安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 米SNS大手ツイッターは今月10日、在米中国大使館がツイートした中国政府の新疆ウイグル自治区政策を正当化するツイートを削除しました。その内容はポンペオ前米国務長官が、ウイグル族への中国政府の弾圧を民族大量虐殺と認定した19日の声明とも重なるものです。

 削除の理由は、中国政府がウイグルの女性が「子供を産む機械から解放」されたと主張したことでした。このツイートは、中国の国営メディア中国日報の記事とのリンクも貼られ、その記事では、中国政府がウイグルの宗教的過激派に対して「子供を産む機械」でなくなったことで抑え込んだというものです。

 長年、宗教を国家統治の妨げと見てきた中国共産党は、イスラム教が女性を蔑視し、子供を産む機械にしてきたという認識が建前にある一方、イスラム教徒のウイグル族を抑え込むために、女性に対しては不妊手術などを強制し、人口抑制を行っているのが実態と指摘されています。

 ウイグル自治区で100万人が強制収容所に収容され、イスラムの価値観を中国共産党の価値観に転向させる教育が実施されている事実を世界に明らかにしたのは英BBC放送でした。中国はこうした疑惑を一貫して否定していますが、収容所から逃げて欧州などに避難した人々の証言なので、実態は明らかになっています。

 今回削除された在米中国大使館のツイートの言葉に驚かされるのは、女性を子供を産む機械と表現し、さらに不妊治療でイスラム教徒を根絶やしにする政策を表向き、人口抑制政策と説明していることです。これは女性の尊厳と権利、信教の自由を奪い、虐殺するに等しい21世紀の民族浄化政策というしかありません。

 アメリカにバイデン政権が誕生し、トランプ前大統領に虐められてきた中国の習近平国家主席がもろ手をあげて喜んでいるなどの指摘は、的外れといわざるを得ません。オバマ政権の時、中国もロシアもクリントン国務長官(当時)を嫌っていたのは有名です。

 理由は彼らが嫌う人権外交を展開したからです。バイデン政権はその再来です。中国やロシアのような強権国家にとって、人権外交は内政干渉です。ウイグル問題だけでなく、香港や台湾問題は中国にとっては内政問題であり、他国にとやかくいわれる筋合いはないという考えです。

 それに人権外交は、中国人が最も大切にしているメンツを傷つけ、国際的評価を下げることに繋がります。バイデン政権が人権外交を展開すれば、中国のメンツは傷つくのは当然の流れです。果たしてバイデン政権がウイグル、香港、台湾、南シナ海問題にどう対峙するかは見えていませんが、国務長官候補のブリンケン元国務副長官は対中強硬派です。

 バイデン氏はアメリカの指導力の回復をパリ協定やWHO復帰で印象付けようとしていますが、もともと外交に興味はなく、民主党には多国間主義の政治家も多く、他国のことへの干渉は最小限にとどめるスタンスです。事実、オバマ政権は中国、ロシア、イランに対しては「戦略的忍耐」というわけのわからない言葉で「なにもしない」外交を貫きました。

 今回、ポンペオ氏がトランプ政権終焉の数時前に、ウイグル問題を大量虐殺と認定した意味は、実はポンペオ氏の口から国務長官就任の時に語られた内容に符合するものです。それは「私が理解したトランプ政権が目指すものは、東西冷戦終結後にできた世界の枠組みを完全にリセットすること」という認識です。

 これがバイデン政権に何らかの形で受け継がれることを望んでいるといえます。戦略的忍耐に逆戻りすれば、中国はアメリカを追い越し、世界の権威主義国家が勢いづき、世界は大混乱に陥る可能性があります。

 誰が権力を握るかではなく、アメリカが「民主主義の勝利」と有頂天になっている間に中国が戦略的にアメリカに入り込み、中国の覇権主義の野心を覆い隠しながら、世論誘導と高度技術を盗み出すことに専念してきたことに立ち向かうことを継続すべきということです。

 多国間主義で腰砕けになることが懸念されますが、多国間主義を信じるヨーロッパがまさにそのパタンんです。国際協調は大切ですが、覇権主義の野心が入り込むのを阻止できるかどうかは重要なカギを握っています。ウイグル問題への対応はその試金石になりそうです。


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 中国ビジネスに再三登場する飲み食いの重要性は、実は基本信用できない人間の信頼度を確かめるためです。日本でも交渉力、営業力に人間力は欠かせないといわれてきました。ところがコロナで飲食ができない状況の中、ビジネスに求められるスキルは変化しようとしています。

 日本の某大手電機メーカーの英国ビジネス研修で「自分は、相手に酒さえ飲ませれば落とせることに自信はあります。英国でも通用しますか」と聞かれたことがあります。その人物は旧来の営業スタイルで実績を上げてきたことで、それが海外でどの程度通用するのか知りたかったのです。

 ところがコロナで事態は一変しました。飲食がビジネスから消えたからです。これは世界中同じで、欧米ではビジネスランチもままならない状況です。信頼関係構築に欠かせないとされてきた飲食を伴った会合が困難になる中、重要さを増しているのが「説得力」です。

 これは本来、欧米では普通に行われてきたことで、特に科学を絶対的に信奉する彼らは、科学的、客観的な資料を提示することが重視されてきました。さらに自分の伝えたいことをロジカルに話すことが重要です。同国人同士でも多少の文化の違いがあります。その壁を超えるのに有効なのがロジカル思考、ロジカルコミュニケーションだからです。

 明確な科学的根拠とロジカルに伝える力は、パソコンの画面越しに交渉を進める上において重要さを増しています。迫力だけで押し切る営業やプレゼンは通用せず、相手の納得感をもたらすためには、様々な根拠を示す資料の準備や画面越しでも理解してもらえるロジカルなアプローチが必要です。

 いい加減な資料や論理が飛躍し、破綻しているような状況では相手を説得できないというわけです。画面越しでは相手の心の動きを細かく読み解くことも困難です。頼りになるのは共有できる数字であったり、客観性だったりします。

 私は世界中でビジネス交渉現場にいた経験がありますが、常に成功の鍵を握るのは入念な準備でした。リモートではさらに準備は重要さを増しています。逆に言えば、リモート会議は準備された資料を互いに確認する場になるということです。

 ある人は「リモートで仕事の生産性が向上した」「移動時間や無駄な飲食を省けるので効率的」という声も聴くようになりました。ハーバード流交渉術で出てくる交渉相手の人間と交渉内容を切り分け、互いが追求する利益に注目すべきというのも同じことです。

 そこで重要になるロジカルに物事を伝えるということに加え、ポジティブアプローチを心がけることも重要です。そのビジネスの結果、WinWinで得られる素晴らしい結果を伝えることです。それも根拠のない楽観主義は禁物です。相手に安心感を与えるのはリスクへの配慮だからです。

