安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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  弾劾裁判の鍵を握った男、ラマー・アレクサンダー上院議員

 米上院で開かれたトランプ大統領の弾劾裁判は1月31日、野党民主党が求めていたボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)らの証人尋問について採決を行い、賛成49、反対51の反対多数で否決されました。これでトランプ大統領を有罪にしようとした民主党の目論見は崩れたといえます。

 大統領の一般教書演説後に判決が言い渡される予定ですが、上院で共和党が多数派を占めているため弾劾裁判は退けられる流れです。ボルトン氏の証人喚問をめぐって、民主党が頼みの綱としていた共和党穏健派の一人、ラマー・アレクサンダー上院議員が反対に回ったことが大きかったといえます。

 実はテネシー州の知事や合衆国教育長官を歴任したテネシー州選出のアレクサンダー氏には、インタビューしたことがあります。アメリカでは知事から大統領というパターンが多く、全米知事協会の議長も務めた彼は、かつては大統領の椅子を狙う一人でした。

 資金力とメディアへの露出度が物をいう大統領選で、共和党候補の指名争いで生き残ることができなかった清廉なアレクサンダー氏について、当時、ニューヨークタイムズ紙は金にまみれた選挙の犠牲者として彼のことを報じました。温厚で誠実な人柄は南部出身者らしい親しみ易さがありました。

 共和党会議議長を務めるアレクサンダー氏は、押しも押されぬ共和党の重鎮の一人で現在79歳。トランプ大統領の弾劾の鍵を握る人物として注目され、彼はボルトン氏の喚問は必要なしとの声明を1月30日に発表しました。彼の決定は民主党を愕然とさせるものだったことは確かです。

 声明で「すでに証明されたことについて、そして合衆国憲法が高い基準を設定している弾劾罷免に相当する不法行為に当たらないことについて、これ以上の証拠は不要だ」とし、「問題は、(弾劾罷免に相当する問題行動を)大統領が行ったかどうかを判断するのが合衆国上院なのか、それともアメリカ国民なのかだ」と指摘しました。

 そして「2月3日のアイオワで始まる大統領選挙で国民がその判断をするよう、憲法は規定しているのだと私は考える」と証人召喚に反対する理由を説明しました。ニューヨーク大学法科大学院を出て、法律家として働いていた経験を持つアレクサンダー氏の見解は、一定の説得力を持ったといえます。

 上院ではボルトン氏の証人喚問を巡り、アレクサンダー氏を含むロムニー議員(ユタ州)、マーコウスキー議員(アラスカ州)、コリンズ議員の4人の共和党上院議員の動向が注目されました。そのうちロムニー議員とコリンズ議員は証人喚問を支持するとしていました。

 問題はトランプ氏が昨年7月にウクライナ大統領との電話で、軍事援助の凍結解除をちらつかせながら、政敵のバイデン氏と息子への捜査を働きかけたほか、これに対する下院の調査を妨害したとして昨年12月に下院で弾劾訴追したことが大統領選に与える影響です。

 昨年9月に、トランプ氏から解任されたボルトン氏は今年3月には暴露本を出版する予定ですが、実はボルトン氏は民主党が最も嫌う超保守のネオコンの中心人物の一人です。解任された恨みであることないことをぶちまけるボルトン氏の信用度もさることながら、民主党はかつてのトランプ氏の飼い犬を利用しようという浅ましさも印象がいいとはいえません。

 大統領弾劾は上院で共和党が多数派を占めている以上、難しいと当初からいわれていましたが、ならば民主党の狙いは何だったのかと考えると、この裁判でトランプ氏が限りなくグレーだという印象を国民に与え、大統領選を有利に運ぼうということしか考えられません。

 その意味ではアレクサンダー氏の「大統領選で国民が判断するイシュー」という考えは、深い意味を持っているといえます。逆に共和党が最後までトランプ氏を守ったことで、トランプ氏に貸しを作ったとも見れます。4日の一般教書演説で共和党の政策を尊重するかどうかを見定めてから弾劾裁判の結論を翌日に出すことにした意味もそこにあると見ることもできます。

 再選をめざすトランプ大統領と共和党の関係は容易でないことは、2017年1月にトランプ氏が大統領に就任以来続いていることです。中間選挙で下院で共和党が野党に転落した原因をトランプ氏のせいにする見方は今も強いといえます。弾劾裁判で民主党の術中にはまることは避けられても、ウクライナ疑惑は後を引きそうです。

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 アメリカにトランプ大統領が出現したことで、脱グローバル化時代が始まったといわれています。個人的に日本はグローバル化に積極的な対応をとってきたとは思いませんが、海外投資を促進した理由は国内市場の手詰まり感と国際競争力確保のために生産拠点を海外に動かさざるを得なかったのは事実です。

 ディグローバリゼーションといわれる脱グローバル化は、ポピュリズムとナショナリズムの台頭などによる保護主義の拡大という視点で語られることが多く、どちらかといえば自由貿易にブレーキを掛けるネガティブな方向として語られていますが、グローバル化がもたらした格差拡大などさまざまな不都合に対して本格的な調整局面に入ったと私は見ています。

 新型肺炎コロナウイルスの世界的拡散で頼りになるのは、今のところは国家しかないということをわれわれは目の当たりにしました。今のところ、リスクから自分を守るのは自分や地域社会、国家しかありません。コミュニケーション手段が発達し、デジタルで繋がる時代になればなるほど、さまざまなリスクが拡大しており、今のところ国家以上に頼れるものはありません。

 武漢を脱出する日本人ビジネスマンたちも日本と中国の国家間の交渉なしには実現できなかったし、日本が邦人保護に強い意思を示さなければ、退避自体実現しなかったといえます。今は容易に国家の壁は超えられると考えた金融とIT系で働く人々がもたらしたグローバル化を再考する局面に入ったといえます。

 しかし、脱グローバル化時代は、保護貿易主義の拡大で関税合戦に陥り、国益優先が結局は最終消費者に利益をもたらさない可能性もあり、今まで信奉してきた自由市場主義を著しく妨げるというネガティブな捉え方が優勢です。その観点からトランプ批判をする声は絶えないわけですが、トランプ政権下で経済が好調だったことを的確に説明できる人も少ないといえます。

 とはいえ、脱グローバル化に企業はどう備えるべきかは、グローバル化にどう対応するかという課題と同じように重要さを増しています。たとえば製造業の場合は、A国とB国から資材や部品を調達し、B国とD国で組立を行い、D国で完成させた製品を日本や他の地域に納品するケースは今多いのが現状です。

 これは関税障壁ができれば困難になります。EU経済への依存度の高い英国のブレグジットの今後の移行期間の最重要課題は通商協定です。それに共有できるプラットフォームがあることがビジネスのグローバル化の大前提です。ナショナリズムの台頭で共有が困難になる可能性もあります。

 巨額の利益を生み出すグローバル企業であるIT企業は、このプラットフォームの共有で天井知らずの成長を遂げてきました。ネガティブ要因は情報の流出で今も解決していない問題です。欧州連合(EU)には、人の移動の自由を保障する国境管理を撤廃したシェンゲン協定がありますが、テロリストや犯罪者、不法移民の移動も容易になるというリスクを抱えています。

