安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが体験を踏まえ現在の世界を読み解きグローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

 パリ中心部を流れるセーヌ河の水位上昇が止まらず、市民生活にさまざまな影響を及ぼしています。パリ郊外では病院や住宅で避難する事態になっており、先週からパリ市は厳戒体制を敷いています。

 2016年6月以来となる豪雨によるセーヌ河の増水は、ピークをむかえていると言われますが、今週、どの程度の雨が降るかによって、高い水位が続く可能性もあると当局は警告しています。

 すでに郊外高速電車RERのC線は、パリ市内ではセーヌ河のすぐ横の地下を走行しているため、運行が中止され、そのC線の上に建つオルセー美術館や河の対岸に建つルーヴル美術館、オランジュリー美術館では厳戒体制が続いている。

 ルーヴル美術館では2016年の時同様、地下に所蔵している作品をすでに移動させており、今回も低層展示スペースは閉鎖されており、緊張が高まっています。実はパリの重要な建造物の多くがセーヌ川沿いに建っており、構造上、多くの地下スペースがある。

 また、セーヌ河沿いには河に面したカフェやレストランもあり、すでに冠水したレストランもあります。さらに増水することでセーヌ河に架かる17の橋の下のスペースがなくなり、船での移動が現在、できなくなっている。当然、遊覧船の運行も現在中止です。

 船ということで言えば、セーヌ河で水上生活をしている住宅型の船ペニッシュも危険な状態です。水位上昇で船は川岸の歩道の上に乗り上げる形になっており、今後、水位が下がった時に船底が損傷し、沈没するリスクがあると言われています。

 深刻なのはパリ市内だけでなく、すでに東と西の郊外では、具体的に住宅が冠水し、住民が避難を余儀なくされている。北西郊外の病院では患者を避難させており、いつ戻れるか不安な日々を過ごしています。

 2016年の洪水の時、東郊外に住む親戚が洪水被害にあっており、1時間足らずでみるみる道路から水が流れ込み、地下の駐車場や部屋が完全浸水し、そこにあった洗濯機はベッドなどの家具類がすべて駄目になった経験をしています。
20100108PHOWWW00309
         1910年のパリの大洪水

 パリ市は20世紀初頭の1910年に大洪水に見舞われています。当時のパリ市内の人口は280万人で、現在の225万人よりは多かった一方、郊外を含めた首都圏の人口は当時450万人だったのに対して、現在は1,050万人に膨れ上がっています。

 最も大きな違いは、現在、電気の配電が100%なのに対して、2010年は2.3%と驚くほど少なく、車の数も現在の55万台に対して1万5千台しか走っていなかったのと、地下鉄が現在14ラインあるのに対して当時は6ラインしかなかったことです。

 1910年の洪水では水位は8.62メートル上昇し、今は6メートルの上昇ですから、当時の洪水の凄さは想像できないほどです。無論、セーヌ河の川上には現在、広大な貯水池が作られ、それなりに対策が効果を発揮しているとも言えます。

 1910の洪水では街中に水が流れ込み、パリ市内は船でしか移動できなくなり、地下鉄も完全に水の中という状況だったことが記録に残されています。それも1月の寒い時期で、最初にセーヌ河の水位が3.8メートル上昇し、その後、1週間で8メートルを超えたとされています。




 日本に比べれば、はるかに男女の賃金格差が少ないと思われがちな英国で、それも英国放送協会(BBC)の格差が表面化し、テレビやラジオでキャスターなどを務める男性著名ジャーナリストら6人が今週、自主的に賃金カットを受け入れたことが報じられました。
241414894_39dcb32b33_b

 BBCは昨年7月、議会の圧力もあって著名キャスターらの報酬を5万ポンド(約770万円)刻みで初めて公表。議会は、政府の交付金を受け取っているBBCに透明性を求めるのは当然としていました。

 今月7日には、テレビでお馴染みのBBC記者歴30年以上のキャリー・グレイシー中国担当編集長が、男性同僚たちとの賃金格差に抗議し、編集長の職を辞任しました。昨年7月、年間15万ポンド(約2300万円)以上の給与を得ている職員の3人に2人が男性であることが明らかになり、是正が求められていた最中の辞任でした。

 グレイシー氏は自信のブログで「BBCが平等法に違反し、公平で透明性のある給与体系を求める圧力に抵抗していることを、皆さんは知る権利がある」と説明、BBC側は公式には「女性に対する体系的な差別はない」と反論していました。

 彼女はさらにブログで「BBCは、私を中国編集長に選んだのは、男女平等に積極的に取り組んでいるあらわれだと公に繰り返し主張してきた。そして私自身、平等な扱いが着任の条件だと強調してきたにもかかわらず、上司らはまたしても、女性の労働は男性の労働よりもはるかに劣るものだと判断した」と書いています。

 実際、昨年7月の公表で、著名キャスターら報酬の上位14人中12人が男性、また年間15万ポンド(約2300万円)を超える報酬を得ているうちの3分の2が男性であることが明らかになっていました。

年俸13万5000ポンド(約2100万円)のグレイシー氏を含む4人の海外担当編集長の賃金でも、男性の方が50%も高い報酬を受け取っているとグレイシー氏は主張。

 実際、北米編集長のジョン・ソペル氏の年俸は20万〜25万ポンド(3080万〜3850万円)だったことが明らかになっており、地域の重要性から報酬格差を設けることは日本でもありえますが、中国の重要度は増すばかりですから極端な差は不自然に見えます。