 営業が得意な人の中には「会えば簡単に相手を落とせるのにな」という人もいます。リモートワーク
は新たな挑戦ですが、業種にもよりますが、仕事の効率化をもたらすために大きな意識転換をする必要があります。デジタル技術で距離を調節し、効率化を図れるとすれば希望もあるということです。

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「人も国も自分の安全が脅かされれば、自己保身に走るのは仕方がないことなのか」と、昨年春に、ヨーロッパで新型コロナウイルスの猛威に襲われた時に思いました。あれだけいつも加盟国間の協調を重視してきた欧州連合(EU)は、公衆衛生上の問題に直面すると、隣国も目に入らない状況に変わりました。

 新しく欧州委員会の委員長に就任したフォンデアライアン氏は公衆衛生が専門の医師でした。にもかかわらず、EUとして次々に対策を打ち出すこともなく、コロナ復興基金と中期予算の計約1兆8000億ユーロ(約230兆円)で加盟国が合意したのは12月に入ってからでした。

 EUと一口に言っても経済格差も医療体制も大きく異なります。それにイタリアで感染拡大が始まった頃、フランスが国境で厳しい検査を行ってもイタリアで感染した人がドイツやスイスに移動し、そこからフランスに入国する可能性もありました。

 さらにEU域外との間の統一した国境対策を行わず、いったん域内に感染者が入ってしまえば、人と物の移動の自由を認めたEU内での感染拡大はあっという間の出来事でした。つまり、EUとしての初動の遅れが、今のアメリカと肩を並べる深刻な感染拡大をもたらしたともいえます。

 そして今年は感染抑止の切り札であるワクチン接種が世界で本格化する中、ワクチンの争奪戦が始まっており、資金のない途上国ではワクチン入手の見通しがまったく立たない状況に陥っています。EUは必要量の3倍を注文済で、カナダに至っては5倍を確保したといっています。

 世界保健機関(WHO)のアフリカ担当者は「先進国は、ファイザーなどの製薬メーカーに直接交渉して、全体の9割のワクチン入手で合意を取り付けている」と述べています。それでも欧米先進国はワクチン供給の遅れを批判し、製薬会社に不満を表しています。

 その一方で途上国のワクチン供給はまったく先が見えていません。WHOのテドロス事務局長は「先進国がワクチンを買い占めるなら、世界に悲惨な道徳的誤りをもたらすだろう」と述べ、先進国が途上国とワクチンを分け合う約束を無視していると批判しています。

 仏公共TVフランス2の報道番組によると、現在、アフリカでワクチン接種を開始したのはインド洋のセーシェル諸島だけで、それもワクチンは中国産です。他のアフリカ諸国での接種の見通しは立っていません。アフリカは南アフリカを除き、昨年の感染第1波は深刻ではなかったわけですが、現在はアフリカ全土で感染が広がっています。

 医療体制も脆弱なため、重症患者が増えれば、すぐに医療崩壊を起こす状況で、すでにセネガルでは病院の受け入れができなくなっているとフランス2は報じています。WHOによればアフリカの20か国で世界平均以上の速度で感染が拡大していると指摘しています。

 中国の債務漬け状態のエチオピア出身のテドロス事務局長は1年前、中国を過信し、緊急事態を世界に警告することが遅れ、批判を浴びた人物ですが、同氏は今回「ワクチンをめぐるナショナリズムは皆にとって不幸で非生産的だ」と先進国のワクチン争奪戦を批判しています。

 アフリカなどの途上国については、新型コロナワクチンを世界各国で共同購入して分配する国際的枠組み「COVAX(コバックス)」があり、約20億回分のワクチンを購入する合意がされているにも関わらず、そのメカニズムは機能していないとフランス2は指摘しています。

< EU欧州委員会は「アフリカを無視してワクチンを注文したわけではない。コバックスが機能する方法が見つかっていないだけだ」といいわけしています。アフリカの感染者数は300万人を超えており、感染力が極めて強い南アフリカで発生した変異種の急拡大が懸念されています。

 専門家は「アフリカ大陸に新型コロナウイルスの感染阻止に充分なワクチンを供給するためには90億ドル前後の資金が必要だが、今のところワクチン争奪戦にアフリカが加わる資金力はない」といっています。このまま先進国がアフリカを見捨てれば、貧しい国々は中国のワクチン外交の餌食になるのは明白です。

 公衆衛生上の危機に直面すると極端に内向きになるのは仕方ないことかもしれませんが、途上国の感染拡大抑止は、結果的には先進国にも波及するリスクがあると同時に、人道問題として深刻に受け止めるべきことでしょう。

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public speech

 コロナ禍で不安の広がる国民に対して、リーダーは何を国民に語り掛けるかは極めて重要です。ある意味、メッセージの出し方が結果を大きく左右するともいえるでしょう。さりとて日本の菅首相のようにきわめてハイコンテクストの東日本出身者で、なおかつ口の中でモゴモゴ喋る人物は不利といえそうです。

 とはいえ本質的なところで今から雄弁になるのは性格的なものもあり、年齢的にも難しく、さりとて危機を克服するために国民にメッセージを流し続ける必要があるのも事実です。喋れば喋るほど支持率が下がるようではコロナ対策の実効性に影響を与える可能性もあります。

 菅氏が実務派といわれても、首相は実務よりも実務を行う人々を動かし、最重要な仕事は意思決定です。合議制が中心の日本の意思決定スタイルでは、リーダーは調整役、落とし所を見つける役という側面もあります。男社会では「それぞれの顔を立てる」のも重視されます。

 しかし、そのような昭和の慣習では、今のグローバルな危機に立ち向かうのは無理があるし、民主主義の成熟期に入った日本では、国民は政策に納得感がないと自由に批判し、従うことすらしない可能性もあります。意思決定の透明性の問題も公にしたくない裏事情が常に存在し、スッキリしません。

 民主党政権の時のように官僚の仕事を取り上げ、官僚にそっぽを向かれたら、政策は実現できないし、逆に安倍長期政権では官僚が忖度する習慣が蔓延し、結果的に自殺者まで出してしまうこともありました。

 かなりの意識転換が必要ですが、意思決定権者であるトップリーダーは組織の決定を自分の決定として語る必要があります。昨年亡くなった会津なまりで有名な政治家、渡部恒三氏は菅氏と同じ東日本出身ですが、きわめてメッセージ性が強い政治家でした。それは方言丸出しで「私言葉」で喋っていたからです。

 私言葉とは私を主語にした話し方です。例えば「今日は田中君も残って残業してもらうしかない」といわずに「田中君が残ってやってくれたら私は本当に助かる(あるいは本当にうれしい)」といい換えると相手に与える印象が大きく変わります。

 この場合、日本で省略されることの多い「私」を省いても構いませんが、私が主語であることが相手に伝わることが重要です。よく欧米人の上司が日本人部下に対して「君の仕事に私は満足していない」といわれると深く傷つく日本人がいますが、西洋人同士の場合は普通の表現でそこまで傷ついてはいません。

