安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

Vaccination

 この1年8カ月、コロナ対策を巡って、結果はともかく国の対応は様々です。日本とフランスを比べれば、性善説の国と性悪説の国の対応は歴然です。国民に政治家が頭を下げてお願いする日本は、国民の善意を頼りとし、規制で従わない国民を前提に罰則のある規制を導入するフランスの違いは興味深いものです。

 9月15日、フランスは政府が定めていた期限通り、最低1回のコロナワクチン接種を終えていない医療及び介護従事者に対して、各機関からの停職処分に踏み切りました。その数は約3,000にんといわれています。涙を流しながら病院から処分通知の紙を持って出てくる看護師の様子がテレビで放映されました。

 日本人から見れば、ワクチン接種に反対した結果なのだから、泣いても仕方がないと思うところですが、政府の規制は不当だと訴えながら泣いている姿は、とてもフランス的です。一方で停職処分を下した各機関は処分で減った人材をを補うため、派遣従業員などを雇い、急場をしのいでいる状態です。

 フランスは、そもそもワクチン手配で手間取り、昨年12月にほんの一部の医療従事者の接種から始まり、今年4月からようやく加速しました。ところが7月にはワクチン接種率が鈍化し、危機を感じた政府はワクチン接種完了や抗体検査陰性証明の「健康パス」の適用範囲を拡大し、医療介護し従事者のワクチン接種義務化に踏み切りました。

 現在はスーパーやスポーツスタジアム、美術館などの大型施設に加え、カフェやレストラン、高速鉄道TGVの利用にも健康パス提示が義務付けられています。今度はワクチン義務化の期限が来たことで、未接種の医療及び介護従事者は職場から追い出されました。

 そもそも、個人の自由を尊重し、政府を信頼しない文化のあるフランスでは、ワクチン接種そのものへの抵抗感があり、昨年末の世論調査ではワクチンは打たないと答えた人は6割に達していました。マクロン仏大統領は国民の反発は承知の上で対策実施に踏み切ったといえます。

 当然ながら、来春に大統領選を控えている時期でもあり、何とか劣勢を回復したい左派勢力を中心に、毎週土曜日には抗議デモが仏全土で展開し、今週18日の土曜日で10回目を迎えます。2018年から続く反政府の黄色いベスト運動の呼びかけが中心ですが、政府は妥協する姿勢は見せていません。

 実は、抗議デモに参加している人の中にも2回の接種を完了している人は少なくなく、抗議運動が政治的であることを物語っています。健康パスがないとディスコにも入れない今、とりあえず不便解消や安全性確保のために接種を受け入れている国民が圧倒的に多いのが現状です。

 フランスで今月14日時点で1回接種率は74%、2回接種完了は64%となり、フランスより先行したアメリカより接種率は高いことと、抗議デモン図式も、いかにもフランス的です。

 今回、罰則を前提としたワクチン義務化対象になった医療従事者や救急隊員、高齢者施設の職員約270万人の中で抵抗を続け、停職処分となった3,000人が今後、接種を受け入れるのかは不明です。この数を政府は織り込み済みとしているようですが、これが性悪説の国の現状です。

 日本にも何でも法律で解決しようと主張する論者は「フランスは非常にうまく対応している」という人もいます。ところが隣国の英国ではワクチン義務化議論は、自由と人権、平等の観点からの批判を受け、政府は導入を断念しました。大統領制のフランスは厳しい規制を断行し、議院内閣制の英国は世論が認めなければ政策を諦めるといった結果になりました。

 個人的には、今回のコロナ危機を有事とするなら、有事立法という発想もあるので、罰則を伴った規制もあり得るとは思いますが、同じ生命に関係する戦争のような有事と異なり、感染症は加害者と被害者、敵味方が判然としないため、判断は難しいと考えています。

 一つだけコロナ禍について明確に厳しく罰することがあるとすれば、この新型コロナウイルスを最初にバラまいた発信源です。これが隠蔽されているために正体が未だ分からないことで、455万人が命を落としたことは最も批判されるべきことでしょう。

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 企業や大学で人材育成に関わってきた者として、「気づき」がいかに重要な能力化を痛感しています。ある有名な官僚出身の学者が入省当時、「先輩から、普通の人間が1年掛けて理解することを1週間で把握するのが優れた官僚だ」といわれた話を聞いたことがあります。

 ジャーナリストという職業も現場に取材に行き、短時間で現状を正確に把握するため、どれだけ多くのことに気づけるかが結果を左右します。無論、地道な気の長い調査も必要ですが、最初の気づきはその後の調査を大きく左右します。

 今は新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中がリスクマネジメントで苦労しています。その最も基本は現状の正確な把握です。それがその後のリスクの分析、分類、対処に繋がっていくわけですが、最初の現状把握を間違えば、全て台無しです。多くの優秀な部下が情報を集めてきても、トップに立つ人間に把握能力、理解力、すなわち、気づきが不足すれば、前には進めません。

 では気づきの能力は、どう磨いていけるのでしょうか。それとも磨くことのできない先天的な感性で、どうしようもないのでしょうか。

 同じ会議に複数の人が参加する場合、気づきは千差万別です。ましてや国籍や人種が違えば、理解の仕方も驚くほど違います。

 たとえば、非常に似たコンテクストを持つ日本人は、会議で「わが社は今、非常に経営が厳しく先が見えない状態だ」と経営者がいえば、多くの社会は不安を感じたとしても「もっと自分たちでできることはないのか」と頑張ろうとしますが、そこにアメリカ人がいれば「すぐに転職先を探さなければ」と思うかもしれません。

 持っているコンテクストの違いは、国をまたいだ異文化だけであく、国内でも世代間の違い、地域による違いなども影響します。ダイバーシティ効果は、たとえば、男性に気づけないことを女性が無理なく自然に気づいてくれることを期待しているともいえます。

 異文化に触れることでの気づきは非常に豊かなものです。人類の歴史は異文化接触によって文明が進化してきた歴史でもあります。明治維新も欧米の異文化に接触したことで、一気に近代化に向かいました。敗戦でアメリカの支配を受けたことで自由と民主主義、人権の考えが日本を育てました。

