安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 私の母が18歳までいた中国は、議論を戦わせることが好きな国だったと子供の頃から聞かされてきました。無論、満州での話なので広い中国では多様な国民性もあると思いますが、路上で中国人同士の論戦が始まると人だかりができ、最後は勝敗を決めて終わるのが常だったといいます。けっして手を出すケンカはしなかったといっていました。

 理屈にこだわり、自己主張が強い中国人をまとめるのは容易なことではないはずです。文革の失敗で改革開放に舵を切った中国ですが、天安門事件から今日の香港支配強化の政府のやり方をみると、「もう中国は共産主義ではない」という人も多い中、言論統制には非常に敏感です。

 今でもNHKのニュースで中国共産党に都合の悪いニュースになると途端に画面は黒くなり、グーグルを追い出した中国では自由な検索はできず、中国政府が最も神経を尖らすのは言論です。日系企業が大挙して進出している中国ですが、外国人駐在員が最も注意すべきは言論の自由がないことです。

 この言論統制には宗教も大いに関係しています。昔日本でもキリスト教は天皇を中心とした国体を脅かすとして禁教令が出され、改宗しない者が処刑された歴史があります。言論に影響を与える宗教にも中国政府は神経質です。新疆ウイグル族の弾圧も分離主義への警戒感からです。

 いずれにせよ、香港の民主化議員を国安法に違反したとし解任し、民主活動家の周庭氏や黄之鋒氏ら3人は香港警察本部への抗議デモを巡り、無許可集会扇動罪などに問われ、司法の判決を末段階ですが保釈は認めませんでした。

 体制維持のための言論封殺は、左派のお家芸ですが、世界は今、リベラル派と保守派の分断が進み、リベラル派はリベラル派のメディアやSNSしか見ず、アメリカでは保守派もたとえば親トランプ派はリベラルメディアをフェイクニュースと批判し、リベラル派はトランプ攻撃に余念がありません。

 優勢が伝えられる民主党のバイデン氏は選挙期間中、何度も国の分断を終わらせると主張しましたが、負けを認めないトランプ氏に対しての批判を強める一方で、反トランプ陣営にトランプ嫌悪を蔓延らせていますが、その態度で大統領に就任後、国を一つにできるとは到底思えません。

 トランプ大統領の口汚い言い回しやメディア批判は確かに問題ですが、実はメディア不信はトランプ氏がもたらしたものではなく、もともとはリベラルメディアが議論を封殺したために起きた問題です。たとえば環境問題やLGDTについて、リベラル派の手法は議論させないことです。

 LGBTに対してさまざまな意見があってしかるべきですが、答えは一つしかないとして、たとえば同性婚の合法化に反対する勢力は邪悪というレッテルを貼り、ヒステリックに攻撃しています。公正な議論の場であるはずのメディアもSNSも最初の結論ありきで反対意見をのべれば恐ろしいバッシングに遭う状況です。

 最初に中国の例を書いたのは、今の自由主義国の中でも正常な議論ができない環境ができてしまい、トランプ氏がフェイクニュースと口をついて出るのも当然なほど、見えない言論統制が行われているようにしか見えません。保守系、リベラル系がはっきりしているアメリカなどは、本来、イシューごとに互いの違いと一致点を公正に議論する場があったのが、今はありません。

 これでは17世紀、18世紀のヨーロッパで始まった啓蒙運動をもう一度起こし、自由に意見をいい、議論する環境を取り戻さないと民主主義は危機に陥るしかない状況です。

 SNSの登場で既存メディアへの信用度はがた落ちになり、民主主義は大きく変容しているように見えますが、変わって登場した「共感」は、リベラルと保守に色分けを加速させているように見えます。共感するグループは共感しないグループとの正面からの議論を避け、嫌悪だけが拡がっています。

 これは事実を慎重に調べ上げ、公正さを持って情報を伝える既存メディアが民主主義を維持、成熟させるためにも再登場する必要がありますが、スポンサーがマーケティング優先でビジネスを行う企業なために「売れる情報」「売れない情報」に走っていく傾向があります。