 渡辺恒三氏の政治家としてのメッセージのインパクトは、本音が聞こえてくることです。財務相を務めた塩川正十郎も自分の言葉で喋ることの多い政治家でした。当然、私を主語にした発言も多く、見えやすかったわけですが、無論、首相は私ではなく「政府として」という発言が多くなるわけですが、それでも実際にいういわないは別にして主語を意識して喋ることは重要です。

 それと人は前向きで希望のあるアサーティブなメッセージに好感を持つものです。自分も相手も尊重するアサーティブ表現では以下のような注意が必要です。

・相手の気持ちや考え、要求を尊重すると同時に自分の気持ちや考え、要求をきちっと相手に伝える。➨一方的要求、過剰な気遣いはNG
・まず、相手の意見を注意深く聴く姿勢を示し、同時に自分の伝えたいことも論理性を持ってしっかりと相手に伝える。➨相手の権利の無視、忖度への期待はNG
・相手を攻撃したり、威嚇したりしない。➨相手との優劣を争うことも無意味な我慢もNG
・自分の立場を明確にし、責任の棲み分けを行う。➨安易な責任転嫁はNG
・つねにポジティブで、建設的な対話を心がける。➨ネガティブアプローチはNG
・相手を褒めることで、オープンな対話環境を創り出す。➨上から目線はNG

 リスク・コミュニケーションでは、政策の根拠となる科学的な現状認識を、まずは示す必要があります。「専門家の先生のご意見を踏まえ」では、話者自身の判断の根拠の中身が見えません。さらに政策の実効性について自分の言葉で自信をもって説明すべきでしょう。

 それと政治家だけでなく、すべてのリーダーにとって構成員との共感は極めて重要です。そこでも自分の言葉が必要です。コロナ対策では感染の恐怖と生活不安がいつまで続くのかは国民の置かれた共通の状況です。真っ先にワクチン接種が受けられ、給料が減ることのない政治家や役人は国民の不安を受け止めるのは容易ではありません。

 しかし、そこで想像力を働かせるのが政治家です。逆にいえばどこを向いて政治を行っているかが分かってしまうともいえます。利権圧力団体や族議員、官僚を向いて政治を行っているのか、国民に向いているのかが問われるということです。市民や国民が視野にない昭和の政治家は少なくありません。

 勉強不足もメッセージに出てしまいます。今なら感染症の権威ある経験豊かな専門家と接する機会の多い政府中枢にいる政治家は、感染症について学ぶチャンスです。疫病は有事であり、戦争と同じ程度に健康の安全保障の中心にあるもので、疫病自体は聖書の創成期にすでに登場しているくらい人間と深い関わりがあるものです。

 共感を得られるメッセージは、リスク・コミュニケーションの鍵を握るものです。性格は直せませんが、改善はできます。私は数多くのコミュニケーション研修で実際に改善の可能性を試してきました。

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 米ジョンホプキンス大学が提供している世界各国の人口100万人あたりの新型コロナウイルス新規感染者数の17日の直近7日間のデータを見ると、最も多いのは英国の4778.2人、2番目以降はアメリカの4602.1人、フランス1964.5人、ブラジル1798.6人、日本は発表されている国の中で13位の331.3人で世界平均の610.6人よりかなり低い数値です。

 もっとも、新規感染者数は感染の有無を調べるPCR検査などの実施規模に左右するため、正確な現状を表しているとはいえません。一方、人口100万人あたりの直近7日間の新規死者数感染死者数を見ると、最も多いにはやはり英国で115.8人、2番目以降はドイツの71.2人、アメリカの70.2人で、日本は世界平均の12.3人より低い3.6人です。

 いずれにせよ、日本はかなり低い数値に抑えられているといえるでしょう。無論、この1週間の上昇は特筆すべきですが、アメリカやヨーロッパも増えています。情報が飛び交う時代だけに各国のコロナ対策に大きなばらつきがあるともいえません。無論、地理的状況や医療体制の差は影響を与えているでしょう。

 様々な要素を勘案したとしても、日本の感染被害が低く抑えられてきた背景で最も大きいのは、私は欧米と比較した場合、国民性を第1に挙げたいと思います。無論、水際対策の比較的容易な島国である台湾、北と国交のない韓国も島国のようなもので、中国や北朝鮮との緊張から有事体制に入りやすい状況で感染を低く抑えられている側面もあります。

 しかし、同じ島国の英国が世界1の感染死者率を出しているので、それだけでは理由になりません。感染対策の要は対策の適正と実行力です。日本は実行力という面では、世界でも見事な動きを見せています。法的拘束力や罰則のあるロックダウンなしに低い数値に抑えられている国は他にありません。

 もともと手洗いやマスク着用の習慣があったことも有利に働いています。マスクの強制着用に抗議する日本人は皆無です。社会で決められたルールはしっかり守る訓練は幼稚園の時から日本人には叩き込まれています。

 フランスでは歩行者用信号を守る人はいません。自己判断を大事にするため車が来ていなければ赤信号でも渡ります。日本人は車が1台も通っていなくても誰も赤信号では渡りません。マスクも手洗いも赤信号のようなものですが、欧米では自己判断優先です。

 フランスでは、マスク未着用のまま路線バスに乗車してきた人を注意したバス運転手が昨年7月、暴行を受け死亡しています。日本ではありえない事件です。密状態が禁止され、外出禁止令が出ていても2,500人規模のダンスパーティーを年末年始に強行したフランスでは、SNS上で主催者の若者を支持する声もありました。

 今、フランス政府が頭を抱えているのは、コロナ感染終息の切り札と言われるワクチン接種を若者の半数以上が受けたくないといっていることです。さまざまな対策を打っても実行に問題があり、感染抑止の効果は半減しています。

 一方、クライシスマネジメントの鍵を握るのは多くの危機管理専門家が、リーダーシップであることを認めています。大規模な危機は有事と同じで司令官が勝敗の鍵を握るからです。専門家の意見を踏まえ、総合的に対策措置を判断し決定するのは意志決定者であるトップリーダーです。

 意思決定層は高い情報収集能力、現状把握力・分析力、対策には実行可能な目標やヴィジョンが必要であり、実行していくための強い指導力も必要です。さらには国民の協力を仰ぐために国民一人一人の心に響く説得力のあるメッセージを発出し続けるリスク・コミュニケーション力も必要です。

 このコロナ禍の1年間を通して、日本のリーダーシップは極めて怪しく、迷走も見られました。本来、国民の経済生活を大きく制限する措置を出す時は、経済保障とセットにして同時に発表すべきなのに、いつも保障は後追いです。そのあたりは欧米先進国は見事です。

 では、コロナ禍のクライシスマネジメントで実効性があるのは、リーダーシップなのか、実行力なのかといえば、実行力の方が有利に働いているといえます。どんなに効果的な対策を打ち出し、補償をしっかりしても、それを実行する行政力、対策にこたえる国民がいなければ結果は得られません。