 無論、異文化接触はいいことばかりでなく、伝統的価値が失われる面もあります。今、イスラム原理主義のタリバンが支配するアフガニスタンでは、20年間の欧米支配で自由と権利に目覚めた女性たちが、タリバンの恐ろしさも知らず、路上で声をあげています。

 イスラム教の伝統的慣習である女性が頭部や全身を覆うヒジャブやブルカ着用をすることは中東では一般的です。イランに住む日本人の友人はイスラム教徒で、ブルカを着用する方が落ち着くといっています。

 2015年に大量に流入したシリア難民もイスラム教徒ですが、ドイツや北欧で強姦事件が多発し、難民の男性たちは地元の女性を「売春婦のように男を誘う服装をしている」といっていました。

 深い宗教的価値観に根差いした習慣を変更させようとすれば、さまざまな不具合が起きるのも常で、ダイバーシティは混乱ももたらしますが、それを乗り越えながら、気づきの幅が広げながら文明は発達してきたともいえます。

 気づきに話を戻しますが、私は子供の時から絵を描く人間として、芸術は気づきの上に成り立っているといえます。無論、天才は生まれた時から、モチーフに対して普通の人が10時間かけて気づくことを数秒で気づくことができる能力を持っているのは確かです。ピカソの12歳の時のデッサンを見れば歴然としています。

 しかし、気づきの量を増やすことは凡人にもできます。よく「無知は死の影」といいますが、特に歴史的知識を蓄えれば、目の前の事象を深く理解することができます。そのため知識を増やすことは当然ながら重要ですが、単に記憶するだけの知識では役に立ちません。その意味も学ぶ必要があります。

 感性も磨くこともできます。たとえばデッサン力を高める訓練として、5分間モチーフを見た後、その記憶だけでモチーフを見ずにデッサンする方法があります。これは半世紀前のマニュアル操作しかないカメラを扱うプロのカメラマンが、撮影対象を見て、すぐに距離と露出を判断する訓練をした話しに似ています。

 これも訓練すれば、ある程度は誰でも磨けるものです。つまり、最初は3つのことにしか気づかなかった人が30のことに気付けるようになるという話です。それは訓練のたまものです。その気づきの能力の向上が、状況をより正確に把握する能力を持つことに繋がるということです。

 もう一つは気づきには目的感も重要です。かつてSonyの創業者、盛田昭夫氏は若者の動向を観察し、音楽を外出時でも聞けるようにできるウォークマンを開発しました。社内の反対を押し切って製品化し、大成功した事例です。盛田氏には売れる製品を開発する目的意識から、何を若者が求めているかを知りたいという強い好奇心がありました。

 成長する製造業にとって、気づきは何よりも重要です。ディズニーはアトラクション開発で、天才的な人材10人に年間それぞれ1億円を渡し、アイディアを出すようにしてた話は有名です。これも気づきの天才に期待したものです。

 気づきはすべての分野にとって重要ですが、自分はその感性がないとあきらめる前に、地味な努力を積み重ねていくことも重要です。

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 世界には親日国もあれば反日国もあります。人も国も同じで相手の善意に触れれば、好感を生み、屈辱を与えれば恨みがいつまでも残ります。アフガニスタンの米軍完全撤収後、自由と民主主義を持ち込んだアメリカに感謝する市民と米軍の傲慢な態度に屈辱を感じ、「二度と米軍は戻るな」と恨みを吐き捨てる市民の姿が報道されています。

 誰にとっても信頼関係構築は容易なことではなく、ビジネスでも一方で約束を守りながら、飲み食いやゴルフを重ね、信頼を得る努力が必要です。しかし、本当に相手の心に残るものは、見返りを要求しない善意であり、犠牲を伴う貢献であることを歴史は教えてくれています。

 人口4千万人と比較的小さな国、ポーランドは、日系企業拠点数が東欧・中東・アフリカ地域の中では、ロシア、UAEに次ぐ3位で、親日国としても知られています。その親日のルーツを知れば、過去の善意がいかに両国関係に大きな影響を与えているかが分かります。

 その3つの歴史的記憶とは、1つは、日露戦争勃発後の1904年7月、後の独立ポーランドの初代国家元首のユゼフ・ピウスキ将軍が、当時のロシア支配下の帝国ロシア軍として日露戦争に参戦し捕虜となったポーランド兵、約4,600人への待遇改善を日本政府に求めたのに対して、松山市で終戦までポーランド人捕虜を手厚く待遇したことです。

 2つ目は、1920年代初頭、ロシア革命直後の混乱で親を失ったシベリアのポーランド孤児765名を、日本政府と日本赤十字が保護し、その後祖国ポーランドに丁重に移送したことでした。

 3つ目は、第二次世界大戦中の1940年、リトアニアの首都カウナス(当時)で日本領事館の領事代理だった杉原千畝が多くのユダヤ系ポーランド人、リトアニア人に日本通過査証をは発給し、その結果、ユダヤ狩りをしていたナチスを逃れ、日本経由でアメリカなどの第三国に脱出できたという有名な話です。

 いずれも日本の善意として歴史に記憶され、今ではポーランドで日本語を含む日本文化への興味は高まるばかりで、その勇気ある善意を生んだ日本の精神文化にも関心が拡がり、武士道や武術、敗戦から経済大国になった日本の不屈の精神への共感を生んでいます。

 ドイツとロシアという大国に挟まれ、領土を侵され、両方からの攻撃で国が壊滅状態になったポーランドを復興させてきた不屈の精神や愛国心に日本と共通するものもあると受け止められています。

 一方、親日で知られるトルコには、1890年9月、明治天皇に拝謁後、帰路を急ぐオスマン・パシャ提督率いるトルコ帝国海軍のエルトゥールル号が、紀州和歌山沖で台風の暴風と荒波に襲われ、岩礁で座礁した時の話が残っています。提督以下600人近くが命を落とした悲劇でした。

