主主義を変更することはありません。人は権力を持てば堕落する可能性は限りなく高く、腐敗した権力は国を駄目にするのは明らかだからです。最後は権力維持のための粛清や弾圧が起きるのが常です。

 ただ、民意の反映を最優先するには、その国民に一定の良識が必要で、その良識が保障されない国に民主主義を導入すれば、悪意に国が乗っ取られるリスクがあります。つまり、民主主義は国民の良識と善意によってしか成り立たないということです。

 アメリカの大統領選の葛藤には、アメリカ人の良心を支えてきた建国以来のキリスト教精神がありました。それは一定の生活規範に支えられたものです。ところが今、寛容さの仮面を被り規範を嫌い、何でもありのリベラル思想の浸透で、アメリカの民主主義が脅かされているように見えます。

 これは1960年代から70年代にもありましたが、リベラルに振れすぎた若者たちは、やがて自ら正常に戻り、保守に戻っていきました。それを描いたのが映画「フォレスト・ガンプ」でした。しかし、今回はリベラルが巧妙化し、問題を見えにくくしており、社会の分断は深まる一方です。

 それでも民主主義の崇高なシステムが、どう機能するか注意深く見守りたいものです。それにアメリカ人の良識がどう働くかも注目点です。

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 1980年代後半、ジャパンバッシングが最高潮に達したころ、幾つかのアメリカの州政府の要請を受け、アメリカを取材したことがありました。そこで見たものは連邦政府は政治的理由もあって、日本のバッシングに余念がない一方、州政府は日本企業誘致に熱心だったという事実です。

 アメリカは州の独立性が非常に強く、連邦制をとっているので週ごとに異なる州法が存在し、連邦議会も州との関係を常に考慮しながら政権運営している国です。大統領選で開票問題に揺れるアメリカですが、大統領一人で多くのことが決められるわけではないことはアメリカを知る上で重要です。

 つまり、大統領を中心とした連邦政府、上下議会、州政府のそれぞれ一定の権限が与えられている国です。今回、大統領選とともに開催された議会選挙で、勢いづくはずの民主党がしぼんでしまった原因は、のトランプ政権の4年間の民主党議員への不満の現れだったともいえ、興味深い現象です。

 民主党は今回の連邦議会選挙で、上下両院で過半数を握り、トランプ氏が再選された場合は政策を阻止し、バイデン氏が勝てば政府を後押しすることが期待されていました。ところが実際には多くの共和党現職が議席を守り、過半数を維持し、下院でも過半数はなんとか維持したものの、いくつかの主要州で民主党は議席を失いました。

 米議会選挙結果を受け、米ブルームバーグは「ナンシー・ペロシ下院議長(80)の威信と権力は低下した。民主党が下院で過半数ながら勢力を後退させ、共和党が交渉力を高める状況で、同氏は米議員として最後の任期を迎えるとみられる」と指摘しました。

 皮肉にも市場は上下議会が完全に民主党に支配されない状況になったことを歓迎している模様です。たとえ大型財政出動やエネルギー部門への投資縮小、増税など経済リスクの高い政策を掲げるバイデン氏が選出されたとしても、議会のねじれで政策の実施は調整されることへの期待感が高まっているといえそうです。

 そもそもトランプ大統領の一般教諸演説後に議長席で大統領の原稿を二つに切り裂く暴挙に出たペロシ下院議長は、政治家に必要な交渉力に欠けていると指摘されていました。今回、彼女は強引な議会運営への嫌悪や連邦議会選で何人かの民主党議員の落選に繋がったといわれ、批判を受けています。

 新型コロナウイルス対策で、トランプ政権を追い詰めるのに躍起になりすぎ、不評を買ったともいえそうです。正常な議論より、トランプ憎しが先立ったことは、有権者には不快だったのかもしれません。

 大統領選の開票が法廷闘争にもつれ込む情勢で国の分断と混乱が報じられていますが、アメリカの民主主義のシステムが崩壊しているわけでないことは知っておくべきでしょう。この混乱で安全保障が揺らいだりするほど、意思決定が脆弱な国ではないということです。

 バイデン氏が勝利しても議会では共和党の発言力が増し、むしろトランプ氏が再選されれば、民主党はますます劣勢に立たされることになります。民主党は今、それを自覚したため、どんなことがあってもバイデン氏を勝利させようと必死になっている状況です。

 大統領選の開票闘争ばかりが報じられ、各地で抗議デモ隊の一部が暴徒化し、死傷者を出していることが強調され、アメリカが過去にない試練の時を過ごしているのは確かですが、これまで積み上げてきた民主主義の真価が問われている大事な選挙ともいえるものです。

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 中国は習近平国家主席が最高指導者になって以来、改革開放で手にした資金を当時、世界覇権に向けて大きく舵を切りました。その結果、4年前に誕生したアメリカ第1主義のトランプ政権によってアメリカの高度な技術や情報が不当盗まれ、途上国を手中に収める債務の罠もあぶり出されました。

 もともと歴史的に欧米先進国と折り合いの悪い中国は、欧米先進国が主導する世界のルールに従う意志はなく、逆に自国独自の社会主義で世界を支配したいという野望を持っているのは確かです。その中国の姿勢がアメリカのみならず、ヨーロッパにも伝わり、今では中国バッシングは世界に拡がっています。

 これで覇権主義は容易でないことを学習しつつある中国ですが、コロナ禍で先んじて感染拡大を押さえ込み、経済復活が顕著な中国は、再び世界への開放姿勢を強めていますが、世界は中国に対して心を閉ざす現象が強まっています。

 本来は経済は政治とは別物で、アメリカが進める「デカップリング(分離)」は、アメリカにも犠牲を強いるもので、今回の米大統領選でも暗い影を落としています。グローバル化で職を失った米ラストベルト地帯にトランプ大統領は企業を呼び戻すとはいったものの十分な結果を出せませんでした。