 その意味で個人の自由を社会秩序より優位にしてきた欧米諸国は、今回のコロナ禍で弱点が露呈してしまった形です。さりとて個人の自由を統治者が勝手に制限するように考えも体制も変更するとは思えません。それは普遍的価値、文化だからです。

 個人の自由を優先する欧米に住む日本人の多くが感じることは、その素晴らしさと同時にその自由を支える個人の良識がなければ、恐ろしい結果をもたらすということです。欧米の現状は、かつてキリスト教信仰に支えられてきた良識が戦後75年間でなんでもありのリベラルズムで崩壊しようとしていることです。

 目標を掲げ、科学に基づいた実効性の高い対策を打ち出しても、それに答える国民がいなければ、危機を乗り切ることはできないでしょう。自由はあっても規範を持たない社会はいずれ衰亡していくのが歴史の常です。

 私から見れば、欧米先進国で培われ、進化したリーダーシップと日本の良識的国民性が合わされば最強です。日本は間違ってもリーダーシップで感染を抑えられているなどと思うべきでなく、国民に感謝すべきでしょう。無論、危機が長期化すれば、その国民性だけでは乗り切れないと思いますが。

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 トランプ政権4年間については、世界の識者が指摘するようにアメリカは外交的に多くの成功を収め、特に対中政策はバイデン政権にも受け継がれると予想されています。しかし、同時にアメリカ第一主義がもたらした経済ナショナリズムは、このままでは世界に中途半端なナショナリズムを広めただけに終わりそうです。

 昨年8月に毒殺未遂でドイツで療養していたロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が17日帰国の途につき、ロシア到着後に当局に身柄を拘束されました。「拘束すれば国際社会からの批判は必至」と報じられていまたが、プーチン大統領は果たして国際社会の批判を気にしているのでしょうか。

 答えは「ノー」でしょう。一方、中国は香港民主派勢力の活動家を国家安全維持法を根拠に次々に逮捕、起訴し、有罪判決を下し、それは国外にまでその影響を拡大しようとしています。新疆ウイグルへの弾圧もやめる気配はありません。つまり、国際社会の批判など気にしていないということです。

 冷戦後の国際社会の常識を形成してきたのは、主に冷戦の勝利国の超大国アメリカを中心とした欧米諸国の自由と民主主義、法治国家、人権、正義の価値観です。敗戦後の日本は一貫して社会的名誉を回復するため、この国際常識の価値観に沿う外交を展開し、評価を高めてきました。

 しかし、トランプ政権の4年間、最後はコロナ禍ですべての国々が経済的に衰退し、内向きになる中、国際社会へのプレゼンスを弱めるアメリカ、ブレグジットで弱体化する欧州連合(EU)は、ともに冷戦後に構築した新たな世界の枠組み自体が危うくなっています。

 つまり、「国際社会の批判」という時に基準になる価値観は2021年、崩壊の危機に晒されていると見るべきでしょう。もはや国連が非難しようが、欧米諸国が警告しようが、中国はなりふり構わず領土拡大にまい進し、国内の人権を無視し、自国民を強権弾圧し、ロシアも民主派勢力の指導者の暗殺を試みるなど、ブレーキが利かない状態です。

 中国政府は「世界の大国となった今、アメリカに気を使うことなく、欧米が築いた国際常識を覆し、国益を最大限追求する段階に入った」という認識を国内外にアピールしています。単純化していえば、世界を支配し、都合のいいように国際ルールを決めてきたアメリカに中国が取って代わる時が到来したという認識です。

 そのため、国際社会からの批判をかわす努力など必要がなくなっているともいえます。もっといえば世界の秩序は権威主義国によって崩壊の危機に晒されているともいえます。「力こそすべて」という18世紀、19世紀の世界に逆戻りするリスクを抱えているとも見えます。

 今年はバイデンのアメリカとジョンソンの英国、メルケルのEUが、中国、ロシアなど権威主義国家の人権弾圧批判を強めることが予想されます。しかし、その影響力は限定的になりつつあり、同時に人権外交を重視してこなかった日本は、欧米からもはみ出した中途半端な存在になる可能性もあります。

 対応を間違えば、欧米大国からの信頼も失い、さりとて権威主義の国とは価値観が合わず、自沈する最悪のシナリオも考えられます。逆に欧米が構築した価値観に潜む独善性、価値の一方的押し付け、差別的姿勢を取り除き、弱者のために生き、国際協調しながら権威主義に立ち向かう強い信念を日本が持てれば光を放つことはできるでしょう。

 今年はますます、権威主義勢力が超内向きで、やりたい放題のナショナリズム、民族主義を展開することが予想されます。アメリカの民主党政権は過去においても内政重視で、外交に関心が薄く、世界の警察官になるつもりはなく、夢見心地の理想主義で世界の悪に立ち向かう力はありません。

 経済ナショナリズムは世界経済を弱体化させ、権威主義国を太らせるだけです。日本は異常なまでに世間体を気にする国ですが、その世間の常識が崩壊すれば日本は独自の価値観を持つしかありません。その意味でも大きな岐路に立つ2021年だと思います。

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 昨年1月にパリに到着した日本人男性は、語学学校に通いながら、仕事もしようと意気込んでいました。何度も来ているフランスで長期滞在をめざすのは初めて。一時帰国の計画もあったようですが、コロナ禍で足止めされ、語学学校も休校が続き、数週間働いた店も閉店し、今は政府から支給される給与保障で生活しているそうです。

「この生活が悪くないんです。ほんの数週間働いただけだけど、ちゃんと休業に伴う給与保障が出ているので生活には困っていません」という一方、「残念なのは、これから夕方から外出できなくなるのと、コロナが心配だけど、働かずにお金を受けとる生活は想像もしていなかった」とパリ生活を楽しんでいます。

 フランスのカステックス首相は14日夜、関係閣僚とともに記者会見を行い、1部に限定されていた外出禁止開始時間18時を全土に適応することを含む、新型コロナウイルス感染対策を発表しました。同措置は2週間は継続するとしています。

 フランス政府は、欧州全体で感染力の強い英国初の変異種が依然、感染拡大している一方、フランスでは年末年始の爆発的な感染拡大はなく、新規感染件数、陽性率も欧州の中では低く抑えられているとの分析結果を示しました。一方、入院件数、集中治療室(ICU)の患者占有率が増加しているため、感染抑制の新たな措置が必要との認識を示しました。

 フランスは昨年12月15日以降、夜20時からの夜間外出禁止措置を発令し、今年に入り、仏東部、南東部地域25県に限定して開始時間を18時に前倒ししていました。今回、全土で夜間外出禁止開始時間を早めたのは、すでに導入した25県で感染抑制の効果が出ているからだとしています。

 経済活動を止めたくない政府は、日中の経済活動、学校生活、人の移動の継続を認めながら、感染抑制措置を全国に広げた形だ。人の密集を避けるため商店や商業施設は18時には閉店となる一方、買い物が集中することが予想される週末の日曜営業も例外的に認めることにしました。