 その時、船の座礁を知った村人たちが、総出で荒れ狂う波が押し寄せる岸壁で命がけで救出にあたり、木の葉のような小舟を荒れ狂い外洋で出て、総出で海に漂う船員を救出、介助したといいます。貧しい村では日頃の食糧も事欠く中、救出した69人に水、食料から衣服、貴重な鶏肉や卵まで与えて保護したという美談です。
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 救出されたトルコ人は、日本海軍の巡洋艦2隻が彼らを丁重にトルコに送り届け、トルコはその恩を未だに忘れていません。危機に瀕した人がいたら、放っておけない村人たちの善意は、トルコで語り継がれているわけです。

 報恩精神は東洋にだけあるわけではなく、人の心に残り続けることができるということです。それば今、日系企業に恩恵を与えています。飲み食いを重ねるよりもはるかに大きな効果を生んでいることは確かです。

 海外進出した企業のローカリゼーションが課題になっている今、単なる利益追求だけでなく、その国や地域に貢献したいという姿勢こそが、信頼関係構築の鍵を握っているといえます。

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 その国の政治は、政権交代が起きる時、何らかの時代的必然性があるのが常といえます。アメリカで8年間のオバマ政権の後、前代未聞といわれた泡まつ候補の烙印が押されていたビジネス界出身のトランプ氏がものすごい勢いで大統領選で支持を伸ばし、共和党は公認せざるを得なくなり、結果、トランプ政権が誕生しました。

 さまざまな見方はありますが、当時、アメリカ国民はホワイトハウスに救う政治エリートのエスタブリッシュメントの隠ぺい体質にうんざりしており、連邦政府の古い体質を変えることを国民が望んでいたのは確かです。トランプ氏はそれを変えることを公約し、その結果の検証などされていませんが、その時は国民の強い共感を得たのは確かです。

 英国では2016年の欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票で、離脱を決めたにも関わらず、正式な完全離脱まで4年を要しました。離脱請負人になったメイ首相は苦戦し、結果的に離脱強硬派のジョンソン氏率いる保守党の一派が政権を牛耳ることで離脱を実現しました。

 離脱の是非は今でも議論されていますが、英国人がブリュッセルの傲慢なエリート政治家や官僚が一方的に決める規制や法律、政策に対して英国民に強い不満と違和感があったことは確かです。

 フランスは2017年の大統領選挙で、前代未聞の既存大政党に属さない39歳の金融界出身のマクロン氏が大統領に選ばれ、足下には自分が創設した中道の新党、共和国前進が国民議会の過半数を占めるフランスの第五共和制始まって以来の政府ができました。

 右派と左派の大政党の間を時計の振り子のようにいったり来たりしてきたフランス政治は、中道、30代の国政選挙にも出たことのないビジネス界出身の政治家に国を任せました。結果の審判は来年4月に予定される大統領選挙と国民議会選挙で下される予定です。

 東西冷戦後の「経済の時代」で行きすぎたグローバルゼーションがもたらした、ごく少数の勝者と多数の敗者を生んだ極端な社会の分断への不満から、グローバリゼーションの仕切り直しが4.5年前の時代的な課題でした。

 そして今は、先進国や自由と民主主義、法治主義を信じる国々は、独裁的な専制主義、権威国家がイスラム武装勢力、タリバンがアフガニスタンの政権を掌握する中、勢いを増しています。人権外交では到底戦えない状況に追い込まれており、自由主義がもたらした無秩序、民主主義がもたらした意思決定の遅さが危機に晒されています。

 強みは時代が要請する課題に民主主義は独善的専制主義より気づきやすいことですが、日本などは永田町の論理で超内向きの政治家と官僚、圧力団体だけで特殊な閉鎖的村社会を動かしてきた自民党の体質が、政治中枢の状況把握を難しくしています。

 国民は新型コロナウイルスへの政府の曖昧な対策でズレを強く感じ、それが限界点に達している状況です。たとえばリベラル票も取り込みたい人権の重要さを叫ぶ首相候補者は、今の専制政治が台頭する時代に果たして人権が武器となりうるのか理解しているのでしょうか。

 国民が期待する国のトップは、妥協を許さず、熱い心と信念を持った政治家です。政治は妥協の産物だと考える政治家が時代の変化に対して大きな改革ができるわけもありません。特に日本の政治は今変わらなければ、国家が衰退する瀬戸際にあるという危機感を持つ指導者が必要だと思います。

 トランプもマクロンも既存勢力が生み出した指導者ではありませんでした。無論、大統領制と議院内閣制の違いはありますが、危機的状況ではトップのリーダーシップは圧倒的に重要です。平和で安定した時代に必要なリーダーと有事の時に必要なリーダーは違います。

 たとえばアフガニスタン危機に接するまでもなく、中国やロシア、イラン、北朝鮮の脅威、さらにはコロナ危機においても、安全保障は時代の要請として極めて重要な課題です。安全保障の意識の高い政治家を国民の代弁者に選ぶ必要があります。

 政治が安定しなければ経済は鈍化するのが常で、途上国は政治が安定しない国ばかりです。社会の分断を解消するのも政治の役割です。今は視野の狭い、無知な政治家は経済にも悪影響を与えるのは確かです。時代の要請に答え、国民も共感する問題解決への変革を信念を持って実行できるリーダーの登場が期待されます。

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 今や組織から女性を排除することは、時代に逆行する罪悪とされる時代。ダイバーシティのさきがけも、閉塞感のある組織に活性化に、あらゆる場面で女性採用が叫ばれてのことです。断っておきますが、客観的な事実として、偉大なリーダーの資質は、性別に依存しないことは欧米のビジネススクールでも指摘されています。

 リーダーシップに関わる個人の強さと性格の特徴は、男女に依存する者ではなく、個人のリーダーシップの属性によるものだからです。ただ、本来、夫は狩りに出て外で戦い、獲物を仕留めて持って帰り、妻は子供を外的から守り育ててきた狩猟民族だけでなく、農耕民族も肉体的に女性より強い男がリーダーに立つ歴史が存在するため、女性より男性のほうに女性リーダーに抵抗感があるのも事実です。