 たとえば米ニュース専門TVのCNNは4年前の選挙で強烈にクリントン候補を後押し、クリントン氏敗北の後には反トランプを徹底することで視聴率を上げた経緯があります。これはトランプ特需といわれ、4年間は徹底してトランプ批判を展開し利益を上げてきました。

 こうなるとトランプ支持者はCNNを見ません。マーケティングとしてはターゲットを絞り込んだ差別化手法でビジネスとしては正しいというかもしれませんが、政治は違います。何がベターな選択かを常に議論する必要があり、少数意見でも有用なものはたくさんあります。

 その意味で一見、自由に自己主張ができる自由社会にも、議論させない共感だけを強要する風潮が蔓延っているように見えるのは私だけとは思えません。

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 異文化理解はグローバル化が進む中では重要ですが、最も注意すべきは相互理解を妨げる偏見や固定観念に繋がることです。新型コロナウイルスの正体が未だに正確には判明していない中、各国、各地域で対策に取り組んでいますが、文化の違いはどの程度感染拡大に影響しているのでしょうか。

 無論、感染症と文化の関係は、それほど科学的に研究されたことがないため、文化や民族研究を身ながら推測の域を出ない話ですが、たとえば、世界一人間同士の身体的距離が近いといわれるインド、パキスタン及び周辺国の人々と密の関係はどうなのでしょうか。

 このブログで過去に多少言及したことがありますが、異文化で協業するために大切なことに自己開示と人との距離というのがあります。アメリカの文化人類学者のエドワード・T・ホールの研究で明らかになっているパーソナルスペース、対人距離は参考になります。以下の通りです。

<4つの距離帯>
1、密接距離:0cm〜45cm・身体に容易に触れる距離(家族、恋人など親しい間柄)
2、固体距離:45cm〜120cm・2人が共に手を伸ばせば相手に届く距離(友人同士)
3、社会距離:120cm〜350cm・身体に触れることは出来ない距離(仕事関係など)
4、公衆距離:350cm以上・講演会や公式な場での対面のときにとられる距離
 
 これはアメリカ人を中心とした平均値で、この他に人種や民族でのパーソナルスペースの違いも指摘されています。それは以下の通りです。(欧米人の対人距離が最も長い)

異文化対人距離 欧米人>日本人>中国人>アラブ人>地中海地域>中南米>インド人

 たとえば、ヨーロッパ人と一口に言っても人口密度との関係もあります。フィンランドはヨーロッパで最も人口密度が低い国でオランダなど高い国に比べれば、日常生活でパーソナルスペースは広いといえますが、完全に比例しているわけでもありません。

 世界的に見て比較的人口密度の高い日本は中国の倍以上の人口密度ですが、日本人の方が対人距離が広い例もあります。では、このパーソナルスペースと新型コロナの感染率の関係はどうなのでしょうか。つまり、感染が「密」状態と関係しているとすれば、インドはアメリカより深刻な結果になるのでしょうが、そうともいえません。

 では、マスクはどうでしょうか。実は私自身も、この30年間ヨーロッパにいたことが多かったのですが、よく彼らはマスクの習慣がないといわれます。それはその通りですが、文化的側面も影響しています。それは相手を敵か味方か、危険はないのかを本能的に判別する心理状態にあります。

 この2000年間、対立と闘争に明け暮れ、国境の位置が激しく変化したヨーロッパでは、自分のアイデンティティを明確にするだけでなく、相手への不信感や警戒心は非常に強く、結果、相手を判別することは重要です。通りを歩いていても顔は分らない状態はストレスを与えます。

 その結果、イスラム教徒の女性がブルカやチャドルなど顔を全面的に覆う衣服を着用して町を歩く姿は相手を判別できないだけに脅威です。マスクにも同じ影響があり、それは本人たちが気づいているかどうかは別に日本人よりはストレスになっているはずです。

 異文化コミュニケーションの観点からいえば、自己表現に非言語の身体表現を多用するローコンテクストの欧米人は、マスクで自己表現が半減し、相手の感情も読みにくくなることは、コミュニケーション上、重要な障害になっています。顔の表情がコミュニケーションに重大な影響を与えない東洋人ではダメージは少ないといえます。

