安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが体験を踏まえ現在の世界を読み解きグローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 アメリカの中間選挙が迫る中、米フェイスブックは11日、フェイクニュースを流し、意図的に極端な言論誘導を行う政治コンテンツを拡散していると思われる数百のページやアカウントの閉鎖に踏み切ったことを明らかにしました。ただしアメリカ国内に限ったものだとしています。

 2016年のアメリカの大統領選へのロシアの介入疑惑が浮上して以来、特にSNSを通じての言論操作が問題になっています。トランプ米大統領は大統領選期間中に使った「フェイクニュース」という言葉は、主に巨大メディア向けだったわけですが、今や既存メディア同様の影響力を持つSNSにも大量に偽情報が流されている事実があります。

 フェイスブック側が閉鎖を発表したには、559のページと251のアカウントで「当社が禁じるスパムや組織的な虚偽行為の方針に継続的に違反していた」というのが閉鎖の判断基準だとしています。たとえば、閉鎖されたページの一つ、右派の「ライト・ウィング・ニュース」は300万人のフォロワーを抱え、左派系のページでは「レジスタンス・アンド・リバーブ・プレス」も削除されましした。

 米ウォールストリートジャーナルの記事では、フェイスブック側は「今回対象となったページやアカウントの多くが、同じ名前で偽アカウントや複数のアカウントを使い、ウェブサイトへのトラフィック増加を狙って大量の投稿を行っていた。また、コンテンツの人気が以前より高まったと見せ掛けるような手口が使われていたという」と報じています。

 ただ、フェイスブック側が指摘する、これらの手法は、アクセス数を増やし、最大限に拡散させる手法として、政治だけでなく、テロ組織からビジネスの世界まで世界中で当たり前のように使われている手法という側面もあります。

 既存メディアのように流す側が公正さを維持するための厳しく監視されている公器とは違うSNSの世界で、言論の自由と規制の関係は、未だ曖昧なままです。

 そもそも今の状況をもたらしたのは、明確な政治信条を持つ既存メディアが、政敵を攻撃するためにフェイクニュースを流し、言論誘導したことで有権者に不信感を与え、SNSという別空間が影響力を持つようになった背景があります。

 人は新聞を読まなくなり、ネット上に流される根拠が怪しいニュースを目をするようになり、さりとて一人一人の判断力が高まっているといえないのが今の状況です。

 たとえば、日本のNHKが国際報道の手本とする英国のBBC放送は今、アンチ・トランプキャンペーンの急先鋒になっています。そもそも英国のジャーナリズムは客観報道に徹しているといわれてきましたが、トランプ大統領への憎悪は驚くべきものがあり、報道のアプローチは最初に結論ありきという偏向がみられます。そのためNHKの報道も同様な傾向をみせています。

 結局、SNSの登場でジャーナリズムのマーケットも様変わりし、より多くの人々に支持されるためには共感を狙った言論に傾き、ポピュリズムを批判しながら、自らポピュリズムに陥る矛盾に陥っています。たとえば、米大統領期間中、トランプ氏に徹底抗戦の構えだったCNNは、選挙後も視聴率を伸ばしたという事実があります。

 SNSは言論の自由に支えられた「共感」がキーワードですが、フェイクニュースが信じられ、簡単に言論誘導される現象は、日頃政治に関心がなく、見識も持たない人が増える大衆化社会でのリスクでもあります。ブレグジットの国民投票で、EU離脱派が流した、残留すればどれだけ英国民は不利益を被るかという情報の中にいかに多くの嘘があり、それを多くの労働者が信じたという事実があります。

 本当は今ほどオピニオンリーダーが必要な時代はないと思いますが、そのオピニオンリーダーを活かす送り手である編集者が視聴率や購読者数に気を取られた状態では、言論の迷走は制御が効かない状況ともいえます。

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 東日本大震災以来、建築に関心のある私は災害対策に万全な住宅を考え続けています。今年も世界中で地震や津波、洪水、ハリケーンによる被害が起き、気候変動の影響への懸念もあり、人間が安心して住める自然災害対策を施した住宅ニューズが高まっています。

 しかし、日本の戸建て住宅で圧倒的なシェアを誇る大量生産型のハウスメーカーの関係者によると、たとえば最新の耐震構造である免震を本格導入する動きはないそうです。東日本大震災以降、地震対策や耐火構造を含め、建築基準法の一部改正など災害対策の強化はされていますが、これなら大丈夫という状況からはほど遠いのが実情です。

 今回アメリカ南部を襲った1969年以来最大勢力となった地震対策や耐火構造は、フロリダ州やジョージア州などで17人の死者を出しましたが、ハリケーンに直撃されたパナマシティなどの町は、家が強風や高潮で根こそぎ持っていかれ、基礎だけが残る風景が拡がり、津波に襲われた東日本大震災を想起させるものでした。

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 Michael Royal/Pareto Real Estate

 そんな中、アメリカのサウスカロライナ州サリバンズアイランドの北東部にある有名なドーム型の家「The Eye of the Storm」(通称、スターウォーズホーム』が初めて売りに出されたことが話題になっています。価格は475万ドル(約5億3200万円)と高いのですが、その姿を見るなり、私が思い描いた災害対応住宅の外観と重なるものがあり興味をひかれました。

 この家は、1989年に発生したハリケーン「ヒューゴ」で家が破壊された両親のことを思い、1991年に息子のジョージ・ポール氏が設計し、建てられたものだそうです。当時、彼の両親の「残りの人生を心安らかに過ごしたい」という願いに答えて建てられたというすストーリーがあります。

 コンクリートと鉄、そして空気力学的な特性を考慮し、強風や嵐にも耐える強さを生み出すことに注力したといわれる住宅は、ドーム型で強風で屋根を持っていかれるリスクはないといえます。無論、今から30年近く前に建てられているので、地震や津波対策は考慮に入れられていません。

 たとえば、家は海から数10メートルの距離にあるので、高潮や豪雨による洪水を考えると、住宅に水が流れ込むリスクや強風で破壊された他の住宅の破片が飛んできた場合の対策が十分でないように思います。ただ、家自体はコンクリートと鉄で頑丈に作られた卵形の形状なので強風で吹き飛ばされるリスクは少ないのは確かといえます。

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  Michael Royal/Pareto Real Estate