 むしろ、アメリカは米中対立で高額な投資や想定していた改革は実行できず、苦戦が続いています。一方、中国はコロナ禍後の経済復調が問題なく進んでいるように中国メディアが伝えていますが、実態、アメリカとの対立がもたらしたダメージは非常に大きいはずです。

 対中強硬路線に舵を切ったヨーロッパやオーストラリアのように他の国が中国追い出しに追随する動きも出ている中、途上国のふりをして利益を上げてきた中国は次の手を考えざるを得ないのが実情でしょう。つまり、世界に刺激を与えすぎ正体が明らかになり、戦略変更が必要な時期に入ったといえそうです。

 仏日刊紙、パリジアンは1日5万人の新型コロナウイルスの新規感染者出しているフランスが2度目のロックダウンを行う中、路上で中国人に唾を吐き掛けたり、殴ったりする被害が急増していることを伝えています。理由は中国人がフランスにウイルスを拡散させ、ロックダウンを強いられていることへの怒りです。

 中国は今、主要貿易相手国の間で反中感情が劇的に高まっており、中国とは友好的だったはずのドイツでさえ、米調査会社の報告では、中国に否定的な印象があると回答した比率はドイツ人で71%に登っており、米国人の73%に迫っています。韓国人のなんと75%がネガティブです。

 今の中国経済の回復基調は、他の先進国がコロナ禍にある中で中国は1時的な退避場所になっているだけで、世界の他の地域が立ち直った際には、対中投資は冷え込む可能性が高いと、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は指摘しています。

 中国は今、アメリカ大統領選に見られる混乱と国内の分断、ブレグジットで欧州連合(EU)の求心力が低下するヨーロッパを見て、漁夫の利が得られると考えているかもしれません。しかし、そこまで世界の経済システムは膳弱とは思えません。

 トランプ氏が勝利した場合だけでなく、バイデン氏が勝利し民主党が政治運営したとしても、中国との経済のデカップリングは元には戻らないというのが大方の見方です。特に注目点は、ヨーロッパと中国が交渉を続ける投資協定が決裂した場合、世界の中国離れは加速すると見られています。

 中国は国内に誘致した外国企業からの不当な技術盗用に非難が集中する中、外国企業(特に自動車産業や金融)が中国で事業を継続しやすいよう、批判されてきた合弁事業要件の一部を廃止する新ルールを設定しました。それで米電気自動車メーカーのテスラや米金融大手JPモルガン・チェースなどの投資につなげています。

 それに実力をつけた中国企業、特にハイテク産業への支援を行ない、アメリカや日本から得ている高度技術を伴うハイテク部品を国内で調達できるように舵を切っています。

 「国際通貨基金(IMF)の2019年11月のワーキングペーパーによると、中国の情報通信技術(ICT)セクターの生産性の伸びは、過去20年間の同国のあらゆるハイテク産業の中で群を抜いている」とWSJは指摘しています。
 
 しかし、批判を浴びる新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧や香港への一国二制度の破棄への動きを変えるつもりのない中国の新たな経済政策は、中国の孤立化を加速させ、うまくいかなくなる可能性は高いとWSJは結論づけています。つまり、世界的分断と混乱で漁夫の利は得られないという話です。

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 何を隠そう私もアメリカのトランプ大統領のツイートをフォローしている一人です。大統領が毎日何回もツイートするのは今のデジタル時代らしい発信の仕方ですが、内容は時としてその下品さや荒っぽさ、教養のなさも垣間見え、実際の任期中の実績が霞んでしまうことは残念なことでした。

 日本もそうですが、ヨーロッパも基本的にはバイデン前副大統領候補支持が多く、トランプ氏の礼儀のなかを毛嫌いする人は少なくありません。ヒューマニズムと多国間主義を標榜する仏独だけでなく、アメリカと特別な関係にある英国も「壊し屋」のトランプ氏を嫌う人は多いといえます。

 大統領選の結果がいつ判明するかは不明ですが、まず、ケンカっ早そうなトランプ氏は、レーガン大統領以来、自ら戦争を世界に仕掛けなかった唯一の大統領でした。

 確かに民間人に化学兵器を使用したことでシリア空軍基地にミサイルを打ち込み、テロの黒幕のイランのカセム・ソレイマニを殺害しましたが、戦争に発展するような攻撃ではありませんでした。

 平和を標榜し、ノーベル平和賞を受賞したオバマ前大統領は8年間の在任中にアフガニスタンやイラクから駐留米軍を撤退できず、シリア、イラクの内戦収拾もできなかっただけでなく、シリアのアサド大統領が化学兵器を使用しても傍観し、その弱腰を見て過激派組織、イスラム国(IS)が一挙に勢力を拡大しました。

 北朝鮮が密かに核武装したのも、オバマ政権時代でした。中国は南シナ海に軍事基地を整備し、オバマ政権が世界の問題に無関心で介入する意志が薄いのを見ると、一挙にロシア、中国、北朝鮮、イランといった権威主義の国が覇権を強め、世界は不安定化してしまいました。

 アメリカ国内を見ても、民主党が今、トランプ氏が国家を分断したと非難していますが、実はオバマ政権末期にもアメリカ国内メディアは「オバマ政権は保守・リベラルの対立、国の分断を加速させた」と批判していました。

 日本では最後まで人気の高かったオバマ氏ですが、バイデン氏の応援演説でトランプを国の分断の張本人と批判するのは、自分の罪を隠す狙いもあるようにしか見えました。

 偉大な実験国アメリカは今、建国以来の大きな岐路に立たされているように見えます。社会主義のソ連帝国に勝利したはずのアメリカは、国内が今、まるで冷戦状態に陥り、保守派もリベラル派も市民は武装して、いつ内乱が起きるか分らない状態に陥っているようにも見えます。