 無論、売り上げの4割以上が18時以降に集中するパン屋を含む食品店は不満の声を上げており、18時までに自宅にたどり着くため、公共交通機関の通勤客の利用が夕方に集中することで密の状態になることを懸念する声も聞かれます。その一方で英国やドイツ、イタリアの深刻さを見て「ロックダウン(都市封鎖)していないだけいい」という人もいます。

 アメリカと違い、職を失ってすぐにホームレスになる人は少ないので、なんとなく危機感が緩いともいえます。政府の経済支援の柱は連帯基金で、2020年12月分の連帯基金の申請手続は1月15日から開始され、来週初めに給付がなされます。

 たとえば、レストランなどの宅配、テイクアウトによる売上は、連帯基金の支給額算定の根拠となる売上として計上する必要ない。レストランやカフェに関係する卸売業者、納入業者等のうち、売上が70%以上減少している企業は、連帯基金から、月20万ユーロを上限に2019年の売上の20%に相当する額の給付を受けることができる。

 休業措置の対象となっている企業及びそれらに関連するセクターに属する企業のうち、月の売上が100万ユーロ(約1億2,600万円)を超える企業に対して、固定費の70%を支援。この支援は連帯基金に上乗せされるもので、2021年1月から6月までの間に300万ユーロを上限として実施。300万ユーロは出発点で、この上限額を引き上げるために欧州委員会と交渉中です。

 興味深いのはフランス政府がGAFAなどを念頭にデジタル税を導入したことで、アメリカが制裁措置としてフランスのワインやコニャックに対して追加関税を課したことで苦戦するブドウ栽培農家に対して、連帯基金による支援を実施することになったことです。売上減少が50%以上の場合、月20万ユーロを上限に2019年の売上の15%を補償するなどの措置が導入されました。

 その他、すべての企業は規模に関係なく、政府保証付融資の返済開始時期を1年間遅らせることができ、政府保証付融資以外の融資についても、民間金融機関は寛大な姿勢で、ケースバイケースで支払猶予や債務繰延べを検討するよう政府に要請されてます。
 
 その他、2020年12月に実施された社会保険料の支払免除等の措置を2021年1月も継続し、対象はレストラン、カフェ、ホテル、文化、スポーツ等のセクターに属する企業で、休業中または売上が50%以上減少しているすべての企業とするとしています。フランスでは社会保険料は高負担なので助かる人も多いでしょう。

 その他、経済活動に必要な設備について、減価償却の先延ばしを認めるなど、細かな経済対策が今回明らかになりました。さらに増税は行わないことも約束し、数年前から実施している減税を今後も継続するとしています。

 それとは別に経済再生を加速させるプランとして1000億ユーロを準備し、企業の投資、イノヴェーション、雇用創出に重点的に使うなどの経済復興プランを1月28日に明らかにすると説明しています。

 政府によれば昨年11月は300万人の労働者が部分的失業制度の対象となり、給与保障など恩恵を受けているということです。レストラン、体育館、ナイトクラブ等で部分的な休業措置の対象となる企業(今回は18時以降の夜間外出禁止措置の影響を受ける商店等)については、政府は、衛生基準を順守することを条件に企業が従業員へ支払う休業補償を100%助成する方針です。

 前出の日本人男性も、政府の保障対象となっているため、働かずしてパリ生活を不謹慎ながら楽しんでいるというところです。

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 最近、日本だけでなく、世界からグローバリゼーションという言葉が激減しています。グローバルという言葉を多用すると「時代誤認」と軽蔑され、「グローバルマネジメント」は「異文化マネジメント」と言い直したりしています。

 グローバリーションは言うまでもなく、国際貿易とビジネス拠点の世界展開が中心ですが、実はリーマンショックによる2009年の世界金融危機以降、今日に至るまで国際貿易は伸びが鈍化し続けています。自国第一主義で高率関税を発動し、中国との貿易戦争を始めたトランプ政権やコロナ禍でグローバリゼーションは「スローバリゼーション」と呼ばれるほどです。

 実際、2019年の貿易取引高は減少し、コロナ禍でさらに国際物流も人の移動も制限されていることで、グローバルビジネスは足踏み状態です。世界貿易機関(WTO)の推定によれば、2019年、世界貿易は9.2%縮小したとされています。その一方で世界経済は縮小することなく、拡大を続けているのも事実です。 
 
 経済は政治の先をいくのが常で、国境を超えるのは容易ですが、1990年から2000年代初頭にかけて世界貿易や投資を後押したグローバリゼーションは世界経済の主な原動力だったことは否定できません。

 そのグローバリゼーションの波で最も勝者になったのが中国でした。世界のあらゆる優れた技術が中国に移転され、世界の工場と化した中国は狡猾に技術を自らのものにし、国外から流れ込んだ資金で世界第2位の経済大国を自負する国になりました。

 リーマンショック以降は、その中国は輸出大国を続けながらも、国有企業を強靭化し、重要技術の国内開発の重視政策に切り替え、評価の低かった中国製は、今や中国のユニコーン企業の提供する中国オリジナルの高度ハイテク製品が圧倒的規模の市場を持つ国内で急成長しています。

 内向き経済に転化した証拠は、国内総生産(GDP)に対する輸出の割合が2008年の31%から19年には17%に低下したことにも表れています。インドも同じような路線をとり、経済ナショナリズムの時代といわれ、グローバリゼーションという言葉は陳腐化しそうな流れです。

 さらにコロナ禍で医療関連製品の国内調達度が低いことや、移動制限でサプライチーンの寸断が発生し、ますます、国内回帰が加速しそうな勢いです。コロナ禍で国の安全保障ということからグローバリゼーションに潜むリスクに世界中が気づいたことは間違いありません。

 だからといってグローバリゼーションは終わりという考えに私は組していません。最大の問題はグローバリゼーションがリスクに弱いことです。当然、ビジネスが国外に広がること自体、高いリスクを抱えるわけですが、その対処が軽視されてきたことが問題だと考えています。

 リスクのヒマラヤの高い山に登るのには十分な準備とその土地を熟知するシェルパーが必要です。グローバルビジネスで高い収益を出すのに十分な準備もなく、異文化を水先案内人も準備せず、いけば何とかなるという安易な考えがリスクを増大させてきたのは事実です。

 リスクにはカントリーリスクからマネジメント・リーダーシップリスク、為替、関税、自然災害まで多岐にわたります。サプライチェーンの寸断への対処も重要です。しかもそのほとんどのことへの対処は人間が行うことですが、グローバル人材の育成では語学以外に投資する企業は今も多くありません。

 世界経済の拡大と相まって、グローバリゼーションは終焉しているという見方は間違いで、グローバリゼーションの中身、性質が変わったと見るのが正しいと私は考えています。それは経済活動で軽視されがちだった政治リスクや安全保障の重要性の再認識でもあります。