 既存の価値観に囚われない大胆な発想で建てられた、それも1991年に建てられたというのは、アメリカらしい先進性があります。今なら、免震構造や水対策も万全な家が建てられそうです。たとえば非常に強度があり水が流れ込まない気密性の高いシャッターを窓に設置するなども考えられます。地下に核シェルターを設置すれば万全でしょう。

 無論、このような住宅を広めるのは、コスト面の問題は大きいといえます。ただ、私の調査では、同じサリバンアイランドで同様な規模の木造住宅の価格と比べると、5億円はけっして凄く高いとはいえません。無論、周辺の家からみれば、スターウォーズホームと呼ばれてもおかしくない特殊なもので住みよいかどうかは不明です。

 しかし、中を見る限り、建物同様、曲線を基調にした空間は、私には魅力的です。何より自然災害の恐怖を考えると、その安心感は何より重要に思えます。

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 日本は東京五輪を控え、ゲーム観戦と観光のために海外からやってくる、いわゆるインバウンドへの対応が急がれています。迎える側のスキルとして、まずは英語や中国語など言語のマスターは当然のことですが、異なった文化を持つ人々とのコミュニケーションスキルは言語能力にとどまりません。

 私は20年以上前、教鞭を執っていたフランスのレンヌ大学日仏経営大学院の学生を企業研修のために日本に送り込む仕事をした時期がありました。フランスでは3カ月から1年間の企業研修が組み込まれている大学も多いのですが、そんな習慣のない日本で、長期研修をお願いするのに苦労しました。

 まず、日本企業の反応は「お世話する人をつける余裕がない」「英語が喋れる社員がいない」「何をさせたらいいのか分らない」というものでした。バブル崩壊後の長期不況に突入した時期だったこともあり、難色を示す企業は多かった時期で、カルチャーダイバシティもそれほど注目されていませんでした。

 大企業もいくつか受け入れてくれましたが、ようやく受け入れてくれた名古屋の中小企業に送り込んだ女子学生のことは、今でも鮮明に覚えています。なぜなら筆舌に尽くしがたい苦労を強いられたからです。メールだけでは対応できないと考え、帰国時に訪問し、話を聞いてあげたこともありました。

 日本語が中級には至らないレベルのその研修生は、英語が分らない上司から毎日、日本語で感想文を書くようにいわれ、苦労していました。それは日本語の勉強にはなったと思いますが、実は古いタイプの日本人上司は、終始高圧的で1日に何度も研修生である彼女を叱り飛ばしたそうです。

 言っていることがよく分らない彼女は、半年間、泣かない日はなかったそうです。さらに悪いことに、その会社の社員の定着率は非常に低く、毎月のように辞めていく日本人社員がいたそうです。事態を見て、他の会社への移動も提案しましたが、忍耐力のあるブルターニュ地方出身の本人は「最後まで頑張る」といって、とうとう6カ月をやり抜きました。

 彼女はフランスに帰国後、冗談で「私は日本の半年間の経験で1冊本が書ける」といっていました。その彼女は日本でも有名な世界遺産、モンサンミッシェルのビスケットメーカーに就職し、今では日本のコンビニでも彼らの商品を見られるようになり、彼女の活躍を嬉しく思っています。

 かなり特殊な例でしたが、今、インバウンド対策として外国人のおもてなしが日本においては喫緊の課題です。礼儀正しさやおもてなしで高い評価を得ているとされる日本ですが、あとは言語と相手の文化を理解することと考えられがちです。

 しかし、私のように日本を訪れた、あるいは日本に住んでいる非日本人から話を聞く機会の多い立場からすれば、おもてなしが全てとは思えません。たとえば、日本のサービスが世界的高い評価を受けているというなら、なぜ、世界に拡がったホテル日航のサービスは国際的評価を得られなかったのでしょうか。

 フランスは、今や1億人に届く世界一のインバウンドがあるわけですが、実はこのブログにも何度が書きましたが、フランスはサービス面では世界最悪といわれています。つまり、おもてなしは最悪だが、外国人観光客は増え続けている。それもリピーターも非常に多いということです。

 理由は、魅力溢れる世界遺産や美術館、博物館の多さ、世界的に評価を受ける食文化とモードがあるからです。つまり、有り余る観光資源があれば、おもてなしは最重要ではないという意外な例です。とはいえ、パリ市はなんとか汚名を受けるサービスの質を向上させようと、外国人対応の各国おもてなしマニュアルを作成し、改善に力を入れています。

 では、日本のインバウンド対策の課題は何か。無論、言語能力も必要ですが、問題は対応する日本人のマインドセットが必要ということです。たとえば、言葉ができても誤解を招いている例は少なくありません。その場合、その人は超ハイコンテクストの日本人のままコミュニケーションをとっているケースが圧倒的に多いのです。

 文化が違えば、同じ言葉でも極端な場合はま逆の意味になるケースもあります。「疲れた」といわれても、それが休憩が絶対的に必要なレベルなのか、必要ないレベルなのか確認する必要があります。つまり、重要なことは相手の話を正確に理解するための「確認」作業が必要で、そのための質問力も問われてきます。

 さらには、確認した後には共感してあげることが重要で、相手は丁寧に聞いてくれただけでなく、共感までしてくれると、心を開くものです。共感するには私を主語とした私言葉で自分の感情を伝える必要がありますが、本音は常に隠す文化で育った日本人は、ほとんど日常でしていないことです。

 さらに人は困ったときに問題解決してくれることに感謝するものです。いくらおもてなしで世話をしても、それが当て外れだったり、過剰すぎても不快感を与えます。特に長い間、外国人観光客が日本を敬遠したのは、なんでも高いという経済的イメージが理由です。

 無論、世界一物価が高いといわれるスイスに観光客が大量に訪れるのは、それだけの価値の高い観光資源があるからです。それはともなく、自分の国では考えられない2畳程度の広さの部屋に宿泊するアメリカ人やヨーロッパ人は、ひたすら経済的理由でそれを受け入れているだけで、それ以外の理由は、ほとんどありません。

 彼らが日本で遭遇するさまざまな問題に的確に対応し、問題解決するスキル、それもネット上で英語などで調べても載っていない有益な情報を提供することが重要です。それとやはり外人という荒っぽいくくりは危険です。均質性の高い日本ではせいぜい白人、黄色人種、黒人という肌の色で分ける程度ですが、それはあまりにも大雑把すぎます。

