安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

Paris school1
 パリ15区の市立小中校、新年度の授業全面再開でこんな風景に戻るのか

 ヴァカンス真っ只中の欧州ですが、ドイツの1部では8月3日から学校の新年度が始まり、登校してきた小学生の中から新型コロナウイルスの感染陽性反応が出て不安が拡がっています。3月に行われた学校閉鎖による勉強の遅れを取り戻す秋以降の授業全面再開に暗雲が立ちこめています。

 多くの欧州諸国の小中学校は日本と違い、夏休みは短縮せず、フランスでは毎年恒例のコロニー・ド・ヴァカンス(林間・臨海学校)などで、いつもより基礎学力の補習に力を入れるなどしています。とはいえ、2か月近くのロックダウンによるリモート学習、その後の衛生基準を守る授業再開では勉強の遅れは明白で、失った学力を取り戻すのは秋の新年度以降ということになっています。

 フランスのブランケール教育相は「特に国語と算数の基礎学力を習得するため、9月より授業外の個別学習支援を強化する」と約束しました。国は教員に対しても柔軟性を持って生徒を成績評価するよう支持し、落ちこぼれ対策にも取り組むとしています。

 ところが、2カ月間の夏休みはほとんどの家庭が旅行に出かけ、今年は国内で済ませる人が圧倒的に多いといっても約3週間はヴァカンス先で過ごします。ビーチやレストラン、博物館などで多くの人と触れることになりますが、マスク未着用のパーティもあちこちで行われています。

 家族の一人がウイルスに感染すれば、家族全員に感染し、9月に子供が登校すれば、ドイツのように無症状の陽性者が学校にウイルスを持ち込む可能性もあります。そうなれば学校でクラスターが発生し、再び学校閉鎖という最悪の事態も考えられます。

 英ロンドン大学のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)とロンドン大学衛生・熱帯医学大学院(LSHTM)の研究者が今月4日「新型コロナウイルスの検査と感染者の追跡体制を改善しないまま9月に学校の対面授業を再開すれば、冬季にかけて感染拡大第2波が発生し、規模は第1波の倍になる」との研究結果を公表しました。

 研究論文は、医学誌「ランセット・チャイルド・アンド・アドレセント・ヘルス」に掲載され、「症状がある感染者の75%が特定され、これら接触者のうち68%が追跡された場合、もしくは症状がある人の87%が特定され、接触者の40%が追跡されれば、感染拡大第2波は防止できる」と試算しています。

 その一方で「効果的な検査、追跡体制が導入されないまま9月に学校の対面授業が全面的に再開されれた場合、1人の感染者が新たに何人に感染させるかを示す『基本再生産数』は1を超える水準に上昇し、結果、12月には感染拡大第2波がピークを迎えると予想、その規模は第1波の2.0から2.3倍になる恐れがある」と指摘しました。
     
 しかし、現実には症状のある感染者、ない感染者がPCR検査の徹底で特定されたとしても、感染ルートの不明者は非常に多く、ヴァカンス先が1カ所とは限らないため、感染ルートを特定するのは困難なのが現実です。

 そのため、学校の対面授業の全面再開、および保護者の職場復帰がもたらす感染拡大懸念は相当なものです。欧州では多くの国で3月からロックダウンと学校閉鎖が実施され、リモート学習に切り替えられました。基本はリモート授業とネット上から出された課題を自宅で行うことでした。

 結果、教師はリモート授業、課題作成や添削に追われ、親も自宅でリモートワークしながら、毎日の子供の勉強指導や管理に追われ、親も子供もリモートワークの困難さを体験しました。フランスでは教育省が9月以降もリモート学習を併用させる考えを示しています。

 しかし、リモート学習は親や兄弟の協力なしにはできません。移民の多い欧州では、その国の言語を十分に喋れない親も多く、教育レベルも高くない場合が多く、自宅で子供の勉強を手伝うこともできない家庭が少なからずいます。

 欧州は今、感染拡大第2波の本格化を警戒しながらも、授業の全面再開に向かっていますが、可能なら新年度開始前に小中学生全員のPCR検査を行うくらいでないと、クラスター発生の可能性は高いといえそうです。

ブログ内関連記事
集団教育から個別への教育改革 コロナ危機をチャンスに変える教育政策の抜本的変革を
フランスの段階的な授業再開 素案に見る3つの密を避ける方法、日頃からの余裕が物をいう



Emergency.svg

 困難な状況に遭遇した時、人間は瞬時に自分の身を守ろうとするは合理的な行動です。リスクに晒されながらも大胆であり続ければ、さらなるリスクに晒される危険もあります。今、飲食店やブティック、観光業に関わる接客業の人たちは、休業や閉店を余儀なくされていますが、当然、ビジネスの継続性も考えなければなりません。

 たとえばパリには邦人旅行者向けの観光ツアーガイド、宿泊施設、お土産品店、和食レストランなどがあり、邦人駐在員向けの日本食材店、本屋、学習塾、不動産屋などがあります。ところが3万人以上が新型コロナウイルス感染で死亡し、実質的に日本人観光客が入国しても帰国後、2週間の隔離が義務づけられているので、この数か月、フランスには来ません。

 駐在員も医療崩壊を恐れて一時退避ということで日本に帰国した人は少なくありません。日本ほどに感染対策でマスクの徹底着用もままならず、濃厚接触が日常化している習慣を簡単には変えられない状況の中、1,000しか感染死亡者が出ておらず、医療体制も万全な日本に退避するのは当然といえます。

 そのため、日本人旅行者、駐在員をメインの顧客とするビジネスは総倒れ状態で、長引けば倒産し、職業替えするしかない状況です。最悪なのは対邦人ビジネスの日本人依存度が非常に高いことです。彼らは日本人が消えることな想定していませんでした。

 そこで思い出すのは、某日系航空会社が世界中に展開していたホテルチェーンの崩壊の話です。パリにも近代的なデザインのホテルがありましたが、今は名前も変わり、フランスのホテルチェーンにマネジメントされています。その日系ホテルはバブル期にパリに来る日本人観光客、ビジネスマンの受け皿となり繁栄しました。

 しかし、バブル崩壊後、日本人利用者は激減したにも関わらず、ビジネスモデルを迅速変えられず、初期投資額も大きかったのと、アジアシフトした結果、手放すことになりました。彼らのビジネスモデルは、観光やビジネスで世界中を飛び回るアメリカ人を顧客とした米ヒルトンホテルに似ています。

 私も当時、ホテルビジネスのコンサルをしており、さらに私の義弟がパリの高級ホテルの支配人だったので、ホテル業界の動きは当時、つぶさに聞いていました。

 和食レストランも同様なケースですが、多くが外国人によって経営されているという性質上、最初から邦人客だけに絞り込まれていなかったことで生き残りの確立は高いといえます。邦人向けお土産品店の中には一等地に店を構え、邦人旅行者が顧客の8割を占めるような店は厳しい状況に追い込まれています。

 学習塾は以前からリモートワークが導入されており、その場所に行かなくてもしのげる場合もありますが、これまでのようには収益を上がられていません。日本人に特化した観光ガイドやコーディネーター、ビジネスの通訳で、それも個人でやっている人たちは、職業替えを迫られるほど厳しい状況です。

 これら邦人をメインとするビジネスは、面倒くさい異文化対応が最小限で済む利点があります。義弟が支配人をしていたパリ高級ホテルでは、支払いの段になって宿泊費を値切る客は毎日いたそうです。それが日本人泊まり客には一人もいなかったそうです。そんなコンテクスト(常識)が異なる客への対応が不要なのが対邦人ビジネスです。

 簡単に言えば内向きビジネスです。その内向きビジネスしかしてこなったビジネスモデルから崩壊が始まっています。それも日本ではなくアウェイでのビジネスです。最初からフランス人の客が9割の和食レストランではロックダウンさえ解除されれば客は戻ってきます。