 これを全てトランプ氏のせいにし、変化の本質と向き合わなければ、世界も悪影響を受けるのは必至でしょう。無論、今はトランプのおかげで世界1の産油国になったアメリカには、GAFAと呼ばれる世界最強の巨大グローバル企業もあり、まだまだ、新しいものを生み出す力も持っています。

 実はたとえばコロナ禍を除けば、年間の外国人旅行者数はフランスが長年、トップの座を維持していますが、その旅行客がもたらす観光収入はアメリカが世界トップです。それに今でもアメリカに移住を希望している外国人の数は減る気配がありません。

 私の知る限り、驚くかもしれませんが、アメリカは最も差別の少ない国です。そして新しい物を生み出す力の源である自由も世界一保障されている国です。40カ国以上を取材してきた私から見れば、アメリカの世界に対するプレゼンスは落ちたといわれますが、21世紀の世界秩序をアメリカ抜きで考えることはできません。

 私個人は、アメリカは原点に帰り、世界に対して大きな責任と使命があることを再確認し、保守リベラルの違いを乗り越えるより大きな目標を見つける必要があると思っています。9・11テロ、イラク戦争以降、それを見失ったことが、アメリカの混乱に繋がっているように見えます。

 大きな目標を共有するには、過大な要求を提示するトランプ流ドア・イン・ザ・フェイスのビジネス交渉スタイルには限界があるはずです。内政も外交もビジネスとは違うからです。そのせいでたくさんの敵を国の内外に作ってしまったのも事実です。

 保守派は人格より行動力といいますが、何でも一人ではできないことを考えれば同盟国を敵にして成果は出せないでしょう。アメリカ国内でも下院で与党の民主党を敵視していては法案も通せません。

 トランプ氏は、上品な政治エリートではない勝負が大好きなアメリカ人を代表する人間で、アメリカ人は西部開拓史の流れ者判事ロイ・ビーンを想起する人もいます。しかし、今の時代に破天荒で手荒なビーン判事とトランプ氏を重ねるのは無理もあるでしょう。

 無論、国内外のならず者を一掃するのに手ぬるいことはしないという構えは、ビーン判事に似ています。女性に弱く、その大衆性もトランプの魅力なのでしょう。善くも悪くも表裏のない分かりやすさがアメリカ人らしいともいえます。

 オバマ氏もトランプ氏もアメリカ社会が生み出した21世紀の大きな変化の時代の寵児だったといえます。ネックストコロナが生み出す指導者は経済を潰すことなく、国民の生命を守ることが求められていますが、世界を大混乱させないことは、もっと大切なことだと思います。

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大国を率いるビジネスマンリーダー

 

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 今や日本では新型コロナウイルスの感染で冷え上がった観光業が、Go toキャンペーンでにわかに活気づいています。実は今夏のフランスの長期ヴァカンスは、旅行への政府の支援はなかったものの、ロックダウン明けに解放感を味わいたいフランス人が国内旅行で例年以上にお金を使ったことが調査会社の報告で明らかになっています。

 海外旅行が容易でない今年、フランスの多くの観光地はフランス人で溢れました。私の周辺を含め、「フランス再発見だった」というフランス人は少なくありません。ヴァカンス客を受け入れる側も外国人よりフランス人が多かったことは、珍しい現象だといっていました。

 日本は外国人観光客の急増で国内旅行が活気づいていたのが、コロナ禍で今は日本人客をあてにするしかありません。来年に東京オリンピックを控え、観光業の弱体化はなんとしてでも避けたいところです。とはいえ、ワクチンの開発などでコロナ感染が鎮静化すれば、インバウンドにも期待が寄せられていることでしょう。

 そこで注目されるのが世界的に評価の高い日本のおもてなしです。伝統と格式で知られる和倉温泉「加賀屋」の信条にはおもてなしの心がよく表現されています。それは「宿泊客が求めていることを、求められる前に提供すること」です。これぞおもてなしの極意というわけです。

 ホスピタリティの目的は、客に喜んでもらい、最大限の満足を与えることにあるわけですが、それには客の要求や何に満足するのかを正確に知る必要があります。同じ日本人ならそれを想像することは容易だし、経験知も多く問題ありません。

 しかし、日本の常識が世界の非常識といわれるほど、日本は世界でシェアできるものが多くはなく、日本人の延長線上に外国人の要求や満足度を推し量ることは困難です。つまり、相手の求めることを先回りして求める前に提供するハードルは非常に高いといえます。

 たとえば、グローバルスタンダードの贅沢を売りにするホテルに泊まったフランス人の友人夫妻は、成田空港から宿泊先の東京都内のホテルにタクシーを使ったそうです。ところが渋滞に巻き込まれ、2時間掛かり、3万円払わされたそうです。

 友人は、予約したホテルのサイトには、空港が遠く渋滞もあることや別の交通手段について何も説明がなかったと不満を爆発、さらにホテル到着後、予約した部屋の料金がルームチャージではなく、1人いくらということを聞き、さらに怒りが高まり、贅沢な装飾の部屋に通された時は頭が真っ白になったといっていました。

 彼らは毎年5度以上、海外旅行していますが、そんな経験をした事がなかっただけにショックを隠せなかったといいます。そのため、ホテルでその後、丁寧な日本式接待を受けても不快感の方が上回り、後味の悪い旅行だったといいます。

 日本には日本にしかないルールが山のようにあります。よく外国の異文化を知るのは大変だといいますが、実は日本に行く人たちにとっても日本は異文化です。それも相当違和感を持たれる違和感です。日本のおもてなしは素晴らしいという自画自賛をよく聞きますが、それも多くはお金と表裏一体です。

 無論、おもてなし精神には、痒いところに手が届くようなきめの細やかなやサービス、なにより、もてなす側の礼儀正しさは大いに賞賛すべき点でしょう。何でもチップなしには動かない欧米スタイルのサービスに慣れている人には新鮮で、無償の愛情まで感じる人もいます。