 宗教的にも女性が高位聖職者に就くことが許されなかった宗教は多く、祭祀は男が務めるのが常でした。日本にも女人禁制の山があったりしました。男性の属性としては支配欲が強く、権威やメンツにこだわり、常に優劣を意識し強さを示すことを好み、女性はみんなで協力して結果を出すことを好み、共生や生活の質にこだわり、強さより正しいかどうかをかぎ分けようとします。

 通常、女性がリーダーとして権力を握るとき、女性は組織(特に男性)からのサポートが得られないことが多く、牽引力に欠けると認識されることも少なくありません。では果たして女性リーダーは何をもたらすのか。

 ビジネススクールの客観的な研究では、女性リーダーの先天的に持つ特徴に、マインドフルネス、共感、オープンコミュニケーション、オープンマインド、プレッシャーハンドリング、マルチタスクなどが挙げられ、業務の複雑化が進む中、重視されるチームワークに必要なものばかりです。

 ここで紹介したいのは私がフランスのビジネススクールで調査、研究した東西比較文化、特に国民性から浮かび上がってきた日本人の特性です。国民性を定量化したオランダの学者ホフステッドの男女差の指標で、日本は先進国の中で男性中心社会の数値が最も高く、新興国でも中国やタイ、ベトナムの方が女性の社会進出が進んでいます。

 一方、日本人の性格はをジェンダー分析すると、日本人の男性は世界的に見れば女性的で、通常、男性の特性とされる支配力や自己主張、強さを示す度合いは低く、それは農耕民族の特徴、自然との調和など東洋の精神文化の影響もあると見られています。
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 今日、多くの企業や業界は、リーダーシップを発揮する女性が重要な利益をもたらすと認識し始めています。日本は女性採用には力を入れていますが、先進国中では最も女性リーダーの比率が低く、ダイバーシティはリーダーにまでは至っていません。

 多様な経験と視点がイノベーションの実現に大きく貢献すると考えられている今、多様性のレベルが高い組織は、通常、多様性の割合が少ない組織よりも成長する傾向があるといわれています。そのため女性の視点がベターな意思決定につながる効果が期待されています。

 特に女性が得意とする細かい事実の把握と分析は、男性だけでは気づけない重要な視点をもたらすといわれています。たとえば家電製品に「女性が使いやすい」という視点が加えられたのは最近のことで、それまでは技術オタクの男性が一方的に考えた製品が主流でした。

 女性はアイディアを出すだけでなく、それをトータルな戦略に位置付け、具体化するリーダーとして女性が適しているというわけです。

 今は日本も終身雇用の慣習が薄れ、一人一人が自分のスキルを磨き、それを評価してくれる組織で働く時代に移行しています。その場合、スキルを引き出し育ててくれる上司が求められます。この分野でも調査では男性より女性の方がきめ細かな指導ができるとされています。

 まだまだ、女性リーダーの持つ資質と効果はありますが、無論、彼女たちを活かすには本人の努力だけでなく、男性の意識変革は不可欠です。最も女性進出が遅れている政治分野で女性が総裁選に立候補する日本は、大きな注目を浴びています。

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 ゴールデングローブ賞の外国映画賞に4度もノミネートされ、⻑編のデビュー作でベルリン国際映画祭クリスタル・ベア賞を受賞しているフィンランドの巨匠、クラウス・ハロ監督が制作した「ラスト・ディール」は、ヨーロッパの伝統的価値と戦後の自由主義の葛藤を見事に捉えた映画でした。

 2018年に公開された同作品は、老いた老画商の物語という超地味さも手伝って、大きな話題になりませんでしたが、西洋美術に関わる者として静かな感動をもたらす作品で、最近、アマゾン・プライムビデオで再度見て、さまざまな発見もありました。

 物語の主人公は、妻に先立たれた年老いた画商オラヴィで、仕事一筋に生きてきた彼のもとに、ある日、音信不通だった娘から、問題児の孫息子、オットーを職業体験のため数⽇預ってほしいと頼まれたことから始まる物語デす。閑古鳥が鳴く画廊で孫の面倒など見れないと断るところから映画は始まります。

 超アナログ人間のオラヴィは一切、PCもスマホを持たず、作品の管理も全て紙べースという前近代を代表する老人で、生涯、仕事のことしか頭にない人間。自己中心で仕事にしか関心がなく、孫にも愛情を注ぐ気はなく、息子と二人暮らしの単身家庭の娘は孫の職業体験さえ拒否するオラヴィを激しく非難します。結局、仕方なく孫が画廊で働くことを受け入れます。

 そんな矢先、オラヴィが出会ったのは、オークションハウスで飾られた1枚の肖像画。署名がないもののその価値を確信したオラヴィは、その絵画を手に入れようと資金集めに奔走。そのことを知った孫は祖父と共に作品の出自を必死で調べ、ある文献に行きつきます。

 オラヴィは最後の大勝負に出て、その絵を1万ユーロで落札します。本物ならその10倍で売れると踏んだからです。ところが落札額を支払う資金がなく、金策に奔走しますが、結局は孫のために母親が溜めた学費預金を母親の許可なく引き出してしまいます。

 結局、落札したもののオークションハウスのオーナーの妨害で作品は売れず、商売も行き詰まり、画廊を閉めざるを得なくなり、オラヴィは失望の中で死に遺言で作品は孫に手渡されて終わります。

 興味深いのは、画商の描き方とイエス・キリストを描いたサインのない絵に対する見方です。まず、画商をけっして高尚な職業とは描いておらず、名画を右から左に動かして大金を稼ぐ、芸術とは程遠い卑しい側面のある職業として描かれていることです。

 これはキリスト教のお金に関する価値観から来ているものです。ユダヤ人にはない価値観で、それゆえに画商にユダヤ人が多く、金持ちが多いとの事実です。無論、真贋の確認はオークションハウスや画商の重要な仕事ですが、目的は金だということをいいこととは描いていません。

 一方、イエス・キリストの肖像画にサインがないことについて、その作品を展示していた美術館から、その作品はロシアの有名なレーピンの作品とは思われるが、巨匠レーピンでさえ、聖画の慣例として描いた絵画に自分のサインはしないという見解を示す手紙をオラヴィは受け取りました。

