安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 アメリカで始まった警察の暴力と人種差別への抗議運動の世界的拡がりは、コロナ禍後のネックストノーマルに欠かせないテーマの一つです。それはグローバル企業の経営戦略に欠かせないダイバーシティにも深く関わる問題です。同時に帝国主義時代の置き土産と正面から向き合う時が来ているという大きなテーマでもあります。

 常に政治の先を行く経済活動は、やがて政治的テーマになる問題を先に体験しています。グローバル化が進み、その強みが注目されたのはアメリカでした。人の多様性を成長のエネルギーとする多民族国家の強みが圧倒的パワーとなって世界経済を牽引してきました。それは今、世界に拡がっています。

 パキスタン系英国人のロンドンのサディク・カーン市長やインド系英国人のリシ・スナック財務相を見ると、過去の英国の歴史ではあり得ない旧植民地出身者の血を引く人物が重要ポストを占めていることです。有能ならば人種や宗教は関係ないという時代が訪れていることは希望といえるでしょう。

 しかし、今回の人種差別への抗議デモに見る現象は、差別と屈辱の中で苦しむ有色人種の抗議運動で、彼らにとっては成功した黒人も攻撃対象です。黒人が経営する商店も攻襲撃されており、アメフトの黒人のスター選手の呼び掛けも虚しい状況で、成功した黒人たちは、火傷しない程度に抗議運動に静かに共感を表明しているだけです。

 今回の抗議運動を理解すること難しくしているのは、努力すれば誰でも成功者になれるというアメリカン・ドリームなはずなのに人種的不平等、つまり公正さを欠いているという問題と、能力もなく貧困家庭と荒れた地区で育った黒人たち、つまり努力しても惨めな職業にしかつけない人間の不満や怒りという問題が複雑に絡まっていることです。

 企業なら前者の能力主義だけに焦点を当て、公正な競争の機会を与えれば、問題解決できることです。大統領まで登り詰めたオバマ氏はハーバート大学出のエリートです。先天的に与えられた頭脳と本人の努力があれば、制度が自分を差別から守ってくれます。

 無論、制度はあっても陰に陽に有色人種が出世できないよう圧力が加えられることは事実ありますが、それでもアメリカの法律は世界で最も人種差別に厳しいものです。

 しかし、問題はアメリカン・ドリームを支える能力や努力だけでは解決できない弱者の問題があることです。それは極めて政治的テーマで世界中に存在します。その不平等はどこの国でも難題ですが、放置すればクーデターが起きかねない深刻な問題です。

 かつてのヨーロッパを支配した帝国主義の根底には、文明の優劣という考えが明確に存在していました。文明が発展できないのはそこに住む人々が野蛮だからだという認識で奴隷ビジネスも正当化されました。より贅沢な暮らしをするために奴隷は必要ということで、文明の優劣は都合のいい考え方でした。

 日本にもアジアの近隣諸国を上から目線で見て「民度が低い」などと暴言を吐く人もいます。そんな国が日本に対抗意識を燃やすと「とんでもない思い上がりだ」と激怒したりします。民度が低いという場合、それは文明的に劣っていることを意味し、知的能力だけでなく、公徳心がないとか、約束を守らないとか、すぐに嘘をつくとかが判断材料になっています。

 この文明の優劣を図る尺度はダイバーシティ時代にも影響を与えています。今、世界各地、特にアメリカとヨーロッパで帝国主義時代に英雄像が倒されたりしています。歴史は変えられないわけですが評価は変えられるという理屈です。どんなにその国のために大きな貢献をした人物でも人種差別主義者は英雄の条件を満たさないというわけです。

 その典型が英国のチャーチル元首相です。英BBCはチャーチルの発した言葉の記録から、彼がアジア人を野蛮人と軽蔑し、黒人は問題外として、白人の優越性を強く意識していたことを指摘しています。当時の時代的状況からすれば当然のような意識ですが、今となっては評価されません。

 私は今回の抗議デモを見ながら、欧米諸国は帝国主義に失敗したツケを払わされていると思っています。それは日本にも当てはまる内容ですが、欧米諸国が文明の尺度に知的能力、経済力、軍事力を中心に置いたことが間違いだったと考えています。
 
 欧米のもう一つのミッションは、発展できない国を文明国にすることでした。それを支配と被支配という観念に囚われたことで、相手を引き上げる努力を怠ったことのツケが回っているということです。欧米諸国の価値観の基盤であるキリスト教の精神を軽視し、利権追求に走ったことが悲劇を生んだということです。

 実はこの議論を、私がフランスの大学で教鞭をとるようになった30年前、学生たちに問いただしたことがあります。多くの学生は「考えたこともない」「高校までにそんなことは教えられなかった」といっていたのが印象的でした。

 文明の尺度はモラルの高さにあるはずです。かつてマルコポーロやザビエルは、日本のモラルの高さに感動し、ヨーロッパに報告しました。多くの日本人の生活は貧しく、教養や知性のある人間も少なかった時代に彼らが目にしたものは秩序であり、人のモラルの高さでした。

 むしろ西洋の間違った帝国主義が日本の近代化に影を落としたといえます。それは弱者を救済するキリスト教的価値観を忘れた帝国主義を見習ってしまったことでが、当然といえる結末を迎えたことに繋がっていると思われます。

 南アフリカのアパルトヘイトと闘い27年間も投獄生活を送ったネルソン・マンデラ元大統領が残した言葉は、今の黒人差別への抗議運動の高まりに対する答えのように思われます。長い投獄生活の中、彼は「抑圧される者の解放はもちろんのこと、抑圧する者も解放されなければならない」と語り、釈放後、黒人たちの期待とは逆に「許し」を全面に出し、白人との融和と共存を訴えました。

 やられたらやり返すという論理は、キリスト教に反したものです。アメリカ外交の基本にあるティット・フォー・タット(しっぺ返し)も本来のキリスト教的精神ではなく、どちらかというとユダヤ教の「目には目を、歯には歯を」という報復の論理です。

 ダイバーシティの基本は共存であり、共存がパワーを発揮するという普遍性のある話です。それは能力主義ではなく、利他的に生きることによってしか生まれないものです。恵まれた者が恵まれない人たちのために生きることを当然とする利他的生き方を文明の尺度の中心に据えるべきでしょう。

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 映画音楽の巨匠として世界的に知られるイタリアの作曲家、エンニオ・モリコーネ氏が5日、ローマの病院で息を引き取ったと現地メディアが報じました。91歳でした。彼の作曲した曲は音楽を離れ、たとえば「ニュー・シネマ・パラダイス」のテーマ曲は世界中で繰り返し演奏されています。

 イタリア映画界だけでなく、米ハリウッド映画界でも活躍し、映画音楽の魔術師と呼ばれ、多くの映画関係者から尊敬を集めていました。何といってもモリコーネ作品の真骨頂は、どんなドロドロした悪が横行する映画でも、心洗われるような心に染み渡る清さを漂わせていることです。