 しかし、その異なった文化を詳しく学ぶのは大変です。それよりもより精度の高いコミュニケーションを取ることで、相手の価値観、好み、性格、求めているものを学習する方が実践には役立ちます。偏見を持たず、同じ人間なんだという基本スタンスを忘れることなく、しかし、しっかり違いを認識し、的確に対応することが求められているということです。

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 韓国南部の済州(チェジュ)島沖で行われた国際観艦式で、韓国側が招待国に対し「自国と韓国の国旗だけを掲揚する」ことを要請し、特に日本の旭日旗を戦犯旗との理由で掲げないように要請しました。結果、日本は「国連海洋法条約などで義務づけられている」として要請には応じず、参加を見送りました。

 その一方で、韓国側は、文在寅大統領が乗る船にも国旗ではない抗日の英雄、朝鮮水軍の大将だった李舜臣(イ・スンシン)を称える黄色地に漢字で「帥(スイ)」と書かれたこの旗を掲げ、さらに参加国の多くは、要請を無視し国旗ではなく自国の軍艦旗を掲げていたことが明らかになり、その露骨な反日対応に日本側からの非難の声があがっています。

 一方、中国の公安省は8日、先月から行方が分らなくなっている国際刑事警察機構(ICPO、通称インターポール)の中国人の孟宏偉前総裁を、収賄容疑で中国で拘束していることを明らかにし、事実上、中国政府が一方的に国内事情を理由に、ICPOの総裁職を強引に辞任させた形となりました。

 韓国は、国際観艦式と銘打ち、ルールを示しながらも、それを日本にだけ強要する露骨な反日姿勢と民族主義を露にし、中国は大枚をはたいて得た国際機関のトップの座を放棄するという、いずれも対外的には国益を損ないかねないことを国家主導で行った出来事でした。

 日本及び欧米は、20世紀の2つの大戦と東西冷戦終結後の民族紛争の経験から、排他的ナショナリズムや民族主義への警戒感を強めており、むしろ、グローバル化の中で国家が国際社会で戦争せずに共存するための知恵を絞る方向にあります。

 ところが、中国は自分たちが信じる21世紀の社会主義モデルを流布することに熱心で、漢民族中心主義にこだわり続け、韓国は朝鮮民族主義を掲げ、なんとか日本を踏み台にして国際的プレゼンスを高め、惨めな過去をぬぐい去ろうとしています。

 両国は、民族主義をベースにした国家的野心で国民の心を繋ぎ止めたいところですが、実際には国民は個人や家族、拡げても地域共同体程度の連帯感しか持てず、国家意識などまったくありません。政府はそんな国民に媚びへつらうか、強権で言論を封殺することで国家を管理しているのが実情です。

 韓国の国際観艦式で、国益にもならない反日、民族主義を掲げる行動は、明らかに国民感情に配慮したものであり、中国で自分たちが送り込んだICPOトップを引きずり降ろしたのも、習近平政権の権力維持を脅かすという国内事情によるもので、国際社会がどう見るかなど意識にもない話です。

 近年、途上国に赴任する日本企業の駐在員が急増していますが、彼らの葛藤の一つが、ナショナルスタッフの公共意識の欠落です。日本も戦後、欧米の公共意識の高さに学んできましたが、実は多くの日本人は当時、国家の復興なしに個人が豊かになることはありえないという考えにコンセンサスがありました。

 これは立派な公共意識です。ところが中国、韓国を含む新興国、途上国では、金持ちは貧困層を省みることなく、豊かさを謳歌し見せつけている一方、大多数は貧困を抜け出せない状態を続けています。町の公共の場が汚いのも、公共意識がないからです。ヨーロッパのように市民意識や民主主義を成熟させた広場の文化もありません。

 つまり、国民は公共意識どころか、自分と自分の周辺しか意識できず、家族以上の単位が存在せず、海外の目などまったく関心がなく、超内向きの村社会ということです。日本もそんな時代があり、今も進化の途上にあるといえますが、中国や韓国を理解する視点として、育っていない公共意識、超内向きな村社会という視点は重要です。

 無論、彼らに対するためには相当な忍耐が必要ですが、近代市民社会とか産業化社会の歴史が非常に浅いという意味では、仕方のないことだといえます。彼らの行動にいちいち感情的にならず、日本はアジアで鎖国時代を経て先に近代化に成功した国として、それなりの自信と確信を持つべきで、相手の実情を見極めながら、言うべきことは言うという姿勢が必要でしょう。

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 11日の世界的株価急落は、アメリカの長期金利上昇と米中貿易戦争のエスカレートが主因とされていますが、先行きを見通せない今の現状では、世界経済の行方を左右する地雷がいくつもあることも事実です。その一つがヤマ場を迎えた英国のEU離脱交渉で、世界経済への影響も懸念されています。

 交渉の最大の焦点の一つが、アイルランドと英領北アイルランドの国境問題ですが、ここにきて少数与党のメイ内閣に閣外協力している北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)が、メイ政権を崩壊させる地雷になる可能性が急浮上しています。

 政府は今月末、メイ首相が最終的に打ち出している離脱方針をめぐり、議会提出される予算案を可決させようとしていますが、DUPは反対に回る可能性が10日に判明し、BBCやタイムス紙などの英主要メディアは、離脱交渉最終章で、交渉を主導するメイ政権が崩壊する可能性が出てきたことが指摘しています。
 2017年、野党・労働党の劣勢を見て、EUとの交渉を有利に進めるための政権基盤強化を狙って実施した総選挙は、完全に誤算に終わり、弱小政党のDUPの協力なしに過半数を維持できない状態に陥りました。DUPは協力の条件として、北アイルランドの地位の保障を求めたとされますが、メイ首相の最終離脱方針ではそうはなっていません。

 メイ政権とEUは、英本土と北アイルランド間の物流に関し、税関検査や検疫などを実施する方向で合意案の取りまとめを進めていますが、DUPはこれに強く反発しています。もしメイ政権が、このまま方針を変えなければ、予算案で反対に周り、閣外協力も辞さない構えだというわけです。

 DUPのアーリーン・フォスター党首は10日「我々は英国内での北アイルランドの地位を損なう合意を将来の世代に追わせるようなことはしない」と断言し、メイ政権を揺さぶっています。DUPが閣外協力をやめれば、予算案は廃案となり、メイ内閣は不信任を突きつけられ、離脱交渉の土壇場でメイ氏退場ということもあり得るということです。