 しかし、サービスはあくまで相手を知らなければ適切な対応はできないものです。無論、そのために経験を積み重ねる事も重要ですが、前提となっている異文化を知る事は重要です。たとえば今の一般的な中国人は高度なサービスを求めているわけではなく、社会主義の国では国のものは自分のものでもあるという意識があり、日本人の知らない世界です。

 アジアを植民地にしてきた西洋からの観光客の中には、アジア人を見下げている人は今でもいます。そのためチップは払う一方、下僕のような扱いをする西洋人もいます。

 いずれにせよ、異文化への無知は、先回りして求めるサービスを提供するどころではなくなる可能性もあります。人は何に満足するのかは、客観性を持って知る必要があり、さらに客1人1人からのフィードバックを重視し、学習する必要があるわけです。

 きめ細やかな対応というなら、国別、階層別の対応マニュアルをパリのように作るべきでしょう。パリ商工会議所が作ったマニュアルは興味深いものです。そこには日本人観光客が重視するのは「安心」だと書いてあります。的確な指摘だと思います。

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 フランスでは10月だけで3回も残忍な襲撃テロが起きました。リヨンで最後に起きたギリシャ正教会の聖職者襲撃事件はテロかどうか判明していませんが、新型コロナウイルスの感染急拡大で今年2回目のロックダウン(都市封鎖)に突入したフランスでは、人々は不安と恐怖に晒されています。

 多くの活動が停止される中、政府は学校の授業は継続することにしましたが、11月2日、学校ではムハンマドの風刺画を生徒に見せて殺害され、国葬に付されたた歴史教員、サミュエル・パティさんに対して、1分間の黙祷を捧げることになっています。

 左派教員が圧倒的に多いフランスの公立学校では、表現の自由の名のもとにイスラム教予言者を侮辱する権利が強調されており、パティさんは表現の自由の殉教者と讃えています。イスラム教の脅威とはほど遠い日本では関心も薄いのですが、リベラル思想を小さい時から植えつけることに専念する教師たちは、パティさんの氏は好材料になっています。

 しかし、多くの児童心理学者が、今回のことを直接、表現の自由の権利に結びつけたり、イスラム過激思想を糾弾する材料にすることには慎重であるべきだと指摘しています。心理学者のセルジュ・ティセロン氏は「中立であることが重要だ」と仏メディア、フランスアンフォで述べています。

 ティセロン氏は「子供は大人と違い、どんな風に殺害されたのかなどに興味を持つ」、大量の情報が行き交う今の社会で、十分な判断能力を持たない子供は、事実から精神的ダメージを受ける可能性は高いことを考慮すべきとということです。

 パティさんが首を切断されて殺害された事実は、子供にとって一生忘れられない恐怖とトラウマを与える可能性があります。大人が勝手に、だから表現の自由が大切だと教えこもとしても、実際はそれを行動に移したパティさんは残虐な方法で殺害されており、その事実が脳裏から離れなくなる可能性があります。

 実はパティさんが生徒に見せたムハンマドの風刺画も13歳の中学生が消化できるようなものではなく、非常にグロテスクなものでした。つまり、ティセロン氏が指摘するように、子供たちは、事件の経緯より、どんな風刺画だったのかなど多様な興味を持ち、それはすでにネットで拡散されています。

 大人社会にとっては非常にインパクトのある事件でも、その事実な意味するものの伝え方を間違えると子供には逆効果になるという話です。同事件後、メディアの中には18歳の容疑者がチェチェン人だったことから、チェチェン人の残虐なDNAに言及するメディアもありました。

 米ボストンマラソンの爆弾テロの実行犯の兄弟もチェチェン人移民でした。日常に残忍さが存在する環境で育つと、残忍さはやがて子供に伝染していくということは、たとえばアフガニスタンでタリバンが子供を育てる時、あるいはシリアで脅威となったイスラム国(IS)が、子供に処刑の場を見せていたことにも繋がるものです。

 熱心なカトリック教徒の私の妻は、パティさんが見せたムハンマドの性的グロテスクな風刺画を見て「どうして13歳の子供に、こんなものを見せたのか酷い話だ」と激怒していました。大人には笑いの材料であっても子供には毒でしかないものはたくさんあるはずです。

 心理学者たちは「子供たちが知りたいことには、ある程度慎重に答える必要がある一方、彼らが求めていないことは与えるべきではない」と指摘し、「結論めいたことをいうことは避けた方がいい」と述べています。まずは子供たちが何を求めているかに集中することで、子供たちがどんな情報に晒されているかを正確に知る必要があるというわけです。

 「子供に悪影響を与える情報から子供を保護するのは困難だが、彼らが関心を持たない詳細を提供しないこと」「親は善意から、ひどいことを説明しようとしても、それは子供たちの心に大人が思うこととは別のイメージを定着させるリスクがある」とティセロン氏は警告しています。

 「目標は物事を隠すことではないが、子供が知りたくないことは尊重すべきだ」ともいっています。実際、パティさんが表現の自由の授業で、子供でも笑える様なユーモラスな風刺画を見せていれば悲劇は起こらなかったのは確かなことです。

 そこで思い出すのは、日本の小学校で終戦記念日にアニメの「火垂るの墓」を見せ、反戦教育をしていることも私には疑問です。戦争の悲劇を伝えることは重要ですが、思想を植えつけるのは別問題だし、非常に残酷で悲しい結末は、大人向けのものだと思うからです。

 重要なことは、子供たちに同じ悲劇を繰り返さないように育てることですが、テロや戦争には原因があり、それは非常に複雑です。原因を取り除かない限り悲劇は繰り返されるのが常です。故シラク元大統領は「表現の自由は責任を伴う」といいました。その責任論は左派勢力によってフランスでは完全に封殺されているのは残念です。