 ブレグジットの理由の一つも移民問題にあるといわれています。今、世界各国は自国人材の雇用を優先する傾向にあり、移民対策強化で厳格なルール化が進み、外国人材の調達のハードルも高くなっています。グローバル化で有効性が注目される多文化の人材確保は困難になりつつあります。

 資金調達面でもグローバル化で資金調達が容易だったのが、金融のプラットフォームも国際的共通ルールより国家のルールが優先され分断されるようになり、手続きは複雑化し、グローバル企業には、かなり深刻な影響を与えるリスクも高まっています。

 実はEUを1月31日で正式離脱した英国の判断は、今後の脱グローバル化対応の試金石になると私は見ている。EUというプラットフォームでさまざまなことを共有してきた英国は、今後、国益を優先しながら、どうやって発展していくのかということです。

 英国は歴史にない欧州の市場共有の実験に48年間も立ち会い、ついぞその核心である共通通貨ユーロは導入せず、シェンゲンにも入らず、結果的には離脱することになったわけですが、脱グローバル化時代をどう生き抜いていくのでしょうか。

 英国は、世界が共有する金融センターというメリットを最大限活用しながら、製造業などは外資に開放し、自国メーカーにこだわることなく、ある意味グローバル化の先頭を走っていたといえます。未だに国が最大株主としてルノーを所有することにこだわるフランスとは対照的です。

 私は脱グローバル化時代がどれだけ長く続くかは、各国政府が自国民一人一人の幸福をどこまで考慮し、真剣にその実現に取り組みかに掛かっていると考えています。浮き足立ったグローバル化に安易に戻るべきではないでしょう。

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 英国の欧州連合(EU)離脱に関する離脱協定案の採決を行った欧州議会の本会議場で、日本でも分かれの歌として知られる「蛍の光」を議員たちが手をつないで合唱する光景が世界に報じられました。フランス・ストラスブールにある欧州議会は感傷的ムードに包まれました。

 今月29日、欧州議会は賛成621、反対49で離脱協定案を承認し、31日の英国の正式離脱の全ての手続きが終了しました。2016年6月の国民投票からなんと3年半の迷走の末の離脱で、EUとしては加盟国の離脱は初めて。EUとの離婚を一方的に突きつけられたEU側欧州議員だけでなく、英国の欧州議員も大合唱に加わりました。

 1973年にEUの前身、欧州共同体(EC)に加盟して以来、英国は重要な加盟国の一員であり続けました。無論、単一通貨ユーロには入らず、国境移動を自由にするシェンゲン協定にも入らず、しばしばEUとは政策的対立をしてきた英国ですが、存在感は持ち続けてきました。

 31日をもって離脱後は混乱を避けるため、直ちに移行期間に入り、通商協定などの協議に入り、移行期間はEU分担金を払い、これまで通りEUに従う一方、EUの重要な政策決定に英国は参加できなくなります。英国選出の欧州委員会委員の1人の女性は、ブリュッセル本部の自分のロッカーがなくなる事態に眉をひそめ「発言権を持たずにEUに従うなんて異常」と強い懸念を表しました。

 採決後の挨拶で、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長が英作家ジョージ・エリオットの言葉を引用し「われわれは別れの苦しみの中でのみ、愛の深さを見つめる」と語り、「われわれは今後もずっとあなたを愛する。遠く離れることは決してない。欧州よ永遠に」と叫びました。

 離婚が成立し、出て行く妻を見送る夫の忸怩たる思いが込められた叫びでした。賛成票を投じた多くの欧州議員は離脱に賛成したのではなく、合意なき離脱を回避するために賛成したのは明白で、反対すれば離脱ができないというなら反対票を投じたといっています。実は今でも英国内では離脱と残留は最新の世論調査でも五分五分という現実があります。

 英国のブレグジット党党首のファラージ欧州議会議員は「欧州は好きだが、EUは嫌いだ」と最後までEUに悪態をつきました。その姿は見ながら、この離脱を牽引した大半は男性議員であり、女性議員は残留派だったということです。たとえば、離脱交渉で挫折したメイ前英首相も国民投票では残留派でした。

 国民投票でEU残留が離脱を上回ったスコットランドの与党スコットランド国民党を率いるスタージョン党首も女性です。欧州議会で涙を流した英国議員も女性たちで、涙を流したEU側の議員の多くも女性でした。無論、感傷的になりやすい女性の特性はあるかもしれませんが、女性には共に生き、共に支えあうという本性があり、致命的対立がなければ離婚はしないものでしょう。

 無論、離脱強硬派の閣僚で構成されるジョンソン内閣で内相を務めるプリティ・パテル元国際開発相は離脱強硬派です。インド系の彼女は個人的に1992年のポンド危機で両親が事業のために借りていた借金の金利が高騰したことをEUのせいにして懐疑論者になったといわれていますが、どこから見ても単純にEUのせいにするような問題ではありません。

 英国には様々な血が混じった人々が住んでいますが、彼らは生き抜いていくために英国への忠誠を純粋な白人以上に誓う必要があり、彼女の強硬姿勢の一因と見るのだ妥当だと思います。保守党内でも離脱に関しては穏健派の女性議員が多く、強硬派は男性が多数を占めています。

 無論、切り替えの早いのも女性の特徴なので、2月1日からは離脱後の新たな現実に対応することに集中するのでしょうが、国家の方向を左右するEU離脱を牽引してきたのは、虚勢やプライド、主導権を握ることにこだわる男性たちが中心だったのは確かと私は見ています。

 少なくとも英国議会の男女比が50%ずつだった場合は離脱判断は違っていたかもしれません。それに残留派が多いといわれる若者の中では女性の方が、「ヨーロッパ人でいたい」という意見が多いといわれています。欧州議会で流された女性の涙を見ながら、考えさせられるものがありました。

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 英国政府は今月28日、同国の第5世代(5G)通信網構築に当たり、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)からの機器調達を条件付きで認める方針を発表しました。アメリカの華為製品排除の呼び掛けに背く決断ですが、ブレグジットで対米関係が鍵を握る英国はなぜ、アメリカを怒らす決定を下したのでしょうか。

 政府は一応、華為を「高リスク業者」に指定したまま、原子力施設や軍施設など安全保障に関係する施設を要する地域のネットワーク、国家の機密データを扱う部門での華為機器導入は禁止するという条件を強調しています。それと、1社が5G など通信網に占めるシェアを最大35%とすることで、供給業者の多様性を高めることで安全は確保できるとしています。

 アメリカは、中国政府が自国のIT系企業の背後から国家レベルでスパイ行為をさせていると繰り返し指摘しており、安全保障上の脅威として排除を呼び掛けています。背景には軍事力や経済力と並び「通信網を制する者が世界を制す」といわれるデジタル革命の切迫した状況があります。

 同時に急成長した共産党一党独裁の中国が一国の繁栄に満足せず世界支配に乗り出していることに対して、アメリカは「今、中国を叩かなければ手遅れになる」という焦りもあるといわれています。産業革命以降の戦争は情報戦が勝敗を左右するようになり、通信網へのアクセスは情報収集を正確、迅速に行う最有力な手段とされています。