 11日には緊急閣僚会合を招集しましたが、メイ政権が打ち出す離脱方針について、閣内も一枚岩ではないため、難航状態です。それにEU側のバルニエ主席交渉官は、アイルランドと北アイルランドの国境に、動物及び食肉加工品の検疫所を設ける必要性では妥協はないとしており、弱体化するメイ経験に対して、EUの原則を貫く構えです。

 バルニエ氏は、離脱で起きる国境問題の英国側の不都合に対して「出て行くことを決めたのは英国だ。われわれの責任ではない」と強い口調で英国を突き放しています。

 11月の離脱合意をめざすメイ政権が退陣に追い込まれれば、来年3月の離脱までの交渉は時間切れとなり、ノーディールの離脱により、大混乱に陥る可能性もあります。すでにフランス国籍を取得する英国人も過去最大数に増加しており、個人も企業もリスクに備えていますが、世界経済への悪影響も懸念されています。

 私自身は個人的にこの悪い流れは、英国エリート層の奢りから来ていると考えています。高学歴の特権階級にあるメイ氏の歴史に名を残そうとする政治的野心と自らの能力を過信する奢りが混乱を招いていると見ています。

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 この10年、多少状況は改善してはいますが、海外赴任を命じられた若者の自信のなさが目立っています。日本では「海外行きたがらない症候群」などといわれて久しいですが、確かにマイナス成長や低成長が続いた失われた20年の間にゆとり教育で育った世代には、日本人として自信を持つ根拠が見当たらないのかもしれません。

 赴任先の現地で研修を担当して、必ず出る質問は「日本人は、この国でどう思われていますか」です。その質問にも自信のなさが伺えるわけですが、そんな時は、客観的事実だけでなく、私自身の体験を話すようにしています。

 それは、これまで数多く経験したグローバルビジネスの交渉の現場で、いつもいわれたのは「あなたが日本人だから信頼している」という言葉です。その言葉の背景を考えてみると、戦後、世界を席巻した日本企業とその経営者たちの努力があったことを痛感します。

 ビジネスは信頼関係なしには成り立たず、継続性もありません。その意味で戦後、世界に飛び出した日本のビジネスマンの苦労は想像を絶するものだったはずです。彼らは敗戦で失った日本の信頼回復という重いハンディを抱えながら、人を裏切らない高い品質の製品を世界に提供し、誠実な商取引を繰り返すことで、日本人の評価を高めてきました。

 そんな土台の上で、実は今、私が30年間、グローバルビジネスに関わり、世界を取材してきて感じることは、戦後、今ほど日本の評価が高まっている時代はないということです。70年間も平和と安全を維持し、民主主義を成熟させ、高い生活水準を提供している国はそうありません。経済大国を続けられたのは世界からの信頼が得られた証拠です。

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 ビザなしで渡航できる国や地域の数を調査・比較して世界のパスポートランキング更新版が今月9日に発表され、日本がトップに立ったことが話題になっています。調査したの市民権や永住権の取得支援をしているヘンリー&パートナーズで、これまでトップだったシンガポールを抜き、日本人が190か国にビザなしで入国できるということでトップになったということです。

 観光ならビザなしで入国を許可する根拠は、入国者が国の安全を脅かす可能性や、そのまま不法滞在で居残る可能性が低く、国益を損なわないという国同士の高い信頼が必要です。

 ランキング上位は1位..日本(190か国)、2位.シンガポール(189か国)、3位.ドイツ、フランス、韓国(188カ国)、4位.デンマーク、フィンランド、イタリア、スウェーデン、スペイン(187か国)、5位.米国、英国、オーストリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、ノルウェー(186か国)などで、10位までにはアジアから日本、韓国、シンガポールしか入っていません。

 一方、ロシアは47位、中国は71位、最下位はアフガニスタンとイラクで、ビザ免除国は30カ国。下から2番目はシリアとソマリアの32カ国、3番目はパキスタンの33カ国で、いずれも不法移民化したりテロリストが流入するリスクの高い不安定な国で当然ともいえます。

 パスポートの威力だけ見れば、その信頼度は世界1です。日本人は生まれながらに、その最強のパスポートを手にできるということです。私は政治的に不安定な途上国などのパスポートを持つ人々が、国際的移動で苦労している姿を頻繁に目にしてきました。その意味でも日本人は大きな恩恵を受けているわけです。

 無論、パスポートの信頼度は、国の評価の一つの側面でしかありません。それに信頼は人間関係を築く基礎ではあっても、何か新しいものを生み出せなければ、価値はありません。今はむしろ、それが日本の課題だと私は考えています。その足かせになっているのが、日本人の幸福感です。

 新しい価値を生むための原動力は人間の欲望です。アメリカが繁栄し続けているのは、欲望が常に全開状態だからです。日本の仏教の禁欲や忍耐、儒教の上下関係重視による自己否定などの精神文化は、人間の欲望には否定的です。無論、逆に欲望を全開にすることで対立が生まれ、自滅するリスクもあります。

 しかし、日本人の欲望の薄さ、幸福追求欲が低いことは、日本が信頼だけでなく、次の一歩を踏み出せない足かせになっていると思われます。それに日本人は世界的に評価されているなら、今のままの日本人でいいという保守的考えも、あぶない考えです。

 日本は戦後、個人の幸福は国家の繁栄なしにありえないという考えのもと、個人や家庭を犠牲にして仕事を優先させることに国民的コンセンサスがあった希有な国です。しかし、今は個人個人が社会のために何ができ、どう自分や家族が満足感を得るかということを追求する時代です。それをクリアしないと「住んでみたい憧れの国」にはならないでしょう。

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 アメリカのマイク・ペンス副大統領は4日、保守系シンクタンク・ハドソン研究所で、中国を厳しく批判する演説を行い、注目を集めました。ペンス氏はアメリカの伝統保守を代表する政治家ですが、演説は対立する民主党などのリベラル派でさえ、認めざるを得ない米中関係の現状を的確に言い当てたもので、世界が深刻な「中国問題」を抱えている現状を浮き彫りにしたものでした。