 さらに握手ができない、頬にキスができない、ハグできないのも人間関係に大きな影響を与えています。リモートワークもそうですが、身体接触は重要なコミュニケーション手段だけに、人との距離を取ることを強い、身体的接触を禁じることはかなりの試練です。

 それと個人主義からいって、マスクは人にウイルスを移さないためと公共マナーをいわれても、なかなかです。個人の自由を何にもまして重視する人々にとっては、マスク着用にも選択の自由があるはずというわけです。欧米諸国でマスク着用の義務化に反対するのは当然ともいえます。

 一般的な個人主義は、個人の自由と権利を最優先に考え、それが他人の自由や権利を侵さないように公共のマナーが存在しています。マスクは個人の自由や権利をかなり制限するマナーなので、集団主義、家族主義的な共同体重視のアジアと比べ、受け入れるのは簡単ではないということになります。

 これがマスクはウイルス感染を防ぐ効果があることが科学的に証明されれば、抵抗なくマスクをするかもしれませんが、今のところ、自分のウイルスを他人に感染させる抑止効果しか科学的に説明されていません。西洋人は鼻が高く鼻の穴が細長いので、マスク着用は苦しいという側面もあります。

 政府のいうことに従順に従う国民性があるかないかも注目点です。ヨーロッパでフィンランド人は政府の支持に従順に従う国民性があるといわれ、感染率も低いという現状があります。アメリカ人は州政府や自治体のいうことにも従わない傾向があり、南米はそれがさらにその傾向が強いといえます。

 無論、この点では独裁国家は有利です。北朝鮮では感染者は殺処分されているという話もあるくらいで、中国は感染を強権を使い、強引に抑え込んだ実績もあります。

 最後に不確かな状態に感じるストレスの度合の違いも免疫力という意味で健康リスクと関係があります。これはホフステードというオランダの学者の調査で分かっていることですが、不確かな状況に強いストレスを感じる代表選手は日本人です。ドイツ人やフランス人も不安を感じる方です。

 逆にあまりストレスを感じないといわれるのがアメリカ人、中国人、英国人などです。不確かな状況が特徴のグローバル化に危機感やストレスを感じない分、向いているといわれています。

 しかし、その問題とコロナの関係は不明です。たとえば不確かな状況に強いはずの中国人は、命に関する危機には非常に敏感です。武漢でウイルス感染が拡大した時、ロックダウン前に日本に脱出した中国人もいたほど行動は迅速です。東日本大震災で日本在住の中国人が日本を脱出するために再入国許可のスタンプをもらいに出入国管理事務所に殺到したのも有名な話です。

 同じ不確かな状況にストレスを感じにくいアメリカ人は、コロナウイルスの感染拡大が深刻でも国外脱出はおろかマスクをしなかったりして中国人のような行動はとっていません。

 今のところ、文化や国民性が新型コロナウイルスの感染にどのような影響を与えているかをデータ分析する研究はありませんが、コロナ禍はその違いをあぶり出しているように見えます。

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 フランスは2022年に次期大統領選挙を迎えます。1年以上前の世論調査で大統領候補で最も高い支持を集める人物が当選するのは稀な国ですが、今回、名前が浮上したのはフランス軍の最高司令官だったピエール・ドゥビリエ将軍です。

 ドゥビリエ氏が軍トップを辞任したのは2017年、マクロン氏が大統領に就任草々の頃でした。国防予算の大幅削減を迫る若干39歳の元銀行家の新大統領に対して、ドゥビリエは強く抵抗し、結果的にマクロン氏の決めセリフとなった「決めるのは私だ」「私はあなたの上にいる」が決定打となり、辞任しました。

 最近の著書『フランスの修復』の中で「軍隊と警官の数を減らした政治的近視眼」「悪名高い怠慢」とマクロン氏を非難しています。対立が起きてすぐにドゥビリエ氏は将軍を辞任しました。第5共和制始まって以来将軍の辞任は初めてのことでした。「私が愛するフランスの現実を見て傷ついた」と著書に書いています。

 辞任後はコンサルティング会社で長年の軍の経験からリーダーシップやリスクマネジメントを指導し、人材育成でも活躍しています。

 実は兄、フィリップ・ドゥビリエ氏は保守派の国民議会議員で、兄弟ともに人気がありました。兄は地元のヴァンデの町おこしで、フランス大革命に最後まで抵抗した「ヴァンデの悲劇」をスペクタクルにし、テーマパークを作った人物で、左派が賛美する大革命に批判的な保守派の中心人物の一人です。