 実は英国がアメリカの怒りを買うことは知りつつも華為機器調達を容認した背景には、現実的な問題としてボーダフォンやEE、スリーなど携帯電話サービス大手の多くが5G で華為と契約し、すでに大掛かりな華為機器が設置されており、華為を排除すれば莫大な撤去作業が必要になるだけでなく、他のメーカーで通信網を構築するのに2〜3年は要することが挙げられています。

 ロンドン市内のビルの上には、高額な華為の通信機器が設置されており、実は政治は後手後手に回っているのが現状です。5Gの本格導入が2〜3年も遅くなれば、経済に対する影響は深刻になるというのが英政府の判断です。ただでさえブレグジットで数年間は経済が停滞するとの予想もある中、デジタル革命に乗り遅れるのは致命的との判断です。

 しかし、これでアメリカが本当に怒り、ブレグジット後にすぐにでも英国と2国間の通商関係を樹立させたいとしていた態度を一変させるリスクもあります。そこには政治的読みもあるでしょう。とにかく英国メディアに見られるように、一般的には英国はアンチ・トランプです。

 トランプ大統領が華為を叩いていることにも英国は最初から疑問を思っている節があります。つまり、本当はそこまでの脅威はないのではとの考えがあるということです。英国は原子力発電分野で中国の巨額投資を受け入れるなど、外交と経済は分けて考えており、中国への警戒感は強いとはいえません。無論、保守党の中には今回の決定に反対する意見もありますが、少数派です。

 世界中どこの国でもデジタル革命に乗り遅れれば、経済的失速は確実との強迫観念があるのは確かです。しかし、ヨーロッパ各地をウロウロする私にいわせれば、ヨーロッパの通信環境は日本よりはるかに遅れています。最近、ロンドンのある地域で1週間以上インターネットが使えなかったり、パリ近郊でも同じようなことが起きています。

 フランスの友人は「ネットが使えないとテレビも電話も止まってしまい、今ではアフリカでもWiFiが使える時代だから、彼ら以下の生活を1カ月強いられた」「最初はストレスを感じたが、まあ、別に困らなかった」と呑気なことをいっていました。「それに繋がっていない状態が実は一番安全だと気づいた」とまでいっていました。

 5Gになれば、それを活用するための様々なデバイスが必要になり、新たな出費が企業にも個人にも課され、車や家電製品を繋げるための新たな投資も必要です。それらを提供する企業にとっては大きなビジネスチャンスですが、パソコンが本格浸透した、この30年間にどれだけの出費を強いられたかを考えるとぞっとします。

 便利とリスクは隣り合わせなので、特にコミュニケーション手段の利便性が高まることのメリットと同時にデメリットへの対策も考える必要があります。覇権主義の中国が情報収集に躍起になっていることは確かです。8万人が政府の諜報機関で働くといわれる中国を脅威に感じないという方が惚けているかもしれません。

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 新型肺炎コロナウイルスの世界的拡大が止まりません。連日、中国を中心に世界中で感染者数は増え続け、死者の数も今の段階で100人を超えています。日本でも人から人への感染が確認され、感染拡大は第2フェーズに入ったといわれています。

 2002年に中国で始まった重症急性呼吸器症候群(SARS)の世界的感染拡大同様、中国政府の隠蔽体質や対応の遅さが中国国内でも激しく批判されていることが報じられていますが、超内向きの中国ならではの現象ともいえます。私はリスクマネジメントの観点からすれば、中央集権の弱みが露呈したと見ています。

 世界は今、迅速な意思決定が可能性で強権発動が容易な中国やロシア、イラン、北朝鮮のような中央集権、独裁体制の国家によって、意思決定が煩雑で個人の自由を尊重する民主主義体制の国家が脅威に晒されています。今回も東京都と同じ規模の武漢を封鎖できたのは中国政府にそれだけの権限があるからといわれています。

 一見、中央集権の方が危機管理に強いように見えますが、実は意思決定のプロセス構築は重要ですが、リスクをトータルにマネジメント本質ではありません。たとえば昨年9月、過去最強クラスの台風15号が関東を襲った時、千葉の森田知事が県庁に駆けつけなかったことが問題になりました。意思決定が不在となれば、迅速な対応ができない典型例です。

 中央集権の強みは迅速な対応ができることですが、一方、権限を持つ者が質の高い情報をもとに適切な判断を迅速に下せない場合は総倒れになり、危機は拡大するという欠陥があります。中国政府の対応は、SARSの教訓を踏まえ、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)などは当初は適切に対応していると報じていました。

 しかし、事態が悪化するとWSJは「新型肺炎の拡大、中国統治機構の脆さ露呈」という社説を掲載し、ネガティブな面を指摘しています。私は最初から、ポジティブに報じたWSJに大きな疑問を持っていたため、アメリカは未だに中国の本質を知らないのだなと思いました。

 WSJは社説の中で「2002年にSARSが流行した当時と比べ、中国の透明性は高まっている」としながらも、事態悪化に対して「しかし、中国の対応はまだ国際基準には達しておらず、当局者の説明は時間単位で変化しているようだ」と書いています。

 武漢市の華南海鮮卸売市場で11月か12月に始まったと考えられるウイルスの拡散について、地元当局者は、人から人への感染を示唆する証拠があったにもかかわらず、当初はウイルスの感染拡大リスクを過小評価していました。中国の国家衛生健康委員会がウイルスが人から人へ感染することを公式に認めた段階で対応の遅れは決定的になっていました。

 では、なぜ、地元当局者や専門家から提供された情報が中央政府で迅速な判断に繋がらなかったのかということです。WSJは「中国が国際的な評価を得るため、ライフサイエンス・パーク、遺伝子治療、がん研究、医療機器やその他費用のかかる研究向けに何百億ドルもの資金を投入してきた」ことを指摘し、中国の産業革新政策で生物医学は主要項目の1つに挙げられているとしています。

 その一方で、中国人観光客が中国で変えないマスクを日本でマスクを買い漁り、今、緊急に必要な医療関係者の防護服が1日10万着必要なのに対して中国国内では1日3万着しか製造できないという矛盾を抱えています。

 つまり、「人口当たりの医師数がメキシコより約20%少なく、総合診療医の数は世界保健機関(WHO)の基準を70%下回っている」(WSJ)。世界を支配するための製造業育成のために生物医学に巨額投資はいとわない一方、足元の国民に対する医療は未整備のままという状態です。

 私はリスクマネジメントの観点からして、リスクに最も近い人間がリスクオーナーとなってマネジメントしなければ、適切な対応は取れないと、このブログに何度も書いてきました。武漢から1,200キロ以上離れた北京の中央政府が全ての権限を握っている状態では適切は判断は下せません。

 パリの国境なき医師団(MSF)で聞いた話で、彼らが日々直面する緊急事態に対応するため、組織はピラミッド型になっていないという説明が印象に残っています。各国のMSFは他国との調整はせず、独自判断で動いているというのです。「調整している時間はありませんから」というのが答えでした。

 共産主義の統治体制は、現場からのフィードバックを軽視する一方、完全な上からの一方通行の決定で動いています。WSJがいうような国際基準に則した透明性の問題よりも、リスクマネジメントには不適切な中央集権的意思決定体制が問題と見るべきでしょう。