 ペンス副大統領の指摘は、中国が経済力を乱用して米国の技術を盗み、中国の経済発展を支援してきた米企業に圧力をかけ、近隣諸国を脅かし、南シナ海を軍事拠点化し、国内の宗教信者を迫害していると露骨に非難しました。そのどれもが間違っておらず、正確な情報に裏付けられた事実であると思われますが、中国は側はいつものようにその全てを否定しています。

 8日に、北朝鮮の非核化への支援要請のために中国を訪れたアメリカのポンペオ国務長官に対して、出迎えた王毅外相は、アメリカがしかける貿易関税を巡る圧力に強い不快感を表明し、習近平国家主席との会談もありませんでした。中国側は否定していますが、アメリカが態度を変えない限り、朝鮮半島問題での協力もしないという態度でした。

 ペンス氏は「中国が経済自由化により、われわれにとって、そして世界にとって、より素晴らしいパートナーになることを米国は期待していた」「ところが中国は経済的侵略の道を選び、それが拡大する中国軍を勢い付かせている」と言明しました。

 無論、私から見れば、そんなことは最初から分かっていたことで、私は20年前から、欧米諸国も、それに追随した日本も、中国を見誤っていると警告する原稿を書いてきました。つまり欧米大国の読みは、中国が改革開放経済を進めれば、貧富の差が拡大し、人々は豊かさを求め、自由を要求し、やがて共産党一党独裁を捨て、自由主義陣営の良きパートナーになるというのは嘘だというものです。

 実際に中国に映る世界は、経済力、軍事力を持つ国が自分の都合のいいように世界のルールを決め、全ての利益が自国に集るという帝国主義時代の19世紀の思考を持ち、南シナ海への主権拡大を批判されれば、「あれはアメルかが勝手に引いた領海線で、あそこはもともとの中国のもの」と主張することに、よく表れています。

 メディアが最も注目したペンス氏の指摘は、中国の米中間選挙への介入でトランプ大統領の再選を阻もうと画策しているというものです。この発言は当然、国家安全保障会議(NSC)や、中央情報局(CIA)などの諜報機関の裏付けのあってのものだと思われます。

 対中強硬派のトランプ政権の再選阻止のため、ありとあらゆる方法で攻撃を試みているというものでした。それも莫大な資金を中国政府は投じ、アメリカの企業、映画会社、大学、シンクタンク、学者、研究者、ジャーナリスト、そして地方・州・連邦の政府当局者に見返りを与え、組織的に介入しようとしているという指摘です。

 日本製品が世界で台頭し、アメリカ企業を脅かした1980年代のジャパンバッシングを思い出す人もいるかもしれませんが、まったく次元が異なっている。なぜなら当時の日本は経済的繁栄には興味があっても、政治外交的に世界的優位に立とうという野心はなかったからです。それにアメリカの民主主義に介入しようなど考えもしなかった。

 確かに今の中国は債務残高は増大し、経済成長も鈍化どころか、危機に陥る可能性もあり、株価も債券も人民元も下落しています。国民生活が苦しくなれば、終身の権力を手にしている習近平体制への不満が噴出する可能性も今後ないわけではないという国内事情もあります。

 ペンス氏は膨大な投資から生れたアメリカの技術を、卑怯な手口で盗み続けていると主張していますが、中国技術専門家は「高度な次元で他国から技術を盗めるまでに成長したと評価してほしい」と呆れる発言をしています。しかも、そこに罪悪感が一切ありません。

 米ウォールストリートジャーナルは、ペンス氏の演説を受け、米中関係は東西冷戦時代の米ソ関係と違い、抜き差しならない経済関係の縛りもあり「アメリカと中国には平和的な共存を目指すのに十分な理由となる経済的結び付きがある」ことも指摘している一方、「米中の共存が緊張状態にあり、その状態が今後も継続する可能性がある」とも書いています。

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 中国公安省は8日、先月から行方が分らなくなっている国際刑事警察機構(ICPO、通称インターポール)の孟宏偉前総裁について、収賄容疑で取り調べを行っていることを明らかにしました。これが本当なら世界の犯罪を取り締まるトップが汚職に手を染めていたことになり、中国政府の政治的意図だとすれば、インターポールは中国の政治的影響を受け続けていたことになります。

 どちらにしても、グローバル化が進む世界で犯罪も国を跨ぐことが多い現状の中、ICPOの役割は重要さを増すばかりなのに、そのトップ選出が適正を欠いていたという話です。かりに今回の疑惑で当人に一切汚職がなかったとしても、政治的圧力が加えられたことは明らかで、そんな国から選出された人物は、まったく適正を欠くということになります。

 フランス・リヨンに本部を置き、国連に次ぐ192の国と地域が加盟するICPOは、今では深刻さを増すサイバー犯罪への取り組みを強化している最中です。ところが皮肉にもアメリカを初めとする大国の選挙へのサイバー介入疑惑のある中国、ロシアが、ICPOの総裁、副総裁になっているというのは驚きの話です。

 無論、国際指名手配はできても逮捕・送還の権限は持たないICPO自体、長く改革の必要性が叫ばれ、その実効性や機能が疑問視されている問題もあります。とはいえ、2016年の総会でロシア内務省のアレクサンドル・プロコプチュク警察少将が副総裁に選ばれた時は、中国とロシアがインターポールの要職を占めたことを懸念するメディアの指摘もありました。

 例えば中国から国外逃亡している汚職官僚やウイグル系・チベット系の独立運動家をインターポールを通じて国際指名手配すれば、逃げた国に対して身柄引き渡しの権限はないものの、中国政府としては犯罪者認定のお墨付きをICPOから得ることができ、犯罪者追跡を正当化できるわけです。

 今回、孟宏偉前総裁退任を受け、ICPOの暫定トップになったのは、4人の副総裁の1人、韓国の金鍾陽氏。韓国も中国、ロシア同様、国民感情最優先の国で、なぜ、国際機関の要職に遵法意識が低く、民主主義が成熟していない国の人物が就いているか疑問に感じるのは私だけではないでしょう。

 実は、この現象は、もともと国連を初めとする国際機関に強い不信感を抱くアメリカが、オバマ政権時代に世界の警察官を辞め、多国間主義に傾く隙をつく形で、覇権主義の中国やロシア、国際社会で存在感を強化したい韓国などが、瑞和あ分担金を増やし国際機関のトップの座を金で買った経緯があり、今回の総裁行方不明事件もその結果として起こったといえるものと私は見ています。