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   フランス人は田舎暮らしが大好き

 フランスでは30日午前0時から、新型コロナウイルスの止まらない感染拡大を受け、今年2度目の1カ月間のロックダウン(都市封鎖)に入りました。ところが、ある噂が流れています。それはテロの脅威が高まっていることから、テロを実行させない措置ではないかというものです。

 9月に風刺週刊紙シャルリー・エブド旧本社前で2人が殺害され、10月にはムハンマドの風刺画を授業中に見せた中学校教員が斬首され、ロックダウン前の29日にはフランス南部ニースでのノートルダム大聖堂内で3人が殺害されました。

 私は9月に入り、テロの予兆を強く感じ、このブログや幾つかのメディアに書きました。駐在員にとってもコロナ禍でテロの脅威が高まっていることは深刻な事態です。テロリストも外出が禁止されれば、自分も行動できず、標的の人間もいなくなるので、ロックダウンすればテロはある程度抑え込めるはずです。

 それはともかく、ロックダウンと聞いて、29日夕方から、パリから地方に向かう幹線道路はパリを抜け出す車の数百キロの長蛇の列ができました。無論、フランスは11月1日がトゥサン(諸聖人の日)で故郷で墓参りする日です。政府は帰省を奨励しており、花屋も1日夜まで開店が許されました。

 しかし、地方に向かう車は墓参りに行く人々だけではありません。パリを脱出し、地方で1か月を過ごすパリ市民も少なくないからです。すでにパリ市内のスーパーでは巣籠もりに備え、まとめ買いする人々が殺到する一方、脱出組も相当な数にのぼっているようです。

 週末を過ごす別荘を持つフランス人は少なくないのですが、彼らが貧困層でないことは確かです。パリ脱出組には、これからの1か月をパリのアパートではなく、別荘でゆっくり過ごそうとしている人は少なくありません。

 パリ東部郊外に住む義妹のジャックリーヌの家は庭付きの一軒家。「3月から55日間続いたロックダウンでは、庭があったことで命を救われた。庭で毎日夫と運動し、食事もしていた」といっていました。息子夫婦はアパート住まいだったので西部ブルターニュ地方の別荘に移動しました。

 「パリ市内のアパートの住む友人たちは、狭いアパートに小さなバルコン(ベランダ)じゃ、とてもじゃないけど窒息しそうだといっていた」と彼女はいっていました。

 パリ市内南部のアパートのするIT企業に勤めるフランス人の友人は、ノルマンジー地方のセーヌ川沿いにある別荘に、さっさと移動してしまいました。別荘を持つフランス人の多くは、週末を別荘で過ごす習慣があり、中には最初のロックダウンでパリのアパートを売り払い、別荘に引っ越したパリ市民もいます。

 夏までに約20万世帯のパリ市民が地方に引っ越したという統計もありますが、このロックダウンでwithコロナの長期化を考え、地方移住が加速する可能性は極めて高いといえます。それにテロの脅威は都会の方が高いのでなおさらです。

 フランス内務省が出す犯罪白書の空き巣被害の蘭には、本宅への侵入盗、別荘への侵入盗、商業施設への侵入盗の3種類はあります。それほど別荘は一般的なものだといえます。私の周辺の中間層のフランス人たちを見ても、30代で最初の別荘を持つ人は少なくありません。

 無論、別荘など到底手にできない人たちは、別荘に向かう車の長蛇の列を複雑な思いで見ているでしょう。彼らには逃げる所もないということです。

 一方、地方では大都市から引越しが増えて不動産価格が高騰している町や村もありますが、明暗は別れています。鉄道や車の交通の便やその他のインフラが整備され、環境がいいところは活況を呈しています。週1回はパリのオフィスに行く必要がある場合は交通の便は重要です。

 中には長期滞在型のペンションなどが都会からの脱出組の受け皿になっている場合もあるそうですが、あまりにも急なロックダウンで、移動は容易ではありません。

 日本よりは比較的広いスペースに住むフランス人ですが、最初のロックダウンは、よほどトラウマになっていることがうかがえます。ワークライフバランスがライフに重心を置くフランスでは、コロナ禍による生活制限はストレスでしかありません。

 結構、コロナ禍での保障が手厚いフランスでは、生活懸念より、生活の質低下が最も大きな懸念材料といえます。だいたい自分のことは心配しても会社のことを心配するフランス人はあまりいません。別荘で過ごす1か月に私のフランスの親族は心弾ませたりしています。

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 ある調査によると約70%の日本人がコミュニケーションは苦手と答えているそうです。集まった仲間で会話が弾む雰囲気なのに、そこに入っていけないとか、仕事での行き違いが多いとか、いいたい事をうまく相手に伝えられないとか、コミュニケーションを取る事が苦痛になっているケースは少なくないようです。

 無論、コミュニケーションが得意そうなフランス人にも人間関係を作るのに苦労している人は少なくありません。フランスの大学で教鞭を執っていて発見した事は、意外と孤立している学生が多い事でした。欠席している学生に課題プリントを渡すのに出席している学生に頼むと「彼の事は知らない」などといわれるケースは少なくありませんでした。

 しかし、フランス人が日本人と決定的に違うのは個が確立しているので、自分のいいたいことを相手に伝えるスキルは日本人より高いと感じます。仕事ができる人間でコミュニケーションがうまくとれないフランス人は、特殊な技能職を除き、皆無といえるでしょう。
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 日本人同士でもコミュニケーションが苦手なわけですから、異文化コミュニケーションのハードルが高いのは当然です。某大手IT企業で異文化コミュニケーションの研修を担当した時、「異文化って本当に面倒くさいですね」といわれて驚いたことがあります。