 邦人相手のサービスは海外では超ニッチなビジネスモデルです。前提となる日本人が消えれば命取りです。コロナ禍でダメージを受けた彼らは、さらに保身に走り、店を休業し、高い家賃だけを払い続け、コロナの嵐が過ぎ去るのをじっと待っているケースは少なくありません。

 短期間であれば、休業や規模縮小という保身の処理も重要ですが、数年間、withコロナが続けば、財政面で体力のない小規模事業者は持ちこたえるのは不可能です。それと元来、邦人相手のビジネスは内向き思考です。困難に直面して、さらに内向きになれば撤退しか選択肢はなくなります。

 しかし、多くの場合、邦人相手のビジネスで現地にいる日本人たちは、生活基盤を築いてしまっており、帰国は考えられません。それに海外生活に憧れ、日本を脱出した彼らが日本で再スタートする選択肢はハードルが高すぎます。

 無論、世界で今起きていることが永遠に続くわけではないでしょう。人が動かなければ血液が止まった人体同様、あるのは死だけです。しかし、少なくとも同じ状態に戻れる可能性は高いとはいえません。ワクチンや治療薬が開発されても、全世界に普及するまでには何年も掛かることが予想されます。

 この危機から学習できることは、困難な状況に堪えられるビジネスモデルを考えることです。パリで邦人のみを対象にするビジネスは、この危機で一溜まりもありません。生き残れるのは接客業であればフランス人を相手にするビジネスに切り替えられた場合だけです。

 危機に直面し、保身のための迅速な対応も必要ですが、超内向き思考に陥ることは絶対に避けたいところです。むしろ、顧客ターゲットが日本人だけとかいう内向き思考のビジネスの場合は、外に市場を拡げ、顧客の幅を拡げる必要があります。

 30年年間、パリで邦人に支持されてきた和食レストランのオーナーが、日本人に気を取られすぎ、目の前にいるフランス人やヨーロッパ人客に目が行かなかった愚かさを反省しているという話も聞きました。難しいことですが、保身に足を取られず、未来思考、積極思考で前進する必要があります。

ブログ内関連記事
コロナ危機が生むチャンス 新たな可能性を模索するネックストノーマルの必須事項
免疫力を下げる脳の情動感染 ミラーニューロンで負の感情を蔓延らせない東日本大震災の教訓
ホテル・ニッコー・バンコク2019年開業 日本のホテルブランドのグローバル戦略に願うこと
脱グローバルで懸念される内向き志向 経済危機の最大の敵=引き籠もりリスクといかに戦うか

 
 

help-1019912_1920

 世界中で新型コロナウイルス感染防止のロックダウン(封鎖措置)が解除されて1か月、第2波懸念が高まる中、欧米のビーチやナイトクラブで裸に近い姿で若者が酒を飲み、マスクもなく3密状態で踊り狂う姿が報道されています。日本でも狭い飲食店でクラスターが起き、東京では営業時間縮小要請が出ています。

 危機的状況に陥ると人の醜い面が出てしまうような印象を与えています。地震などの自然災害が起きると、日本はそうでもありませんが、多くの国ではスーパーや高級ブティックから略奪する醜い犯罪が横行するのが常です。

 しかし、考えてみれば、ロックダウンで溜まったストレスを発散させるためにナイトクラブで踊り明かし、居酒屋に人が集まっているかといえば、多少はその側面もあったとしても、実はコロナ禍でなければ、ただの日常です。醜く感じるのは共に困難を乗り越えなければならない非常時に不謹慎じゃないかと思うからです。

 確かに人間は困難に直面すると、自分を守るために保身に走ったり、自暴自棄になるという側面もあります。しかし、同時に今年も梅雨の時期の豪雨で起きた洪水被害地域には、多くのボランティアが集り、地域住民は片づけを共同で行い、自発的に焚き出しを行ったりしています。

 東日本大震災では多くの悲劇が起きた一方、語り継がれる良心的行動をとって亡くなった人々がいたことは、いつまでも人々の心に残っています。水に浸かり死の恐怖に怯えるドイツ人旅行者夫婦を命懸けで救い出した若者は「当り前のことをしただけだ」と語りました。

 こんな疫病の危ない状況の中で居酒屋やナイトクラブに行く人、アメリカのビーチで踊る若者たちは確かに目立ちます。ところが実際には数の上からすれば例外にしか過ぎない。皆がマスクをすれば、マスクをしない人は目立つのと同じです。疫病や自然災害で注目すべきは人間が社会的存在だということを再認識させてくれることです。

 大都市では、あたかも自分個人の力で生きていると錯覚する人は少なくありませんが、実は多くの人々に支えられて生きている。それを困難な状況が再認識させてくれます。日頃は嫌っている近所の人とも生存のために助け合う必要に迫られ、案外思い違いをしていたことに気付かされたりします。

 東日本大震災では近隣の生き残った人々の関係が、より緊密になったという話も聞きます。大規模な自然災害や疫病は一人では立ち向かえないものです。そのために協力関係構築は必須です。それが自然にできてしまうのが、皮肉にも危機的状況がもたらしたものです。

 阪神淡路大震災の時、当時、町を徘徊していた茶髪の不良青年たちが、人が変わったように高齢者を瓦礫から救い出し、活躍したことを記憶しています。彼らが不良と化した原因の貧富の差や家庭崩壊などの前提が目の前で崩壊すると、彼らの心の中にあった本来の優しい心が蘇ってきたかのようでした。

 今、コロナ禍で利益を度外視した様々なサービスが行われてきました。高級料亭が医療現場に弁当を無料で配布し、買い手のいない命の短い花を無料で配る花屋も現れました。こんな時だからこそ、解雇は絶対にしないと頑張る経営者もいます。人を助けたい、喜んでもらいたいという精神は、ビジネスの基本でもあるということを思い起こさせてくれています。

 小さな飲食店など、小規模なビジネスほど、良心が失われないといえるかもしれません。大きな組織はリーダーに社会に対する良心がなければ、腐敗するのもあっという間です。いかに利他的動機をビジネスに与えるかが重要ということを、この困難な状況が教えているともいえます。

 危機的状況に追い込まれた時、醜い面も表面化すると同時に、心を浄化するチャンスにもなるというには、癌宣告された人が人生と向き合い、自分にとって大切なものは何かに気付き、新たな人生の出発点にした人が少なくないことが物語っています。人生がうまくいっている時には気付かなかった重要なことを危機が教え、リセットできたということです。

 日本人は、本来備わった公衆道徳と忍耐心、人を気遣う心を発揮し、人も組織も再生させるチャンスだと受け止めることが重要かと思います。感染抑止か経済かという選択肢ではなく、人を思いやる善良な心こそが困難を乗り越える鍵になるということを、日本人は敗戦から復興で学んだはずです。

ブログ内関連記事
個人主義とマスクの関係 強制着用か要請かで問われる公衆道徳と感染拡大の関係
リーダーは掛け声や行動で示す前に成果を出せる考え抜かれた戦略と目標達成の強い意思が必要
コロナ危機で苦し紛れの不正行為 自滅する企業が取る最悪のパターンを回避する企業文化
ポストコロナの鍵を握るものは何か 持続可能なビジネスは新たな社会的価値の創造から生まれる

 

corona-virus-gloves-mask-safety-covid-19

 8月2日時点の話ですが、新型コロナウイルスの死亡者数は世界で68万人が記録されています。今のところ日本は1,008人と比較的少ない国の一つです。人口100万人当たりの死者数ではアジアではベトナム、台湾、中国、韓国に次ぐ低さですが、免疫力と国民の関係なども指摘されています。

 先進国という意味では日本は世界的に最も死亡者率が低い国のひとつですが、その理由を医学的、科学的に分析することは、今のところ不可能とされています。英BBCは1か月前、日本の感染者数、死者数が低い理由を探る特集を組みました。