 どんな巨匠でも聖画を描く場合は、自分の名前を刻むことは恐れ多いことで、「描いたのではなく、描かせて頂いた」という謙虚さが重視されたのが西洋絵画の伝統だという考えです。映画では、その絵画に魅せられた老画商が、単身親に育てられるスマホを操る極めて今風の孫と関わる中で、本当の価値のあるものが何かを発見する映画です。

 芸術、ビジネスマンとしての画商、ワーカホリック、現代社会、そして宗教的価値観を丁寧に描き出した見事な作品といえるでしょう。

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 一国を率いる国のトップがどうあるべきかというのは大きなテーマです。外野はいつもいいたい放題だし、マスコミは当事者の大変さをよそに権力闘争として面白おかしく報じるのが常です。だから、今回、自民党総裁選に菅総理が出馬しない決断をしたこともどこか冷ややかに報じられています。

 残念ながら、退陣する政権に対して客観的に評価するメディアは皆無で、世界でも同じことがいえます。最近でいえば、トランプ米政権に対して客観的な評価を下すメディアは皆無です。その前のオバマ政権に対して、リベラルなメディアは、オバマ氏について歴代最高の大統領といい、保守派は「彼は米国を傷つけた史上最低の大統領」などと評しています。

 何をやっても批判される今の菅政権、自分で実績をアピールしてもポジティブに受け止められることはないのが現状です。私はグローバルな視点から菅氏に決定的に欠けていたのはコミュニケーション力と意思決定権者としての自覚だと考えています。これは過去にはあまり問われなかった2つの能力ですが、民主主義の成熟とともに必要となっているものです。

 安倍政権を引き継いだ菅氏同様、第1次安倍政権の安倍氏の突然の辞任で総理を引き継ぎ、1年で退陣伊追い込まれた福田康夫氏は、退陣会見で記者の嫌味な質問に「「私は自分自身は客観的に見ることができるんです。あなたとは違うんです」といったことは有名ですが、同時に非常にたくさんの仕事をしてきたことが評価されず「残念だ」といいました。

 ネット上で菅政権への冷静な評価を探していたら、興味深いコメントを発見しました。それは博識で知られるSBIホールディングスのトップ、北尾吉孝氏のコメントです。

 「菅総理は、歴代総理の中で最も仕事師であると言っても過言でなく、総理になられて直ぐ学術会議の改革に向けた動きから始まり、前内閣から積み残しとなり誰もが手を付けられなかった福島第1原発の処理水の海洋放出の決定、あるいは日本のITの遅れを取り戻すためのデジタル庁の創設、そしてこのコロナ禍でのオリンピック・パラリンピックの遂行」を挙げました。

 さらに「その他に50年脱炭素目標の表明、携帯料金値下げに向けたアクション・プランの公表、不妊治療への保険適用拡大の閣議決定、気候変動サミットでの30年目標の表明と、1年という短い期間に実に数多くの重要な政策案件を手がけられ、どれひとつとっても簡単ではないご決断をされてこられました。総理在任期間は短いですが、仕事は極めて重要かつ大なるものである」と指摘しています。

 このコメントを読んで、福田元首相を思い出しました。仕事はしっかりしたのに評価されないのはおかしいという指摘は私も共感するところです。ただ、私も指摘しているコミュニケーション不足についても北尾氏は「マスコミがコミュニケーション不足とか自分の言葉で説明しないとか盛んに批判しておりますが、小生は”巧言令色”より”剛毅木訥”が余程良いと思います」とありました。

 確かに大きな口を叩きながら、無知をさらけ出す若い閣僚もいるのは事実で、ポピュリズム政治家は往々にして巧言令色が常で内容がありません。しかし、それでも私がコミュニケーション力と意思決定権者として自覚を指摘したいのは、このコロナ禍の危機管理において、トップから発信されるメッセージは極めて重要だと考えるからです。

 特にトップリーダーの仕事は、仕事をこなす能力にどんなに優れていたとしても、最終的にしたから上がってきた報告や意見に対して、それを判断、分析し、方向性やヴィジョンを決めるのはトップだからです。北尾氏は儒教に造詣の深いことで知られる人物ですが、私の祖父は大連で儒者といわれた人物でした。

 私はその影響を強く受けているものの、そこにキリスト教の精神文明が加わり、妻もフランス人ということもあり、微力ながら東西の精神文化の融合に関心を持ち、21世紀の価値観の追求をライフワークにしています。文明の接触は新たな文明を生み出すのが歴史の常だからですが、東西文明の距離は相当なものです。

 北尾氏の菅政権への評価は正しい反面、恐れ多いとは思いますが、今の時代にあっては限界も感じます。それは例えば意思決定者が「落としどころを探る」能力を重視することの限界です。私はまず、リーダー自身が分析力、判断力を持つべきと考えます。それはある分野に疎いとしても必死で勉強して理解を深めるべきでしょう。

 ビジネスの世界も業務が複雑化しており、トップが全能ではないのでチームで臨むのは当然としても、ヴィジョンやコンセプト、方向性を決めるトップなはずです。それをメッセージとして発出するのもトップです。欧米のビジネススクールでは常識ですが、その背後には聖書の創世記に天地創造に際し、「最初に言葉ありき」という認識があります。

 日本にも言霊という言葉がありますが、暗黙の了解や以心伝心といったハイコンテクストが生んだ特異なコミュニケーションスタイルがあり、同時に自分の言葉で喋る習慣も皆無で本音と建て前が存在します。しかし、SNSの時代、メッセージの発信は重要ですし、民主主義を成熟させる議論も言葉で行うものです。

 どんなにいい仕事をしても評価されないという場合は、相手に誤解を与えているわけですが、それは以心伝心で伝わっているもので、完全な誤解ともいえません。理解を深めるにはコミュニケーション力は不可欠です。退陣間際は自分の言葉で喋っても遅きに失した感があると私はグローバルな視点から思います。

 
 