 彼は職場でもプライベートでも、いわゆる知らない外国人と会うと、早くその場から逃げたいと思うそうです。「もし、あなたの上司が外国人だったら、どうですか」と聞くと、「まったく自信がない」「相当なストレスになるでしょう」という答えが返ってきました。

 一方、会議を英語で行う様なグローバル企業をめざす大手の日本企業で、英語に自信満々の社員がヨーロッパに送り込まれ、ナショナルスタッフとまったくうまくいかず、結果が出せずに苦労している話もよく聞きます。頭ではグローバル化しているつもりが、人間力が十分についてこない典型的パターンです。

 実はカルチャーダイバーシティは、成功すれば大きな結果を出せる一方、高いリスクも伴います。カルチャーダイバーシティのメリットは、新しいはっ背負うが得られる、考えつかなかった問題解決の方法が得られる、ゼロベースで物事を考えられるなどです。

 一方、デメリットは一体感を得にくく、摩擦や対立が起きた場合、同国人同士より関係が悪化し混乱する事で成果を出せないことです。世界を見渡せば国家や民族同士の対立が絶えない現実はどこにでもあります。米中対立も互いの無知による不信感が関係を悪化させているのは明白です。

 ところがビジネスは目の前の成果が問われるので、対立していては結果が出せません。私が日頃感じるのは、コミュニケーションが苦手な人たちは、相手と良好な関係を築きたいと思っていない場合が多い事です。

 1度駐在経験のある日本人を調査したことがありますが、帰国後、駐在先だったナショナルスタッフと個人的関係を続けているかという質問に「イエス」と答えた人は非常に少なかったことです。帰属意識が強い日本人は仕事仲間でも配属が変わると関係が切れてしまうケースが少なくありません。

 ましてや海外人事では、帰国後人間関係が続く可能性は皆無なのかもしれません。あるアメリカ人が日本に5年駐在し、日本人の方がアメリカ人よりはるかに個人主義だといったのは、そんな理由があったからかもしれません。

 コンテクストが異なる人間同士の協業がカルチャーダイバーシティです。「異」をネガティブにとらえるのではなく、ポジティブに捉えなければ、成果は出せません。コンテクストに大して違いのない日本人同士でも、微妙な「異」にストレスを感じるわけですから、異文化耐性がないのは当然です。

 そこで「異文化は面白い」、「異文化は楽しい」というマインドセットが必要ですが、ハイコンテクストの忖度文化に慣れた日本人にはハードルが高いといえます。無論、日本人でも異文化を楽しめる人はいます。そんな人はまず、オープンマインドだということと、「異」に対して好奇心が強いことです。

 さらに人間同士の関係作りを大切にして生きている人が多いのも特徴です。最近、日本に受け入れたベトナム人の教育に当たる某企業の担当者が「ベトナム人は日本人より扱いやすい」「仕事への責任感も強い」といっているのを聞きました。50代の彼自身は海外に出たことのない超日本人ですが、人情味があり、人間を見る目がある人でした。

 もし文化の全てが違っているなら共存は難しいでしょう。不信感が増幅するだけです。しかし、表面的な違いとは別には共有、共感できるものは必ずあります。実は今、コロナ禍を世界が共有していることで、人と人の接触は困難でも地球上の全ての人が同じ体験をする、極めて稀な状況にあります。

 ポストコロナは人と人の関係がますます希薄になるのではと懸念する声もある一方、新型コロナウイルスという共通の恐怖や不安を味わっているのは、稀で貴重な体験かもしれません。私は「異」のネガティブなものより、ポジティブな要素が拡がることをポストコロナに期待しています。

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 フランスは今、2015年1月に始まったイスラム過激派の連続するテロが始まる前年秋以降と同じ状況にあります。今回のテロの脅威は、2015年最初のテロである仏風刺週刊紙、シャルリー・エブド本社襲撃テロ裁判が9月に開始し、イスラム教が禁じる予言者ムハンマドの風刺画の是非が問われていることです。

 折しも10月30日から、フランス全土で1か月の外出禁止措置が実施されるフランスという点では、テロは起きにくいかもしれませんが、1か月後のクリスマス時期以降に起きる可能性は十分ありえます。

 なぜなら、マクロン仏大統領は9月に「表現の自由は宗教の冒涜も許される」「笑いは大切だ」と発言し、さらにムハンマドの風刺画を授業中に見せ、10月16日に18歳のチェチェン人に斬首された中学校教師、サミュエル・パテュさんを表現の自由の殉教者に祭り上げ、国葬にしたことです。

 そこでも大統領は「今後も風刺画を支持し、表現の自由を守り抜く」と発言し、イスラム教徒に火を点けているからです。

 この事件で蜂の巣を突ついたような議論が拡がる中、事件後、パティさんの行為を批判する側の発言をネットで拡散していたパリ北郊外のパンタンのモスクが行政命令で閉鎖され、在仏のイスラム指導者のイマムやユダヤ教指導者ラビの代表者は、パティさんの追悼を行ない、立場を明確にする必要がありました。

 ところが、今からもフランスで生きていかなければならないイスラム教徒は、パティさんへの非難に口をつぐんでいるのに対して、トルコのエルドアン大統領は「マクロン大統領は精神治療が必要だ」と公式の場で2度も語り、中東イスラム圏では仏製品に不買運動が拡がっています。

 無論、フランス国内でも不遇な移民系の若者でイスラム聖戦主義に傾倒する者は、ネット上で公にパティさんを批判すれば警察が飛んでくるので、密かに密室でテロを計画していることでしょう。

 このブログで宗教界の反応は紹介しましたが、概ねテロは許されざる行為と批判しながらも、ある宗教が禁じることを完全に無視するだけでなく、冒涜する行為は表現の自由とは相いれない行為と批判する声が圧倒的です。