 兄弟ともに自分の意見を歯に衣を着せず話すタイプですが、弟のピエール氏は、1975年に19歳でサン・シール陸軍士官学校に入学し、卒業後は軍歴を重ねながら、学ぶことにも余念がなかったそうです。2004年に首相の軍事スタッフ副長官を務め、2005年に准将に昇進しています。

 2006年12月から2007年4月まで、アフガニスタンの地域司令部を指揮し、15か国からなる2,500人の兵士を率い、 2008年にはフィヨン首相(当時)の軍事部門の長であり、2010年に陸軍少佐に就任した後、2014年2月15日にフランス軍の総司令官に就任しています。特に2015年以降、イスラム国(IS)に対する攻撃を担当しました。

 軍のトップに期待されるのは、リーダーシップです。状況把握能力、分析力、判断力、決断力、実効力は必須事項です。同時に兵士の命を預かるものとして、兵士の忠誠心や組織の意思決定、チームワークを司る能力が必要です。

 現時点では、ピエール氏本人が次期大統領選に立候補する証拠はないと、彼の出身地の地元紙ウエスト・フランスは書いています。いわば、保守派有権者のラブコールの次元です。しかし、支持率で苦戦するマクロン大統領が左派にすり寄っている今、保守には魅力的な候補者が必要です。

 ドゥビリエ氏は、3冊の著書の中で国に奉仕したいとの思いは認めています。「私は43年間、国に奉仕した。自分の軍の経験を国の奉仕​​と国の統一のために役立てたいと思っている」と書いています。ドゥビリエ氏のような人物に注目を集まるのも中道のふりをしながら左派にすり寄るマクロン氏の不人気に呼応する動きといえそうです。

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 香港政府が、中国政府の新たな基準に従い、民主派の議員4人の資格を失効させたことについて、アメリカやイギリスなど5か国の外相が「香港の高度な自治をさらに損なうものだ」という強い懸念を共同声明の形で表明し、議員資格の失効を直ちに取り消すことなどを求めました。

 香港政府は今月11日、中国の全人代=全国人民代表大会の常務委員会が決定した新たな基準に基づき、香港の議会に当たる立法会で政府に反対する立場の民主派4人の議員資格を失効させ、これに抗議する形で民主派議員全員が辞職して抗議しました。

 これは香港が英国から中国に返還後、国際法上守ってきた一国二制度の完全な終わりを意味するものとして、国際社会も強く非難していました。香港政府は合法と主張し、中国政府報道官は非難に対して再び「内政干渉だ」と繰り返しました。

 興味深いのは、今回共同声明を出したアメリカ、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国は、通称アングロサクソンの国です。それも英国を起点とし、他の4カ国は多文化共存主義を掲げる移民によって人口的に作られ、自由と民主主義、法治国家を基本的価値に定める国々です。

 今回の共同声明で「香港の高度な自治や権利、そして自由をさらに損なうものだ」として強い懸念を表明し、一国二制度を完全に終わらせようとする中国政府の動きに対して、香港の自由を支持する5カ国「ファイブアイズ」がウォッチしていることを明確にしました。

 フランスにいると、アングロサクソンという言葉をよく聞きます。たとえばリーマンショックの2008年、不良債権化したアメリカの住宅のサブプライムローンが世界の金融機関に深刻なダメージをもたらした時、フランスのメディアは「アングロサクソンが世界経済を破壊する」と報じました。

 サルコジ政権の時に自由主義経済化を進めようとした時にも「アングロサクソンの経済システムは危険だ」などという批判が起きました。19世紀に環大西洋同盟の中核をなしたのは米英です。この特別な関係の下にかつての大英帝国、今の英連邦であるカナダ、オーストラリア、ニュージーランドがあります。

 フランスは、このことに時として「アングロサクソンの野望」といってみたりするほど対抗意識を持っています。無論、5カ国の実情は簡単にアングロサクソンの国とはいえない状況ですが。ポストコロナの時代に差し掛かる今、体制と価値観を完全に異にする中国の台頭に対して、特に香港問題で結束して取り組む姿勢を鮮明にしました。