 今も先進国の支援なし発展できない国は世界中にあります。問題は先進国企業が途上国の安価な労働力を利用してビジネスを成功させようとした結果、中国のようにその投資を社会主義の強権でうまくコントロールして発展した国もある一方、利用され捨てられる国もあることです。

 私は海外赴任する人たちへのメッセージとして、自社の利益追求だけでなく、その赴任先の国の役に立ちたいという動機も大切だといっています。進出し撤退した後には草一本生えないようなことはすべきでないということです。

 技術が盗まれ、サプライチェーンが寸断され、安全保障が脅かされることから内向きになっても、国内で完結できるビジネスは多くはありません。問題は人的資源をグローバルに耐えられるように鍛え上げることです。

 私は日本でグローバルという言葉を使うことが時代遅れとする考えには大いに疑問を抱いています。問題は危機に瀕しても信頼できるグローバルネットワークを構築することです。経済ナショナリズムだけではポストコロナを生き残るのは難しいでしょう。

 グローバリゼーションの中身がどう変化し、何が必要なのかをじっくり検討したうえで、次の手を考えるべきと考えます。

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 アメリカに求心力の弱いバイデン政権が誕生し、中国への甘い考えが露呈したヨーロッパでブレグジット後の衰退が予想される中、唯一先進国で瀕死の重傷を負っていない日本の存在感は増しています。

 そんな風に言うと、アメリカの指導力の低下で日本は中国や北朝鮮の脅威に直面し、コロナ禍で弱った政界経済の立て直しに時間が掛かる中、日本の将来はけっして明るくはないという専門家もいます。しかし、グローバルな視点で見た時、これまで世界をけん引してきた欧米先進国が日本を頼らざるを得ない状況であることは確かです。

 まずは超大国のアメリカは、過去にない「票を盗んで大統領になった」という汚名を着た高齢の大統領が、分断が決定的となる国をまとめ上げる能力があるとは思えません。激しく対立する選挙が終われば「すべてのアメリカ人のための大統領になる」と歴代大統領はいうわけですが、就任10日前にトランプ氏が2度と再起できないよう罷免や弾劾を試みる大統領に融和はありえません。

 国際的に著名なアメリカの政治学者イアン・ブレマー氏は1月冒頭、2021年の10大リスクのトップにバイデン新大統領をあげました。民主党支持者で知られる信頼される識者の指摘は衝撃的です。政権基盤は実は脆弱で高齢のため国民は2期目はないと見ており、中国との対決では弱腰が露呈する可能性が高いのもリスクの要因だとしています。

 今回、トランプ氏が連邦議事堂襲撃を支持者にけしかけたとして、フェイスブックやツイッターがトランプ氏だけでなく、保守系の発言者のアカウントを次々に閉鎖したことは、言論の自由、表現の自由を民間企業の勝手な判断で脅かす暴挙として左派からも批判の声があがっています。

 一方、ヨーロッパは欧州連合(EU)から出ていった英国は、トランプ大統領の支持により「特別な関係」を維持し、強力な通商協定を結べると期待されていたのが、多国間主義のバイデン氏に代わることで、優待席の確保が怪しくなっています。

 バイデン氏が副大統領として8年間仕えたオバマ前大統領は、国民投票でブレグジットが決まった時「英国はEUの後ろの列に並ぶしかない」といい、特別扱いしない姿勢を見せました。左派の民主党はそもそも大陸欧州の仏独に考えが近く、メルケル独首相のマクロン仏大統領もバイデン政権誕生を歓迎しています。

 コロナの変異種の感染急拡大とブレグジットの2重苦で、英国の2021年はジョンソン英首相の強気発言と相まって暗い出発です。英国に出ていかれたEUは、統合の深化拡大が足踏み状態でコロナ禍の対策でもようやく復興基金が決まっただけで、統一した対策はとれていません。

 コロナ禍は欧州の統治機構の弱さを露呈させ、反EUのポピュリズム勢力を勢いづかせています。それにEUは、議長国ドイツが主導し、中国との投資協定に昨年末、署名しました。アメリカは新政権発足まで待つように要請していたにも関わらず、メルケル氏が主導し、アメリカ無視の中国重視の決定をしてしまいました。

 メルケル氏は女性宰相として21世紀に名を遺すといわれていますが、誰が見ても中国への弱腰は大きな判断ミスといわざるを得ません。中国の覇権主義の脅威から世界が学んだのは経済と政治は別物ではないことです。メルケル氏は古い考えに固守し、中国を甘く見ているとしかいいようがありません。

 ということはバイデン政権が誕生したとしても、EUとアメリカの関係も容易ではない状況です。トランプ政権で強まったEUのアメリカへの不信感はバイデン政権でも引きずることになり、経済だけでなく安全保障でもNATOに頼ることのないEU独自の防衛システム構築を模索しています。

 そのEUは、今後想像される香港や新疆ウイグルへの中国政府の弾圧に厳しい姿勢をとらざるを得ず、決して中国のEUへの投資拡大をもろ手をあげて歓迎する状況にはありません。そこで浮上しているのが同じ民主主義の価値観を持つ日本です。EUにとって日本との協調関係に障害になる要素はほとんどありません。

 これは英国も同じです。世界第1位の経済大国アメリカの存在感が弱まり、さりとて第2位の中国とは価値観が共有できず期待できない中、3位の日本にアメリカもヨーロッパも熱い視線を向けているのは当然の流れです。世界的に見れば日本はコロナ対策でも感染者を低い数字に抑えており、信頼に足る大国として評価が高まっています。

 そこで、この到来したチャンスを生かすためには、アメリカを盲従し、顔色ばかりを窺う状況を脱し、独立国家として強い姿勢を示す必要があります。欧米先進国に頼られる国になるためには譲れない原則を持つ信念とそれなりの体制が必要です。世界が協調関係を取り戻すためには絶対必要です。

 トランプ政権の教訓は、一時的な批判があっても信念を曲げなければ、相手も変わらざるを得ないということです。問題はどこまで信念を貫けるかです。自由と民主主義、人権を守ることを重視するなら、それを守らない中国にも強い姿勢を示すべきです。

 中国の覇権主義を許したのは、アメリカの「何もしない」オバマ政権だけでなく、日本の中国に対する姿勢の甘さ、弱腰が原因だと私は見ています。韓国に対しても同じでしょう。敗戦の弱みに付け込む彼らにそのスキームは使えないことを思い知らせる必要があると思います。

 ここで引き下がるのか、それともチャンスを生かして日本を復活させるのかは、日本人1人1人が信念と自信を持ち、かつて世界を支配した大国に頼られていることを自覚すべきでしょう。

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 今、世界はアメリカのトランプ政権の最終章のドラマを固唾を飲んで見守っている状況です。毎日、新しいことが起き、世界情勢を左右する超大国アメリカの動向に一喜一憂し、あることないことが発信される真偽が確認できないSNS上の情報から、大手メディアからまで連日行き交っています。