 BBCは感染対策で強制力のある法律を持たない日本は、世界一の少子高齢化社会で、東京などの過密な都市、公共交通機関の超過密状態、狭い職場、狭い飲食店、狭い家、加えてPCR検査を徹底しない方針など感染対策で弱点になりそうな点をたくさん持ちながら、なぜ、感染死亡者数が少ないのかを探りました。

 麻生太郎副総理の「民度が違う」発言も紹介されました。いわゆる「X因子(ファクターX)」が、国民を新型コロナウイルスから守っているという東京大学の児玉龍彦名誉教授のアジア人に備わった歴史的免疫力説や、その説に反論する英キングス・コレッジ・ロンドン公衆衛生研究所長の渋谷健司教授の地域と死亡率の関係を「X因子」と関連づけるのは無理かあるという説も紹介しています。

 番組の結論からいえば、日本人の特別なX因子説はあまり説得力がなく、感染者数を抑えてきたのは3密を避ける対策が早期に徹底して国民全体で実行できたことではないか結論づけています。無論、それが正しいかを判断するには。さらに時間が必要でしょう。

 しかし、マスク着用のことだけでいえば、マスク着用習慣のない欧米諸国では、マスク普及に時間が掛かり、ロックダウンが解除されると、途端にマスクをしない人が急増しました。フランスもヴァカンスの季節でマスクをしていない人は今も増えるばかりです。

 マスク着用の義務化に反対する抗議運動まで起きており、個人の選択を重視する欧米ではマスク着用は自由選択にすべきという意見は今もよく聞かれます。ではマスクをしたくない人に話を聞くと、大抵の場合「面倒くさい」、「息苦しい」、「効果は怪しい}といいますが、マスクは自分のためというより、他の人にウイルスを感染させないためだと説明すると肩をすくめる人は少なくありません。

 そこには個人主義者の持つ個人優先の考えとリベラルな考えも伺えます。あらゆる文化的調査で欧米人が個人主義者であること、逆にアジア人は集団主義的傾向が強いという指摘がされてきました。それはステレオタイプの見方だという人もいますが、実は個人主義、集団主義の中身の理解には相当な幅があるのも事実です。

 今のヨーロッパの個人主義は、どちらかというとキリスト教を離れ、リベラリズムの影響を受け利己主義に近い状態です。個人主義は自分の意思を尊重するので、ヨーロッパで盛んな利他的な人道支援活動も自分の意志で行うものとの考えです。しかし、日常における個人の選択では自分を他人と切り離して考えるのが当然と考えられています。

 日本に住む西洋人の文化的違和感の代表が、人間関係重視の目に見えない微妙な決まり事が読めないことです。職場でも人間関係が、仕事そのもの以上に重視されているのが日本です。欧米社会でも人間関係がもたらすストレスはありますが、日本人のように相手の反応を見ながら行動することは皆無です。

 かつて明治維新で開国した日本では、欧米人は日本人より公徳心がはるかに高いといわれました。たとえばアジアの途上国、新興国では今でも「公共」という意識は高くはありません。家族や地域社会はあってもパブリックという概念は希薄です。

 しかし、今の欧米社会は公徳心という意味では、相当衰えています。新型コロナウイルスでマスクをするのは他者のためでしかなく、自分を守ることには繋がりません。つまり、他者への配慮が中心で、他人をどうでもいいと思うなら、マスクをする理由はありません。

 今の欧米社会で、他者をそこまで尊重する考えがあるかは大きな疑問です。日本人は花粉症などもあって自分を守るためにマスク着用が日常化しましたが、今回は他者のためです。マスク着用を守るかどうかは公衆道徳に関わる他者重視であることは確かです。

 フランスでは今、公共交通機関や建物内でのマスク着用は義務化され、違反すれば罰金135ユーロを払うことになります。重犯だと刑務所行きかもしれません。そうでもしないとマスクを着用しないからです。それでも若者を中心にマスクはなかなかしようとしません。きっと、自分をウイルスから守るためだといえばあっという間に普及することでしょう。

 無論、感染拡大と個人主義を結びつけるのは性急すぎる分析だといわれそうですが、マスク着用だけみると個人主義や利己主義を助長するリベラルな考えが大いに関係しているのではというのが、30年以上ヨーロッパに住む者の正直な感想です。

ブログ内関連記事
マスク未着用の乗車拒否で仏バス運転手が暴行死 封鎖緩和後の公衆衛生対策が命懸けの現実
マスクが世界経済を変える? マスクの調達と必要性の議論沸騰が疫病後の世界に大きな影響
個人主義と利己主義の混同が異文化でのスタイルシフトを危険に晒す



fallen-domino-line

 欧州連合(EU)は8月1日以降、域外からの渡航を受け入れる第1弾のグループとして日本を含む15ヶ国のリストを発表しました。新型コロナウイルスの感染防止の入域制限を行っていたEUは、EUより感染が落ち着いているなどの条件により、8月1日から渡航制限を緩和する方針です。

 夏の長期ヴァカンス時期の外国人観光者激減で疲弊する観光業を含む経済活動促進への配慮が伺えますが、実際には国境管理は加盟各国に権限がゆだねられており、各国で対応は異なる見通しです。EU域外開放は大きな一歩で3月以前、域外からの旅行者がウイルスを持ち込んだ事例を考えるとリスクのある決断です。

 しかも今、感染第2波が懸念され、加盟各国は移動制限やクラスター(集団感染)が起きている1部地域のナイトクラブや集会所の封鎖措置に踏み切っています状況です。ドイツは27日、感染リスクの高い国のリストから帰国する旅行者への無料の強制コロナウイルス検査プログラムを発表したばかり。

 リスト掲載国は日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどの15カ国で、当然ながら感染の多い米国やロシア、ブラジルなどは含まれていません。リストは2週間ごとに感染状況をみながら更新するとしていますが、リストはあくまで「勧告」で強制力はなく、渡航先の各国の方針を確認する必要があります。

 世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の調査報告によると、2019年のGDP(国内総生産)に対する旅行・観光産業の寄与額の国別1位は米国(1兆8390億ドル)、2位中国(1兆5850億ドル)で、3位の日本
(3,590億ドル)を大きく引き離しています。

 調査はオックスフォード・エコノミクスと組んで世界185カ国を対象に実施したもので、寄与額には、国内外の旅行者による宿泊や移動、飲食、レクリエーションなどの直接消費のほか、政府の投資なども含まれています。

 旅行者の支出額は1.7兆ドルで総輸出額の6.8%、設備投資は9,480億ドルで総投資の4.3%を占め、旅行・観光業従事者は世界で3億3000万人に上り、新規雇用のなんと4人に1人が旅行・観光業関係という驚くべき数字です。米国経済の大幅な落込みが指摘されていますが、旅行・観光業の落込みが経済に悪影響を与えているのは明白です。

 人が移動を止めることは、血液が循環しなくなるのと同じです。交通手段を利用することを止めれば航空会社は壊滅的状況に陥り、航空機メーカーからは注文が消え、減収による人員整理は不可避です。行った先で利用するタクシーなどの交通機関、宿泊施設、レストランの利用が激減すれば、彼らも立ち行かなくなります。

 当然ながら、そこに関わる燃料、食料、施設管理物資供給者も収入は激減します。レストランに食材を供給する農業、漁業も納品先を失います。観光では観光スポットの美術館や博物館、歴史的建造物、てーマパークなどの入館料が激減します。お土産品も売れず、ワインや香水、特産品製造業者も打撃を受けます。

 つまり、旅行・観光業のすそ野は非常に広く、旅行者の移動という血液が止まれば、末端の毛細血管に属する産業に至るまで壊滅的被害を受けるという「ドミノ倒しの経済被害」が拡がることになります。コロナ禍は人の移動制限で経済的な脳梗塞をもたらしているわけです。

 日本ではJR東日本も2020年4〜6月期の連結決算で最終損益が1553億円の赤字と四半期で過去最大の赤字になったことを発表し、来春の新規採用を控える方向だといいます。コロナ禍でダメージを受けにくいといわれていたインフラ企業にも確実にドミ倒しは襲っているということです。