 今後もこのような体制下では、対応は後手後手に回るのは確実です。被害が拡大し深刻さを増せば、国民は黙っていないでしょう。すでに中国の株価は下がり、リセッションの危機が迫り、世界経済への悪影響も指摘されています。

 すでに香港、台湾問題で習近平政権は失敗を重ねており、今回は国民が直接の被害者です。共産党政府への国民の信頼が不信に変われば、政権を揺るがす事態に発展しかねない状況です。

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 ベトナム中部ダナンの中国系有力者D氏の娘は、日本の立命館アジア太平洋大学を卒業後、同じダナン出身でアメリカ留学していた男性と結婚し、今はアメリカ西海岸サンフランシスコに住んでいます。夫はグーグルに就職し、いわゆる成功組のベトナム人で、ベトナムの富裕層の間では知られた話です。

 一方、アメリカ留学を終え、帰国後にIT企業を起業し、日本の企業と協業して成功したT氏は、今や3,000人以上の従業員を抱える大企業に成長し、彼もまた、ホーチミンの中国人富裕層の家庭の出身者です。富裕層の子弟が国の経済を牽引するのは途上国や新興国の典型的なパターンです。

 30年前に取材した韓国サムスンの本社では、広報課長の男性は30代で早稲田大学を卒業した富裕層の息子でした。その時、紹介された英語が堪能な若い女性は、財閥の娘でアメリカと韓国を行ったり来たりする生活で、彼女を通じて、当時、ファッション界の帝王といわれたアンドレ・キムを取材したことも、今では遠い過去の話です。
 
 新興国・途上国の富裕層は全体からすれば人口の5%以下ですが、小さいなコミュニティーだけに互いをよく知っており、その人脈はかなりのパワーを持っています。国は貧しくとも富は彼らに集中しており、子供を海外に留学させるのも容易ということです。

 ベトナムやインドネシア、タイなどは、富裕層の子弟が欧米や日本の大学で教育を受け、彼らが国の経済を牽引してきました。これらの国でエリート層に会うと、ほぼ間違いなく富裕層出身者です。ただ、彼らが愛国心が強いわけではなく、より豊かな生活環境を求めてアメリカに住み着くケースも少なくありません。

 非常に限られた富裕層によって牽引される社会は当然、限界があり、学歴があってもチャンスが与えられないコネ社会に不満を持つ若者が豊かさを求めて時には激しい抗議運動を起したりする現象は、今や世界各地で見られます。日産のゴーン前会長が逃亡したレバノンもその1例です。結局、富が極端に偏った国は成長に限界があり、その典型が隣国、韓国でしょう。

 平等社会を実現するために、血縁・地縁ではなく、学歴さえあれば、平等の機会が与えられると思って勉学に励んでも、最後は富裕層の既得権益の厚い壁に阻まれ、整形手術までして就活しても結果が得られない悲劇も生まれています。それに海外留学ともなれば親の財力が必要です。

 今、アジアの喫緊の課題の一つは、労働力の底上げです。日本のように寺子屋の時代から農民などの庶民に教育を施した国は労働力の質のボトムラインが非常に高いわけですが、本来、アジアの途上国では識字率も低く、教育への意識は高いとはいえないため、ボトムラインを上げるのは至難の業です。

 それに学歴をつけると別の問題も発生します。それがタイで近年起きている高学歴層が住む都会と農村部のギャップが生んだ黄シャツ、赤シャツの政治対立です。その対立は家族にも及び、農村出身の女性がバンコックで大学まで行ったことで、その女性は都会に多い反タクシン派なのに対して、親は農家から高額で米を買い上げてくれたタクシン派のインラック政権の支持者になりました。

 アジアのほとんどの国は今でも第1次産業の農業従事者が7割、8割というケースが多く、底上げ作業は簡単ではありません。しかし、一方で日本のような発展の仕方をした例もあり、都会に人口が集中し、地方の地域社会の崩壊を生んだような間違いを繰り返さなくてすむ後発利点もあるかもしれません。

 それに多くの守銭奴と拝金主義を生んだグローバル化にブレーキを踏んだのは、地域コミュニティを大切にする第1次産業従事者たちでした。底上げが急務なアジア諸国ですが、個人の自由と欲望を強調しすぎれば、けっして国の発展には繋がらないことも肝に銘じるべきでしょう。

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 パリのルーヴル美術館が存命中の画家の展覧会をしたことは過去2回しかない。ピカソとシャガールでどちらも実はフランス生まれの画家ではありません。ピカソはスペイン、シャガールはロシア(現ベラルーシ)の生まれで、フランスで世界的巨匠になった外国出身者たちです。

 エコール・ド・パリの時代のフランス人画家なら世界中の人が知っている作家は多い一方、存命中の現代画家で世界的巨匠と言われるフランス人画家はあまり多くはいません。その中でフランス現代美術の生き証人的存在ともいえるのが「黒」を探求した絵画で世界的に知られるピエール・スーラージュ。

 とにかくスーラージュは昨年暮れで100歳になり、黒をこれだけ長期に探求したというのは人間業とは思えず、普通は人生の中で画風が何度か変わるものです。パリ・ルーヴル美術館で開催中のスーラージュの回顧展(3月9日まで)は、かつてダヴィンチの「モナリザ」が展示されていたドゥノン翼にあるサロン・カレで開催されています。

 下世話な話ですが、存命フランス人画家としては最高額となる1960年制作の絵画作品が960万ユーロ(約11億7千万円)で最近落札されました。第一次世界大戦が終わった翌年に生まれ、画業は70年に及び、今回も会場設定に立ち合い、作品の展示の光の具合を丁寧に指示していたというから驚きです。

 戦後はアンフォルメルの画家として注目を集めたこともあり、アメリカでも高い評価を受けました。今回の個展では、スーラージュに長年関わった著名なキュレーター2人が代表作を厳選、70年に渡る絵画制作の変遷を示す代表作と高さ4メートル近い新作までの約20点が天井の高い広いスペースのサロン・カレでゆったりと展示されています。

 時系列で並ぶ作品の最初は、彼が画家としてパリに住み始めた1946年の作品「紙の上のクルミ塗料」。「黒を超越した黒」といわれるスーラージュの作品郡は自作の大きな刷毛やペインティングナイフで凹凸のあるマチエールで光まで表現され、今も南仏の町・セットのアトリエで制作が続けられているそうです。

 黒の探求は、光の探求でもあったといわれ、タールを使用するなど物質として黒、色彩としての黒がガラスを通して光を取り込む作品でも知られています。1919年フランス南部アヴェロン県ロデスに生まれた青年スーラージュは、パリでセザンヌやピカソの絵に感銘を受けた一方、エコール・ド・ボザールの教えには反発し、すぐに田舎に引き返し、制作を開始したといわれています。

 戦後のアンフォルメル運動には完全に入らず、独自の道を模索し続け、黒を通して常に新しい表現に挑戦してきました。1951年に初来日したスーラージュの作品から墨の「書」をイメージした日本人も少なくなかったといわれますが、黒い線や形状に文字的意味を持たせたことはありません。画家には夭逝の天才もいる一方、作品がもたらす100歳の宗教的ともいえる精神の深遠さの迫力に圧倒されます。