 あのニューヨークのユダヤ人ゲットーで育った2人のギャングの生涯を描いた映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」はセルジオ・レオーネ監督の遺作でですが、モリコーネのテーマ曲はいつまでも人の心に残る感動の名曲です。

 1928年ローマ生まれ。1950年代末〜60年代前半に映画音楽の作曲を始め、小学校の同級生だったレオーネ監督作品で米俳優クリント・イーストウッドが主演した「荒野の用心棒」(1964年)で音楽を担当し、映画と共に世界的大ヒットを記録し、マカロニ・ウエスタン全盛期の映画音楽作曲家として世界的地位を固めました。

 イタリア制西部劇は英語ではスパゲッティ・ウエスタンと呼ばれ、多くはユーゴスラビアやスペインで撮影され大ヒットしましたが、不思議な取り合わせでした。ハリウッド映画にイタリアが最大限影響を与えた時代であり、クリント・イーストウッドだけでなく、バート・レイノルズ、リー・ヴァン・クリーフ、ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソンなどハリウッド俳優が多数起用されました。

 特にハリウッド映画に見られる勧善懲悪の単純な構図に見られる正義の味方を主人公とは正反対のニヒルで人殺しもいとわない暴力的な主人公と脇役のアウトローたちの絡みは、アメリカン・ヒーロー映画とは大きく違っていました。その聖俗混在で時に悪が勝ってしまう人生のリアリティが超イタリア的だともいえます。

 そこに登場するモリコーネ音楽は、映画を盛り上げる添え物的存在ではなく、音楽そのものがストーリーを語るという手法でした。人生の悲哀を繊細に語るモリコーネ作品とは大きく異なるのが、モリコーネと双璧をなす映画音楽の世界的巨匠、米国のジョン・ウイリアムズです。

 スーパーマンなどのヒーローもので見られるウイリアムズの作品は、正義は最後には必ず勝つという米国の価値観のファンファーレです。清涼感はあり、モリコーネのリアリズムに対して理想的願望の世界です。今は米国で黒人差別や奴隷制度への反省が議論されていますが、そのリアリティと理想のギャップこそアメリカを表しているといえそうです。

 モリコーネは59年のキャリアで500本以上の長編映画、テレビの音楽を担当、ストーリー性を持った哀愁漂う旋律と心に染み渡る旋律で映画作品の評価を高めることに多大な貢献をしました。イタリア映画だけでなく、米ハリウッド映画、フランス映画などに欠かせない作曲家でした。

 ローランド・ジョフィ監督「ミッション」(86)でゴールデングローブ賞作曲賞、ブライアン・デ・パルマ監督「アンタッチャブル」(87)でグラミー賞を受賞、ジュゼッペ・トルナトーレ監督「ニュー・シネマ・パラダイス」(89)で世界的な知名度を得、今も世界中のコンサートでモリコーネ作品は演奏されている。

 2007年には、第79回アカデミー賞において名誉賞を受賞。その後クエンティン・タランティーノ監督「ヘイトフル・エイト」(15)で第88回アカデミー賞作曲賞を受賞しています。モリコーネ氏が音楽を担当した映画の多くがヒット作になったのは、作品制作に音楽が深く関わったからともいえます。NHK大河ドラマ「武蔵」(03年)のオープニングの楽曲・指揮を担当したのも興味深いところです。

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 欧米では危機からの再起力を持つ企業をレジリエンス(resilience)企業と呼んでいます。心理学ではレジリエンスは自分が不利な状況に見舞われた際、その状況に自身のライフタスクを対応させる個人の能力と定義されています。企業も今、コロナ危機をチャンスに変える能力が問われています。

 リスクマネジメントでも、リスクの概念にはネガティブな側面だけでなく、ポジティブな側面の2面性があるといわれています。たとえば阪神淡路大震災で神戸の町が破壊されました。実際にはそれほどでもなかったのですが、これを機会に大幅な町づくりを行うチャンスと捉える意見もありました。

 たとえば今回のコロナ禍でテレワークを強いられる中、大企業の中には躊躇していた企業内のデジタル化を一挙に加速させた例が多く報告されています。

 マッキンゼーとオックスフォードエコノミクス社の共同分析などでリーマンショックどころか第二次世界大戦後最大の危機と予想されるコロナショックに、どう対処するかは今、最大の世界のビジネス界に関心事です。

 コロナ禍での倒産件数は予想できない規模といわれる一方、危機が新たな機会を生み、成長をもたらすとの考えも存在します。ハーバードビジネスレビュー(HBR)は、レジリエント企業は共通項として以下の4つのアクションを迅速かつ的確に実行していたと指摘しています。

(1)危機の早い段階から生産性向上に取り組み、売上原価を中心に機動的なコスト削減を実施
(2)危機の最中には一時的に設備投資等の投資を抑制する一方、回復期にはいち早く投資を復活
(3)(チャネル開拓を含む)新規事業構築や新テクノロジーへの成長投資を加速
(4)危機の最中には戦略的に事業や資産の売却を行い、回復期には買収を通じて事業ポートフォリオを再構築

 この4つの中でコロナ禍の回復期に入った今、特に今後重要となるのは、(3)と(4)の成長投資の加速と事業ポートフォリオの見直しだとHBRは指摘しています。また、「Fortune 500に名を連ねる企業の多くが不況期に生まれたといわれている」とし、今回のコロナ危機で生じた不便や不安が豊富な新たなビジネスのアイデアを生むともいっています。

 さらに今後、コロナショックで倒産や企業の統廃合で人材流出が起き、優秀な人材の争奪戦が始まると予想されています。コロナ禍で露呈したサプライチェーンの寸断で、従来の資材調達、製造拠点の大幅な見直しで過去の負のしがらみを断ち切ることも可能です。

 無論、コロナ禍がもたらした方向性はデジタル化を加速させることです。経済構造やビジネス・企業経営における事業構造・業務プロセスを完全にリニューアルすることです。それがニューノーマル、ネックストノーマルに向かう必須な状況です。

 同時にリーダーシップの見直しは必須です。強いリーダーシップなしにレジリエンスは不可能だからです。危機をチャンスに変えるのはリーダーです。

 このことは、グローバル化の中で掛け声だけで遅々として進まなかった多人種、多文化のダイバーシティ・マネジメントに本腰を入れる機会にもなると私は見ています。コロナ禍でグローバル化を萎縮させるのではなく、ネックストノーマルに多文化協業のメリットを強調したいところです。

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 フランス大統領府は先月の統一地方選挙でマクロン氏の与党・共和国前進(REM)が大敗したのを受け、3日にフィリップ首相率いる内閣が総辞職し、マクロン大統領が後任に中道右派のジャン・カステックス氏(55)を指名したことを明らかにしました。