 今回、たとえば、BBCラジオで朝のニュース番組キャスターを務めるジョン・ハンフリーズ氏は60万ポンド(9240万円)以上の年俸を25万〜30万ポンド(3850万〜4620万円)まで自主的に削減することを受け入れたことが報じられています。

 最も高い70万〜75万ポンド(1億780万〜1億1550万円)の年俸を受け取っていた午後のラジオ番組司会者のジェレミー・バイン氏も賃下げに応じ、計6人の著名なキャスターらが減給を受け入れたと報じされています。

 今回の措置を支持する関係者や専門家らの間では「国民から視聴料を受け取る公共放送として、2010年に同一の仕事をする男女は同一賃金を受け取らなければならないと明記された男女平等賃金法に従うのは当然」との声が聞かれる。

 一方、高い報酬を払っていたのは、優れた人材を集めるためで公共放送の質を高める上で当然のことだという意見も出ています。ただ、高額な報酬を受け取る6人の減俸で話を終わらせようとしていると警戒する声も聞かれます。

 実は男女の賃金格差問題は、フランスなど他の欧州諸国にもあり、ドイツは上司に対して同僚の報酬額の開示を求める権利を認めたばかりです。タブー視されがちな報酬体系の明確化は今後も追求の目が厳しくなることが予想されます。

ブログ内関連記事
ドイツで男女間の賃金格差是正の新法施行


work-life-balance

 フランスのビジネススクールの教授や学生と話をしていると、必ず出てくるのが日本人の働き方への疑問です。その疑問は単純です。あれだけ経済力を持つ日本で、どうしてサラリーマンたちは長時間労働を続け、ライフワークバランスが極端に仕事に偏っているのかというものです。

 増える海外からの観光客たちの間で、驚きの光景の一つが飲み屋や電車の中で泥酔するサラリーマンたちの姿です。安全だから公の場で泥酔できるという日本の特殊事情もありますが、なぜ、長時間働いた後にさらに帰宅を遅らせるようことをしているのかという疑問です。

 この10年、日本企業では生産性の向上、仕事の効率化などが叫ばれてきましたが、事態はそれほど変わっていません。そこにはいくつもの原因があると考えられますが、その一つは日本の企業文化が極端に男性に偏りすぎていることです。

 男性は往々にして仕事に満足感を感じ、女性は子育てや私生活を豊かにすることに満足感を得る傾向があると言われます。無論、女性も仕事にやり甲斐を感じるのは同じですが、男性の脳の中の仕事に占める割合は圧倒的です。

 最近の研究では、ライフワークバランスが取れている社員の方が、圧倒的に効率性が高く、仕事への満足度も高く成果も出していることが分かっています。

 たとえば、国土の狭い資源のないオランダでは、国民生活をより豊かにするという目的から育児を基本とする国民の家庭生活を支える制度の大胆な改革を続けている。特に職場と家庭のライフワークバランスについては、オランダモデルと言われ注目を集めています。

 オランダでは1996年に法制化された労働時間差別禁止法により、育児に時間が必要な女性たちが仕事に就きやすい環境が整備され、2000年には働く側が労働時間の増減を決める権利を持つというフレキシブルワーク法(労働時間調整法)が施行されました。

 同法では1年間以上同じ職場で働いた被雇用者は、雇用者に対して労働時間の増減を要望する権利が与えられ、育児に時間が必要な女性が仕事開始時間や帰宅時間を調整することができるようになりました。無論、妻だけでなく夫も同等な権利を持つわけです。

 さらに雇用者側が労働時間で差別的扱いをした場合や時間調整に応じない場合は、監視委員会の調査が入り、適切な厳しい指導が行われることになり、当初は中小企業の抵抗もあリましたが、今では完全に定着している。

 この制度の導入で、女性管理職も、たとえば労働時間調整法を利用し、週4日、朝10時から午後3時まで勤務するなどという勤務スタイルが生まれました。中には夫が保育園に子供を迎えに行くため、毎日4時に退社するケースもある。

 もう一つ、オランダではフルタイムとパート、派遣の待遇の境を取り払っていて、自分に与えられた仕事をこなすことについても柔軟な考えを持てるようになっています。無論、今の状況を作り出すために何年も要したの事実です。

 オランダモデルを調査している友人のフランス人教授は、「今のような働き方に変化するには時間が掛かったのも事実。これは働くすべての人々の意識が変わらない限り、一社だけでは実現できない。つまり、経営者、ビジネスパートナー、顧客の幅広い意識転換が必要だから」と指摘しています。

 日本には戦後の急速な経済成長で成功体験の多い昭和世代が築いた長時間労働、過重労働を強いる経営スタイルが、今も根強く残っています。しかし、その結果は家庭を崩壊させ、女性の社会進出を阻み、少子化をもたらし、自殺者も出している。

 成功体験したなかった昭和世代は、この失われた20年ですっかり自信を失い、かといって根本的に働き方を変えるための知識も勇気を持ち合わせていません。上司は自分が育てられてように部下を育てるわけですから、出口は見えません。

 残念ながら海外から見れば、バブル崩壊後に足を止めて本当の豊かさを追求するというリセットが日本はできなかったように見えます。そんな平成も終わりを迎えるわけですが、凍りついた消費を溶かすためにも、人間がどんな状況で本当に満足するのか、その中身を問い直す必要があるように思います。