 特にシャルリー・エブド紙の風刺画は確信犯で、ムハンマドを同性愛者に見立てたり、裸でグロテクスな姿にしたり、イスラム教の教義の核心を馬鹿にする挑戦的なものです。人の信仰を上から目線で見る姿勢は、実は2015年に殺害されたシャルリー・エブドの漫画家や編集部員のほとんどが無神論者でアナーキストだったという事情もあります。

 そのためもあって、購読者数は少なく、とてもフランスを代表するメディアとはいえないものです。これまで何度も編集部は襲撃を受けており、2015年1月が初めての襲撃ではありませんでした。

 多くのメディアが表現の自由の正当性と過激主義への批判の論調で埋めつくされる中、保守系全国紙、ル・フィガロが掲載した右派・国民連合のマリーヌ・ルペン党首の姪で元同党の国民議会議員だったマリオン・マレシャル・ルペン氏の「法や政教分離は、イスラム過激主義と闘うには不十分」「過激主義は共和国の価値ではなく、フランスそのものへの挑戦だ」と指摘したのは興味深いものでした。

 彼女は「フランス国内のカトリック、プロテスタント教会、ユダヤ教、仏教は社会的問題を起こしていない」「問題はイスラム根本主義者が、フランスをイスラム化し、支配する明確な動機を持っていることだ」と述べ、極左を含め、フランスに脅威を与える勢力とどう闘うかが問題で「表現の自由や政教分離は問題のすり替えだ」と批判しました。

 共産主義と長年闘ってきた国民連合(前進は国民戦線)は、フランスを根底から変える共産化もイスラム化も許してはならないという立場です。これは民主主義の否定であり、中国のような共産党一党独裁かイランのようなイスラム国家になることを意味し、日本人もそれは拒否するでしょう。

 つまり、過激な共産主義や無政府主義を標榜し、完全な無宗教、唯物主義の価値観を持つ国をめざす勢力が、表現の自由を道具として狡猾に利用しながら、逆の考えで国家支配の志を持つイスラム教根本主義を排斥しているのが現実だということです。

 殺害された仏教師が、何をどこまで理解していたかは今となっては分かりません。歴史、地理の教師だったので、普通の人よりは深く理解していたかもしれませんが、日本でも歴史教師に左翼が多いようにパティさんもそうだった可能性は極めて高いと思われます。

 パティさんがムハンマドのグロテスクな風刺画は見せても、イエス・キリストの風刺画を見せないのは、イスラム教への嫌悪があったからでしょう。表現の自由は、信教の自由や言論の自由を基本とするものであるなら、平等とはいえないものでしょう。

 「表現の自由や政教分離は問題のすり替えだ」というルペン氏の指摘は、表現の自由や政教分離ではイスラム過激主義とは戦えないということでもあり、適切な指摘のように思われます。

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 このブログでアメリカの次期大統領選は、トランプ大統領を支える岩盤支持層といわれる伝統的キリスト教福音派(エヴァンジェリカル)の動向が大きな影響を与えると指摘しました。というのもこの4年間で福音派内部にトランプを支持しない、あるいは民主党寄りの勢力が出てきたからです。

 重要な点は宗教は政治とは異なる性格を持つもので、アメリカのマスメディアでさえ混同しています。信仰、特に一神教には明確な世界観が存在し、それは国家の法律を超えた価値観も持つものです。

 アメリカの伝統保守派は基本、アメリカは神が特別に準備した福地であり、世界の秩序を守る使命があるというピューリタニズムの考えです。トランプ氏がいうアメリカを偉大な国にするというモットーの背景には、福音派や共和党が信じる普通の国ではないアメリカが存在するということです。

 アメリカが第2次世界大戦では大西洋の対岸で起きた独裁者ヒットラーによるヨーロッパ支配と闘い、冷戦時代には神の存在を否定する共産主義と闘った背景には神に召命された使命感があったのは確かです。

 同時に外的使命が本質ではなく、聖書に書かれたことを正確に実践することを重視するのが福音派の特徴です。そこにはキリスト教が禁じてきた同性愛や妊娠中絶に反対すると同時に、純潔を守り家庭を大切にする(この部分は怪しいが)人生観、許しの精神で奉仕生活を実践するのが建前です。

 そんな福音派の本来の姿は、実は世俗化とも距離を置くものです。敬虔なキリスト教徒は本来、ハリウッド映画や若者が熱狂する音楽の世界で活躍するセクシーさを売り物にするド派手なスターたちとは無縁です。実際、多くのスターは反トランプの民主党支持者です。

 かつてのバイブルベルト地帯と呼ばれた地域でトランプ氏に投票した層の中には白人福音派層が多く、私がかつて取材したユタ州のモルモン教も、かつては黒人は排除されていました。福音派には今でも白人優位の人種差別のルーツが残っていますが、最近は排除の方向です。

 たとえば、福音派の中にも近年、女性の権利や同性婚、今年拡がったブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大事)運動を支持する声が上がっています。同時にBLMを支える極左思想に対する警戒感も薄れていることが指摘されています。

 実は福音派の主流は、政治との距離を置くだけでなく、政治の優位を不快に思っており、どの大統領に付いていくかではなく、誰が大統領にふさわしいかを判断するのは彼ら自身と考えているといわれています。

 ところが福音派の中でも社会正義に重心を置く勢力は今回のBLMや弱者救済問題で民主党寄りの主張するグループも登場していることが複数の米メディアで指摘されています。

 彼らは当然、トランプ支持者ではありません。さらにトランプ氏の平気で人を傷つける下品な過激発言や、常にブロンドの美人しかスタッフに採用しない趣味、派手なプライベートな生活に辟易する福音派も少なくないのが現状です。

 リベラルメディアの米ニューズウイークが「トランプの運命は信仰の力次第」という指摘は興味深いものがあります。

 一方、民主党リベラル勢力もサンダース上院議員に代表される社会主義者の左派から共和党に近い考えを持つ中道まで一体感はありません。今は若者に人気のあるサンダース氏で勢いづく左派を気を使い、ハリス氏を副大統領候補に立て、高齢のバイデン氏が当選後に倒れれば、極左のハリス氏に政権が委ねられることになります。