 たとえば、韓国には申し訳ありませんが、国連の潘基文前事務総長は、多くの国連関係者の証言によれば、歴代最悪の事務総長だったといわれています。本来、オバマ政権が国際社会への影響力を弱める中、国連の役割は重要さを増していたにも関わらず、結局、何もできず、自分の足元である朝鮮半島問題も悪化しました。

 人権だけを振りかざすオバマ政権時代、中国やロシアとの外交関係は極端に冷え込み、彼らはアメリカのプレゼンスが弱まる隙をつく形で、アメリカが軽視する国際機関の支配に乗り出しました。その正当性は、たとえば経済大国になった中国から国際機関トップを選ぶことで、先進国も中国を国際的ルールを守る国としてに育てたいというものです。

 欧米列強支配を脱する時代というフレーズのもと、新興国からトップを選ぶというのは好印象を与える一方、そのリスクは非常に大きいことは考慮されていないということです。なぜなら、グローバル化で戦争の火種となるナショナリズムや民族主義は押さえ込めるという思い込みが支配しているからです。

 確かに見飽きた西洋人たちがトップを占めるのも問題ですが、各国の政治的思惑が背後で常に渦巻いているのも確かで、特に自由や公正さを信じない独裁性の強い国には警戒が必要です。彼らは、1票を得るため、投票権のある小国に金をばらまき、脅迫し、国際機関のトップポジションを確保しようとするからです。

 国連機関のユネスコは、松浦晃一郎氏が事務局長時代、改革を断行し、アメリカの復帰も成功させました。しかし、その後、中国の南京大虐殺が世界記憶遺産に登録され、昨年10月にアメリカが再度脱退し、中国の影響力はますます強まっています。

 その意味でも欧米諸国と肩を並べる民主主義国である日本は、危機感を持って国際機関に貢献するため、金を出すだけでなく、リーダーシップを発揮し、存在感を高める必要があるでしょう。

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 東京で開催された日本とアフリカ諸国が経済協力などを話し合う「アフリカ開発会議」(TICAD)の閣僚会合が今月7日、質の高いインフラ整備と人材育成の重要性を確認し閉会しました。参加国は52か国で、今回は、2019年8月に横浜で開催される首脳級会合「第7回TICAD」に向けた準備会合でした。
 今や世界で最もポテンシャルが高いと熱い視線が向けられるアフリカですが、政治的安定が徐々に進む一方、ダルフールやソマリアなどで紛争が収まる気配がなく、ナイジェリアや西サハラなどテロが頻発する地域もあり、課題は山積しています。

 特にアフリカで影響力を強めるために投資してきた欧米諸国が冷戦終結以降、引き揚げていった中、資源目当ての中国が資金や武器支援を拡大し、今は過剰債務が問題視されています。一方、ヨーロッパは難民流入が問題視される中、再度のアフリカ投資を検討し、欧州連合(EU)・アフリカ連合(AU)首脳会議を継続的に行っています。

 ヨーロッパは地中海を挟んで地政学的にもアフリカは重要で、過去に旧宗主国だったり、奴隷調達の歴史もあったりで最も責任をとっていく立場ですが、過去の歴史からアフリカ側も欧州投資には慎重な姿勢を見せています。そこで過去のトラウマ的因縁がない経済大国日本に好感を覚え、日本側もアフリカへの中国の勢力拡大への危機感もあり、両者には明るい未来があると見られています。

 しかし、理想と現実は、ほど遠いものがあります。特に人材育成という観点でいえば、課題は多いといえます。たとえば海外進出する日本企業は、現地ナショナルスタッフの教育に苦戦しています。ODA絡みの開発プロジェクトでも具体的に請け負う日本のゼネコンなどが、ナショナルスタッフを使いこなせず、納期が大幅に遅れる例は枚挙に暇がありません。

 途上国の持続可能な発展をもたらす鍵の一つが人材育成です。たとえばアフリカに最も影響力を持つフランスには、アフリカのフランス語圏(フランコフォン)26か国を中心に多くの留学生受け入れています。仏極右・国民戦線の創設者ルペン氏と食事をした時、「アフリカからフランスに学びに来るのはいいが、彼らは自分の国に帰ろうとしない。愛国心はないのか」と私にいっていました。

 日本もアフリカからの留学生や研修生を受け入れた場合、帰らない現象が起きる可能性は極めて高いといえます。それに今は日本の大手製造業などが技術習得のために製造拠点のある国からナショナルスタッフを呼び寄せ、研修するケースも増えていますが、日本にいる時は指導に従っていても自分の国帰ると、研修が活かされないケースも散見されます。

 さらに指導のために送り込まれた日本人が現地で機能していない例も多いのが現状です。たとえばザンビアで大手ゼネコンがODAで受注した建物の建設で、日本から送り込まれた社員は現地に溶け込めず、事務所に引き籠もり状態になり、人材育成どころの話ではない状況に陥り、納期は2年以上遅れる事態に陥ったりしています。

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 特に日本人は、コミュニケーションで深刻な問題を抱えているケースが多く、ハイコンテクストの日本的コミュニケーションスタイルに慣れているため、十分な確認や両者のフィードバックが徹底していない場合が多いのが現状です。暗黙の了解、以心伝心、忖度がまったく通じない国で苦戦する主要因の一つですが、なかなか改善できていません。

 人材育成の前に根本的なコミュニケーション改善が必要です。同じザンビアの例でいうと、首都ルサカにある英国教会が建てたルサカ聖十字大聖堂は、アフリカの近代建築の金字塔的存在です。1962年に現地の人々を使って建てた建築物とは思えない完成度の高さです。英国人の異文化でのコミュニケーションスキルの高さを垣間見るものです。

 もう一つは人材育成に繋がるマネジメント能力の不足です。日本では日本文化が生み出した独特のマネジメントスタイルがあるわけですが、それは日本人には高い成果をもたらしていても、グローバルな現場では通用しないものも多いのが実情です。

 しかし、叩き上げでリーダーになるパターンしかない日本では、マネジメントをしっかり学び、プロの管理者を育成する機関も少なく、企業文化の方が比重が高いのが現状です。そこにも忖度などの日本独特の文化があり、それをアフリカで適応するのは無理があります。

 現実には日本国内でも多様化が進み、世代間のコミュニケーションギャップは拡がる一方ですが、だからといってコミュニケーションの精度を高める教育がされているわけでもありません。さらには日本の若い世代が自信を失っている問題もあります。その意味で人材育成する側に問題があることを自覚し、教育する側のグローバル人材育成を急ぐ必要があると私は考えています。