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GRMの重要事項

 中国・武漢から始まった新型肺炎コロナウイルスの世界的拡大について、世界保健機関(WHO)は 「世界的な危機に至っていない」として緊急事態宣言を見送っていますが、今後、どうなるか分りません。それよりアメリカやフランス政府などが自国民を武漢から避難させることの検討に入っているところが注目されます。

 武漢は中国有数の自動車産業の集積都市で、日本貿易振興機構(JETRO)によると武漢とその周辺には約160の日本企業が進出し、その半数が日産自動車やホンダ、デンソーなど自動車関連のメーカーだとしています。さらに最近は小売業や化学品メーカーなど、毎年10社程度の進出が続いているとのことです。

 人口1,100万人の武漢の在住邦人数は、駐在員、留学生、長期出張者など500から600人で世界の主要大都市の在留邦人数からすると多いとはいえません。それでも日本の外務省によれば、中国への日本企業の進出先拠点数は32,349ヶ所もあり、2位のアメリカの8,606ヶ所をはるかに上回っています。

 人口比でいえば、中国全体の在住邦人数は外務省調べで124,162人と、世界的に見れば多い方ともいえませんが、中国国内では他の在住外国人よりは多いのが現状です。そこで気になるのが、欧米諸国よりカントリーリスクが高い中国に対して、企業のリスク対応は十分かどうかです。

 仏自動車大手ルノーやプジョー、シトロエンなどを傘下に持つ仏グループPSAが武漢に進出しているフランスも、約500人のフランス人駐在員が滞在しており、すでにフランス政府は在住フランス人の退避に向けて対策を検討しています。アメリカ政府も同じです。

 彼らは連日大使館経由で詳細な感染情報を流しており、各在住者に向けて毎日数度メールを発信し、さらに企業ごとにも迅速な対応に乗り出しています。フランスでは今月24日に欧州初の3人の感染者が確認されました。60から70万人の華僑が暮らし、欧州最大の中国人観光客を受入れ低るフランスは対応に追われています。

 ウイルス感染は人命に関わることで、リスクマネジメントでは最高度で最優先の対策事項です。特に中国のような正確な情報が迅速に得られない国ではリスクマニュアルも入念である必要があります。

 まず、ウイルス感染拡大は、企業がコントロールできない企業外要因で人命・安全に関わるテロ、クーデター、誘拐、強盗、暴力、自然災害、疾病などに分類されるもので、人の引き揚げ、事業継続の可否、一時停止などの判断が求められます。

 リスクの様相はは通常、繰り返され、変化し、隠れることも多く、新たに生まれる可能性もあります。ウィルス感染は人から人への感染でウイルス自体が変異していくため、目が離せません。リスクは常に未来にあり続けるので、前向き、能動的に行う必要があります。

 また、リスクは危機が起きる以前を指しますが、起きた危機への対処を含めトータルに取り組む必要があります。欧米諸国は18世紀からの大航海時代でグローバル・リスクへの対応の歴史が長いのですが、日本はその歴史が浅いだけでなく、意思決定を日本に集約させる傾向が強いことが迅速な意思決定を要するリスクマネジメントの妨げになっています。

 危機を拡大させる要因には計画性や統率力の欠如、情報収集力や分析力の欠如、検討時間や管理能力の欠如、感受性や直感生の欠如がありますが、実は意思決定をどのように行うかが最も重要といわれています。中でもリスクが発生している現場に最も近い「リスクオーナー」といわれる人間が意思決定の中心にいるべきです。

 なんでも落とし所を探って意思決定する日本的慣習では、直面する危機に対して迅速な決定や行動は取れません。東日本大震災でも石巻市の大川小学校で津波対応で校長と教頭が言い合っている間に津波が来て、ほぼ全員が犠牲になりました。意志決定者の存在を明確にすることは極めて重要です。

 今回のような人命に関わるカントリーリスクの場合、海外での難しさの一つは、ナショナルスタッフを置いたまま邦人だけが避難するべきかどうかという判断です。さらに邦人なしに事業を稼働し続けることができるのか、邦人の監視なしにナショナルスタッフは信頼できるのかという問題もあります。

 つまり、結局は日頃からナショナルスタッフ、特にリーダーを育てていないとリスクに対応できなくなり、機能を停止させる以外の選択肢がなくなるわけです。さらに雇用しているナショナルスタッフの人命・安全をどのように扱うかによって、会社への評価も変わってきます。

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 以前、このブログに上海のハニートラップ事例について書きましたが、驚くことに上海に10年以上駐在していた人物が「その話なら上海に長くいる人なら、誰でも知っていますよ」といわれ、改めて海外の邦人社会の狭さを痛感しました。つまり、ハニートラップに引っかかると被害は様々なところに拡がるという教訓です。

 他の事例ですが、タイのバンコックで単身赴任中の既婚の日本人駐在員が、遊びのつもりで現地で付き合っていたタイ人女性を妊娠させ、結婚を迫られ、そのうち誰にも知られないままに帰国日が来たので、逃げるように返った卑劣な男性がいたそうです。ところがタイ人女性は諦めず、子供を産んだ後、来日したそうです。

 女性は子供の認知と自分を含めた扶養を求め、会社にも乗り込んできて、そのうちに男の妻にも発覚し、妻には即刻、離婚されたそうです。男はタイ人親子の養育費を払いながらも、結婚には踏み切れず、煮え切らない態度で過ごしていましたが、会社側も噂が拡がることを恐れ、女性の同僚職員からも嫌われ、日陰に人辞され、風前の灯火だそうです。

 これらの事例は、相当前からある話で、フィリピン長期出張中にフィリピン女性を妊娠させ、子供を産んでしまった結果、既婚の日本人男性は妻にばれないように数年間、日本から送金を続けていたのが発覚し、離婚となったケースも20年以上前からあります。

 ならば、女性を送り込めば問題は解決するのかというと、そうでもない現実が最近増えています。町の名前はいえませんが、中国で起きた事件で、某大手日本企業から送り込まれた20代後半の女性は、能力も高く、綺麗で中国語も堪能だったので期待されていました。

 独身の彼女は、水を得た魚のように活き活きとして仕事をしていましたが、ある日、現地のパートナー企業で活躍する同年代の男性と知り合い、交際を始めたそうです。そこまでは普通のことでしたが、実はその男性の目的は、女性が働いている会社の機密情報を引き出すために近づいたというのです。

 スパイ映画にでも出てきそうな話ですが、油断した女性はそうとも知らずに男性からそれとなく聞かれた情報を少しずつ流すようになり、結果、最重要な機密情報を流したことで男性が務める企業が圧倒的有利な立場に立ち、その企業は甚大な被害を被ったというのです。

 女性は最終的には気がつき、会社から背任行為で訴えられることを恐れ、自ら現地で姿を消してしまったそうです。その後の女性の行方は分かっていないそうですが、彼女の昔の同僚が密かに連絡をとり、「会社側は訴えない」と伝えたそうですが、姿を表すことはないそうです。

 男女平等のダイバーシティの時代なので、女に弱い男性より女性の方がリスクが低いという認識も間違っているようです。ビジネス的にも特に女性を送り込むのは相手国の文化を確かめる必要があります。日本人女性の人気が高い、たとえばトルコでは、営業効果はあるものの、その女性がトルコ人男性に追いかけ回される危険もあります。