 WTTCは、人の移動を制限するより、空港や鉄道駅、長距離バスターミナルなどでのPCR検査施設の増強を各国政府に要請しています。汚れた血を世界に流さないことは重要ですが、血を止めることは経済に致命的ダメージを与えるということです。

 無論、PCR検査の精度は完璧ではないので、将来的にはワクチン接種の有無などウイルス感染の多種のチェック機能を強化する必要がありますが、いずれにせよ、人の移動制限の長期化は計り知れない経済への悪影響を与え、一国の財政では対処できない規模になる可能もあります。

 その意味で国連、特に世界保健機関(WHO)が主導して、早急に交通拠点での検査機能の拡充を行う必要があります。そのための特別財源をあらゆる手段を通じて集める必要があるということでしょう。

ブログ内関連記事
英国の渡航制限でスペイン大打撃 最大の得意先英国旅行者を失うのは観光大国には致命傷
なぜ欧州が疫病大流行の中心に? EU域外からの入国制限の遅れと医療崩壊がパンデミックを加速させてしまった
新型コロナウイルスは聖戦主義とそっくり 世界は今ブラックスワンとの戦いの有事にあると認識すべきだ



african-american-asian-blank

 コロナ禍で分らないことだらけで先が見通せない今、その不確実性が人間に大きな不安とストレスを与えています。今のところ確実に効果を上げるワクチンや治療薬が普及していない以上、感染に怯えながら生きていくしかない状況で、目に見えないウイルスがもたらす不確実性は心に大きな重荷です。

 従来、問題解決能力が高いといわれる人間は、不確実性を迅速に排除するスキルが高い人間を指します。遭遇する問題(不確実性)への分析力、現状把握能力に優れ、科学的知見、経験知や直感も加わって解決のための行動の優先順位を即座に決定するスキルが高い人間を「できる人間」といいます。

 ところが今のコロナ禍の対応がそうであるように、問題の本質が前代未聞で専門家でさえ読みにくいのと似ているのが異文化対応です。ある自動車部品メーカーのグローバルビジネス研修でタイの支社長で赴任しながら、1か月で自分には無理だと感じ、日本に引き上げた人から話を聞きました。

 その人は、会社の中では3本の指に入る優秀な人で、部下の質問には非常に的確な支持やアドバイスを行うことで知られていた人です。確かにケーススタディなどでも見事な答えを出していました。いわゆる日本では「できる上司」でした。ところがタイで同じようにやれると考えていたのが、まったく思うようにタイ人スタッフが動かず、完全に自身を失ったといいます。

 海外の日系企業の現場でよく聞く話は、日本側から送り込まれた駐在員のリーダーの自分に対する仕事評価や日本側の評価と、ナショナルスタッフの評価が大きくズレていることが多いことです。帰国後武勇伝を語る人もいますが、実は現地では評価されていなかったという話は少ないとはいえません。

 異文化理解、異文化対応は不確実性と隣り合わせです。異なる文化的背景を持つ部下を持つ「仕事ができる」人から相談を受けた例で、その人の口から飛び出したのは「文化の違いではなく、人間としていい悪いかでしょ」という言葉でした。つまり価値観の問題です。

 日本人には日本人の常識(コンテクスト=文脈)があり、異文化に対しても「できる人」は迅速に処理しようとします。ところが異なるコンテクストを持つ相手が、こちらが持つコンテクストに従うだろうといい思い込みは大きな間違いです。コンテクストの違う人間が互いに理解し合うには非常に長い時間が必要です。

 できる人間は、自分の前に立ちはだかる不確実性に対して、往々に自分の持つコンテキストを普遍的なものと勘違いし、それを押しつけて迅速に解決しようとします。たとえば、日本人にとって嘘をつくことはとても悪いことです。ところが戦争を繰り返してきた大陸では生き延びるための嘘は必要と考えられています。

 正直なだけでは、自分を攻撃し支配しようとする人間に対抗できない場合、嘘をつくことも処世術、生きる方便です。つまり、日本人の常識は通じないわけですが、自分の常識に自信を持つ人は簡単に相手を裁き、その間違った考えを正さなければならないと考えてしまうわけです。

 今は東南アジアなどの新興国、途上国に仕事で行くケースが多いため、特に教えることが多く、独善的になりやすい環境があります。ところがそういう人は成功していません。特に「いい、悪い」という価値観を持ち出すことは慎重さが要求されます。

 上海で出会った現地で評価されている駐在員は、中国人は日本人以上に損得で動くことを理解したので、真面目に働かない中国人、不正を働く中国人に対して「あなたがそんなことをしていると、あなた自身が損する」というようにしたら、同じ問題を繰り返さなくなったといっていました。

 コンテクストの違いは不確実でネガティブな側面があると同時に、新しいアイディアを出したり、問題解決に意外なアプローチがあることを見つけられるというダイバーシティ効果が注目されています。その時に「いい、悪い」の価値観を持ち出すのは、いい結果に繋がりません。

 それより「よりベターなものを引き出す」という共通の目標を掲げるべきです。そこで問題になるのが異文化への無知です。知ってみればなるほどと思うことも多い異文化ですが、分らなければ、いつまでも不確実性がネガティブに作用します。自分のコンテクストを過信している人は異なる文化から何か学びとろうという意識も希薄です。

 今は世界はグローバル化疲れで、自分の持つコンテクストに一旦退避する時期に来ているように見えます。そのためナショナリズムがぶつかりやすい状況です。たとえばアメリカは中国の近代化に関与することで人々は自由を求め共産主義体制は崩壊すると考えたことは間違いだったと今、いっています。

 アメリカ人及び、ヨーロッパ人のコンテクストからすれば経済発展すれば、人は自由と民主主義を求めると考えたのが、中国には当てはまらなかったというわけです。内乱に次ぐ内乱で馬賊に命を脅かされてきた中国人からすれば、中国共産党政権は平和と経済発展をもたらした有り難い存在です。

 つまり、異文化の読みが浅かったということです。独善的な人間観や価値観が悪い結果をもたらした典型的な例といえます。日本人は逆に何でも曖昧にする傾向がありますが、これは異文化に必要な柔軟性や寛容さとは種類が違うものです。その曖昧さは不確実性を取り除く役には立ちません。

 とはいえ、自分の中で正しいと思っていることが確実性をもたらしていることも事実。異文化では自分の中で当然と思っていることを上書きする必要があります。それは度量の大きな人間を作るという意味で低い次元のコンテクストへの過信から抜け出し、自分の成長に繋がることでもあります。

ブログ内関連記事
文化文明の優劣思考の弊害 独善的な考えでは何年外国に住んでもその国の本質は理解できない
懸念されるコロナ後のニューノーマル 憎悪の罠にかかれば異文化理解も問題解決も遠ざかる
異文化理解の文化の物差し 偏見ではなく寛容さがグローバルビジネスの成功の鍵を握る
不確実な状況に強い国民、弱い国民 リスクをマネジメントできれば楽観主義の方が有利 



gr5
   米ワシントン大学の世界人口推計

 先進国の多くはコロナ禍対策として、どの国も大規模な財政出動を行っている。欧州連合(EU)も揉めに揉めた末、7500億ユーロ(約92兆円)の復興基金案で合意し、30年ローンで市場からコロナ債発効で資金を調達し、融資分の3600億ユーロを除けば、3,900億ユーロは帰ってこない金です。1部の欧州メディアは「これで30年間、EUは存続せざるを得なくなった」と皮肉っています。

 一方、日本を含む欧米先進国は少子高齢化が進んでいます。今は緊急時なので経済活動を大幅に制限するコロナ感染対策と、経済そのものを守るためのリスクを伴う経済活動の両立が求められていますが、血液としての経済が回らない分、輸血を繰り返すしかありません。