 失った求心力を取り戻し、2022年の大統領選へ向け、内閣の刷新し巻き返しを図る構えです。カステックス新首相は2010年から中道右派のサルコジ政権で内閣補佐官を務めた人物。任期2年となったマクロン氏にとって、最大の課題はコロナ禍で痛んだ経済の回復で、国民の関心の高い失業問題を悪化させず、経済不安を取り除くことです。

 6月28日の統一地方選決選投票で首都パリ、リヨン、ボルドーなど主要大都市で軒並み敗北したREMは、2017年の国民議会選挙で圧勝した時の勢いは見る影もありません。今回の地方選で都市部で勝利したのは、フィリップ前首相を筆頭としたREMリストを掲げた北部ルアーブルだけでした。

 最近、マクロン大統領との確執が噂されていたフィリップ氏は、もともとは中道派政党・共和党出身で、この3年、困難な労働法改正、テロ対策、反政府運動「黄色いベスト」、年金改革、さらには新型コロナへの対応で前面に立ち采配を振るい、マクロン氏より支持率が安定していました。

 仏経済紙、レゼコーはフィリップ氏の安定した国民の信頼度がマクロン氏を不快にさせていたのではとの憶測も指摘されています。フィリップ氏自身は地方選に立候補しても市長の座は現職に任せ、首相職に専念すると表明していたので、自分の首が飛ぶとは思っていなかったと思われます。

 支持率が振るわないマクロン氏は、残る2年がレームダック化することだけは避けたいところです。得意の経済分野でコロナ禍の逆境で実績を残したいマクロン氏は、金持ち優遇政権と揶揄されても中道左派ではなく、中道右派のカステックス氏を選び、起死回生を図るつもりです。

 一方で、コロナ禍で元気を増す環境政党に配慮し、環境政策で本気度を疑われているマクロン氏はグリーン経済への転換を実現するための基金を創設し、向こう2年間にわたって150億ユーロを拠出する方針を6月29日に発表しています。電気自動車(EV)化を加速させるため、メーカーに資金を拠出するのもその一環です。

 最近、フランスではハイブリットカーの売れ行きが好調ですが、フランス人のメンタリティは新しいテクノロジーを受け入れるのに日本より10年以上遅いスピードです。ただ、企業活動の足を引っ張らないように環境政策を進めるのは至難の技です。

 最近、政府は国内の航空移動を排除し、鉄道移動に切り替える政策を打ち出したのも温室効果ガス削減のためです。しかし、コロナ禍のダメージで大型人員削減が噂されるエールフランスにとっては命取りになりかねない政策です。法律上、政府が公的資金を注ぎ込む企業に対して政府が人員整理しないよう命じることはできないわけですから、今後どうなるのか注目です。

 一方、7月1日から議長国になったドイツのメルケル首相とは英国が欧州連合(EU)から抜けた後のEUで中心的役割を担う仏独として、メルケル氏との連携が不可欠です。両者の関係はいいのですが、コロナ禍後の経済再生で実績を残すためには、マクロン氏は足下の政権基盤の強化は不可欠です。

 事実、現実的にはEUはドイツ一強になりつつある状況で、マクロン氏はEUで存在感を示すのに今後、苦慮することが予想されます。仏メディアマクロン政権は今後、右派・共和党との連携を強める可能性が指摘され、黄色いベスト運動の再燃も懸念されます。

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 ロシアで1日、憲法改正の是非を国民に問う「全ロシア投票」が締め切られ、即日開票でプーチン大統領(67)の5選を可能にする改憲の成立が確実となりました。プーチン政権の長期化ばかりがニュースで強調されていますが、改憲には戦勝国の亡霊を追うロシアが鮮明となっています。

 日本人なら「え? 戦後75年も経ち、しかも東西冷戦終結から30年が過ぎた今の時代に、今さら何を持ち出すのか」と驚くしかない改憲の内容です。人気に陰りのあるプーチン氏が持ち出したのは冷戦敗北で失った「国家のプライド」と「祖国愛」の復活です。

 トランプ米大統領の「米国を再び偉大な国にする」との表明に追随するような内容ですが、敗北を招いた共産主義体制に蓋をし、第二次世界大戦で連合国側の戦勝国だったソ連の偉大な偉業を強調することで「ロシアを再び偉大な国にする」出発点にしようというわけです。

 その中身は、6月24日に開催された第二次大戦での旧ソ連の対ドイツ戦勝75年の軍事パレードに明確に現れています。つまり、第二次大戦でドイツ軍のソ連侵攻をくい止め、最後はナチスドイツの息の根を止めた偉大な国という歴史観をロシアの歴史的記憶の柱とすることです。

 私自身、冷戦末期のモスクワを取材し、レニングラード(現サントペテルブルク)の第二次大戦戦勝記念広場に建てられた同市を守り抜いた市民と兵士を讃える彫像などには強い印象を持ちました。それは今でも大切にされていますが、7,8年前からはレーニン像の設置の動きもあるのには頭を傾げます。

 米ソ冷戦が終結した1990年代初頭、米国の保守派を代表する論客だったフランシス・フクヤマが『歴史の終わり』を発表し、リベラル民主主義の最終的勝利を高らかに宣言しました。その後、アメリカ一強時代が到来すると共に日本では「イデオロギーから経済の時代」が強調されました。

 しかし、2008年、北京オリンピックの時にロシア軍がジョージア(グルジア)に軍事侵攻し、その後、クリミアに侵攻し領土を併合したロシアの動きは、共産主義ソ連では見えなかったロシア覇権主義の本質を嫌というほど感じさせる出来事でした。

 6月24日に開催された対ドイツ戦勝75年の軍事パレードについて、カトリック系仏日刊紙ル・クロワは「クレムリンは、自国を強固なものにするため、第二次大戦の対独戦争を悪用し、外交政策におけるロシアの野望を正当化した」と報じました。

 さらに同紙はプーチン大統領にとって、複数のアイデンティティを持つ広大なロシアに統一神話をもたらしたとし、「1917年の革命、スターリン主義、ペレストロイカという迷走の歴史を持つロシアでは、大祖国戦争(対独戦争)が唯一完全に合意された歴史記憶と思われる」とストラスブール大学の研究者、エミリア・クストーバ氏の指摘を紹介しています。

 欧州連合(EU)の欧州議会は昨年9月18日、「欧州の未来のための欧州の記憶の重要性に関する決議」を圧倒的な賛成多数で採択しました。同決議の中で独ソ不可侵条約こそが第二次大戦の勃発への道を開いたとし、スターリン主義の犯罪の法的調査の実施を要求しています。