 共同声明では「香港の安定と繁栄のためには、人々が正当な懸念や意見を表明するための手段を尊重することが不可欠だ」として、民主主義の根幹をなす言論の自由を弾圧する中国政府に対して「香港の立法会に対する行動を考え直し、議員を直ちに復職させるよう強く要求する」としています。

 香港は今、国内で共産党政府の基盤強化と覇権を強める中国と自由世界の主戦場になっているといえます。懸念を表明した5カ国の中にはオーストラリアやニュージーランドのように中国との経済依存度の高い国もあり、いわばファイブアイズに加わるのは相当な覚悟の現れです。

 アメリカのトランプ政権は対中強硬姿勢で知られていましたが、ビジネスマン出身のトランプ氏はなんでもディールで問題解決しようとしたため、中国にとってはやりやすい面もあったと思われますが、原則論重視の米民主党が政権を担えば、ディールなしの容赦のないイデオロギー闘争になる突入する可能性もあります。

 その時に存在感を表すのがアングロサクソンの5カ国です。すでに経済専門家の間では、米英がポストコロナの平和と安定に果たす役割の大きさを期待する意見が出始めています。

 仏独はアングロサクソン・グループの動きに対して様子見の構えで、ドイツは及び腰です。饒舌な中国がなんの説得力もない多国間主義を唱える今、その言葉に騙されやすい仏独は役に立たないとアングロサクソン勢力は見ているのかもしれません。

 これに対して、中国を最大の貿易相手国とする日本は、どう対処するのかが注目点です。果たして今後も対立する2つの勢力の仲介役を務めていくつもりなのでしょうか。それは失敗すれば両方から信頼されなくなり、敵にしてしまうリスクもあります。

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 新型コロナウイルスの大流行で、世界各国政府にとって、今や最も深刻な課題になっているのが、国民に対策をどう理解してもらうかです。狼少年の話にあるように、本当の危機が訪れるまで嘘をつけば、本当の狼が来た時に人々は深刻に受け止めず、最悪の事態に陥ります。

 企業も悪自体に見舞われた時、パートナー企業や顧客への伝え方には頭を悩ますものです。社内で不正会計が発覚したり、コロナ禍でサプライチェーンが寸断され、納期を守れないとか、顧客の個人情報が大量に漏洩した場合に、会社は伝え方を間違えると致命的ダメージを受ける可能性もあります。

 悪い情報を伝える場合、大きく分けて3つのパターンが考えられます。一つは、たとえばトランプ米大統領が今年1月、非常に危険な新型ウイルスがアメリカに流入した情報を専門家から得た後、国民がパニックに陥らないよう本当の深刻さを伝えなかった例があります。

 人間は悪い情報に過度の反応を示し、冷静さを失う可能性があり、それがさらなる悪影響を与えることを配慮するというものです。癌のステージ4を本人に伝えるかどうかで意見が分かれるのも、パニックに陥れば免疫力が落ち、しんこうが進む可能性をどう扱うかは悩ましいところです。

 2つ目は、なるべく正確に悪い情報の中身を伝えるべきという意見です。包み隠さず本当のことを相手に伝えることで危機的状況を共有し、そのリスクの対応策も示していくというものです。日本的には誠実さを表すものですが、そのリスク情報に社内的ミスが伴うと信頼を失う可能性もあります。

 さらに悪い情報をそのまま伝え、問題解決に時間が掛かる場合、警告の効果が狼少年の話のように薄まったり、警告に疲れが生じ、信頼関係を失うリスクもあります。たとえば、誰が取り組んでも困難なコロナ対策で悪い結果が出れば、政府や専門家が批判され、信頼関係が失われる現象が実際起きています。

 3番目の傾向は、日本で特に起きやすいのですが、悪い情報を隠蔽することです。伝えることで自分が不利になる可能性が高い場合、保身から情報を隠蔽してしまうことです。たとえばギリシャの財政危機は、膨らんだ財政赤字を政権が長期に隠蔽した結果起こり、その影響は欧州連合(EU)どころか世界のユーロ不信を生みました。