 財政健全化のためにイタリアのように病院や医師、看護師の数、病床数、病院数の縮小などを近年行ったことが医療崩壊を招いていた現実もあります。そのため、感染拡大で経済活動停止に追い込まれた企業や人への支援だけでなく、医療体制の拡充にも国の金を注ぎ込む必要に迫れています。

 多くの国の政府は、緊急事態なので財政出動はやむを得ず、コロナ感染が鎮静化し、経済活動が再開すれば、借金は返せるとの前提で市場から多額の資金を調達しています。そこにはある程度の科学的根拠もあっての借金なわけですが、不確実な様相も少なくありません。

 その一つが人口問題。国連の世界人口推計2019年版では、世界の人口は2019年の77億人から2030年の85億人(10%増)へ、さらに2050年には97億人(同26%)、2100年には109億人(42%)へと増えることが予測されています。一方、増加率には地域差が大きく、65歳以上の年齢層が最速拡大すると予想しています。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、国連の人口推計に異論を唱える米ワシントン大学の新たな研究論文を紹介し、「中国の人口は48%減の7億3200万人となり、世界の人口順位でインドとナイジェリアに次ぐ3位に後退する。日本や韓国、イタリア、ポルトガル、スペインをはじめとする23カ国・地域の人口は、ピーク時から50%以上減少する見通し」との予想を紹介しています。

 根拠は国連の予想には「従来の人口統計が世界中の医療や女性教育の継続的かつ将来的な向上を加味していない」ことや、「出生率の低下は、都市化に加え、識字率や避妊に関する情報へのアクセスの向上と相関性がある。女性が生殖生活をよりコントロールできるようになるためだ」と指摘しています。

 つまり、世界的に女性がバースコントロールを容易にできる十分な知識と方法が普及すれば、予期せぬ望まない出産は減少するだろうということです。同論文では「2064年に97億人でピークに達し、2100年には88億人に減少する」と予測しています。
 
 もし、この仮説のように40年後から人口減少が始まり、なおかつ少子高齢化も進めば「高齢者人口を支える労働人口の縮小で、世界中の医療や年金制度は大幅に圧迫されるだろう」とWSJは指摘しています。WSJの論文は、環境保護活動家が敵視する経済活動は、実は多くの問題解決をもたらすというWSJらしいアプローチですが、私は人口減少予想がもたらす負の側面を懸念しています。

 今、国がしている多額の借金は30年後には返済を終えているということで、ワシントン大学の論文からいっても人口は減少局面には入っていません。その意味では国家がデフィオルトに陥るリスクは少ないかもしれません。それに経済発展と人口規模は相関関係にあるとはいえません。

 それに将来の経済予想には非常に多くの要素が加わり、科学的根拠をもって予想するには、あまりにも不確実な要素が多いのも事実。実際、このコロナ危機の規模を予想した専門家などうません。しかし、グローバル経済は人口増加率が高い貧しい国の経済成長が発展の原動力になっている要素もあります。同時に先進国の高齢者を支える労働人口の減少が国の弱体化に繋がるリスクも無視できません。

 つまり、コロナ禍を乗り切るために莫大な借金を国がしている前提は、将来に渡って経済発展するための施策を持っているということになりますが、本当は不確実要素が多すぎで多額の借金は無責任な話になるのかもしれません。

ブログ内関連記事
EU倹約国とだらしない国の実態 復興基金30年ローンを保証する加盟27ヶ国のそれぞれの事情
コロナ危機が生むチャンス 新たな可能性を模索するネックストノーマルの必須事項
経済再建とコロナ対策の葛藤 本当に経済にほのかな光は見えているのか
スウィッシュ型景気回復予測 V字回復は望めない厳しい現実にどう対処すべきか



Cala_Bassa_-_panoramio_(3)
    スペインの人気のビーチ、Cala Bassa 

 年間の外国人旅行者数でフランスに次ぐ世界第2位の8,000万人を越える旅行者を毎年迎えるスペインは、OECD加盟国のGDPに占める観光業の割合は2018年、世界トップの11.8%、観光業に携わる人は労働人口の13.5%と非常に高い。そのスペイン経済を支える観光業が今年はコロナ禍で悲鳴を上げている。 

 英国政府は25日、スペインからの全ての入国者を検疫し、14日間隔離することを講じる措置を開始しました。スペインで新型コロナウイルスの感染拡大第2波が本格化したことを受けての措置。しかし、ヴァカンス真っ只中の措置だけにスペインの現地メディアは、大量のキャンセルを受けるスペインのホテル業者の衝撃を伝えています。

 ワットリー英保健相はスペインへの渡航制限の突然の決定について「感染拡大を防ぐのに急を要した。適切な判断だった」と説明しています。一方、封鎖措置解除でようやく活動再開にこぎ着けた欧州の航空産業や英国・スペイン両国の観光業がヴァカンス時期に受けるダメージは甚大です。

 スペインのアランチャ・ゴンザレス外相は「ヴァカンス客を迎えるため、万全の公衆衛生対策を講じていると国外に説明してきた」として、英政府はスペインへの旅行規制を変更したことに謝罪がないと不快感を表明。英国に対して「感染拡大が深刻な地域に絞って渡航を制限すべき」と苦言を呈しました。

 騒ぐのも当然です。スペインにとって英国は観光では最大の得意先で、年間を通じて英国からの旅行者は1,800万人で外国人旅行者のトップ。続くドイツやフランスを大きく引き離している。コロナ禍の8月末までの2か月間だけでも今年は180万人の英国人がスペインに向かう予定でした。

 1番の問題は英国政府の決定が唐突で、それもスペインからの帰国者の14日間隔離措置が施行されたのが発表から数時間後だったことです。中には英国からスペインに到着直後に知らされた英国人の家族連れもいて、せっかくのヴァカンスは一挙に熱が冷めた形です。

 スペイン政府はこれまで徹底したコロ対策をアピールし、安全性をウェブサイトなどで国外に伝え、すでにホテルや航空便は多くの予約を受けていました。しかし、今回の決定を受け、欧州最大の旅行会社TUIは26日付で英国からスペインに出発する8月9日までの全ツアーを中止することを決め、その後に入っているツアーの見直しも開始したとしています。

 最大の顧客を失ったスペインの観光業界は、お先真っ暗な状況で、ただでさえコロナ禍での経済ダメージが欧州連合(EU)ではイタリアに次ぐ規模で、膳弱な経済は危機に瀕しているときの英国の決定。スペイン政府が英国に謝罪を要求するのも無理はありません。

 ただ、英国側の言い分にも説得力もあります。最近、スペイン・マヨルカ島で夜間、若者がナイトクラブや路上などで狂乱パーティーを行い、政府が慌てて取り締まった例も。スペインでのヴァカンスでは若者が羽目を外すのは慣例。ヨーロッパの若者なら誰もが知っていることです。

 ビーチや繁華街で酒を飲み、踊って夜を明かす姿は今年も健在で、英国が震え上がるのも当然。スペインと並び、夏のヴァカンスのメッカであるフランスも同じような状況はありますが、外国人嫌いのフランスと違い、観光で生きるスペインはお客様は神様で、制御は難しいと見られています。

 当然ながらスペインの観光地は、クラスター(集団感染)の発生源になっており、スペイン保健省は24日、900人以上の新規感染者を確認したと発表、マドリッド、バルセロナ、バレンシア、アンダルシア地方で感染者が急増し、ナイトクラブや深夜営業のバーを2週間閉鎖する措置をとったばかりでした。

 英国は毎年のことなので、今後、英国人をスペインに送り込めば、コロナウイルスを持ち帰るのは確実と判断したわけです。スペインからの帰国者については、ノルウェーも同様に自主隔離を求めている。スペインに集まる欧州や米国からの若者の羽目の外し方はフランス人も驚くほどで、取り締まれるとは誰も思っていません。