 プーチン大統領はこの決議に真っ向から反対し、長文の歴史論文まで自身の手で執筆し、ソ連の歴史の正当化のための憲法改正に漕ぎ着けたわけです。今さらながら戦勝国ソ連を全面に出し、戦勝国クラブの国連で正当な発言権を持つ指導国の一つであることを強調しているのです。

 ところがEUにとってのソ連は、欧州を東西に分断し、旧東欧を奪い共産主義を押しつけた国でしかなく、今もロシアは領土拡大の期を狙う危険な国です。プーチン氏の政治的思惑が成功するかどうかは分かりませんが、われわれがはっきりすべきは、共産主義体制下でどれだけ多くの人々が殺され、恐ろしい人権弾圧が実行され、人々の自由を奪ってきたかという史実です。

 中国と共に第二次大戦の戦勝国の亡霊を追うロシアは、その史実に正面から向き合うことを避けていることだけは確かといえます。

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 7月1日に欧州連合(EU)議長国となったドイツのメルケル首相はやる気満々です。理由はこれが引退を視野にした自身の最後を飾る大仕事だからです。コロナショックで痛めつけられたEUの経済再建を牽引できるのはコロナ禍対応の優等生で最強の経済力を持つ自分しかなく、ドイツが過去で最も存在感を示せるチャンスが到来しているという認識に立っていることは間違いありません。

 今やEU首脳としては長老格のメルケル氏にとって、東西冷戦後、EUの財布的存在でありながら、日本同様、第二次大戦時の暗い影を引きずり、控え目にEUの牽引役を務めてきたのが、コロナショックの逆境でドイツ完全復活のチャンスを与えられたともいえます。

 コロナ禍で通商交渉が大幅な遅延状態に陥っているEU離脱の英国が存在しない今、メルケル氏はEU復活の鍵を握る人物であることに間違いありません。不人気の緊縮政策を改めて、大型財政出動で今やワンダーメルケルと揶揄されています。

 とはいえ、コロナ禍からのEU復興基金をめぐって考え方に大きな隔たりのあるイタリアやスペインなど南欧諸国との対立は深刻で、メルケル氏が自身の花道を飾れるかどうかは不明です。

 特に対立する南欧とドイツ、オランダ、スウェーデンなど欧州北部の仲介役でもあるフランスのマクロン大統領は、メルケル氏との関係は良好ですが、28日に行われた統一地方選挙の決戦投票で、マクロン氏率いる中道与党、共和国前進(REM)が主要大都市で敗北し、元気がありません。

 マクロン氏にとっては、5月にREMの会派から国民議会議員7人も離党し、すでに議会で過半数割れに追い込まれていた最中の地方選挙の敗北で、足元はグラグラ状態です。実はメルケル氏も自国政界で圧倒的支持を得ているわけでもなく、極右政党や環境政党の主張に耳を傾けざるを得ない状況です。

 メルケル氏にとっては、EUの執行機関、欧州委員会のフォンデアライアン委員長がドイツ出身というところが心強いところですが、コロナ禍対応で初動が遅れ、特にEU域外からの渡航者をブロックする統一した措置を取るのに手間取ったことや、欧州復興基金のとりまとめで指導力が疑われているところに頼りなさがあります。

 実はコロナ禍は、外から見るよりEUには、はるかに深刻なダメージを与えています。理由は対面の首脳会議でできていないことです。世界で唯一異なった国が制度や通貨を共有するEUにとって、コミュニケーションは命綱です。それがテレビ会議では協議するのに限界があるということです。

 特に欧州諸国には、長い対立と闘争の歴史を精度の高い交渉で乗り越えてきた過去があります。男女の別なく握手し、抱擁し、頬にキスをする濃厚接触の習慣も、互いが敵でないこと確認するためのものでした。社会的距離は、ただでさえ脆弱で摩擦や対立が起きやすい加盟国間の関係を危うくしています。

 首相会議の休憩時間、個別交渉したり、口角泡を飛ばす議論をしてきたEUにとって、コロナ禍は統一行動を引き出すには非常に困難な状況といえます。不慣れなテレワークでは、到底議論は深められず、ただ互いに自己主張するだけの協議が繰り返される最悪の状況です。

 それに今は静かにしていますが、EU懐疑派は復興基金創設でドイツが厳しい条件を出していることに苛立つイタリアなどは、国内でポピュリズムやEU懐疑派が今にもエネルギーを爆発させる機会を伺っています。

 さらに昨年の欧州議会選挙で約10%に迫る議席を獲得した緑の党・欧州自由連合や、フランスの地方選挙で予想外の勝利を収めた緑の党の躍進は、メルケル氏には脅威です。なぜなら環境政党の本質は極左であり、環境問題を利用しながら超リベラル思想を伝播することにあるからです。

 メルケル首相はトランプ嫌いで知られ、今はドイツ駐留の米軍の規模縮小を進めるトランプ氏に対して苛立っています。彼女は欧州はトランプに屈しないという姿勢を全面に出していますが、この感情的ともいえるアンチ・トランプはEU議長国として、けっしてプラスになるとは思えません。

 さらに驚くほどの中国との融和政策を進めるメルケル氏の対中認識も心配の種です。自分はトランプと違い、多国化均衡論で中国ともうまく付き合えるという自負や過信は、危険な認識といわざるを得ません。花道を飾るには課題は山積です。

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 コロナ禍後のニュー・ノーマルは、withコロナとwithチャイナといわれるほど、中国との付き合い方が問われています。ビジネスは政治とは無縁とたかをくくっていたビジネスマンたちも、香港に国家安全維持法が7月1日から施行されることで様相は大きく変わることが予想されます。

 某日系企業の香港に隣接する深圳に10年以上駐在する友人は、中国がいかに外国企業を食い物にしてきたかを肌身で感じてきた一人です。中国での生産を許可した高度な日本製品を最初は歓迎し、中国市場の5割を占めるまでに成長した後、合弁相手に技術は全て吸い上げられ、安価な中国製の同等の製品が市場を席巻し、工場を閉めるに至った経験をしたそうです。

 その間、何度も日本本社に警告したにも関わらず、好調に見えた中国での売り上げの数字を根拠に手を打たず、気がつけば完全に市場を失っていたというわけです。それでも一国二制度で高度な自治が保たれる香港の存在があることと、米国のトランプ政権が中国と正面から戦ってくれていることを希望に感じていたといいます。

 今回、習近平政権が導入した香港の国家安全維持法はある意味、必然だったといえます。数年間にわたり香港で起きていた度重なる抗議デモの矛先は中国共産党中央政府に向けられたものでした。抗議デモなどあり得ない社会主義体制の中国にとって、同じ国の中で習近平政権を批判する勢力が存在することは、たとえ「高度な自治」といってもあり得ない現象でした。