ブログ内関連記事
働き方改革で海外の優秀な人材を惹きつけるには人事評価制度で公正さを重視する必要がある
働き方改革 ヴァカンスの経済学で発想を変える
日本の美徳「勤勉」とライフクォリティー追求の関係
日本はアジアで働きたくない国第1位とは何を意味するのか

  

Tony_Blair_3

 世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)などで英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる政治家たちの発言が相次いでいます。特にブレア元首相の24日の発言は、誰もが内心、可能性があるのかないのか予想しかねている離脱撤回に言及したことで、注目を集めました。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは、独自の取材でブレア氏が英政府とEUとの合意内容が英議会で否決された場合、「行き詰まり」から、来年3月までに40%の確立で離脱撤回に至る可能性があると語ったと伝えています。

 その数字は、昨年6月の総選挙で与党・保守党が単独過半数を失ったことによるもので、それ以前は、EU離脱撤回の確率は20%未満と考えていたと語ったとされます。

 つまり、議会がEUとの合意内容を承認しなければ「ノーディール」状態での離脱を余儀なくされ、それはありえないので撤回せざるを得なくなるかもしれないということです。国民投票で決定したことを撤回し、その準備に追われてきた英国当局とEU側双方の作業を無にすることも大変なことです。

 一方、英議会ではデービスEU離脱担当相が同じ24日、金融サービスやその他の通商問題についてEUの規則から離れる権限を確保するよう交渉を進めると発言しながらも、離脱後も規制面での一致を継続し、離脱後に将来的な選択の自由を残す考えを示しました。

 つまり、英政府として離脱交渉の目標として、EU市場へのアクセスを現状維持しながらも、将来的に自由な選択を行使できる通商交渉をめざすというものです。さらに現状のEUとの通商規則を維持し、EU司法裁判所の管理下に止まる移行期間の確保のために最大限努力するとも述べました。

 25日には、ダボスでメイ英首相が、ロンドンの金融街シティーが世界の金融センターとしての役割を確実に維持できるようにしたいの考えを示し、フランスのマクロン大統領が先週末に「英国が政治的・金銭的代価を支払えば、通商合意に金融サービスの要素含めることは可能」との考えを示唆したことに間接的に答える形となりました。

 そのメイ首相は同日、トランプ米大統領と会談し、1月に予定されたロンドンの米大使館開館式への参加を見送ったトランプ氏の決定で冷え込んでいると見られる米英関係の良好ぶりをアピールしました。

 英国はこの1年、嫌トランプ状態にあり、保守党はトランプ氏の公式訪問自体を歓迎していない状態です。BBCは一貫してトランプ氏へのネガティブ報道を繰り返しており、メイ首相もトランプ氏に近づきすぎると足下の保守党から反発される恐れがある。

 離脱後の米国との関係維持を重視すつメイ首相は、トランプ氏との間で米英の「特別な関係」が変わっていないことを確認する一方、「英国はEUを去るが、今後も自由貿易の世界的な擁護者であり続ける」と語り、保護主義的傾向を見せるトランプ政権に釘を刺すのも忘れませんでした。

 一方、トランプ氏は「われわれはあなたの国を愛している。両国は同じ理想を持っており、米国が英国のために戦わないというようなことは一切ない」と述べたことが伝えられています。

ブログ内関連記事
冷え込む米英「特別な関係」、トランプ大統領の英訪問を取り止めでさらに隙間風
建設中のロンドンの高層マンションの購入者が買値の2割引きで売り急ぐ衝撃
英国のEU離脱を担うEU離脱省の人材不足は英国の苦戦を象徴している

  

UNRWA

 アメリカのトランプ政権は、イスラエル建国などで大量発生したパレスチナ難民の支援を担う国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金を大幅に凍結する決定を下し、非難されています。人道問題と政治問題の混同があるとの批判です。

 今回の決定は、いかにもトランプ流でした。UNRWAのクレヘンビュール事務局長によると、昨年11月に米高官と会った際は、支援表明していたのが、1月にいきなり「組織運営に不満がある」としてトランプ政権は凍結を決めたというわけです。

 同事務局長が今回の米国の決定は「最大の危機をもたらす」と言っていますが、今回の決定は、どんな理由で行われたのか。今のところは、組織運営への不満とだけ言われていますが、昨年10月、米国とイスラエルが同時に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に対して脱退通告している。

 さらに、トランプ政権は、エルサレムをイスラエルの首都とすることを決定し、今週明けにはペンス米副大統領がイスラエルを訪問し、エルサレムに米大使館を移す具体的な日程にまで言及しました。

 今回のUNRWAへの拠出金凍結は、その一連の流れにあると言えます。そもそもUNRWAは何をしているのか。国連広報センターの説明を要約すれば、パレスチナ難民を救済する目的で1949年に設立。活動期限は定期的に更新され、中東に住む500万人の登録パレスチナ難民に教育、保健、救済、社会福祉など、基礎的なサービスを提供しているとある。

 それもイスラエルのガザ地区や東エルサレムだけでなく、ヨルダン、レバノン、シリアの58の難民キャンプに住む約150万人の難民も対象となっており、キャンプ地域での小規模金融管理やインフラ整備も行っているとしている。

 さらに紛争が起きる度に緊急支援も行っており、アメリカや欧州諸国、中東諸国、日本など25カ国からなる諮問委員会によって支援されており、UNRWAにはなんと3万3000人の現地スタッフと国際的に採用された146人の職員が働いており、2012−2013年度予算は20億ドルだったとしています。