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 これほど注目を集める裁判はないといってもいい2015年11月に起きたパリ同時多発テロの裁判が始まりました。イスラム聖戦主義者による裁判のむなしさは、彼らが死刑(フランスには死刑はないが)になろうが、自分たちは異教徒を殺害したことでアッラーの元にいけると確信していることです。

 殺人が正当化されていると信じる人間を、いかなる理由があったとしても計画的に人の命を奪うことは許されないとする法律で裁くことは困難が伴います。そのことを思い知らされたのは、裁判開始早々、判事から身元を明かすよう求められた主犯格のサラ・アブデスラム被告が名前とともに彼の職業は「イスラム国家の兵士」「「アッラー以外に神はいない」と述べた言葉が法廷に響いた時でした。

 さらに拘留中「犬のように扱われた」と不満も述べました。未だフランスがテロ戦争中であることを思い起こさせる裁判のスタートアップとでした。

 8か月は掛かるといわれる裁判の出だしは、自由主義陣営が積み重ねてきた価値観に真っ向から挑戦する兵士の裁判であることを思い知らされました。おりしもイスラム武装組織タリバンがアフガニスタンで主権を掌握し、主要閣僚を発表した直後の裁判です。

 2015年11月13日に発生した史上最大規模のテロ事件となったパリの同時多発テロ事件の裁判は8日、パリ中心部シテ島にある重罪院特別法廷で始まりました。公判中にテロが起きる可能性も排除できないとして、ダルマナン仏内相はパリ首都圏だけでなく、全国の警察に高レベルの警戒を指示しました。

 昨年9月には2015年1月に起きた風刺週刊紙シャルリ・エブドー本社編集部襲撃テロの裁判が行われている期間の9月、10月に襲撃テロが発生したこともあり、イスラム聖戦主義者によるテロが実行される可能性が高いと治安当局は見ています。そのため今回、裁判所にも1,000人の警官が配備されています。

 同テロは、オランド仏大統領(当時)とシュタインマイヤー独大統領がサッカーの試合を観戦していたパリ北郊外の国立競技場スタッド・ド・フランスの外で3人の自爆犯が自爆し、続いてパリ市内北部のカフェやレストランなど4か所で連続して銃の乱射や爆弾テロが起きました。

 さらに米ロックバンド「イーグルス・オブ・デス・メタル」のコンサートが行われていたパリ11区のバタクラン劇場に乱入したテロリストが銃を乱射し、爆発物を爆発させ、劇場内は修羅場と化しました。130名が死亡、300名以上が重軽傷を負う史上最大規模のテロの惨事となりました。

 全ては1時間以内に起きた出来事で、主犯格のモロッコ系ベルギー人のアブデルハミド・アバウド容疑者は事件後、隠れ家で発見され、治安部隊との銃撃戦で仲間ともに死亡しました。アバウド容疑者はシリアで過激派組織イスラム国(IS)の戦闘員だった経験もあり、ベルギー、フランスでのテロリストのリクルートにも関わっていました。

 今回の裁判の被告は、テロ実行犯の唯一の生き残りで当日、テロ実行の後方支援を行ったサラ・アブデスラム被告(31)を中心に他の19人ですが、被告のうち、計画立案の初期段階に関与したウサマ・アタルなど6人は生死も確認が取れず欠席裁判となっています。

 2016年3月に身柄を拘束されたアブデスラム被告は逮捕後、ベルギーでの裁判でも終始沈黙を続け、今回の裁判で沈黙を破って新事実が出てくるかどうかが注目されています。彼は事件当日、自爆用ベスト着用を拒み、ベルギーに逃走したことが分かっており、今回の裁判では死ねなかったことへの後悔を検察は突いてくると思われます。

 法廷に出廷している他の13人の被告は、資金調達や攻撃の計画など、さまざまな犯罪で起訴されており、その中にはテロの資金提供と武器の供給で告発されている36歳の女性、モハメド・アブリニ被告がいます。女性は2016年のベルギーのテロにも関与しており、来年はベルギーの裁判にも出廷予定です。

 犠牲者の遺族は悪夢にうなされながら6年近くを過ごしたといわれます。新年度が始まり、新型コロナウイルスの感染対策も緩和されたフランスですが、この裁判は重苦しい空気を与えています。

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    健康パスへの抗議運動 afp.com/Alain JOCARD

 フランスでは8週間前から毎週土曜日になると、政府の打ち出す新型コロナウイルスのワクチン接種完了や抗体検査陰性を証明する健康パスの適用拡大および、医療従事者や介護士のワクチン接種義務化に反対する抗議デモが行われています。

 9月4日の土曜日にも実施され、フランス全土で約14万人が参加したとされています。最近では偽装された健康パスが出回っていることへの非難も加わり、さらに新学年が始まり、学校などで開始された12歳以上の子どもへのワクチン接種、医療従事者や介護士へのワクチン接種義務化への抗議が続いています。

 そのため、参加者の中には保護者が12歳以上の子どものワクチン接種に反対するグループも加わり、消防士や介護士もいます。政府が打ち出したワクチン接種義務化の期限は10月15日、拒否すれば消防士や医師、看護師、介護士の中には失職する人も出てきそうです。

 8月21日の抗議デモで、警察発表でパリの14,700人を含む仏全土で175,500人がデモに参加したのに比べれば。参加人数は減少傾向にあります。しかし、パリでは4日、5つの別々のデモ隊が行進し、18,425人が参加、パリで3人を含む合計21人が逮捕され、警察官が軽傷を負いました。デモは次の土曜日にも行われる予定です。

 2018年秋から始まった反政府運動の黄色いベスト運動のことを考えれば、来春に大統領選が近づいていることもあり、特に左派系野党勢力は引き続き、抗議デモを行う構えです。ただ、政府は、抗議デモは少数派によるものとして「無責任な人々を説得しようとするつもりはなく、ワクチン接種による免疫化を否定するのはごく少数派と議論はしない」との構えです。

 実は今、この抗議デモを呼び掛けているのは黄色いベスト運動です。つまり、黄色いベスト運動は3年近く続いていることになります。これほど長く抗議デモが継続しているのもフランスの近代史では珍しいといえます。同時に一般フランス人は冷めた目で見ているのも事実です。