 中国共産党中央政府がよく口にするのは「国のために働く政府に人民は感謝しなければならない」という言葉です。その意味で香港の抗議デモは真逆な行動です。フランスの日刊紙ルモンドは6月30日付けで「中国政府、香港人の愛国心を問題視」と題する記事で「中国当局は香港の若者が体制に自由に異議を唱える言動を根絶するつもりだ」と書きました。

 中央政府の懸念は、その批判の声が中国本土に拡がり、体制維持が脅かされることです。当然、社会主義に賛同しない外国勢力の働きも阻止したいところです。

 英BBCは「香港特別行政府は抗議デモで表面化した治安問題で何度も治安維持のための法整備を試みたが、結論を出すことができなかった。このことが今回の結果に結びついた」と分析しています。つまり、香港政府が自治を十分に行えないという理由を中央政府に与えてしまったことになります。

 中国が英国と結んだ返還後50年間は一国二制度を維持するという約束は、最初から中国特有の契約への考えが存在しており、契約は都合により相手との合意なしに変えられるという理解が一般的です。法や契約は自分の都合で利用するものであって、予想以上の速さで経済成長した中国にとって、香港の利用価値は失われつつあり、50年が25年になることもありうるというわけです。

 契約や約束事を金科玉条のごとく扱う慣習は中国にはそもそもありません。尖閣諸島はいらないと過去にいいながら、事情が変われば「わが国の領土」というのが中国です。環境問題で圧力を加えられると「わが国は途上国(事実、約6億人が1か月1万五千円で暮らす)」といい、一帯一路では「大国であるわが国が主導する」と声を荒らげるのは、彼らには矛盾はありません。

 香港の旧宗主国である英国は、中国での香港国家安全維持法制定を受け、香港に住む300万人近い「英海外市民」について、移住・市民権付与に道を開くための制度改正に着手する方針を明らかにしました。また、ラーブ外相は「われわれは深く懸念している」「これは重大な一歩となるだろう」と述べました。

 今後の恐怖は、解散した香港民主派デモシストのメンバーを過去にさかのぼって訴追するかもしてないことです。抗議活動を今後自粛しても、反体制の考えを持つ危険人物の徹底排除のため次々に身柄を拘束し、本土で長い刑期に服させる可能性もあります。そうなれば一国二制度は完全崩壊することになります。

 そんな暴挙も考えられるのがコロナ後のwithチャイナです。超内向きの中国は体制維持のためなら何でもするでしょう。それでも外国人ビジネスマンたちは中国を愛し、中国で働き続けるしかありません。関係各国は今後、自国の中国で働くビジネスマンを守ることもさらに大きな任務になると思われます。

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Dipromacy

 トランプ米大統領が主催国となる今年の先進7ヶ国(G7)首脳会議にロシア、インド、オーストラリアに加え韓国を招待する考えを示しているのに対して、日本政府は韓国の招待に反対する意向を米国側に伝えていたことが明らかになり、準先進主要国に選ばれた感激に酔いしれる韓国が猛反発しています。

 ただでさえ炎上中の日韓関係にさらに油を注ぐG7招待反対で、まるで北朝鮮が韓国に対して態度を一変させ、口汚く罵り、開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破したような勢いに韓国は怒っています。果たして日本は中国や韓国が「面子の国」であることを分かった上で反対表明したのでしょうか。

 日本が反対している理由は、日本が拉致問題やミサイル発射問題で対峙する独裁テロ国家の北朝鮮に対して、韓国の文在寅政権が融和政策をとっていることを挙げています。無論、背後には慰安婦や徴用工問題で日本を攻撃し続ける極端な反日政策に対して、一矢を報いたいとの本音もあるでしょう。

 トランプ氏の国益中心の強気外交に刺激され、安倍政権も韓国に対して強気姿勢で望もうとしているようにも見えますが、大した軍事力も持たず、世界の紛争への関与も75年間もしてこなかった日本が外交上強気に出るには、高度な判断が必要です。

 結論からいえば、韓国をG7招待リストから除くことを要求するには、相当な覚悟が必要なはずです。なぜなら韓国の国是は保守も革新も関係なく日本を抜いて先進国になることです。日本に柔道で勝つために柔道大学を作るほど日本への強い敵対心、競争心は日本人が想像もできないレベルです。

 これには哀れにも朝鮮人が中国に従属した長い歴史から、中国の中華思想に洗脳されてしまっている側面もあると私は見ています。すなわち中国皇帝を中心に円を描くように世界を支配しようという中国の妄想では、日本は朝鮮人よりは蛮族です。その蛮族が満州、朝鮮半島を統治した過去に対して中国人だけでなく、朝鮮人も面子を潰され、許せないと思っているという話です。

 たとえば、ありえない話ですが、中国が韓国より先にG7に加わったとして韓国は文句はいわないでしょう。つまり、中国人と朝鮮人の日本に対する感情には非常に似たものがあるということです。そして両国ともに驚くほどの権威主義で面子を第一に考える人たちです。相手の面子を重視するのは、中国や韓国ビジネスのイロハです。

 彼は互恵関係やWin Winを口にしますが、本音は勝つか負けるか、支配するか支配されるかの意識しかありません。中国人はたとえば交渉事では相手に対して上から交渉し、妥協の2文字はありません。米中貿易戦争で問題となっている技術の盗用問題でも「わが国に工場を作りたければ当然」と上からの姿勢を長年続けてきました。

 では、韓国の面子を潰さず、なおかつG7招待に反対する正しい戦略は何か。それは韓国の抱える難題への協力姿勢を示す手法ではないでしょうか。それは北朝鮮との急速な関係悪化で文在寅政権は過去にない試練に直面していることです。

 その主因はコロナ禍で国連の経済制裁が効果を発揮し、経済的困窮にある北朝鮮のいつもの瀬戸際外交と思われますが、きっかけは韓国がトランプ大統領からG7に招待されたことです。北朝鮮の対米外交の仲介役で役に立っていない文在寅氏がG7の晴れ舞台に立つことは、金正恩氏にとっては許せないことでしょう。そこで知恵が必要です。

 つまり、「日本はあくまで日韓関係を重視しており、朝鮮半島の平和と繁栄は日本にとって最も重視すべき優先事項という観点から、韓国が先進国入りすることは大歓迎だが、今回は結果として北朝鮮の強い反発を買っている事実を踏まえ、南北に深刻な亀裂が入ることが東アジアの安全を脅かしかねないリスクがあるため、北朝鮮をこれ以上刺激しないために招待に反対する」というべきだと思います。

 今の日本政府の招待反対理由は、韓国から見れば「韓国を絶対に先進国入りさせたくない日本が、反日の文在寅に花を持たせるわけにはいかない」という印象を与えてしまい、火に油を注ぐ結果になっています。無論、言い方を変えてもG7にいきたくてしょうがない文在寅氏が納得するとは思えませんが稚拙な敵対外交手法よりはましです。