 同時にこの自由と民主主義、法治国家の価値観を持つ大国の大混乱をよそに、権威主義の21世紀型社会主義を標榜する中国は、香港や新疆ウイグル族への弾圧を強め、国家安全維持法を根拠に香港だけでなく、世界中の中国共産党の強権に反対する民主化勢力の一掃のため検挙する構えです。

 対中国強硬路線のトランプ氏のSNSのアカウントが、連邦議事堂乱入事件で永久閉鎖されたのを最も喜んでいるには、たぶん中国でしょう。

 しかし、そもそもこの米中対立や米国内の世論分断を加速させた原因は、既存の大手メディアへの信頼が落ちたことで、何の客観的証拠もなく垂れ流されるSNSの感情に訴える陰謀論や言説が世論をミスリードしている現状があることです。

 信頼を失っている多くの既存メディアは、SNSの台頭の台頭のせいにしていますが、実はSNSの普及以前から、民主主義を支える重要な使命を負うジャーナリズムは商業主義と折り合いをつけるために長い葛藤を繰り返してきました。

 1980年代後半、日本では写真週刊誌の競争が過熱化し、部数を稼げる超有名人のスキャンダル報道がエスカレートし、お笑い芸人のビートたけし率いる軍団が講談社の写真週刊誌フライデー編集部を襲撃する事件が発生しました。その後、マスコミ倫理懇談会などが開催され、メディアの社会的責任と商業主義が話題になりました。

 アメリカでは、民主主義を守る公器としてのメディアは、最初から客観報道というより、政治的信念を表明することが社会的に認められる中、商業的成功を収めるのは、反権力、弱者の味方を表明するヒューマニズムのリベラル系メディアが商業的成功も収めています。

 反トランプ報道の急先鋒のCNNは、トランプ政権誕生以来、どちらかと言えば海外で視聴率を稼いでいたのが米国内で反トランプ報道を見たい視聴者が急増し、莫大な利益を得ました。

 知人だったパリ在住のヘラルド・トリビューン(現インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ)のコラムニストの故ファフ氏は「アメリカ人は外国にまったく関心はないので、国際報道中心のCNNやも私の書く国際メディアにも関心はない」といっていました。

 その状況を一変させたのは9・11同時多発テロで、国外勢力からアメリカ本土が攻撃を受けたことでした。もともとリベラル路線のCNNは、4年前クリントン候補を支持するあまり、クリントン・ニュース・ネットワーク(CNN)などと揶揄され、その後も反トランプキャンペーン継続で利益を得ました。

 大衆文化が特徴のアメリカでは、大衆受けはすべてのビジネスで重要です。メディアも視聴率や購読者数が重視され、他の民主主義国家より、メディアも商業主義と最初から深く結びついています。そこで常に問題になるのが中立性、客観性といったメディアに欠かせない要素とともに良識、公正さ、正義といった民主主義を支える価値観と商業主義の折り合いです。

 ネット時代で無料でニュースを入手できるようになり、SNS上でなんでもシェアする時代になったことで、収益面で危機に立たされた既存メディアは、商業主義を強化せざるを得なくなり、良識、公正さ、正義より収益を上げられる言論の展開にシフトしているのが今の現状だと思います。

 ネット普及で収益が激減したメディアは、本来主流だった費用の掛かる調査報道を以前よりしなくなり、ネット上に流れる情報の2番煎じのようなニュースを垂れ流し、同じような報道が急増しています。

 それにCNNが4年前の大統領選でクリントン候補に当確を出し、予想を外したようなことが大手メディアで多発し、多くの人々は既存メディアよりSNS上で自分と似た考えの人のブログなどを読むようになり、メディアの信頼性は地に落ち、そのメディアはSNSを見ながら報道するようになりました。

 それに情報収集は、その情報を必要とする主体が自ら収集しなければその主体に有益な情報は得られません。東日本大震災の時にフランスで日本のNHKのニュースを流していましたが、それではフランス人が知りたい情報にはなっていません。ましてやネット上に行き交う情報のコピーアンドぺーストではいい加減な情報しか得られていません。

 そうなると証拠もない陰謀説やフェイクニュースが氾濫し、ますます、世論は迷走し、その隙をついて世論誘導を画策する権威主義国がSNS上で言論操作を行う行為も急増させてしまいます。

 このままではうつろいやすい感情に左右されるポピュリズムはさらに台頭する状況です。今はジャ−ナリスムが信頼を取り戻すのが急務で、SNSに左右されることなく、裏どりし確たる証拠を示し、客観性を確保しながら、正義や良識を守ることが急務と思われます。

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 日本では政府が出した緊急事態宣言について、その是非をめぐり、ハチの巣をつついたような議論がされています。「遅すぎた」「出す必要はあったのか」「効果は検証されていない」など事態が危機的状況なだけに、押し寄せる感染と経済の両面の危機の中、不安は広がる一方だと思います。

 ここで未だに議論に出てくるのは「日本は世界から見れば感染者数は少ない」「日本は国民の良識が高いので真面目に国の方針に従うので感染は他の国より要請レベルでも抑え込めている」などの言説です。その一方で「菅政権は地方自治体と連携していない」「迷走が激しい」という批判も起きています。

 リスク及びクライシスマネジメントで25年以上、南ヨーロッパ及び、北アフリカの分析官を務めてきた私からすれば、危機に直面した場合のマネジメントで、日本は2つの致命的問題が露呈していると考えられます。

 問題を整理する上で、結果論だけでいえば日本は感染拡大を抑制できている優等国です。しかし、その事実が逆に核心的問題を見えなくしているのかもしれません。むしろ、その致命的問題を抱えながらも感染が抑えられている好条件に感謝すべきでしょう。

 その好条件は例えば、水際対策が容易な島国であるということです。ヨーロッパではイタリアで感染者が大量発生しましたが、フランスが国境を閉鎖しても、スイス経由、ドイツ経由など、陸続きでいくらでも感染者がフランスに入ってきていました。同じ島国の英国は大陸とトンネルで繋がり、毎日大量の物流があり、その物流を止めることは日常生活に深刻な影響を与える状況でした。

 無論、他の条件としては日本人のもともとの衛生観念の高さ、手洗いやうがい、マスク着用も習慣化しています。フランス人の7割がトイレの後に手を洗わないなどともいわれていました。下水道のインフラ整備も世界有数です。

 さらに言えば、感染の原因となる人と人との濃厚接触がもともと少ない国民です。欧米であればキスやハグ、握手は日常です。身体接触は人間関係を構築する重要な要素です。さらに飛沫についても日本語は飛沫が飛びにくいわけですが、ヨーロッパの言語は総じて飛沫が飛びやすく、大声ではっきりと発音しなければ通じません。

 菅首相のように論理性のない声明を日本人でも聞き取りにくい日本語で話せば、飛沫も飛びにくいでしょうが、そうはいかない言語も多いということです。

 日本は好条件に恵まれ、確かとはいえませんが、どうやら東洋人は白人や黒人に比べ、感染率、重症化率が低いとかというデータもあるようで、その意味でも守られているのかもしれません。そこに全体に従順に従う日本人のメンタリティも大いに貢献しているということでしょう。