 主張しなければ何もならないフランスでは、英国と違い、抗議の声をあげ、行動するのは極めて一般的なことですが、そのたびに市民の日常生活に支障をきたすのには閉口します。特に抗議行動も長期化はフランス人としても理解は示しながらも、うんざりという本音も聞かれます。

 フランスは新型コロナウイルスの1日当たりの新規感染者数が8月11日に3万人を記録したのが、9月6日には3000人と10分の1に減っています。背景には9月6日時点でワクチン2回接種が全人口の62.1%に達していることも指摘されています。一方、医療体制のひっ迫は未だ懸念材料です。

 来春4月の大統領選を控え、マクロン大統領の再選阻止に走る左派勢力や中道右派勢力は政府のコロナ対策で圧力を強めています。ただ、世界的には左派が反対している職業別のワクチン接種義務化は導入する国も増える可能性が高いのも事実です。

 民間企業のリモートワーク規制が撤廃され、学校では大学まで対面授業が再開され、大型施設だけでなく、カフェやレストランで健康パスを提示すれば、利用が可能になったフランスで、withコロナにどう付き合うのか目が離せません。

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 アジアを中心とした新興国は、コロナ禍以前から人口増加と経済成長による都市化が急速に進んでいます。特に、ただ高層ビルを無秩序に乱立させるのではなく、中間層の増加により、質の高いインフラ・サービスに対する需要が高まっています。そこでスマートシティー計画が各国で推進されています。

 多くの可能性を秘めた新興国の町づくりは、ビジネス的にも各種産業の参加の余地が大きく、外国の力を借りたい国々では、地元のスタートアップを助けながらも、グローバル企業にもビジネスチャンスが広がっています。都市は国力を表す文明そのものなので、アジアの各新興国は力を入れています。

 いうまでもなく、今の時代のトレンドは、持続可能な開発目標(SDGs)を掲げることです。都市開発においても、人工知能(AI)、ビッグデータなど最先端技術を活用し、社会インフラを整備するスマートシティー開発への取り組みが、新興国でも進んでいます。

 行政のIT化ではバルト3国のエストニアが有名ですが、スマートシティー開発では国が投資しやすいエネルギーや行政サービス分野でアジアでは先行投資されています。IT技術を活用した都市電力などのエネルギーを賢く利用する「スマートグリッド(次世代送電網)」や、自治体が統合的なデータプラットフォーム上に電子政府を構築し、防災システムなどを展開する取り組みなどがあります。

 もともとアジアといえば停電が多く、日系企業の生産拠点である、タイやベトナムでは工場稼働の課題となっています。行政サービスも未整備な部分が多く、今回のコロナ禍でもその脆弱性が露呈したりしています。その一方で後発メリットとして未整備なものが多いために最先端の技術を容易に導入しやすい環境もあります。

 スマートシティー開発のメリットはそのトータルな取り組みにあります。中央政府や地方自治体だけでなく、産業界、住民などのステークホルダーの協業が不可欠です。上下水道のインフラ、モビリティ、利便性、安全性、衛生から美しい住みよい街並みまで、社会的課題の解決をトータルに行うことは大きな魅力です。

 スイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)と、シンガポール工科デザイン大学が発表した2020年のスマートシティーランキング「IMD Smart City Index 2020」では、前回2019年に続きシンガポールが1位でした。一方、東京や大阪は、それぞれ前年の62、63位から、79、80位へと大きく順位を落としています。

 実はランキング上位がアジアというわけでもなく、上位では8位の台湾の台北、32位に香港、46位に韓国の釜山と、圧倒的に欧米諸国が上位を占めています。逆にいえばアジアはまだ、伸びしろが充分あるともいえます。

 スマートシティー開発では、国の事情によって大きく異なり、先進国は少子高齢化や健康、老朽化した基礎インフラの維持・更新、低炭素社会への移行などの課題がある一方、そのそも基本インフラの未成熟な新興国はその整備が喫緊の課題です。

 ただ、先進国の都市が生み出した弊害で今、新興国が急速な都市化で直面する人口集中、交通渋滞、環境、貧困、所得格差、治安悪化などの課題を解決するため、環境負荷の低いスマートシティー開発の主眼となっています。インドネシアは首都移転を含め、スマートシティー実現で既存の都市からの物理的脱却も議論しています。

 実は先進国の新興国、途上国への最新の援助形態は、資金援助ではなく、スマートシティー開発主体のコンサルタントや、ソリューション・機器・サービスの提供などにシフトしています。政治不安定などの理由で資金援助にはリスクがあるからです。

 コロナ禍からの教訓として、スマートシティー開発にはかなりの比重で公衆衛生が加わりました。この分野での技術提供もビジネスチャンスになっています。都市開発が生み出すビジネスチャンスは無限ともいえるものです。日系企業のさらなる参入を期待したいところです。

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 筆者が実施した日系大手電機メーカーのグローバルビジネスに関わる営業マンへの調査では、失敗談のほとんどが、異文化理解が不足し、日本の常識の延長線上で仕事をし、安易に相手を信用して裏切られた例が多く、さらに日本的なハイコンテクストのコミュニケーションで抑えが甘かったことが原因であることに気づかされます。

 以下は実際に韓国のビジネスの現場で起きたことです。

 日系硝子メーカーの国際営業部の加藤さん(仮名)は、韓国・慶州に生産拠点を置く韓国のモバイル端末を生産する企業との商談のため慶州に赴きました。加藤さんはこれまでアメリカ担当だったため、対韓国の交渉は初めてです。ただ、大型受注につながる可能性もあり、事前に韓国の情報も本やネットで調べて頭に入れてきました。

 その一方で、この数ヶ月間、韓国では反日感情が高まりを見せていることもあり、心配もしていました。最初に出てきた黄(ファン)さんは、年齢は若そうでしたが、非常に頭の切れそうな印象でした。会社のホームぺージの情報では、韓国では一流大学のソウル大学を卒業した後、アメリカのMITでMBAを取得したそうです。流暢な英語で数字も全て頭に入っていることに驚かされました。