 外から見れば日本と韓国のいがみ合いにしか見えないという点が非常にまずいアプローチです。外交とは高い見識と大人の対応が必要です。たとえば中国による内政干渉排除に本腰を入れるオーストラリアのモリソン首相は、中国が経済制裁に乗り出しても毅然とした態度を取り続け、国際的評価を上げています。

 カナダのトルドー首相は、カナダで勾留中で米国が身柄引き渡しを求めている中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)幹部と中国で拘束中のカナダ人外交官と実業家の人質交換を要求する中国に対して断固拒否する姿勢を示しました。

 理由は「要請に応じればカナダ人を”無作為に拘束”するだけで、カナダ政府に影響を及ぼすことができる前例を作り、世界中のカナダ人を危険にさらすことになる」というもので、中国の脅迫的手法には乗らないという毅然とした立派な態度です。

 日本が対中、対韓外交に本腰を入れるとすれば、どれだけ多くの諸外国の支持を得られるかが需要です。特に先進国を完全に味方につける必要があります。今の韓国のG7反対理由では、国際的理解を得るのは難しいでしょう。

 トランプ氏がどう反応するかは分かりませんが、日本政府は危険な独裁テロ国家、北朝鮮に融和的な韓国をG7に呼ぶべきでないといえば、理解を得られるとの目論見なのでしょうが、世界は韓国の経済成長を見ているだけで、民主主義の韓国が北朝鮮の支配下にあるわけでもないというのが一般的な見方です。

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 米国を発信源とする警察の暴力や黒人差別の抗議運動が世界中に拡がる中、あたかも米国が世界で最も人種差別の酷い国と指摘する声も聞かれます。1986年、当時の日本の中曽根首相が日本は高学歴社会なのに対して「平均点から見たら、アメリカには黒人とかプエルトリコとかメキシカンとか、そういうのが相当おって、平均的にみたら非常にまだ低い。」と発言したことがありました。

 いわゆる知的水準発言で当時、国際社会、特にアメリカに対する失言として米メディアからも強い非難を受けました。日米は貿易摩擦の最中にあり、この失言で米国民は怒り、米黒人企業家や団体などが連名で米有力新聞各紙に抗議の全面広告を打ち、日本製品の不買運動にまで発展しました。

 この知的水準発言に対して当時、 40年に渡り、ニューヨークでイラストレーターとして活躍した故津上久三氏が「とんでもない誤解だ。米国では小中学校の教材の挿絵に白人だけ描くことは禁じられているし、TVコマーシャルからテレビドラマでも多人種への配慮がなければ、すぐに放映中止になる」と自らの経験から人種差別に厳しい規制が存在する事実を訴えました。

 最近会った英国の国連大使をサポートする英外交官の一人は「最近は英国でもロンドン市長や財務相がインド系とか多人種になってきたが、米国に来てその公民権に関わる平等の法律の厳しさに驚いている」といっていました。

 たとえば、米国には雇用機会均等委員会(EEOC)という採用、昇格、昇給、人事異動、懲戒、解雇などに関して法的に禁じられている人種、肌の色、出身国、宗教などが根拠担っていないかを監視する政府機関があります。

 さらにネイティブアメリカンの様な少数民族や障害者への差別も監視されており、職場から不当な排除があった場合も厳しく罰せられることになっています。なぜなら、自由と平等、公正が国家の基本的理念であり、多様性が米国の発展の強さの原動力と考えられているからです。

 ではなぜ、差別が実際に起き、一部警察の行き過ぎた暴力が発生し、黒人たちが差別されていると感じているのかということです。それは法律や規制が定める理想に現実が追いついていないからです。

 たとえば法的に黒人が白人の上司になることは完全に認められています。ところがマジョリティである白人にとっては人種的優越感があり、かつて奴隷だった黒人を平等に扱いどころから自分たちより上の地域に就くということには気持ち的に抵抗感があります。

 聖書の創世記のノアの方舟の話ではノアの子供のセム、ハム、ヤペテが今の世界の民族の起源とされています。親不孝者で父親のノアに呪いをかけられたハムが黒人の祖先という説があり、教条的なキリスト教徒がまともに信じた過去の経緯もあります。

 肌の色から来る違和感は如何ともしがたいものです。中央アフリカの黒人男性と結婚したフランス人女性の友人は私に「夫は子供の時から自分の肌が黒いことを嫌い、何度も何度も石鹼で体を洗った時期があった」といっていました。

 白人の有色人種に対する蔑視用語は山のようにあって、オバマ前米大統領を「黒い猿」にたとえたイラストが出回ったこともあります。東洋人もイエローモンキーといわれました。白人の美の基準からすれば、肌の色、容姿が有色人種は劣っているという感覚は今でも存在しています。

 それでも奴隷制度が存在した時代に比べれば、黒人の顔は穏やかになり、明らかに環境の変化がありますが、後から入ってきた日本人や中国人、ベトナム人が勤勉で高学歴なのに対して、奴隷の先祖を持つ黒人たちが勉強もせず、社会をドロップアウトする比率は高く、悪循環になっているのも事実です。

 米国は世界一の競争社会であり弱肉強食の国です。白人たちは頭では有色人種を平等に扱うべきだと分かっていても、自由は平等以上の価値を持ち、競争社会で勝ち抜くには平等は横に置かれがちです。
 
 つまり、建前としての平等の基準は世界で最も高い一方で、その基準に心が追いつかないだけでなく、激しい競争社会のために白人はその既得権益を守ろうとする現状があるということです。

 もし、単純に中国メディアがいうようにアメリカは人種差別がひどく社会が常に混乱し、権力者は暴力的弾圧を続ける野蛮な国というなら、なぜ、毎年、米国に大量の合法、違法の中国移民が押し寄せ、その逆はないのかということです。アメリカに失望して自国に引き返す人が少ないのは、実は言論の自由が保証され、人種差別問題も抗議運動ができる自由が保証されているからです。

 一般の中国人は米国内で起きる抗議運動の映像を見て、デモ参加者より高級ブティックが並ぶ街並みに目がいき、抗議デモについては「あんなに自由にいいたいことがいえる」と内心羨ましく思っているという報道もあります。

 力を持つ者が間違ったことを隠蔽し、うやむやにするのがほとんどの国ですが、米国は理想が高いために正義が重んじられ、問題が放置されることは少ないといえます。特に陰湿な差別など人権に対する問題には敏感です。差別しているのは地位を失うことを恐れる白人の見苦しいアガキでしかありません。

 そうすると、理想が高すぎると国民はついてこれないので、理想を低くすればいいという人もいますが、それではアメリカの建国の精神は失われ、彼らの大切なアイデンティティも危うくなります。今回の警察の暴力と人種差別への抗議デモでは、国家権力破壊のアナーキストや米国の評価を落としめたい某国のメディア操作に翻弄されないよう注意が必要です。