 しかし、コロナだ毎日、人が死んでいる現実は他の国と同じで、世界一といわれる医療体制もひっ迫しています。そこで露呈したのが2つの問題です。2つとも有事で最もカギを握る統治権限を持つ政府の問題です。

 1つは意思決定プロセスです。日本は日本の物事の決め方があるといいますが,平時と違い、有事の意思決定は日本特有などというものはあまり存在しません。75年間も有事がなかった日本は他国の紛争にも軍事的介入はしていないし、有事という言葉すらタブーです。

 しかし、コロナ禍は明らかに人の命を危険にさらす安全保障上の有事です。それも危機は起きているわけですから、クライシスマネジメントです。そこで最も重要になるのは世界のどこであったとしても文化や慣習が違ったとしてもリーダーシップです。

 リーダーシップの核心は意思決定です。最終意思決定権者は誰で、誰が責任を負うかです。つまり、権限と責任の明確化です。現在、ビジネスの世界でも複雑化と高い専門性が進む中で意思決定に複数の人々が関わるのは常識です。だとしても最終決定権者は1人です。

 日本は民主主義を勘違いし、権力者個人の暴走を許さない方に意識が行きすぎて、権限も責任の所在もはっきりしません。なぜ意思決定者は個人なのかと言えば、そのポジションに立つものでしか見えていない風景があるからです。その立場でしか見えないものがあるということです。

 有事では「落としどころを探る」スタイルの意思決定は通用しません。トップリーダーに専門知識がないとしても、総合的判断はその人物しかできません。失敗すればトランプ米大統領のように選挙で再選はされません。まして有事に保身に走る政治家は最低の政治家です。

 有事のクライシスマネジメントでは、リーダーが明確なメッセージを国民に出すことが求められます。そのリーダーが記者会見で原稿を読んでいるようでは危機を管理できません。自分の中で論理的にも科学的にも明確な結論を出しているのであれば、頭にあるはずですから原稿は必要ありません。

 このメッセージ、つまりリスクコミュニケーション力が2つ目の日本の問題です。意思決定権者でなれば、誰が読んでもいい原稿を読むようなメッセージしか出せません。国民の心に響くことも政府の方針の意図を納得させることも難しいといえます。

 政治家がいつもどこを向いて政治を行っているかも露呈します。官僚と族議員、圧力団体を向いて政治を行う自民党のトップは、国民の共感を得ることができるような言葉を持っていません。偉い専門家の先生の意見に従ったので決定は正しいといわんばかりのメッセージになってしまっています。

 リーダーシップとリスクコミュニケーションの問題の背景には、何の法的拘束力のない特別措置法があるわけですが、その問題も深刻に受け止めないで改正せず、10か月が過ぎようとしています。問題の核心が十分に理解されていないからでしょう。

 すでに好条件に恵まれているのですから改善すれば、日本はさらに大きな成果を出せる話ではないでしょうか。

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 ポピュリズムは一般的にネガティブに捉えられることが多いわけですが、その理由は移り変わりの激しい国民感情に支えられているからです。本来、民主主義は高い国民の良識に支えられてこそ、うまく機能するわけですが、不満を持つ一部の有権者が大きな変化を望み、強権的指導者に期待する傾向があるのも事実です。

 アメリカのトランプ大統領のみならず、英国のジョンソン首相、フランスのマクロン大統領など先進国でもポピュリストといわれる指導者が登場しています。外交より内政で人気のある政策を打ち出す傾向があると同時に、敵を明確化し「勝利」という言葉を多用し、闘志をむき出しにする傾向があります。

 共産主義も当時、王侯貴族に変わり台頭していた新興ブルジョワジーへの下層労働者の嫉妬と不満の受け皿として社会変革運動が起きました。当時のヨーロッパは非常に明確な階層性があり、高等教育は1部の富裕層のものでした。私はこの階層性を30年前にフランスに住むまで日本で感じたことはありませんでした。

 大学の授業料まで無料にし、誰もが大学に行ける環境は30年前、フランスには整っていましたが、労働者階級には子供を大学にやろうという意識も希薄でした。私のフランス人妻の弟の一人は大学には行っていませんが、大手保険会社の支店長として長年過ごしました。あまりにも高等教育を受ける人間が少なかったのが幸いしたといえます。

 一方、ポピュリズムは新興国、途上国では一般的で、たとえばタイの初の女性首相だったインラック氏は、人口の7割を占める農民の支持を取り付けるため、首相時代に高値で大量のコメを買い付けました。ところが世界最大のコメ生産国だったタイは、インドなど他国のコメに押され、価格が急落し、農家から買った以上の値段で輸出できなくなりました。

 ポピュリズムは一部の常識のある一般有権者より、大量に票を獲得できる数の多い農民や労働者に受けのいい政策を打ち出すことで支持を得るのが一般的です。この手法は先進国も同様で選挙を請け負う専門会社は大衆心理を徹底分析し、その結果、ポピュリスト指導者が選ばれるケースも増えました。

 SNSに世論が左右される時代、知性と豊富な知識、冷静さよりも一挙に不満を解決してくれる強権的指導者を好む傾向は、ますます高まっています。しかし、彼らは実現に無理のある政策を掲げがちで、結果を出せなければ、支持率は急落します。目を見張る盛り上がりはあっても冷めるのも早いのも特徴です。

 日本で「自民党をぶっ壊す」といって首相になった小泉氏は、日本では珍しいポピュリズム的政治家ですが、日本では合意形成型の意思決定が一般的なので強権的指導者は出にくいのも事実です。同時に戦後75年以上、社会の階層性をなくしてきたために、日本は世界一労働者の質が高いことが経済発展を支えてきました。

 無論、バブルがはじけ、冷戦が終結し、低成長時代に入ってから一部の勝ち組と負け組が目立つようになり、子供の給食費も払えない貧困家庭も出てきて貧富の差が広がっているのも事実です。コロナ禍でその差はますます広がっていきそうです。

 いずれにせよ、世界で常識の社会の階層性は日本では希薄なので、ポピュリズムが育つ環境がないともいえそうです。海外で生活する日本人は、この階層社会(といっても中身は日々刻々変わっていますが)を理解する必要があります。新聞メディアも想定読者が階層で分かれたりします。

 コロナ禍で霧が立ち込めたような状況の中、その霧を晴らしてくれる強力な指導者を求める傾向があります。人はいつでも救世主を求めるものですが、すべての問題を解決してくれる救世主がいないので民主主義の合議制でなんとかやっていこうとしているわけです。

 その民主主義を強化するためには階層性をなくし、なるべく多くの人々が教養と良識を備え、自分で考え自分で正しい判断を下せる人間を増やす以外にいい方法はありません。人の良識を育てるには内省を習慣化する宗教も重要です。その判断力が国民に備わってこそ、権威主義、独裁主義に勝てるということだと思います。

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