 これだけの人数と巨額の支援金や物資が、延々とパレスチナ難民に注がれながら、未だ中東和平は解決の兆しすら見せていないのが現状です。何度も和平交渉が試みられながらも終わりが見えない中、支援が継続している現実をどう見るかです。

 米国とイスラエルがユネスコを脱退したのは、2011年にユネスコがパレスチナを完全な加盟国と認めたことに端を発している。昨年の脱退宣言に対してユダヤ人でもあるユネスコのイリーナ・ボコバ事務局長は葛藤しているでしょうが、「世界全体の多極主義にとって喪失だ」と遺憾の意を示しました。

 つまり、左派出身のボコバ氏は多極化均衡論を信じているわけです。ネオリベラリズムを最大の敵とするトランプ大統領にとっては、オバマ政権がもたらした多極化は混乱とカオスを世界にもたらしただけだという主張です。

 無論、一連のパレスチナに挑戦状を叩きつける決定の背後に、トランプ政権で力を盛り返した在米ユダヤ勢力の影響があることは明白でしょう。

 しかし、同時にアメリカが思い描く世界の安定には、ユダヤ教・キリスト教がもたらした自由主義、民主主義が不可欠との考えがあり、共産党一党独裁の中国や北朝鮮、イランなどのイスラム国家らは、体制を変更すべきとの考えです。

 米国は今月16日、UNRWAへの2018年の拠出金1億2500万ドルのうち6500万ドル(約72億円)の支払いを凍結すると発表。中東和平に圧力を加える狙いもあるように見えます。人道主義と多極化主義では、問題は延々と解決しないというメッセージとも受け取れます。

 一連の米国の行動を「アメリカ第1主義」の観点から批判するのは簡単ですが、中東和平を単に遅らせるのか、それとも何かが動き出すのか、じっくり見る必要があります。

 日本もユネスコに巨額の分担金を支払いながら、中国の南京大虐殺を世界記憶遺産に登録された現実があるわけで、リベラルな多極化の動きの影で政治的野心がうごめいている事実は無視できないでしょう。

ブログ内関連記事
ユネスコの次期事務局長に内定したアズレ前仏文化相はモロッコ系ユダヤ人
アメリカのユネスコ再度脱退に思うこと
エルサレム首都認定問題は当事者同士の話し合いによる解決はありえない
 

342047

 今年は日中平和友好条約締結40周年の年で、日中関係は大きなリセットが必要な年と思われます。23日には衆院の与野党議員と中国の全国人民代表大会(全人代)による「日中議会交流委員会」が開かれ、経済、文化、観光などの分野で連携強化を確認されましたが、特に経済関係は大きな見直しが必要な年と言えるでしょう。

 無論、中国海軍の潜水艦が最近、尖閣諸島の接続水域に侵入した問題や中国の覇権主義による異様な軍拡路線に対しては、引き続き強い警戒が必要ですし、今、韓国が平昌五輪をめぐって北朝鮮の手玉にとられているような状態を見て、日本が中国の手玉にとられるようなことだけはあってはならないのも事実です。

 しかし、それ以上に習近平政権が何を使用としているのかを正確に見抜き、対中国政策は経済関係を含め、十分に練られた戦略で動くことが重要だと思います。同時に日本はアメリカの顔色を伺いながら政策を決めることを辞め、独立国家として明確なヴィジョンを持ち、それを示す時代に入ったことを中国に示すべきでしょう。

 興味深いのは、中国は日本人が考える以上に、常に日本を脅威としてきたことです。文化大革命以降、世界に散った中国人とアメリカやヨーロッパで話を聞いても、中国在住の政財界の人と話をしても、日本は今も昔も東アジアの大国だという意識を持っていることです。

 私の母が満州で生まれ育ち、大連で終戦を迎えながら、通訳官だった親の関係で北から入ってきたソ連軍に拘束され、さらには中国共産党八路軍に身柄を拘束され、計2年間日本政府の保護のなくなった大連で過ごした経験があります。

 そのため、小さいときから散々、母や祖父母から満州での生活を聞かされ育ち、まるで自分の第2の故郷のように感じることもあるくらいです。彼らが知る中国人は、無論、日本統治下ではあっても、義理堅く、恩を忘れない人々だったということでした。

 特に祖父は通訳官という職業柄、中国人と毎日接し、人脈も多く、そのこともあって祖父に世話になった中国人の一人が八路軍を説得し、刑務所から出ることだできた経緯がある。
彼らの知る満州人は、今の中国人とは別人だと祖父も母もよく言っていました。間違ったイデオロギーが人間を変えてしまったということです。

 それでも興味深いのは、たとえば大連は現在、中国語を学ぶ中国人の数が大都市の人口比でトップであり、深刻な反日運動が起きたことがないということです。同じ日本の統治下にあった韓国ソウルとは大違いです。

 しかし、その中国東北部も今、深刻な状況に追い込まれている。それは北朝鮮の存在です。中国政府が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」においても、北朝鮮は今や経済活動を朝鮮半島や日本に拡げたい習近平政権にとって、大きな分厚い分厚い壁となってしまっているからです。

 このことが、中国は北朝鮮に対して国連で強硬姿勢に転じる背景になっているとも言えます。東アジアを制したい中国としては、北朝鮮は今や冷戦時代から続く緩衝地帯ではなく、邪魔な存在になりつつあるということです。