 スペインの太陽と白い砂浜、エメラルド色の海、イスラム文化も残るアンダルシア地方、豊かなスペイン料理、情熱的な人々は、欧州の人々を惹きつけ圧倒的な人気を誇ってきました。結果的に観光業は国の経済の柱となり、それがコロナ禍で致命傷を負った形です。

 実は伝統的に裕福で旅行好きの英国人はスペイン、フランス、イタリアなどの南欧諸国にとって最大の顧客。1年中曇った肌寒いグレーな英国では、なんと国民の40%が可能なら英国以外に住みたいと考えているという統計もあるくらい。事実、フランス西部ブルターニュ地方には英国人の人口がフランス人より多い村もあるくらいです。

ブログ内関連記事 
眩いばかりのスペインの日差しに照らし出された感動のソローリャ作品の世界
外国人観光客1億人をめざすフランスの観光戦略は地方のダイバーシティとイメージ戦略
今年の南仏最強の競争相手はコスタブラバ



us china solar relations

 中国が米国内の在外公館を通じスパイ活動など悪意ある行動に従事しているとして、今月24日に米テキサス州ヒューストンの中国総領事館の閉鎖を命じ、中国は対抗措置として四川省成都市にある米総領事館を閉鎖しました。異例の総領事館閉鎖合戦で米中対立は新たなステージに入ったと専門家の間で指摘されています。

 米中関係は貿易戦争という第1ステージに始まり、米国が中国政府による知的財産盗用や南シナ海、東シナ海など領土領海拡張による覇権膨張主義を強めているのに対して、本格的封じ込めに動いた第2ステージに進み、今回、ポンペオ米国務長官の中国共産党政権を完全に敵視する第3ステージの主権問題に踏み込んだ形です。

 主権、すなわち統治体制が自由と民主主義によるものなのか、それとも中国共産党によるポンペオ長官がいう全体主義なのかという対立は東西冷戦を彷彿とさせるものです。フォーリン・ポリシー誌シニアエディターのジェームズ・パーマー氏はニューズウィーク誌に寄稿し、トランプ政権の中国理解は軽薄と批判しています。

 日米のリベラルな外交専門たちは、基本的に相手国の統治システムを変えるような行為に否定的です。北朝鮮の金正恩労働党委員長に対しても、米国は建前上、体制保証を強調してきました。中国に対しても裏で支援しながら中国共産党政府とうまく付き合うことで互いの国が利益を分け合ってきたとの認識です。

 だから、トランプ政権が中国と貿易戦争を始めた時も外交や経済の専門家、リベラル系のニューヨークタイムズなどのメディアは非常に批判的でした。しかし、北朝鮮の現体制を放置した結果は、核武装による脅威に発展し、中国とWIN WINの関係を継続した結果、アメリカに代わって社会主義で世界を支配する覇権国になってしまったのも事実です。

「強い者、勝者が自分の都合のいいようにルールを決め、支配する」との考えは、中国共産党のみならず一般中国市民にもDNAとして刻まれています。それは彼らの歴史を見れば一目瞭然です。軍属、馬賊によって町が荒らされる歴史を繰り返してきた中国では、力のある者が国を治め、安定と安全をもたすことへの期待感が常にあります。

 それが今は中国共産党で、14億人を統治し、内乱を起こさず、安心して暮らせる国になっていれば、統治体制を批判する者はないことは多くの中国専門家が説明している通りです。それは外から見れば独裁体制ですが、中国共産党は異常なまでに国民の政府評価を心配しながら政権運営しているというのが現実です。

 歴代皇帝は中国全土の料理を毎日食べ、国民全てに気を使っていることを示してきました。中国の皇帝は独裁者であると共に常に反乱に怯え、反乱を助長させる者を処刑し、残酷な支配を続けただけでなく、民の支持を得るために努力し続ける側面もあったことが歴史に記録されています。

 習近平政権は中央政府の求心力強化に余念がなく、その手段として腐敗厳罰で共産党幹部を震え上がらせ、民主活動家を弾圧しています。対外的には強国中国を国の内外に示し、中国の栄光を国民にアピールていますが、逆に言えば国民の支持を得るために必死だともいえます。中国に欠けているのは宗教性で共有できる価値観は民族主義くらいです。

 東西冷戦が終結して以来、イデオロギー対立は世界に異常な緊張を強いたということで、経済優先の多文化共存主義の考えが浮上し、グローバル化が進みました。しかし、実は冷戦終結は民主主義国家の完全勝利ではなく、全体主義や共産主義が世界から消えたわけでもありませんでした。

 中国のような社会主義国家は、資本主義で稼ぎながら統治体制は社会主義です。多文化共存主義の原則は、覇権膨張主義の否定です。圧倒的強者による世界支配は必要なく、国連を中心に国の大小に関わらず世界を安定させていくとの考えですが、誰もがその考えに合意しているわけではありません。

 多文化共存主義を利用しながら、国家的野心を燃やす国もあります。表向き自由貿易、公正なビジネスの場の確保を尊重するふりをしながら、民主主義の弱点をついて相手を弱体化させ、全体主義の意思決定の速さで、着実に覇権を伸ばしていく国もあります。

 グローバル化が足踏みした最大の理由は、莫大な利益を出す1部の勝者に対して、多くの敗者を出してしまったことです。つまり、多文化共依存主義の最大の敵である覇権主義に力を与えてしまったことです。大蛇がネズミを飲み込むようなグローバル化は誰も望まず、結果、矛盾に満ちた理想主義でした。

 今、アメリカが焦っているのは、グローバル化で見逃されて大蛇と化した中国が、世界を飲み込もうとしていることです。米国が統治システムというイデオロギー問題にまで踏み込んだ背景には、中国の世界支配を今止めなければ手遅れになるという焦りがあるからです。

 すでに手遅れだという悲観的見方もありますが、英仏やオーストラリアもアメリカに同調しています。外交のプロがいう中国との深刻な対立や対話のチャンネルを断ち切るのは得策ではないという意見もありますが、これまで通りのやり方で、中国の膨張を許すのは正しいとも思えません。

 事態を変えるのが政治家であり、前例のないことをやらないことで事態を放置し、時に悪化させるのが官僚的欺瞞です。アメリカが認識しているように長い目で見れば事態の放置は世界に不利益をもたらすのは確実です。日本が米中対立を蚊帳の外の出来事と受け止めるのは大きな間違いでしょう。

ブログ内関連記事
ファーウェイ排除の米英仏 ポンペオ米国務長官の民主国家結束で中国封じ込めの鍵を握る日独
英仏政府ファーウェイ排除へ 中国は香港への強権発動で深まる国際的孤立にどう対処するのか
中国の香港国家安全法の暴挙 コロナ後のwithチャイナに世界はどう向き合っていくのか
妄想に走る中国を産んだ欧米大国の誤算 アジアを見下した西洋普遍主義は驕りでしかなかった


 

taiwan

 バイリンガル国家として経済的利益を享受する国といえば、シンガポールやインドが思うつく。今や一国二制度が風前の灯火の香港も国ではないが英語と中国語のバイリンガルが経済を支えてきた。いずれにせよ、バイリンガルは強みになっても弱みにはならない。

 アジアのバイリンガル国は英国支配下で生まれ、英国の国際貿易の一翼を担ったことで発展がもたらされた。一方、新興国として頭角を表した韓国、台湾は欧州列強の植民地ではなく、日本統治の過去を持ち、80歳以上の世代には日本語とのバイリンガルも少なくない。

 当然、日本とは経済的繫がりも強く、戦後、彼らの経済発展に日本は大きな存在だった。ところが、台湾、韓国は日本語教育以上に今、英語教育に力を入れ、単に富裕層の子弟を米国に留学させるだけでなく、義務教育段階から幅広く英語教育を行い、英語とのバイリンガル人材育成に余念がありません。