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 パリの富裕層が多く住む16区で住宅探していた時に、人生で初めて屋根裏部屋から建物の2階までの特別階段の存在を知り、フランスの階層社会の歴史を強く感じる経験をしました。その階段は今では取り壊されてエレベーターになったり、様々な配管や配線に利用されたりしています。

 建物の表階段は1階かららせん状に屋根裏部屋を除く最上階に通じているのに対して、裏階段は2階から屋根部屋に通じ、各階の台所や倉庫側が出入り口になっています。大革命の後の18世紀から20世紀初頭にかけて産業革命に後押しされる形で登場した新興富裕層のブルジョワジーたちがパリで住んだ住宅の構造が、今でもフランスの大都市には残っています。

 パリには、数少ないメゾン・パティキュリエといって完全に独立した戸建て住宅がある一方、多くは外から見れば道路に面して繋がった大きな建物が、良く見ると窓やテラスの形も階の高さも違う建物が繋がっていることに気づきます。

 昔は1階から最上階まで1世帯で住んでいた建物が横に連結されたのがパリの建物です。今では1階ごとに住人が異なり、アパルトマンといっていますが、ブルジョワジーたちは下から上まで全階を使用していたわけです。パリの屋根裏部屋に住むことに憧れる人もいますが、そこはもともとは家政婦の部屋でした。

 天井は低く、窓がない場合もあり、夏は暑く冬は寒い劣悪なのが屋根裏部屋です。以前、地方から出てきたばかりの友人が住んでいた15区の屋根裏にいったことがありますが、なんと広さは15屬如▲肇ぅ譴肇轡礇錙爾篭ν僂任靴拭今でいえば日本の狭いビジネスホテルの一室です。

 この家政婦の屋根裏部屋(Chambre de bonne)に通じる階段は1階まで通じていません。なぜかといえば、その階段は家政婦や使用人専用階段だからで、住み込みの使用人は家から出る必要がほとんどなかったからです。いわば邸宅のバックヤードで掃除、洗濯、炊事をするための専用階段(l'escalier de service)でした。

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  Le Pauvre Poete, tableau de Carl Spitzweg (1839)

 今でいえば内階段とでもいえますが、ブルジュワが贅沢な生活を享受した時代の産物であり、帝国主義時代の奴隷制度とも関係した階層社会の非人間的な扱いを受けた人々が毎日、2階から8階、9階の階段を何回も昇り降りしていた時代の建築構造だったわけです。

 ブルジョワ・スタイルの建物がパリの美しい景観を作り出しているということで、政府によって建物が厳しい規制で管理されていますが、私は最初に家政婦専用階段を見た時には驚きました。無論、ヨーロッパでは当時、当り前の階級社会に必然的にできた階段ですが、今は屋根裏部屋に住むのは金のない学生たちや貧困層です。

 ロワール川に立つブーデジール城をホテルとして運営するプリンセスの名を冠したオーナーは私にいいました。「昔は良かった。なぜなら、自分たち城主が使用人に給料を払う必要がなかったからね」と。使用人は城の敷地内に住んで、城内で生活は完結していたので現金は必要なかったというわけです。

 きっとパリの使用人たちも昔は給料などなかったのでしょう。16区には古いブルジョワ・スタイルの建物がたくさん残っています。今は各階、各部屋で小分けされ、多種多様な住人が住んでいますが、上の階や横の部屋から聞こえる音に悩まされる人は少なくありません。昔は1家族で全階を使っていたので気にはならなかったのでしょうが、他人となるとストレスを感じる人は少なくありません。

 L'escalier de serviceの存在を知った時、フランスの階層社会の時代の変遷を目の当たりにした思いがして興味は尽きませんでした。今でも世界の富裕層には家政婦も料理人も必要ですが、随分、待遇が改善され、その内、自動化が進み、人間が家事をする量は激減するかもしれません。

 実際、最上階まで自邸のモンパルナスに立つ建築家の住む近代的建物を訪れたことがありますが、最上階までエレベーターでいけて、最上階は卓球とスポーツジムになっていました。

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 欧州連合(EU)の優等生ドイツは、この数年、経済減速が続いています。そこにコロナ禍が襲いEU域内では低い失業率を誇るドイツも雇用問題は重い課題になりつつあります。ドイツ経済省によると、国内雇用の約28%は間接的なものも含め輸出に関連し、自動車など製造業に絞り込めば、その割合は56%にも上るとされています。

 その最大の貿易相手国が中国です。ドイツが米中戦争で単純にアメリカにつけば、ドイツ経済が致命傷になりかねないのは事実で、ただでさえ経済が減速気味のあてにならないEUが、コロナ禍でさらに経済が悪化する中、ドイツには中国を棄てる選択肢はないようです。

 人口が米国の4分の1のドイツは輸出規模で米国と肩を並べるほど、輸出主導の国です。中国の覇権主義や人権問題が批判されても、それはそれ、経済はあくまで政治とは別物という考えで、米国に歩調を合わせるわけにはいかない台所事情があるわけです。

 ドイツは欧米諸国の中で米中両国との経済関係が最も深い国であり、そのために米中対立の先鋭化でドイツには戦慄が走っている状況です。トランプ米大統領を嫌うメルケル独首相が中国向けにリップサービスを繰り返すのには、それなりの事情があるわけです。

 しかし、一般的には東西冷戦下の東ドイツで生まれ育ったメルケル氏は社会主義国ソ連の恐ろしさを身を持って体験したはずなのに、なぜ、中国に肩入れするのかと苛立つ識者は米国でも日本でも後を絶ちません。しかし、米中と深い経済関係を構築している日本の対中外交の腰の引けた態度はドイツと変わりありません。

 2000年に入ってからのドイツの経済成長には対米、対中貿易が発展の原動力だったことは明白で、優れた工業製品の両国への輸出の恩恵で、EUのトップランナーとしての位置と完全雇用に近い状態を維持し、EU内で指導的立場を得てきたといえます。

 つまり、EUの優等生は冷戦期に培ったバランス感覚を最大限活用し、EUの浮き沈みを横目で見ながら、米中両国との経済関係を強化することで発言権を得てきたと言えます。それは2015年以降のシリアからの難民100万人の受入れに繫がり、新型コロナウイルス流行への経済対策に1兆ユーロ(約120兆円)をつぎ込める財政力をもたらしているともいえます。

 それを米国に肩入れし、中国との関係を悪化させてしまった場合、米国や日本、ブレグジットとコロナ禍でガタガタのEUとの関係だけで、同じ状態を維持することは困難といわざるを得ません。それにドイツは日本同様、敗戦国で経済大国にも関わらず、国連安保理の常任理事国でもなく、国際社会に強気の姿勢を取り辛い過去を抱えています。