 民主党の大統領候補指名争いで泡沫候補で、なおかつバイデン批判を展開してきたハリス氏が大統領になれば、われわれがかつて見たことのないアメリカが出現することでしょう。高齢のバイデン氏を立てざるを得ない民主党の事情は深刻で、大統領選が終われば、党派内分裂も一挙に表面化すると見られています。

 つまり、興味深いのは保守もリベラルも内部分裂が始まっていることです。ポストコロナは誰が大統領になったとしても、人々の意見は多様化し、それらの意見の受け皿になる新たな政治が求められているといえそうです。

 興味深いのは、これだけコミュニケーション手段が発達する中、人種差別や同性婚問題で、議論が封殺される傾向が指摘されていることです。「これをいったらネットで袋叩きになる」という話です。これこそがポストコロナのネット民主主義を脅かす警戒すべき現象と思われます。

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 新型コロナウイルスの流行で、人間同士の物理的接触の機会が減る中、心配されるのは異文化同士の分断や対立が高まることです。フランスではイスラム過激主義との闘いで、イスラム教そのものを冒涜する風刺画を正当化したことで、中東でフランス製品のボイコット運動が拡がっています。

 ユネスコ憲章の有名な前文に「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信を起こした共通の原因であり、この疑惑と不信の為に、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった」とあります。

 異文化への無知、無関心は、特として戦争に発展するわけですが、信頼関係高地に欠かせない対面で会う機会が激減し、スキンシップがとれない状況は地球上の新たな試練です。無論、異文化理解は座学で学べるものも多くありますが、実際に異文化に接しなければ、深い理解は得られないものです。

 最近、コロナ再流行するヨーロッパですが、フランス政府に助言する科学評議会の議長を務めるデルフレシ教授は、フランスの1日当たりの新型コロナ新規感染者数について、公式発表の直近24時間の新規感染者5万人について、実際には倍の10万人程度になっている可能性があると指摘しました。

 私の知る限り、ヨーロッパ諸国に駐在する日本人たちは、感染再拡大の理由は若者たちに危機感がなく、マスクも手洗いもいいかげんで人との濃厚接触を繰り返していることが原因だと考えていると思います。もともと多くのヨーロッパ人がトイレのあとに手を洗わず、マスクをする習慣はまったくなかったわけですが、特に若者は重篤化しないということで行動が大胆になりがちです。

 日本は明治維新後、ヨーロッパに多くのことを学びましたが、その一つが公徳心です。近代市民社会は公益性を重視し、公共の場でのモラル、すなわち公衆道徳が重視されたのは事実です。しかし、今、そんなものは何もありません。背景には家族の崩壊や宗教離れもあります。

 そこで思い出したのが、古い友人でパリのソルボンヌ大学で東洋文学を研究し、今は引退している韓国人女性研究者です。富裕層だった彼女は朝鮮動乱で、さっさとパリに逃げ出し、勉学に勤しみ、博士号を取得しました。その時、大学側から2つの選択肢が示され、学生の授業を担当する教授になるか研究者の道を選ぶか提案され、即座に研究者の道を選びました。

 理由は「私は毎日、学内で礼儀も知らないモラルのない学生を見てきて、あんな学生たちを相手にするのは絶対に嫌だと思ったからだそうです。彼女は現在の北朝鮮の出身で厳格な儒教の教えを受け、見事に日本語の敬語を使いこなす人です。

 つまり、すなわち1960年代からフランスの若者が乱れていたのかと私は思い、今のマリファナパーティーで躍り狂う若者のルーツを見るようでした。逆にいえば、動乱で自国を去らざるを得なかった友人の道徳心には今でも感心します。
 
 一方、満州・大連で終戦を迎えた私の母は大連警察の通訳官だった父親のもとで育てられました。祖父は子供たちに口癖のように「朝鮮人を馬鹿にしてはいけない」といっていたの母を通じて聞いていたので、どんな理由だったのか尋ねたところ、興味深い話を聞きました。

 日本が満州を統治していた当時、朝鮮との国境に近い日本領事館にいた祖父は、子供の世話をする朝鮮人の女性を雇ったそうです。その女性があまりにも人柄がよく、感心するほど高い道徳基準で子供をしつけてくれたことで、大連に引っ越す時に一緒に来ないか誘い、付いてきたそうです。祖父も儒教に傾倒していたので、その朝鮮人女性に感心していたそうです。

 それとは別に通訳官だった祖父や母たちは、普通の日本人よりはるかに中国社会に入り込んでいました。当時の中国人(満州人)たちは祖父を慕い、日本人も驚くほど恩を忘れない人たちだったといいます。日中国交正常化された後、恩返しがしたいとわざわざ日本の祖父を訪ねた中国人の数人いました。

 その祖父は生前、今の中国人は別人だといっていました。中国語が分かる祖父にしてみれば、中国共産党がいっていることは嘘ばかりで、恩を忘れなかった中国もいなくなったと嘆いていました。

 異文化理解といっても、相手も変化しています。時代によって人間は変わるということです。中国も韓国も戦後、徹底した反日教育を実施し、その結果が今の彼らの日本観を形成しています。それも当然、ゆがめられたものです。

 コロナ禍で異文化接触が極端に希薄化する中、誤解が不信を生み、分断が深まりつつあるように見えます。特に急速に富んだ貧しかった国々の傲慢な態度は、独裁と権威主義によって世界に脅威を与えています。どんなにコミュニケーションツールが発達しても、人間には物理的接触が必要です。

 異文化理解の基本である固定観念や偏見を捨て、信頼関係を構築して新しい価値を生み出すことに集中したいものです。

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