 イスラム教の国なら男女問題には厳しいので安全と思いきや、誰もが信仰者というわけでもなく、リスクは存在します。以前、世界トップクラスの男女平等社会を実現しているスウェーデンのボルボの役員から聞いた話ですが「スウェーデン国内では女性が管理職に就くのは容易だが、外国でのビジネス交渉では男性の方が有利な場合が多いので男性を送っている」といっていました。

 相手国にとって、ビジネスの世界で女性が認知されていない場合は、女性が交渉者になった場合、簡単に足元を見られてしまいます。最も危険な考えは時代の要請で男女のダイバーシティを推進すべきということで、数倍のリスクが存在する海外に、慎重に確認せずに女性を送り込むことです。

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 連日のようにアメリカのトランプ大統領の弾劾訴追裁判のニュースが流されていますが、この問題は当初から民主党対共和党の激しい党派対立に動かされているのが特徴的でした。特に民主党は大統領選を前に、たとえ弾劾できなくともトランプ氏の評価を極端に下げることで選挙戦を有利に戦えるとの意図が明白です。

 政治の世界ですから、常に政党の影響は大きいわけですが、大統領の弾劾という国家の最高権力者を引きずり降ろす判断は、果たして党利党略で行っていいのかということは考えておく必要があるでしょう。たとえば、ビル・クリントンが大統領時代に大統領執務室で行った研修生との淫らな行為は、党派を超えて大統領の資質が問われた弾劾裁判でした。

 しかし、今回は弾劾訴追は、トランプ氏と政治的に敵対する民主党の次期大統領選最有力候補のバイデン前米副大統領のを巡る不正を暴くため、ウクライナ政権に協力を依頼するため、ウクライナ支援で圧力をかけたことを権力乱用の不正行為としています。それは国益を極端に損なう行為といえるのか、違法行為なのかということでは議論が分かれるところです。

 つまり、ウクライナに対する介入は、トランプ氏がそれを今年の大統領選での再選に役立てようとしたという理由で、不正だと言われているわけです、政治家は自分の政治的成果を国民に示すために、あらゆることをします。その意味で同氏は1線を超えたのかということです。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は再選をめざす大統領選前のオバマ前大統領の行った行為について、社説「不正な目的を根拠に弾劾は許されるのか」の中で「オバマ氏はロシアのメドベージェフ大統領(当時)に対し、選挙後までミサイル防衛における圧力を緩めてほしいとプーチン首相(当時)に伝えるよう要請した」ことを挙げています。

 「共和党の大統領候補だったミット・ロムニー氏は、オバマ氏がプーチン氏に甘いと指摘し、オバマ氏が再選を後押ししてもらうために、独裁者から政治的支援を得ようとしていると非難していた」ことを例に挙げ、どの大統領だって選挙目的で外交を動かすことはあることを指摘しています。

 ところが民主党は、トランプ氏は例外であり、法を無視する脅威だと主張しています。つまり、弾劾が党派対立の道具と化し、日常化されることはないというわけです。しかし、民主党の目的もまた、次期大統領選に集中しており、WSJは今回の弾劾裁判が本来の弾劾の目的をねじ曲げてしまうことに強い懸念を表しています。

 WSJは結論として弾劾制度は「党派主義に基づく糾弾用の日常的手段としての弾劾訴追を拒否し、大統領による権力乱用が生じた純粋なケースに対応するための措置として残しておくということ」が重要だ指摘しています。

 今回は、上院の弾劾裁判の進行規則案を巡っても、共和党議員全員が禁則案に賛成、少数派の民主党議員全員が反対する前代未聞のスタートとなりました。党派対立による弾劾裁判の性格をよく表しているといえます。たとえ、共和党が多数派を占める上院での弾劾裁判で大統領が弾劾されなかったとしても、民主主義に大きな傷を残すことになりそうです。

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   春節を祝うパリの中国人コミュニティ

 フランス国籍を持つアジア系住民といえば、最も多いのが華僑と呼ばれる20世紀初頭までに世界に散らばった中国人たちで60万から70万人がフランスに住んでいるといわれています。彼らはフランスに住み着いて長いので正確な人口調査ができてるわけではありませんが、欧州最大規模です。

 この数は、これも欧州最大規模のユダヤ系コミュニティーが華僑と同じ位の60万人いるといわれますが、ユダヤ教では特別な理由なしに人口調査できないので正確には分かりません。加えてアルジェリア、チュニジア、モロッコなど北アフリカ・マグレブ諸国の出身者が旧宗主国フランスとの関係から約600万人も住んでおり、これも欧州最大規模です。

 つまり、フランスには欧州最大規模の中国系、ユダヤ系、アラブ系のルーツを持つ3つのコミュニティが存在する多文化社会なのです。彼らは時に共存し、特に対立しながら生きてきたわけですが、ユダヤ系とアラブ系は、同じ旧約聖書を共有するユダヤ教とイスラム教の背景を持ちますが、中国系は彼らと文化的、人種的共通項のない東洋人です。

 国立経済統計研究所(INSEE)によれば、フランスには中国生まれの中国人107,000人、彼らから生まれたフランス系中国人は32,000人としています。彼らは文化大革命や天安門事件の政治亡命者以降の人々で、1990年代広範にはより豊かな暮らしを求める経済難民も増えています。

 そこにアジア系では、ベトナム戦争やカンボジア戦争で旧統治国としてフランスが受け入れたベトナム人、カンボジア人、ラオス人が加わっています。つまり、華僑という中国系の人々に加え、半世紀前から新たなアジア系移住者がフランスに住んでいるわけです。

 そんなアジア系住民に対して「アジア人は金持ちだが、ひ弱なので襲いやすい」というイメージが定着したのは、今から10年位前で中国人が多く住むパリ19区と20区にまたがるベルヴィルで、中国人が経営する中華料理屋、宝石店、鞄店、両替店などがアラブ系の若者によって襲撃される事件が頻発したころからです。

 それは中国が経済大国になったことことも関係しています。アジア系といえば、2万人前後の日本人が住んでいますが、まず、他のアジア系と違い群れることはなく、治安のいい高給住宅地の16区や15区、西郊外のブローニュ=ビアンクールなどに住んでおり、他の移民との遭遇頻度は多くありません。

 ところが華僑を含め、他のアジア系はアラブ系住民が住むパリ東部や東や北の郊外の貧困地区に固まって住んでいます。中国が大国化するに従って「金持ちがわれわれと同じ地区に住んでいる」と理解するようになり、彼らの持ち物を奪う行為が増え、今では年間100件以上、3日に1回の頻度で被害が報告されています。

 華僑は出身別では、浙江省東南部出身が35万人、広東省東部が15万人、中国東北部が10から15万人と見られ、商売に長けた浙江省東南部出身の多くはビジネスを成功させ、実際に富裕層も多いといわれています。

 彼らが昔住み着いた3区のパリ工芸博物館周辺は地価が上がりすぎ、今は中華食品店が最も多い13区のプラス・ディタリ周辺、さらにベルヴィル界隈、フォブール・サンマルタンやクリメなどにも居住地が拡がっています。ただ、パリ市内に居住する中国人は全体の14%にしかすぎないといわれています。