 その意味では、経済的に停滞する中国東北部への日本の投資は意味を持つと言えます。経済的に切っても切れない日中関係を築きながら、北朝鮮に背後から圧力を加えることは戦略的に意味があることだと思います。無論、中国に利用されるだけの投資は意味がありませんが。

ブログ内関連記事
中露の軍拡を最大の脅威とするトランプ政権の新国家防衛戦略は世界にどのような影響を与えるのか
中国はいつか欧米のようになるとの幻想を修正できなかった責任は日本にある
バノン氏の日本での講演で明らかにした中国覇権主義への警告をどう読むべきか


800px-Berlin-_The_Norman_

 21日の党大会で連立交渉入りを決めたドイツ第2党の社会民主党(SPD)のシュルツ党首は、改めてメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との協議で政治信条は曲げないことを強調しました。大きな対立がなければ政治空白を解消し3月までに連立政権が発足しそうです。

 連立協議入り決定は、代表者による投票で行われ、投票結果は賛成352票、反対279票で、専門家の予想よりも僅差だったとされ、苦渋の決断という側面は否めません。今後、協議のスケジュールの確認とともに、CDU・CSUに対してSPDは具体的要求を提示する見通しです。

 党大会で、シュルツ党首はフランスのマクロン大統領から「欧州はドイツを待っている。そのためにはSPDが必要」との電話を受け取っていたことを明らかにし、党員の中には喜ぶ声とため息、内政干渉と批判する声も聞かれ、複雑さを示しました。

 中道政治家であるマクロン氏にとっては、政治信条の左右の対立は冷戦時代から引きずる古い政治対立軸で、時代は中道に向かっていると言いたげです。そのSPDも古い社会民主主義からの脱皮を試みてきましたが、昨年9月の総選挙で戦後史上最悪の得票率20.5%まで沈みました。

 社会民主主義を標榜する中道左派政党の低迷は、欧州では昨年の大統領選と国民議会選で多くの議席を失ったフランスの社会党など、ドイツ以外でも同じような現象が見られる。その一方でドイツのための選択肢や仏国民戦線などポピュリズム政党が台頭し、落ち着くところは中道という現象が起きている。

 メルケル首相は、SPDの決定を歓迎し、協議への意欲を示していますが、皮肉にも連立反対の急先鋒に立つケヴィン・キューネルト青年部代表氏(28)など、SPD内の連立反対派が原則論を貫く古い党員ではなく、次世代を担う青年というところが苦しいところです。

 しかし、SPDを含め社会民主主義政党が復活する可能性は高いとは言えません。今後、ポピュリズム政党を脅威と感じる有権者の受け皿になる可能性も高いとは言えない。ドイツでの大連立政権発足が、社会民主主義の終わりの始まりと予言する専門家もいます。

 リベラルなメディアは、格差を拡大させる右派と平等を重視する社会民主主義の左派という構図を描いて、右派の危険性に警鐘を鳴らしていますが、その構図に有権者が共感を覚えなくなっていることが昨年の選挙で明らかになりました。

 いずれにせよ、過去最高の雇用を産み、ドイツ産業界も好景気が続く中、欧州最強の牽引役であるドイツの政治状況は、欧州の今後を大きく左右することだけは確かと言えます。

ブログ内関連記事
ドイツで男女間の賃金格差是正の新法施行
東西ドイツ統一以来最低の失業率で難民にも熱いまなざし
2017年の欧州では、なぜポピュリズムが盛り上がらなかったのか
極右化するドイツの新興右派AfD台頭をどう読むべきか

 米英を中心にセクハラ被害者を支援する運動「Time's Up(もう終わりにしよう)」や、ソーシャルメディアでハッシュタグ「#MeToo(私も)」を使って被害を告発する動きが高まる中、フランスの大御所女優らが、この運動に疑問を呈したことはセクハラ議論に深みを与えているように見えます。
カトリーヌ ブリジッド

 映画「シェルブールの雨傘」などで知られる世界で最も名前が知られる今も現役のフランス人女優、カトリーヌ・ドヌーヴ(75)は、女性作家などフランスの女性100人とともに今月9日、仏紙ルモンドに連名でコラムを寄稿し、「#Metoo」運動は行き過ぎと批判しました。

 その後、国内外のセクハラ被害者や運動推進派、さらにはフェミニストらから強く批判されたため、性暴力が許されないという認識は明確に持っていると述べ、セクハラ被害者へ謝罪したものの、見解自体は訂正しませんでした。

 一方、動物愛護運動家で極右支持者としても知られる、1950年代から70年代に活躍し、早期に女優を引退しやブリジッド・バルドー(83)は今月17日、パリ・マッチ誌にハリウッド・スターのセクハラ被害告白を「売名行為」と批判しました。彼女はドヌーヴより過激なことで知られるので、発言の訂正は今のところしていません。

 2人のフランス女優の発言は「男が魅力を感じる女性を口説こうとすることは、女性も歓迎しているはず」「セクハラ批判は、人生を豊かにしている全ての色恋まで否定することに繋がる」「役を得るためにプロデューサーをその気にさせて起きながら、注目を集めるために態度を翻し告発する偽善」というものです。

 これは今回のハリウッドのセクハラ告発騒動に最も葛藤している男性らを、老練な世紀のスター女優がサポートしたような話です。確かに今回の騒動は米英のハリウッドスターが主導しており、フランスではトーンが異なっています。

 それでも一致点はあります。それはドヌーヴが言っているように性暴力は絶対に許されない犯罪という点です。しかし、最終的に暴力に至らない行為をどこまでセクハラとするかは議論が必要です。