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 個人コレクターの存在なしに美術の発展は論じられないわけですが、反面、個人コレクターたちが所有する作品の中には、われわれの目にまったく触れたこともないものがあるのも事実です。名画の行方は人の数奇な運命に匹敵するほど、さまざまなストーリーがあり、画家の作品を記録したカタログにあっても、本物が公開されたことがない作品もあります。

 パリのマルモッタン美術館では、世界の個人コレクターたちによって集められ、個人が所有する、未だ公開されたことがないか、あるいは公開は稀な絵画やデッサン、彫刻など約60点の作品を集めた「個人コレクションでたどる印象派からフォーヴィスムまで」展(来年2月10日まで)が開催されています。

 作品は、19世紀末から20世紀初頭にかけてエコール・ド・パリと呼ばれた時代にフランスで活躍したモネやスーラ、ゴッホ、カーユボットなど、印象派からフォーヴィスムの巨匠たちのもので、ロダンの彫刻もあります。つまり、世界で最も高額で取引されている作品で、所有者は銀行家や実業家、貴族などの富裕層です。

 われわれは巨匠の展覧会で、作品の横に個人蔵と書かれた作品を目にすることはありますが、積極的に展覧に貸し出すコレクターは多いとはいえません。特に投機対象ではなく、美術を心から愛するコレクターは、自宅にその絵を飾り、自分や親族、知人だけが名画を独り占めしている場合も少なくありません。

 無論、投機の対象であれば、スイスあたりの倉庫や銀行の地下金庫に眠っている場合もあり、これもまた公衆の目に触れることはありません。ピカソが1905年に制作した作品「ピエレットの婚礼」は半世紀以上行方知れずだったのが、突然、出てきて日本のバブル絶頂期に日本人不動産開発業者に5,167万ドルで買われました。しかし、不払いで金融管理となり日の目を見ない状態に陥りました。

 多くの名画は最終的には美術館に入り、一般公開されますが、未公開のまま今も個人コレクターの家の壁に掛けられているものもあるわけですが、今回、マルモッタン美術館は、コレクターを説得し、多くの初公開作品を展示し、美術愛好家をひきつけています。

 誰もが知っている巨匠の作品でありながら、本物が公開されたことのない作品、それも美術的価値の高い作品を集めたところが興味深いといえます。話によれば貸し出すコレクターに対しては、送料や保険は美術館側が負担するものの、賃料は払われない条件だそうです。

 文化芸術の秋の季節、印象派などの初公開作品を紹介する企画はユニークといえます。それも1点や2点ではないところが、フランスの美術館の実力なのでしょう。芸術においてフランスが最も活気あふれていた時代を味わいながら、初公開作品によって新たな発見がある展覧会といえます。

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     フランスの温泉地、エクスレバンの中心部

 2017年にフランスを訪れた観光客数は過去最高の8,900万人。こんな数字が今月4日、フランス外務省から発表されました。2024年のパリ五輪を控え、2020年には観光客のインバウンド1億人越えを目標に掲げるフランスは、実は30年連続、外国人観光客数世界1位を更新し続けており、今年は9,000万人に達すると予想されています。

 今回、公表された数字は、2015年からのテロの頻発で受けた観光へのダメージが完全に回復したことを意味しています。政府が外国人観光客1億人を最初に口にしたのは、2015年1月、当時のファイウス外相で、特にフランスの食文化を世界にアピールすることに力を入れました。パリでテロが起きた直後のことで、テロには屈しない政府の姿勢を印象づけました。

 人口6,700万人のフランスに9,000万人のインバウンドがあり、観光収入でも世界4位のフランスに日本も刺激を受けているようですが、興味深いのは外国人観光客が訪れる日本の観光地が、日本人が考える観光名所とは違っていることです。これは相当、研究の余地のある話です。

 フランスが観光大国として成功している要因の一つは、ユネスコの世界文化遺産、自然遺産、複合遺産を合わせ44(日本は22)もあり、紀元前の遺跡からフランス料理まで豊かな観光資源があることは否定できません。しかし、人は世界遺産だけで集るわけではなく、さまざまな魅力が人を惹きつけるわけです。

 私自身、日本全国に名の知れた温泉観光都市、九州の別府で生まれ育ったことから、観光政策はジャーナリストとしてもビジネスコンサルとしても興味を持ち、実際に関わった経験もあります。フランスと日本を比べ、最も顕著な違いは観光と街づくりの関係です。

 欧米には、その国の文明度は都市を見れば分かるという尺度があります。世界遺産はその文明の足跡を登録し保護する作業でもあります。大都市ならば政治・経済力から、インフラ整備を支えるテクノロジー、町の安全を含めた暮らしやすさ、独創性、芸術的側面までが文明度を計る尺度です。

 一方、地方の小都市や村の場合は独自の歴史があり、食文化があり、自然との共存などの大都市では味わえない快適さの魅力があり、それも多様です。フランスの観光行政の専門家と話をすると、必ず彼らが強調するのが、フランスの地方文化のダイバーシティです。

 それも町や村全体のユニークさを大事にしており、まず、フランス人自身の休暇の過ごし方と大きく関係しています。別荘を持つ人が多いフランスでは、大都市の喧騒を離れ、週末や長期休暇を過ごす場所が必要とされ、安らぎを与える環境が求められます。

 その場合、歴史のある美しい村や湖、森や海岸などの自然、それにその地域独自の食文化も必要です。観光地に大挙して行って、土産品を買いあさって帰る観光スタイルとは違い、とにかく、ゆっくり歩き回るのが基本です。それに欧米人が好んで訪れる場所では「こんな所に住んでみたい」「老後はここに住みたい」などの声がよく聞かれます。

 つまり、人口的に巨額の資金を投じて観光開発するというよりは、住んでいる人も快適さを感じる魅力的な街づくりが基本にあるという話です。逆に夏の長期ヴァカンス期を中心に外国人観光客が集中する南フランスやイタリア、スペインの村では、村人が増えすぎた観光客にうんざりし、人数制限が始まっており、過度の観光化を嫌う現象も起きています。