 いずれにしても、フランスのアジア系コミュニティーを取り巻く環境は、中国が大国化するに従って軋轢をもたらし厳しさを増しています。彼らは最近、増えるアラブ系の窃盗グループの標的にもなっており、急増する中国人観光客がブランド品を携行し、現金を持ち歩き、高額買い物ができるクレジットカードを持っていることも襲撃される理由になっています。

 問題は、アフリカ系を含むフランス人には、中国人、ベトナム人、カンボジア人、日本人の区別がまったくつかないことだ。まずは襲われた時のことを考え、貴重品はなるべく持ち歩かないこと、絶対に抵抗しないことです。死傷した中国人の多くは抵抗により暴力を受けています。犯行は人通りの少ない場所で実行されるので、人気のないところに絶対行かないことも重要です。

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 日本の大手就活情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、企業に自社で収拾した内定辞退率の数値化情報を売っていた問題は、個人情報保護委員会から同社及び情報を買っていた大手企業が行政指導を受ける自体に発展しました。人手不足で就活生の売り手市場にある中で生まれた異常な違法行為だったといえます。

 一方、経団連は今月21日、2020年春闘で経営側の指針となる「経営労働政策特別委員会報告」を発表、デジタル化や国際競争に対応し、年功型賃金と終身雇用を柱とする日本型雇用慣行を見直す必要性を提起しました。

 経団連もようやく重い腰を上げたように見えますが、終身雇用の本格的終焉に向け、見方を変えれば期が熟した感もあります。ただ、混乱を覚悟で先手先手で改革するより、過半数の企業の賛同を待つ日本の経済界の意思決定は、日本の今の弱腰の現状を表しているのかもしれません。

 そもそもこれだけグローバル化が進み、異文化協業が必然になる時代に入りながら、日本の村社会を象徴する日本人にしか適応できない終身雇用で被雇用者を会社の色に染め上げ、忠誠心を養うための新卒一括採用システムを変更してこなかったことは驚きです。

 このシステムはこれまで機能し、日本の経済的成功に大きく寄与してきたのだから変更する必要はないとか、海外の慣習と違うことで国が守られてきたなどという意見もあります。しかし、終身雇用の前提となる企業の安定した成長が確保できなくなったバブル崩壊後、このシステムはすでに機能不全に陥っていたはずです。

 つまり、終身雇用は圧倒的に企業側が有利な制度で、一旦雇えば好きなように人事でき、その会社のみに役立つ人間を作り出すシステムで、被雇用者個人の人権は終身雇用と引き換えに会社の人質になってしまう側面があります。家族を無視した地方や海外人事、自分が習得したい専門分野を無視した配置転換など、会社に圧倒的権利が与えられてきました。

 しかし、大前提の終身雇用は企業の成長期間には約束できても雇用調整が必要な低成長、マイナス成長期間には人材整理は避けられず、バブルが弾けた1990年代、リストラで職を失う人が急増しました。この時点で終身雇用を前提としたマネジメント手法は根本的に見直すべきだったのが、企業中心の都合で矛盾を抱えたまま今日に至っているのが現状です。

 無論、個人主義ではない日本社会が大切にしたい皆で支えあう価値観の保全のためには、終身雇用型慣習のいい面は残すべきという議論もありますが、それにしても矛盾は排除すべきです。

 最近、新卒就活生の内定辞退キットが売れているというニュースが流れています。キットには断る先の企業に悪い印象を与えないための丁寧な手紙のフォーマットがあり、それをなぞれば手紙が出来上がるというものです。

 を海外から見たら、ほぼ理解不能の現象です。しかし、現状は日本では雇用者が圧倒的優位性に立っていることを物語っています。内定辞退を告げて採用担当者から「企業が採用にいかに多額の資金とエネルギーを費やしているか分かるか」と酷く叱られた例などがメディアで紹介されています。

 私個人は「内定」という言葉は両者が合意した後に使う言葉で「オファー」が正しい用語だと思っています。様々な就職試験を受けた後、企業側が「ぜひ、あなたを雇いたい」とオファーし、それに対して就活する側が受け入れるかどうか決めるというのが正常な流れだと思います。

 私は2020年以降に重要になるキーワードは「人間の尊厳を取り戻す」ことと考えています。勘違いされやすいのは、組織が圧倒的な力を持つ日本は個人が組織より重視される欧米より劣っていると考えているのかという批判です。私は個人と組織はWIN WINの関係にあるべきでバランスの問題だと思います。

 つまり、組織と個人はために生きあう関係だということです。その出発点になるのが新卒者の就職です。経験がない新卒生はそれだけでは企業の前に圧倒的に弱者です。だから、内定という言葉も飛び出してくるのでしょうが、誰にでも人生で仕事を始める最初があり、雇う企業側は、その若者のポテンシャルを買うわけで生かすも殺すも企業次第です。

 それを未だに「即戦力にはならない未熟な人間を雇ってやる」という考えが企業側にあるのは残念です。それに育てる側の責任をどう考えているのでしょうか。即戦力を期待するなら、教育制度そのものを根本的変える必要があります。

 少子化で人材不足は続く中、一人一人を大切に扱い、育てていく姿勢は絶対に必要です。基本的に雇用者と被雇用者の関係は平等であるべきで、企業側が内定辞退率の高い人には内定を出さないというのは、いかにも傲慢で姑息な態度です。内定辞退を許さないという風潮は組織と個人のバランスを大きく欠いています。

 これが社会人になる新卒者の最初の社会経験になることは、企業や組織が個人に対して力を見せつける行為で若者を萎縮させるだけです。それは企業のエゴであり、非人間的な企業論理です。同時に今の若者はそういう非人間的で高圧的態度に出る企業に魅力は感じないでしょう。

 むしろ、海外との互換性に乏しい日本の特殊な雇用慣行が早急に改善されれば、日本を弱体化から救いことになるでしょう。内定辞退で叱られることを恐れ、その企業のブラックリストに入れられ、そのグループ企業への再就職もできないと心配させることは間違っています。

 無論、就活生のメンタルの弱さにも呆れますが、低成長の長期化の中で育った若者が、この国に大きな希望を抱き、強気だとは到底思えません。いずれにせよ、国の内外を問わず日本企業の雇用環境への評価はアジアでも低いわけですから、優れた人材に魅力を感じさせる雇用慣行に改めるべきでしょう。

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 欧州産業連盟は今月16日、中国との経済関係が新たなステージに入ったとして、中国の国家主義経済政策の改善を求める意見書を出しました。そこには欧州連合(EU)も対中ビジネスをリセットする時期が来ているとの認識も示されています。とはいえアメリカほど強気に出れない事情もあります。

 日本の経団連に相当する欧州産業連盟(UNICE=ビジネスヨーロッパ)は、アメリカと中国が第1段階の経済・貿易協定に1月15日に署名したことを受ける形で翌日、中国に対して、国家主義が引き起こしている構造問題や市場の歪みをもたらす慣行の改善を求める意見書を出しました。