 たとえば、黒いドレスで女優たちが参加した今年のゴールデングローブ賞を見て、「セクハラに抗議しながら、なぜ、彼らは胸を出し、身体の線を強調する黒いドレスを着るのか」と疑問を呈するフランス人の友人もいます。

 その友人は「女性は本能的に着飾り、美しく見せたいし、その核心がセクシーであることだからそうするのだろうけど、それがとんでもない結果を招くことは考えていない」と指摘します。昔、フェミニストやウーマンリブの活動家が、下着を外して自由を訴えたのを思い出します。

 フランスは、夏のビーチで女性がトップレスなのが一般的でしたが、最近は禁止するビーチが増えている。理由の一つは男性たちが迷惑だと文句を言っているからです。それに夏の性犯罪を減らす目的もあります。

 今後、セクハラ問題は過熱が予想されますが、議論を深めていく必要があります。それにこの問題は宗教とも深く関係しており、今や大勢力であるイスラム圏の考えや文化の異なる東洋でも慎重な議論が必要です。

 個人的には、男女に備わった動物的本能は、人間が最も重視すべき愛情でコントロールされるべきもので、その愛情は他者をけっして傷つけないもの。そこから逸脱する行為は野蛮な行為と断罪されるべきだと考えています。無論、そのコントロールこそが最も難しいのが現実ですが。

ブログ内関連記事
黒装束のハリウッドスターが抗議するセクハラ被害 日本企業も標的になる可能性
今年はセクハラ防止運動元年になるかもしれない
公然の秘密とされたセクハラの放置は連帯責任という考えを強化する必要がある


 

Paul_Bocuse_2007_-2

 フランス料理界では世界的に名前を知られ、ヌーベル・キュイジーヌの旗手としても後身の料理人たちに多大な影響を与えたポール・ボキューズ氏が20日に死去しまし。91歳だった。最後はパーキンソン病と戦っていたらしい。

 ボキューズ氏は1965年にミシュランの最高峰3つ星を獲得し、1975年には料理人としては初めて仏国家勲章のレジオン・ドヌール勲章を受け、91歳で亡くなる時も3つ星シェフでした。

 フランスではミシュラン3つ星は非常に重たいもので、その重圧に耐えられず自殺したシェフも1人や2人ではない。ブルターニュ地方の3つ星シェフ、オリヴィエ・ロランジェ氏のように、3つ星を返上したシェフもいる。

 リヨン近郊の料理人1家に生まれたボキューズ氏は、日本との縁も深い。辻クッキングスクールで知られる本格的な仏料理を日本に紹介した故辻静雄氏の招きで来日したボキューズ氏は、日本の洗練された懐石料理などの調理法、盛りつけに感動し、フランスに持ち帰っています。

 ボキューズの後を追うロブションやデュカスなどフレンチの大物シェフたちが和食に強い関心を持つきっかけにもなりました。逆に日本はボキューズのおかげもあって、和食の評価が一気に高まり、世界が認める高級料理の仲間入りができたのも事実です。

 現在、フランス料理界の重鎮シャフとなったアラン・デュカス氏が校長を務める料理学校に頼まれ、新人シェフの卒業式で免状を手渡す役をかつて引き受けたことがあります。多くの一流シェフも集まり、式後に食卓を囲んだ時の会話が興味深かった。

 同席したホテルリッツのシャフや米国のフランス大使館シャフらが皆、日本への来日経験があり、弟子には日本人シャフがいて、和食を高く評価していました。彼らの評価はシャープで「日本人は教えたことを忠実に再現することはできるが、独自の創造性にいま一つ欠けている」という点で彼らの意見は一致していました。

 ボキューズ氏が、和食をフランス料理、中華料理と並び、世界3大料理に押し上げた貢献者の一人だあったことは記憶に止めるべきでしょう。逆に彼の弟子が日本で店舗を展開し、日本人の弟子も残しました。

 常に高い質の追求のためのイノヴェーションを繰り返してきたボキュースの姿勢は、多くの弟子たちに受け継がれています。ユネスコの世界無形文化遺産に登録されたフランス料理ですが、世界の人々に食文化の豊かさを伝えてくれた一人でした。

ブログ内関連記事
ミシュラン3つ星シェフの自殺に思う
ジビエの季節だけど
日本がフランスの有名シェフに与えた影響

32401735661_a7a6531db7_b

 マティス米国防長官が19日、明らかにした米国の国家防衛戦略は、テロとの戦いを主要課題としてきた近年の防衛戦略を根底から見直す内容でした。具体的には軍拡を推進する中国、ロシアが米国の立ち位置を脅かす最大の脅威と位置づけた点です。

 米軍の増強計画を含む戦略文書「国家防衛戦略」は、トランプ政権発足1周年の日に発表されました。そこにある主要認識は、急速な軍拡を進める中国とロシアを米国が主導する世界秩序に挑む「現状変更勢力」と位置づけていること。

 オバマ政権で急速に弱まったアメリカの軍事的プレゼンスを根底から見直し、大国志向の中国やロシアの脅威を押さえ込むことを国益とするトランプ政権の新たな方針は、自国第一主義で世界の警察官を放棄すると見る反米の識者の見方を覆すものです。

 今回の国防省の新方針は、昨年12月にトランプ大統領が公表した「国家安全保障戦略」に基づくもので、インド太平洋地域での覇権拡大を伺う中国が、同地域で将来的には米国の地位を奪取しようとしているとの認識に立ち、中国を米国にとって最大の脅威と位置づけている。