 ただ、無駄な会話を避け、要点だけを詰めて、その日の打ち合わせは終わりました。加藤さんは話に盛り上がりがなかったことや、競合他社にも声を掛けていることも知り、黄さんの相手と距離を置く本年の見えない多少冷たいとも思える態度から交渉は難しいと思いました。

 加藤さんの調べた韓国ビジネス書では、韓国人はまず、非常に感情的で積極的によくしゃべり、公私に踏み込んだ話も初対面の相手でもしてくると聞いていました。それにアフターファイブが重要と聞いていましたが、そんな誘いも黄さんからはありませんでした。

 加えて昨今の反日感情の高まりで日系企業への大型発注は控える空気があるのではないかと思いましたし、黄さんからなんとも言えない屈折した感情も感じました。

 翌日、加藤さんはこれまでのアメリカでの経験も踏まえ、黄さんとの2度目の会見の席で「当方は結論を急ぐつもりはありませんが、可能性が薄いようでしたら早めに手を引かせてもらおうと考えています」と率直に伝えました。

 ところが黄さんは「私は加藤さんがアメリカ担当だったというので好感を持っています。韓国人は、相手が信頼できる人間かどうかを知るために、何かと相手と公私で接近したがるのですが、私はむしろアメリカ人の距離感が好きですね」と言うのです。

 加藤さんは自分の受けた印象を修正しなければいけないと思いました。そこで加藤さんは早めに知っておきたいと思い、「ところで韓国では最近、反日感情が高まっているようですが、ビジネスへの影響はありませんか」と唐突だったが聞いてみました。

 すると黄さんは多少苦笑しながら「それを心配しているのですか。会社としては日本とのビジネスは自社のブランド力アップに欠かせないと思っており、むしろ積極的です。それに私のように海外経験者は、マスコミで言われるような反日感情はまったく持っていません。むしろ心の中では日本に学ぶものが多く尊敬しています。ただし恥ずかしいので表には出しませんが」という答えが返ってきました。

 加藤さんは、マスメディアとビジネス書に書かれていた韓国人のイメージを大幅に修正せざるを得なくなり、結果的には交渉していた韓国企業と大型契約を結ぶことになったそうです。

 上記の実例から見えることは、異文化理解で事前に知識を習得することは無駄にはなりませんが、結局はステレオタイプのイメージを排除し、自分の心を白紙にして、自分の目で見て自分の肌で感じ、精度の高いコミュニケーションを取りながら、学習することが重要ということです。

 特に自分の持っている日本でしか通用しない常識で、相手に対する深い理解もない段階で先入観に支配されたり、いいか、悪いかの価値判断を絶対に行うべきではないということです。価値判断を下した途端、異文化理解は先に進めなくなるからです。無論、だからといって相手のいうことを鵜呑みにするナイーブさも危険です。

 「みんないい人のはず」という日本的性善説は、全てが見えにくく、高いリスクをも伴うグローバルな現場では危険を伴います。留学で経験したいい経験も、厳しい損得の利害関係が生じる交渉では冷静さや慎重さがないと痛い目を見ることも多々あります。

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 フランスでは9月の新年度を迎え、コロナ対策の新たなプロトコルを仏労働省が発表しました。それによると、職場はコロナウイルスの感染が拡大した昨年3月以前の状態にほぼ戻ることになります。学校も対面授業が大学まで開始されますが、果たしてどうなるか懸念の声もあります。

 まずは9月1日から民間企業のリモートワークを行うべき最低日数の基準は撤廃され、会社員は上司との相談のうえ、週5日すべてオフィスの勤務も可能になりました。すでに今年6月以降、民間企業のリモートワーク最低日数を軽減していましたが、7月時点で23%の会社員のみが1日以上のリモートワークを実施している状況という調査報告もあります。

 ただ、公務員に関しては週3日はリモートワークが法的に義務付けられており、これに変更がないようです。無論、オフィスワークが再開しても、建物内でのマスク着用義務、社員が1メートル以上のソーシャルディスタンスを取ること、オフィスの廊下などで人とのすれ違いを避ける道線を定めること、対面会議を避け、リモート会議を優先することなどの義務は変わらないとしています。

 これらはたとえ2回のワクチン接種が社員全員完了していても適応されるプロトコルで、感染者が見つかり、オフィスでプロトコルが守られていなかったことが発覚すれば罰金が科されます。

 8月31日から、レストランや美術館、スポーツ施設、また長距離路線の鉄道などで健康パスの提示は義務付けられていますが、そこで働く従業員のワクチン接種の有無の確認が議論があり、勤務条件には加えられていません。ただし、高速鉄道TGVの車内レストランや50名以上の集会では、健康パス提示が義務付けられます。

 ただ、このようにコロナ禍前にプロトコルを大幅緩和しても、たとえば持病がありウイルスの感染リスクの高い従業員に対して会社側はオフィスで個室を準備することや、勤務時間を配慮するなど物理的な予防対策を講じることが義務付けられています。政府は一定の条件を満たせば、感染リスクの高い従業員をオフィスで特別条件で働かせる場合は補助金も出すとしています。

 その他、今後、子どもの学校が閉鎖された場合、リモートワークも日中子どもの世話ができない従業員に対しては、給与額変更なしにパートタイムに切り替えることや、数日間の休職を申し出ることができ、その間も減収を国民健康保険が経済支援するとしています。

 ただ、新年度の学期開始で感染力の強いデルタ株の感染拡大が再び起き、学校でクラスターが発生するリスクや、外国旅行を含め、夏のヴァカンス先で密状態にあった人々が感染を広げるリスクは消えていません。

 フランスは来春の大統領選を控え、国民の不人気なロックダウンは極力避けたいところで、経済回復に向かい、コロナ前の状態に戻すことを優先する構えです。ワクチン接種を昨年12月に接種した医療関係者の3回目の接種の今月開始予定ですが、果たして結果はどうなるのか注目されます。英国も同じような日常が戻っていますが、予断を許さない状況です。

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