 内容はEUが対中国政策を整理し直し、いうべきことはいって関係を深めたいというもので、中国が国家主義の経済政策を改めなければ次のステージには行けいないと釘をを刺すものでもあります。ただ、第1段階の米中貿易協議でアメリカが要求した知的財産の保護や金融市場の開放、為替操作の禁止のような具体性には乏しく、欧州らしい多少観念的アプローチともいえそうです。

 中国への懸念という意味では遅きに失した感もあり、歯切れの悪い部分もありますが、日本の財界が一致して中国の根底にある政策問題に強い懸念を示すようなことをしていないことからすれば、いいのかもしれません。問題なのは中国が、社会主義モデルを強化し、ますます国家主義を強めていることです。

 意見書は、中国の国家主導の経済政策がEUにもたらすシステム上の課題に対処するために、以下の4つの主要な目標を挙げています。
 1、EU・中国間の公平な競争条件確保
 2、市場の歪みをもたらす中国政府の影響緩和
 3、EU域内の競争力強化
 4、第三国の市場での公正な競争と協力確保

 意見書では、中国の国家主義経済政策は中国国内のみならず、EU域内でも欧州企業の潜在的競争力を阻害しているとの認識を示し「中国の構造的問題を放置することは許されない」(マルクス・バイラーUNICE事務総長)として、中国へ改善を求め、同時にEUの対中国経済政策の再考の必要性を迫っています。

 現状としては中国が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」のプロジェクト入札で、在中国・欧州企業が問題視している入札の不透明性があります。一方、EU域内では加盟各国で対中経済政策はバラバラで、中国との関係が長いドイツは、中国から入ってきた安価な中国メーカーのソーラーパネルの流入で、何社ものドイツメーカーが倒産や徹底に追い込まれ、この数年問題になっています。

 最も昨年問題視されたのはイタリアで、昨年3月、主要7カ国(G7)メンバー国として初めて、中国の「一帯一路」への正式な支持を表明し、同国のインフラ整備事業計画で、ジェノバ西リグリアや東アドリアの港湾整備事業に中国の巨額投資を受け入れる協定に署名したことです。

 EU経済の牽引役のドイツでさえ景気減速状態に陥っており、抜け出す手だてを見出していない現状があります。景気低迷からの脱出に中国資本は欠かせないというEU諸国の事情もあり、そのため不透明な投資実態を知りつつ、中国マネーに手を出し、強気発言ができない現状もあります。

 EUは、中国の習近平国家主席や要人のEU訪問に手厚い接待を行い、ドイツやフランスなどの首脳の中国訪問には必ず、自国財界人を1,000人単位で引き連れていき、大型契約を結ぶことに余念がありません。今回のUNICEの意見書も、経済パートナーとしての中国とEUの関係強化は最重要課題と位置づけています。

 具体的な改善要求としては、中国と外国企業間の市場アクセスの格差、戦略的セクターにおける中国国内での中国企業の資金調達の優位性、安価な土地とエネルギー優先提供、州の不公平支援、選ばれた人々への優先的支援など、多くの差別的な慣行が市場を歪めていることを問題視しています。

 とはいえ、アメリカのように大規模な関税上乗せや中国政府の情報収集に加担しているとして中国IT企業を米国市場から排除するなど、相手をコーナーに追い詰めて改善を求めるような強気の政策を今後EUが取るとは思えません。中国に対するナイーブな認識が多少、米中貿易戦争を見て変わってきた程度です。

 私はむしろ、日本が欧州経済界と足並みを揃え、中国の隣国としてアドバイスし、公平さを大きく欠く中国の国家主義や覇権主義に対抗する勢力を構築することが重要だと思います。そのためには日本が欧州市場にさらに積極的に投資を行うことも重要と考えられます。

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 18世紀、19世紀に起きたような大規模な産業革命の再来といわれるデジタル革命、グローバル化時代に差し掛かり、これからの世界を牽引するのは若いリーダーといわれて20年以上が経ちます。古い世代は老害とされ、ビジネス界だけでなく、政治リーダーまで若返りました。

 ビル・クリントンは1993年 44歳でアメリカ大統領に就任、トニー・ブレアとデーヴィッド・キャメロンはそれぞれ1997年、2009年に44歳で英国首相に、プーチン大統領は2000年、48歳でロシアの大統領になり、今も現役です。バラク・オバマは2009年48歳でアメリカ大統領に就任しました。東西冷戦終結以降、40代の大国を率いるリーダーが登場し、新しい時代の息吹を感じさせました。

 ビジネスの世界は、それより早い1980年代に20代でデジタル時代を牽引することになるマイクロソフトのビル・ゲイツや、アップルのスティーブ・ジョブスが20代で頭角を表し、ビル・ゲイツが世界長者番付1位になったのは1994年、39歳の時でした。雇われ社長ではレバノン逃亡中のカルロス・ゴーンが仏自動車メーカー、ルノーの副社長になったのは41歳、日産のCOOに就任したには44歳でした。

 グローバル化の加速とデジタル革命の中、トップリーダーは若くなければ役に立たないという風潮がありました。ところが2017年、アメリカの大統領に就任したドナルド・トランプは70歳。次期大統領選の民主党候補者は、ジョージ・バイデン(77)、バニ・サンダース(78)、エリザベス・ウォーン(70)と70代オンパレードです。

 実はアメリカでは政治家の世界を別にすれば、40歳以上の年齢は仕事に不利と考えられ、様々な差別を禁じた機会均等法の考慮すべき項目に挙げられているくらいです。日本でも36歳以上の再就職は難しいといわれています。

 オバマとトランプを比べると、デジタル時代のグローバル化を牽引するIT業界と金融業界を後押ししたのはオバマ前大統領でした。逆に70歳代のトランプ大統領は「アメリカ第1主義」を掲げ、グローバル化にブレーキを踏み、巨万の富を手にした世界的企業のGAFAやウォールストリートに圧力をかけています。

 オバマがシリア問題を放置したため、過激派組織、イスラム国(IS)が台頭し、北朝鮮も核武装に成功しました。ロシアは密かに最新鋭の武器を開発し、中国はアメリカに次ぐ大国にのし上がり世界覇権を画策し、イランはオバマ時代の核合意の影で核開発や中東での覇権を強化しています。結果、トランプ政権は、これらの深刻な問題の尻ぬぐいをさせられていますが苦戦中です。

 キャメロン英首相は、EU離脱を議会で決められず、最も危険な国民投票に掛けて、離脱のために3年半も混迷が続きました。39歳でフランスの大統領に就任したマクロンは黄色いベスト運動から史上最長の鉄道ストで国が制御不能です。

 歳をとっていればいいということではありませんが、時代の変化に高齢リーダーがついていけないので引退すべきともいえません。トランプはツイッターを使いこなしているし、テクノロジーは手段であって目的ではありません。企業もそうですが経験知がものをいうケースは少なくありません。

 企業トップの席を同じ人物が長期に居すわる弊害は、長い経験知からすれば問題です。ゴーンを20年も放置したのは経験知の浅い人材に取り囲まれていた側面もあります。老害は排除すべきだし、若いリーダーを育てていくことは急務ですが、今はどちかというと経験豊かな高齢トップが組織に貢献できる可能性が高い時代にあるように見えます。

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