 台湾の蔡英文総統は今年6月、「2030年バイリンガル国家計画」を実施する方針を明らかにし、10年間で、若い世代を中心に日常で英語を使う環境を整えていく考えを示しました。背景にはグローバルビジネスの基本が英語であり、同時にグローバルに開かれた国家戦略により、中国依存度を薄める狙いもあると見られます。

 中国へのアクセスを考える以上、台湾の強みは香港やシンガポール同様、同じ言語が母国語として使われていること。同時に香港やシンガポールは英語のバイリンガル国という強みがあるのに対して台湾は日常レベルので英語が使われる状況にはありません。

 国がグローバル市場に本格参入することを考えれば、グローバルビジネスは英米相手ではなくとも英語が世界共通言語だということ。中国が大国といっても、まだまだ先進諸国の企業の製造下請けレベルで、米中対立がコロナ禍後は欧州やオーストラリアを巻き込んだ中国覇権主義封じ込めに向かっていることを考えると英語教育は必須といえます。

 残念ながら対中外交で常に腰が引けている日本は存在感を失っています。自由と民主主義を普遍的価値観として本気で守ろうという気概のない国は頼りにならない。今や米国は彼らにとって最も頼りになる国といえます。

 台湾のバイリンガル国家計画は台湾国家発展委員会が草稿し、2018年末には行政院(内閣に相当)が認可したもので、各政府機関のウェブサイトの英語版作成、国内の規制・ルールに関する書類も英語版を準備し、公共サービス提供機関、文化・教育関連機関の窓口でも英語で対応する体制を整備するとしています。

 当然ながら公務員の英語スキル向上も必須です。さらに重要なのは、技術系の国家試験を英語で実施し、試験合格者にはバイリンガルライセンスを付与するというものです。教育システムには完全なバイリンガル環境を整備するため法改正も視野に英語教育を充実させる構えで国家の本気度が伺えます。

 さらに日常生活への英語浸透のため、英語での放送を専門とするテレビ、ラジオ局の創設も後押しするとしています。台湾企業は国に先がけてバイリンガル教育を推進しており、今後、金融やIT部門で香港から流入するであろうバイリンガル人材を生かす環境作りも進めています。

 目標は国別の英語力を測る「EF English Proficiency Index」の最新指標で最高値を叩き出すオランダ。グローバル商人国家として長い歴史を持つオランダは、北欧やシンガポールを抑え、英語力では世界トップ。実は彼らは英語だけでなく、フランス語、ドイツ語、イタリア語など3つも4つもの言語を操れるオランダ人は多い。

 アムステルダムに住むニューヨーク出身の米国人の友人は「こんな綺麗な英語を喋る人たちは米国にもいない」と賞賛している。オランダにせよ、北欧諸国にせよ、英語によるテレビ、ラジオ放送は一般的で、台湾もそのような国をめざすとしています。

 台湾教育省は英語教育推進のため、外国人教員の人数を現在の年間80人から将来的には同300人に拡充する方針を打ち出している。同省によればバイリンガル教育の来年度予算獲得に向け、従来の約10倍に相当する20億台湾元(約72億円)の予算の申請準備を進めているといいます。

 それも従来の読み書きの英語教育から聞く力や話す力、生活での運用能力を重視する教育に変えることで、英語の日常定着を行いたい旨を現地メディアは報じています。無論、言語だけでなく異文化理解などグローバル人材育成にはトータルに取り組む必要もあります。

 中国離れ、グローバルビジネス本格参入を国家目標に掲げる台湾を今、アメリカも後押ししている形です。アップルなど米大手IT企業も誘致を進める台湾は、国ごとアジアのシリコンバレーにする勢いです。後発で小国のメリットを持つ台湾のグローバル戦略の本気度は興味深いものがあります。

ブログ内関連記事
高度有能人材の世界的争奪戦 コロナショック後の救世主探しの中心地はアジア?
国運隆盛の台湾、押しつけがましい自画自賛より確実な政策実行で世界に好感を与える
アップルも拠点拡充の台湾 IT企業が注目する台湾の国際評価 アジアのシリコンバレー計画着々



Huawei_1

 フランス政府は次世代通信規格「5G」の整備計画を急いでいるにも関わらず、フランスの複数メディアによると中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)製品を排除する非公式な通達を行ったと伝えました。

 英国が安全保障上の問題でファーウェイ排除を表明しているのと同様の理由のようですが、米英仏の足並みが揃った今、ポンペオ米国務長官の中国の封じ込め政策は本格始動するのでしょうか。個人的には今後の行方に重大な影響を与えるのは日独だと見ています。

 ルメール仏経済・財政相は今月21日、ファーウェイによるフランスへの投資を全面的に禁止する計画はないと述べる一方、国益は守るため機密性の高い部分は保護する意向を中国当局に伝えたことを明らかにしたばかりでした。

 フランスの国家情報システムセキュリティー庁(ANSSI)のプパール長官は今月6日付の仏経済紙レ・ゼコーとのインタビューに答え、同国としてファーウェイ採用は最小限に止める方向だとし「当然のことながら」ファーウェイの存在は薄れるとの認識を示していました。

 仏経済紙、レ・ゼコーやフランス・ラジオRF1は、大都市での20年中の5G提供を目指すフランス政府が、ファーウェイ製品を使う仏通信会社に対して、事業許可を3〜8年間しか与えず、更新もしない意向を非公式に伝えたと報じました。結果としてファーウェイは2028以降使えないということです。

 つまり、英国同様、今すでに設置されているファーウェイ機器は2028年までしか使用できないだけでなく、今後の新たな導入の選択肢から外される可能性が高まったということです。フランスと英国は多少事情が異なるとはいえ、ファーウェイ排除にかわりはありません。

 ファーウェイは今年2月、5Gのフランス及び欧州市場での通信機器シェア拡大の第1歩として、フランスに5G 網用の無線機器を生産する工場を建設する方針を明らかにしていました。中国国外初の海外生産拠点建設ということでフランス政府はファーウェイを全面的に後押しする方向に見えました。

 仏通信大手のSFRやブイグテレコムは4Gで、すでにファーウェイ製品を使用しており、今後、フランス各地の5G通信網整備で他メーカーへの切り替えを迫られることになります。

 フランス政府は5Gに関しては、その速度や大量データの移動が可能なことから、安全保障上からも従来より厳しい審査を行う新法を2019年に制定。ANSSIが慎重な協議を重ねる中、情報漏洩などの安全を担保できないと結論づけたと見られます。

 背景には技術的問題として、米商務省がファーウェイに対する禁輸措置強化で、事実上、5G製品に必要な半導体調達が困難になっていることで、安全性を担保できないとの判断に繋がった可能性もあります。

 さらに英国の今月14日のファーウェイ排除表明同様、香港の国家安全維持法の強引な施行による国際協定無視の全体主義の行使、ウイグル族への人権と宗教弾圧、新型コロナウイルスの初動の遅れの隠蔽などで中国に対して強い不信感を抱くようになったことも挙げられます。

 中国当局は、米英が導入を進めるエリクソン(スウェーデン)やノキア(フィンランド)製品への制裁にまで言及。今後、ファーウェイ製品に寛容なスペイン、中国に甘いドイツやイタリアが、欧州連合(EU)内で足並みを揃えるのかが注目されます。

 中でもドイツは、米英仏がファーウェイ排除で足並みを揃える中、あくまで中国との関係で「経済と政治は別物」との考えを貫き、中国重視を継続する方針を変えていません。シュタインマイヤー独大統領は、香港で起きている中国の強権弾圧について「非常に不快だ」と述べ、ドイツ政府の対応の甘さに警告を発したばかりです。

 ポンペオ国務長官は23日、対中政策について米国の歴代政権が続けてきた「無分別な関与という古いパラダイムは失敗した。我々は続けるべきではない」と述べ、「ニクソン大統領の歴史的な訪中によって我々の関与戦略は始まった。その後の政策当局者は中国が繁栄すれば、自由で友好的な国になると予測したが、関与は変化をもたらさなかった」との認識を示しました。