 国防省の具体的方針としては陸海空、宇宙など、あらゆる分野での米軍の優位性を維持するための「より強力な軍を作る」こととしています。

 9・11同時多発に始まった21世紀の世界秩序に登場した多極化均衡論や国連重視は、米国、中国、ロシアによる大国軍拡競争の前に色あせて見えます。同時に圧倒的軍事力で米国が世界秩序を保つことは国益にもかなうという認識を明確にしている。

 今世紀、米国はアフガニスタンへの攻撃に始まり、イラク戦争、シリア内戦への関与、そして今は北朝鮮の核の脅威と対峙している。トランプ政権は一方で北大西洋条約機構(NATO)や日本、韓国に対して、さらなる防衛負担を求めながらも、今回は自らも軍事力を強化する意志を鮮明にしました。

 平和ボケしている日本の外交専門家は、軍事力の均衡が崩れることの脅威には敏感とは言えませんが、世界秩序=国益という視点で見た場合、特に経済にとっては最も重要なことであり、その秩序を壊そうとする勢力を許さないという視点は非常に重要です。

 大国志向を持つ国は「世界を支配するものが最も利益を得る」という考えにとりつかれているとの見方もありますが、反米主義者が米国に対して使うロジックでもある。むしろ、市場は米国の新たな防衛戦略が戦争の脅威を煽るとは見ず、世界秩序をもたらす安心感を与えるものと見ると思われます。

 テロの脅威もなくなったわけではありませんが、中露の軍事的台頭は日本にとっても脅威です。そこで今後の議論で重要性を増すのが「公平性」だと思います。大国、小国はあっても公平性が担保できるかどうかが、脱イデオロギー時代の鍵になる思われます。



16652895246_87247deddb_b
 2016年暮れの大統領選投票日から昨年1年間、アメリカの株価は目を見張る上昇を続け、日本もその恩恵に浴しています。しかし、誰もがこの上昇が実体経済を反映した本物の好景気なのか不安を感じつつ、眺めているのが実情だと思います。

 無論、トランプ政権の具体的な経済政策の効果は専門家の間でも指摘されています。たとえば、税制改革がいい例で、法人税の引き下げで企業利益は増加し株価を押し上げると予想されています。今の企業景況感は、米ウォールストリートジャーナルによれば「思い出せる限り最も強気だ」と経済界の声を伝えています。

 投資家の間で、未だ世界的な市民権を得ているわけではないビットコインの乱高下は別にしても、ヨーロッパの経済も長期不況から抜け出し、製造業も活気を取り戻している。ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンは17日、グループ全体の2017年の販売台数が前年比4.3%増の1,074万1,500台となり、最高記録を更新したと発表しました。

 排ガス規制をかいくぐる不正な検査ソフトを使用していたことが発覚し、世界的バッシングを受けた同社ですが、ライバルのトヨタ自動車を2年連続で上回る見通しと言われています。背景には中国市場の回復もあります。

 無論、米連邦準備制度理事会(FRB)が長期に実施した資産購入や低金利政策を転換し、インフレが復活しているなか、株価下落を懸念するエコノミストもいます。それでも企業の利益増への期待感は大きい。

 そこで過去にない高い景況感の背景のもう一つに要素、つまり政治との関係を見ておく必要があると思います。それはトランプ大統領の登場です。昨日はフェイクニュース大賞を発表したトランプ氏は、マスコミとの前面対決を続けています。

 過去にないことずくめ大統領の言動は、今のところ、メディアの報道とは裏腹に少なくとも経済には悪影響を与えていない。そこで考えられることはアメリカ独特のビジネススタイルの復活です。

 長年、商人国家と言われた日本では、商売の原則は「なるべく敵を作らない」ことだった。冷戦時代もそうでしたが、最近ではイランの核開発問題では、先進国で唯一、石油の輸入ということもあり、イランとの経済関係を継続してきました。
 
 悪く言えば、経済優先のために八方美人的になることは厭わないのがビジネスの原則のように考えられ、事実、それで経済成長した過去もありました。逆にアメリカは自らの政治信条が明確なために、非常に敵の多い国です。

 身近な中南米からは、高圧的と批判され、彼らの反米感情は想像を絶しています。中国に対しては、トランプ米大統領は20日の就任1周年を控え、知的財産権侵害や米企業への技術供与の強要を問題視し、巨額の「罰金」を科す方針を打ち出し、米中関係は悪化しそうです。

 アメリカは過去、ビジネス相手に手揉みしながら商売をすることはしていません。米国内でも誰にでも頭をペコペコ下げるビジネスマンは尊敬されないし、むしろアグレッシブな姿勢を見せることが評価されている。日本とは大きく文化が違うとも言えます。

 一方、ヒューマニズムとネオリベラルを前面に出し、アメリカとして明確な姿勢を打ち出せなかったオバマ前政権は、むしろ、アメリカらしくない姿勢を見せ、アメリカの時代は終わったなどと反米識者の間で語られました。しかし、観念的理想主義はビジネス界にはいい影響を与えなかったことも事実です。

 「アメリカを再び偉大な国にする」というヴィジョンを掲げて登場したトランプ氏は今、伝統的なホワイトハウス政治を根底から変えようとしている。70歳を過ぎた高齢大統領が用いる有権者との最大のコミュニケーションツールは、ツイッターというのも驚きです。