 さらに実は引退を表明しているメルケル首相は、移民大量受入れで国内で極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)が台頭し、環境政党などの発言権が高まる中、後継者指名にも失敗し、求心力も指導力も衰えている事情もあります。今はドイツ議会は一筋縄ではいかず、経済界の圧力も無視できません。

 しかし、ドイツが米中の間で態度を決めかねた態度をとることは、米国及び他の米国を支持する加盟国からすれば、対中外交を弱体化させる要因になっているのは確かです。特に米国は、どんなにトランプを嫌うメルケル氏だとしても、この闘いで一枚岩になれないことを不快に思っています。

 それに米国は日本同様、敗戦国ドイツの戦後再建に最も貢献してきた国です。米国の支援なしに今のドイツはないわけですが、日本ほどの報恩精神がないのがヨーロッパです。大陸の奥深くで様々な国に囲まれながら、狡猾に逞しく生き延びてきたドイツにあるのは今と今後だけです。

 中国の広域経済圏、一帯一路への警戒感を持ちつつも、あくまで経済は政治とは別物との考えを貫こうというのがドイツ。しかし、コロナ禍がもたらすニューー・ノーマルで、その考えが正しい結果をもたらすかは個人的には極めて疑問です。

 ドイツの主力である自動車産業にとって、中国はすでに最大の市場で、欧米としては最も早くから中国投資を開始した独フォルクス・ワーゲン(VW)の先月の中国販売台数は、前年同月比6%増の33万台と、同社の世界販売の半分以上を占めています。他の欧州諸国は、ドイツほど中国との経済的な結びつきが強くないことを考えると、メルケル首相の対中発言の歯切れの悪さも理解できます。

 さらにドイツが抱える難題の一つはハイテク産業、デジタル革命への移行の遅れです。重厚長大産業への依存度は今も高く、過去にドイツを公式訪問した韓国の朴槿恵前大統領に対してメルケル氏は「あなたの国はサムスンなどがあって羨ましい」と発言したほどです。

 欧州のトランプ政権へのネガティブ報道によって、ドイツを含むEU諸国は、アメリカへの感心が薄れているという世論調査結果も最近はあります。ドイツはイランの核開発阻止のため、安保理常任理事国に加わり、イランと交渉し、合意に漕ぎ着けたのにトランプ大統領によって壊されてしまいました。

 米国開催の主要7ヶ国(G7)首脳会議の出席を見合わせたメルケル氏の心中には、米国に協力したくない気持ちも見え隠れします。その一方で、ドイツ首相府は今月、9月に独ライプツィヒで開催する予定だったEUと中国との首脳会議の無期限延期を突如に発表しました。

 7年間も続いた協議で欧州企業の中国市場へのアクセスを大幅に改善する投資合意に習近平氏が消極的だという裏事情があるといわれています。中国進出で手続きの煩雑さ、不当な技術移転の強要、中国企業への政府の不公正な補助金などで苦しんできたドイツは、協議で事態の改善を目指していますが、手応えは薄いということです。

 ドイツ財界は中国市場からの撤退を自殺行為といっているのは経済論理としては当然ですが、コロナ後の世界で、ドイツはの中途半端な八方美人的態度が命取りになる可能性も否定できません。

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Air France TGV

 フランス政府は、同国が進める地球温暖化対策の一環として、旅客機の国内空路短距離路線の完全廃止の方針を打ち出しました。日本でいえば、東京から名古屋や大阪間、大阪から福岡間などの航空路線を廃止し、新幹線のみの利用にするような方針です。今後、ANAやJALの路線整理の参考にもなりそうな話です。

 さらに撤退するエールフランスの路線に格安航空会社(LCC)が参入できないよう法令も整備するとしいます。今回に措置は具体的には超高速鉄道(TGV)で2時間半以内の航空路線を廃止対象とし、短距離移動を空路から列車に切り替えることで大気汚染を減らすことが期待されています。

 計算上、飛行機で1時間半の距離は鉄道だと2時間半ですが、空港までの移動時間を考えると同じ時間が掛かるという計算です。

 対象になるのは首都パリからレンヌ、ナント、ボルドー、リヨン、ストラスブールなどの路線で、対象航空会社はエールフランスを含む全ての航空会社としています。政府は空いた航空路線にLCC会社が入り込まないよう法令を定め、さらに欧州連合(EU)の法令にも適応させるとしています。

 環境問題に前向きな左派のエールフランス労働組合は、概ね歓迎していますが、パリ・リヨン間やパリ・ボルドー間など好調な路線の廃止による減収を懸念する声も聞こえ、減収は当然、人員削減に繋がると不安の声もあります。

 環境問題より企業活動優先と批判されてきたマクロン政権としては、温暖化対策で点を稼ぎやすい空の移動手段の国内路線削減で得点を稼ぎたいところですが、航空関係者は解決しなければならない問題は山積みといいます。

 たとえば外国から乗り入れる国際便がパリの空港で国内の短距離路線に乗り換えることができなくなります。実際、約50%の国際便がパリのドゴール空港やオルリー空港を乗り継ぎ便として利用しており、廃止になれば空港から列車に乗り換えて目的地に向かうことになり、利便性が失われます。

 日本から空路でパリで乗り継ぎリヨンに向かうことはできなくなり、一旦、荷物を受け取り、フランスに入国し、TGVに乗り換える必要があります。ドゴール空港内にTGVの駅はありますが、たとえばリール行きはありますが、本数は少なく、行き先によってはパリ市内まで出て、鉄道に乗り換える不便さも今後問題になってくることが予想されます。

 逆に環境保護団体は列車で4時間以内の空路の廃止を提案しています。そうなると空路の国内便は、大幅に消えることになります。廃止される路線の都市では早くも不満の声が上がっており、飛行機を使い慣れた人々は鉄道への乗り換えに難色を示しています。

 一方、EUの鉄道事業自由化に備える鉄道事業者は大歓迎です。すでに格安のウイゴーが格安超高速鉄道事業に参入しており、利用客数を伸ばしています。空路がなくなれば、利用者が増えるのは確実です。

 エールフランスKLM側は当然のことながら、収益の上がっている定期路線の廃止は最悪の自体を招くと危機感を募らせています。同社は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)による大幅減益で、現時点で8,000人から1万人規模の人員削減を計画中です。政府は人員削減を踏みとどまるよう求めていますが、今回の方針はエールフランスKLM救済には逆効果です。

 コロナ禍後の経済再建が急がれる中、フランス政府はエールフランスKLM救済のため70億ユーロ(約8,200億円)の救済資金を拠出する条件として、短距離路線を廃止し、鉄道に代替する方針です。ルメール仏経財相は、「ブラック・チェック(白紙小切手)を渡すわけにはいかない」として救済の大義名分は環境対策が条件というわけです。

 しかし、利用者にとっては選択の幅がなくなり、航空業界には致命傷を与えかねない政府の方針に業界からは複雑な反応がかえってきています。

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