 ポンペオ氏は、逆に西側諸国が中国への投資を続けたことで、その間、中国が経済成長と共に中国式社会主義による世界制覇を狙うようになったと指摘し、中国に対抗する有志の民主主義国家による新たな結束を呼び掛けました。

 個人的に私は20年以上前から、欧米諸国が考える「経済発展が自由と民主主義への転換をもたらす」との考えは幻想にしか過ぎないと主張してきましたが、その考えにも合致します。殺戮から生まれる度重なる権力者の交代と馬賊の襲来に怯えながら生活してきた中国人のDNAには、自由より保身に生きる精神が刻まれており、欧米人が考えるような自由で開かれた国への転換は期待できません。

 中国人には長い過去の繁栄した歴史から独特な文明観が存在し、そこには欧米人が考えるような自由、平等、公正さ、正義など、もともとキリスト教文明がもたらした価値観は存在しません。それより中国(漢民族)の世界的優位性と支配欲の方が圧倒的に大きく、それも極めて現実的です。

 ポンペオ氏の主張は、東西冷戦時代を彷彿とさせるもので、中国が考え方を改め、国内の人権を尊重し、言論の自由を保証する国になるまで徹底して封じ込めるというものです。そこには日本人には分らない信教の自由問題がかなり重要な比重を占めています。

 中国封じ込めで世界が結束するのは非常に難しいでしょう。世界がアメリカに圧倒的に依存していた時代なら、結束は容易でしたが、今は先進国は生産拠点で中国に圧倒的に依存し、途上国は多額の債務で中国に対しては弱腰です。それも中国政府は計算ずくで行ってきたので、アメリカの主張は遅きに失したかもしれません。

 それでも流れを変えられるとすれば、欧州で中国との経済関係が最も緊密なドイツと日本が、どのような選択をするかが鍵を握ると思われます。東西冷戦時代同様、欧米対中国対立に対して敗戦国として高みの見物を決め込むのかですが、それは許されない状況です。

 商人国家を脱するチャンス到来の日本ですが、財界にめっぽう弱い日本政府は期待が持てないかもしれません。高度な政治的判断が求められます。

ブログ内関連記事
日本に想定外のチャンス到来か 中国排除に舵を切る欧州との関係強化に日本は本腰を入れるべき
英仏政府ファーウェイ排除へ 中国は香港への強権発動で深まる国際的孤立にどう対処するのか
ファーウェイ中国外初の仏工場 弱い欧州の取込み戦略とアメリカでの巻き返し攻勢
ペンス米副大統領の対中国批判は、今後の世界を占う重要発言だった



Scarborogh
「スカボロー」 1825年頃 水彩画 (Tate, accepte par la nation dans le cadre du legs Turner, 1856)J. M. W. TURNER / TATE

 フランスではコロナ禍で閉館していた全ての美術館が再開館した。ただ、感染第2波の兆候が濃厚なため、ヘタをすれば再閉館の可能性もないわけではない、職員の安全確保最優先の国だからだ。一方、2月から6月にかけて開催予定だった大規模企画展は延期されました。

 パリのポンピドゥー・センターで5月に予定されていた「マティス生誕150周年記念」展や、オランジュリー美術館の「キリコ展」は秋以降に延期。企画展は世界中から作品を一定期間借りる上、フランスの美術館に特徴的な来館者の半数以上を占める外国人旅行者の来館が見込めなければ、観光経済効果にも繋がらず、採算も合わなくなってしまう事情もあります。

 パリの美術館の中では、比較的早い時期に再開館した小規模美術館の1つ、ジャックマール・アンドレ美術館では「ターナー 絵画水彩画」展(2021年1月11日まで)が開催されています。パリの凱旋門にも近い同美術館は、19世紀後半、新興ブルジョワジーのエドゥアール・アンドレとネリー・ジャックマール夫妻のための壮麗な邸宅として建てられた建物。

 現在は美術館となっていますが、イタリア好きの優れた蒐集家として知られるジャックマール夫妻が集めた家具、調度品や絵画の名品コレクションを見ることができ、産業革命で台頭した当時のブルジョワの贅を尽くした生活を垣間見れる興味深い美術館です。

 パリにはメゾン・パティキュリエと呼ばれる独立した一軒家があります。アパートが建ち並ぶ市街地で一軒家に住める市民は非常に少なく、それもパリ中心部8区に広大な敷地と壮麗な豪邸を構えるのは、貴族でない場合は余程の富裕層。

 凱旋門のあるパリ8区は19世紀末のナポレオン3世の時代、パリの知事オスマン男爵の都市大改造計画によって、パリの商業の中心地となった地区。エドゥアール・アンドレは、そのオスマンの大改造計画の造園公共事業で財をなした。パリのビュット・ショーモン公園、チュイルリー庭園も彼の手によるもの。

 邸内にはイタリア・ルネッサンス、18世紀フランス、さらにオランダなどの収集した絵画作品が並び、“フィレンツェの間”と呼ばれるサロンにはボッティチェルリ(1445-1510)の「聖母子像」がある。

 英ロマン主義の巨匠、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの世界最大のコレクションを有するのは、言わずと知れたロンドンにあるテート・ブリテン。今回は同美術館が収蔵する作品の中から、水彩画60点、油彩画10点が18世紀末から19世紀半ばまで、ほぼ年台順に展示されています。

 自然のくすんだ英国しか知らなかったターナーは、イタリア・ヴェネチアで太陽と雲、大気に衝撃を受け、作風を一変させたといわれています。今回の展覧会では水彩画が多いため、ターナーが、風景画家としてイタリアだけでなく、フランスやスイスを訪れ、多くのスケッチと水彩画を残したことを再発見できます。

 日本ではターナーといえば油絵の大作を思い浮かべる人も少なくないと思いますが、水彩画は画家の視線や直感、筆裁きをリアルに感じられます。彼の作品は本人がその場に立ち、眼前の光と大気を時間をかけて肌で感じ、その体で覚えた記憶がなければ、大作は残せなかったことが分かります。

 ターナーは青年の頃、隣国フランスで大革命が起きています。産業革命の時代、都市化が進む中、風景画は都市に住む人々の家に必要とされました。慎ましい床屋の子に生まれたターナーは、13歳の時に風景画かトーマス・マートンに弟子入りし、その後、ロイヤル・アカデミー附属美術学校を経て、24歳でロイヤル・アカデミー準会員、27歳で正会員となった早熟な画家です。

 ターナーは若い頃は絵葉書に使われるような風景画を描いていたのが、44歳のイタリア行きがきっかけとなり、世界では数少ない英国人の巨匠画家となりました。英国にはフランスのような芸術を育む土壌がないという人もいます。英国を代表する作曲家ヘンデルも実はドイツ人。
 
 ターナーの巨匠への道は険しく、30年も先がけて印象派的絵画に取り組んだターナーは、具象画が主流の当時としては様々な批判に晒されながら、光と大気を描き続けた希有な画家でした。そのターナー作品をパリで鑑賞すると、彼の風景への関心がヨーロッパの広い範囲に及んでおり、旅人画家だったことが読みとれます。

 なお、フランスのほとんどの美術館は現在、予約制になっており、マスク着用、入館時のアルコール消毒、館内での人との距離を保つことが義務づけられています。ただ、今夏は外国人旅行者がほとんどいないため、入館者は落ち着いてじっくり作品を鑑賞できるメリットもあります。

 日本からフランスへの入国は問題なくなりましたが、フランスから日本へ帰国した場合の2週間の隔離があるので、その規制が解除されないとフランスで再開館した美術館を訪れるのはハードルが高いといえます。

ブログ内関連記事
ブレグジットと重なる知られざる英国美術の黄金期の作品をパリで鑑賞する
スピリチュアリズムが残した霊の世界への豊かな想像力は芸術の存在意義を再考させる
美術館の再開始まるフランス コロナ後の復興を支える芸術文化の力
ターナー芸術の背景を探る展覧会