 そのツイッターでの発言は、自分を批判する存在とは正面から戦いを挑み、マスコミを正面から批判し、微妙な問題の多い外交問題についてもあからさまに言及している。このツイッターは、国を率いる大統領とアメリカ国民の関係を根本から変えたと言えます。

 誰もが過去においても、可能なら大統領が毎日、何を考え、起きるさまざまな事象をどのように感じ、何を決めようとしているのか知りたいと思ったはずだ。ところは国の最高権力者はベールに包まれているのが普通だと人々は考えてきた。

 グローバル時代に最も重要なことは、ヴィジョンが明確であること、そのヴィジョンの実現に向かっての行動がぶれないこと、そしてリーダーを含む組織が透明性を高めることです。

 その意味で組織の透明性を除いては、トランプ氏の姿勢は間違っていない。一方、トランプ氏批判の暴露本の背景に、ホワイトハウス職員のリークがあったことは、組織の透明性確保が今後の課題であることを物語っている。

 経済は不透明感や不確実性を嫌う。それは敵を作ることを避けることなど比較にならないほど重要なことと言える。その意味では、世界一隠すことが得意と言われる日本は、政治もビジネスも大きな改善が必要だと言えます。

ブログ内関連記事
イランとの核合意破棄を見送った米トランプ政権だが、基本的姿勢は変えていない
2018年もIT、金融グローバル企業を標的にするトランプ米大統領の姿勢変わらず
2018年の世界を読み解くキーワードは「分裂」と「正当性」


 南北次官級協議で17日、平昌五輪で北朝鮮との南北合同入場チーム結成が合意される中、カナダのバンクーバーでは北朝鮮問題を話し合う外相会議で、対話による平和的解決に淡い期待を寄せる韓国と引き続き北の核開発への圧力強化を主張する日米欧外相らの意見の隔たりが表面化しました。
462727695
   釜山のデニス・オッペンハイム氏の遺作
 
 そんな中、韓国・釜山市の海雲台のビーチ脇に設置された米国人アーティスト、故デニス・オッペンハイム氏の遺作が、市当局によって廃棄されたニュースが報じられました。

 ここでも世界で認知された芸術作品をゴミにしてしまう韓国人の感覚が表面化し、世界の常識がまったく通じない韓国の実情を思い知らされた形です。

 美術評論を新美術新聞に20年以上寄稿している私としては、この韓国の異常行動には考えさせられることが多い。まず、オッペンハイム氏は米国人のコンセプチュアル・アートの作家として知られ、環境アートでも注目された作家。

 作家が作品の意図、コンセプトを突き詰めることを最重視したコンセプチュアル・アートは、ヨーロッパが支配してきた西洋芸術の重心をアメリカにシフトさせるきっかけを作ったことで知られる。

 1960年代に始まった、いわゆる現代アートの先駆的存在であり、既存の常識的概念を突き崩し、新たな視点を提示する作品が多いことで知られる。

 大げさに言えば、西洋美術がより普遍的でグローバルな芸術に進化するきっかけを作ったのがコンセプチュアル・アートだったとも言えます。

 無論、産業革命と科学の発達の中で無神論的左翼思想が西洋美術に蔓延した20世紀が生んだ芸術運動という側面もありましたが、オッペンハイム氏は安定した評価を受ける作家の一人です。

 実は2011年に他界したオッペンハイム氏は、1988年のソウル五輪の際に五輪公園内に屋外彫刻作品を委託された経緯があり、同氏の作品の買い上げは釜山で2度目。そんな縁のある現代作家ですが、釜山の人々とは相性が悪かったようです。

 「Chamber」と題された彫刻作品を撤去ではなく解体廃棄したのも驚きですが、理由は周辺市民や歩行者が目障りと批判していたことにあるというのはさらに衝撃的です。海雲台区役所の関係者は、欧米メディアの取材に対して「設置した場所と時期が悪かった」と説明。

 鉄パイプとポリカーボネートで作られた作品は、潮風でさびが発生し、2016年の台風でダメージを受けていたといわれる。市当局の役人や市議会議員が芸術作品の価値が分らないのは日本でもある話ですが、解体廃棄、残がいの金属は鉄くずとして売却という話は聞いたことがありません。

 そこで思い出すのは1988年のソウル五輪の前年に韓国取材した時、インタビューした某韓国財閥の娘の話した内容です。彼女いわく「貧しい韓国も豊かになり、その証拠に街中に設置された芸術作品の彫像を市民が平気で傷つけることがなくなった」と。

 アメリカに長期留学した経験を持つ彼女は韓国を擁護しながらも、「一般の韓国人は東洋美術は好きだけど、西洋芸術はまったく関心がなく、その価値を理解しようともしない」と批判的だった。

 当時は、西洋美術に洗脳されすぎている日本からすれば、彼らのアイデンティティの強さが新鮮でしたが、30年後の今思うと韓国人の独善性と閉鎖性の方が気になります。

 無論、首都と地方のギャップの激しい韓国では、ソウルで同じようなことは起きないでしょうし、韓国の美術愛好家から強い批判の声をあがってもいるようです。本来、韓国人は芸術が好きな国民です。しかし、目障りで廃棄するぐらい気に入らない作品なら最初から買わなければいい。

 購入は役人と文化知識人、財閥が決めそうなことですが、メインテナンスはできなかったようで、思わぬところで韓国の文化度の低さが露呈した形です。同時に、この感覚が世界との温度差を作り続けている現実には、ため息が出ざるを得ません。