 日本の観光地は、1つの観光資源の周りに山のように土産品が並び、人は大型バスで大挙して訪れ、短い時間に観光と買い物、食事をするスタイルが一般的です。アジアの人はそれでいいのかもしれませんが、欧米人の過ごし方とは違います。無論、ヨーロッパにも効率的に観光地を回るツアーはありますが、それが基本というわけではないのです。
 
 もう一つは、フランスは特にイメージ戦略に長けているということです。2015年のテロ後のフランスでは、観光客の回復に向けて40か国・地域の市場で約2000万ユーロ(約26億円)をかけたプロモーションを実施し、その約7割をデジタルマーケティングに費やしています。

 そこで、ノルマンジー、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、ガスコーニュなどの地方の多様性をブランド化して打ち出すことで、イメージの拡大と定着を推し進めています。フランスはかつてエコールドパリといわれた19世紀末から20世紀初頭、世界中から多くの芸術家を集め、芸術大国というイメージ化に成功した経験を持ちます。

 イメージ戦略の基本は発信力であり、その発信させる内容を洗練させることです。その時にフランス人自身が魅力を感じる要素が重要になってくるわけです。たとえば有名な遺跡のすぐ側に、コンビニやファーストフード店、工場などがあっては興ざめです。古い街並みを壊さないための工夫には神経を尖らせているわけです。

 フランス政府によれば、2017年の観光収入の合計は540億ユーロ(約7兆円)でしたが、2017年にスペインが突破した600億ユーロを2020年までに達成したいとしています。ただ、フランスでも地域による観光客の増減は、外国人観光客の行き先に左右されている側面もあります。

 フランスのように黙っていても世界中から観光客が集る観光大国ではない日本の場合は、まずは外国人観光客のモニタリングが必要でしょう。彼らに実際体験してもらい、問題点を洗い出し、改善を重ねていく必要があります。その点は閉鎖的村社会の日本が克服すべき点だと思います。日本人が感じない魅力を外国人が感じることは多くあるからです。

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 アメリカ最高裁判事に指名されたブレット・カバノー氏の性的暴行疑惑は、米連邦捜査局(FBI)の追加調査が終了し、採決の行方が注目されています。しかし、全米どころか世界中に繰り返し流される高校時代の被害者、クリスティーン・フォード女史の露骨な証言、時に感情的になり、疑惑を全面否定するカバノー氏の公聴会でのやりとりに嫌悪感を持つのは私だけでしょうか。

 子供から大人まで誰でもが試聴できるテレビで全米に放映された公聴会の様子は、アメリカでは中学生や高校生も学校の休み時間にスマホに釘付けになったといいます。そして、ABCテレビなどによると、試聴した未成年者の多くはフォード氏に同情し、中にはカバノー氏は刑務所に入れるべきという意見もあったと伝えられています。

 今回のカバノー氏疑惑の一連の動きは、ハリウッドの有名プロデューサーに対するセクハラ告発以来、被害に遭った女性たちが声をあげる動きが加速し、MeToo運動が高まりを見せていることと連動しているのも事実でしょう。

 ただ、私が気になるのは、過去にはどの国でもタブー視され公に語られることがなかった性的問題が露骨に報道され、それを試聴する子供への影響が考慮されない時代に入っていることです。伝統的保守主義の福音派のアメリカの友人は、この種のテレビ放映が始まると子供への害を考え、チャンネルを変えているといっています。

 これがフランスなら、たとえ大統領候補者でも10代に犯した飲酒による性的不品行が問われることはないといえますが、性的モラルや人権を追求するアメリカで逆に性的描写が露骨になっている現実は、皮肉というしかありません。

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 最高裁判事指名では27年前に黒人判事候補者トーマス氏の指名を巡り、元部下であった黒人女性、アニタ・ヒル女史のセクハラ疑惑がありました。政治家ではなんといってもクリントン元大統領が大統領執務室で行った研修生との性的行為があり、トランプ大統領も元ポルノ女優との疑惑を抱えています。

 この種の問題は非常にデリケートな問題で犯罪立証が難しく、どちらの言い分を信じるかという信頼性が決め手になったりします。今回のカバノー氏疑惑もそうですが、どちらかが嘘をつき、作り話をしている可能性があるということです。裏には現政権を嫌悪する民主党やリベラルなメディアの政治的思惑も指摘されています。

 法と秩序を重んじ、社会正義を追求するアメリカ人は、法廷を見るのが大好きです。山のように法廷ドラマが作られ、世界中で放映されていますが、真相を暴く過程は、いつも犯罪者の保身による嘘に満ちています。

 保身のためにつく嘘は人間が生き抜いていくためには時として必要という考えは、アメリカだけでなくヨーロッパでも一般的です。日本では嘘そのものが罪悪と考えられていますが、中国や韓国でも嘘は大罪とまではいえません。

 海外の職場で日本人は、ナショナルスタッフがミスを認めず、謝罪せず、言い訳が多いことに驚かされます。アメリカには正直を価値とする考えがあるにも関わらず、保身と自分の評価を上げるために上司に嘘の報告をする、作り話をするのは日常茶飯事です。

 日本には「正直者が馬鹿を見る」という考えをありますが、これは良心の問題です。私は、保身のために真実を闇に葬りさるためにつく嘘や、政治目的のために作り話をすることの本当の犠牲者は子供だと考えています。今回のカバノー疑惑でも、誰かが嘘をつき、作り話をしているのは明白で、醜態を晒しているわけです。

 これを目撃する純粋な子供たちは、良心が麻痺した大人の嘘に覆われた世界を目撃するわけです。それも性的不品行という本来、子供が知る必要のない問題が加わっている。中には「法廷は教育だ」という人もいます。悪は明らかにされ、裁かれるということを見せることが教育になるという意見ですが、だからなんでも見せていいという話でもないはずです。

 セクハラ被害の告発は、女性の尊厳や人権を守るという意味では非常に重要なことですが、その一方で子供に深刻なダメージを与える内容が含まれていることも考慮すべきでしょう。これにもし政治目的が含まれているとすれば、とんでもない偽善といえます。

 どちらの主張が真実かは別として、態度を明確にしていない共和党議員に対して、反対票を投じなければ、次の選挙で政治生命を絶ち民主党候補に勝たせるとして、カバノー氏承認阻止のためにクラウドで選挙資金集めする動きは、民主主義をはき違えた恐喝に等しい行為といわざるを得ず、アメリカの民主主義の劣化を見るようです。

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