 不正会計、製品の検査の不徹底、不良品隠しなど、悪い情報の隠蔽は通常、結果として全体に深刻なダメージを与えます。政治家は発覚しなければ墓場まで悪い情報を持っていくといわれますが、信頼関係に深刻な亀裂を生じさせるものです。

 これら3つの伝え方から、何を選択するのかが判断の分かれるところですが、当然ながら、今では隠蔽だけは避けるべきという意見が大勢を占めています。その上で国家も企業も自社の顧客に対し、判明したすべての潜在的リスクについて、どう警告するは非常に大きな課題です。

 心理学的には人は未来の確実性を求める傾向があるため、不確実な状況は苦手です。パニックを引き起こすのもそこから来ています。通常、リスクマネジメントをしっかりやり、危機に直面しても問題解決の意思決定や方法を準備していれば、多くの不確実には対処できるようになっています。

 同時に警告方法も進化しています。台風到来時、災害経験から日本では今、リスクの段階基準を単純化し、たとえば「100年に一度の豪雨」などという表現を使って警告しています。この場合はリスクの深刻度を伝えやすくし、次ぎの行動も示唆することで被害を最小化しようという試みです。

 最近増えるパソコンからの情報漏洩では、増えるリモートワークで自分のパソコンが会社のパソコンと繋がっていることで、IDやパスワードを盗むサイバー攻撃のリスクが高まっているといわれています。これを伝えるために空の情報でハッキング対策を行わないパソコンを使用した実験で、数時間の間に13,000件の攻撃を受けたデータが公表されています。

 その情報はリスクマネジメントに効果的情報です。しかし、問題は起きたクライシスへの対応です。100万人分の個人情報を盗まれた場合、全体の何%に被害が出るかというデータは、不確実な状況に確実性を与えるものです。

 多くの場合、企業は個別にダメージコントロールを行い、情報は公開されないままになるケースは少なくありません。ところが組織的に見ると、その隠蔽は他者との信頼関係を傷つけている場合は少な炒め、別のリスクに発展する可能性もあります。

 日本人は場当たり的対応と隠蔽が得意ですが、長い目で見れば発展を妨げる要因になりかねません。大切なことは、会社や組織が評判を落とすことに対処するより先に、顧客が不確実な要素について理解し、適切なリスク対処に動けるよう、必要な情報を提供することです。

 つまり、短期的危機回避と長期的危機回避を慎重に検討し、あくまで事態打開の新たな目標設定を行い、正確な情報と解決策を相手に提示することです。その時に自分たちでできることと自分たちがコントロールできないことを仕分けすることも重要です。

 その場合、つまらない虚勢や保身で評判ばかりを気にすることは排除する必要があります。リスクマネジメントに与える悪影響のほとんどは、人間自身が与えているといわれているからです。

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    WSJが紹介したGMの宏光MINI

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)など複数のメディアが、中国で米自動車大手 ゼネラル・モーターズ (GM)の小型電気自動車(EV)が、EVで世界を席巻するテスラ のEVセダン「モデル3」を抜いて売れているというニュースを報道しています。

 GMの中国ブランド「五菱」が発売した「宏光MINI」は最高速度が時速100キロながら、4300ドル(約45万円)という低価格も後押し、広い層で好感され、販売台数でテスラを追い抜いているそうです。テスラが昨年、上海で生産を始めたモデル3が補助金適用後の価格でも約3万7600ドルと高額なことを考えると販売台数では不利です。

 これはターゲットを大衆層と富裕層に絞ったビジネス戦略の違いともいえますが、今までのGMを考えると風貌がアグレッシブでアメリカらしい巨大なSUV高級車キャデラック・エスカレードのイメージが焼きついていますが、宏光MINIはま逆です。

 世界の自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えています。世界の自動車業界を牽引してきたアメリカの自動車産業はリーマンショックの打撃からクライスラー、GMは経営破綻しました。現在、クライスラーはイタリアのフィアット・グループ傘下にあり、再建を果たしたGMも、かつて世界最大の自動車メーカーだったころの勢いはありません。

 1970年代、アメリカの自動車メーカーは高馬力、高出力のガソリンを振りまく車にのめり込みすぎ、低価格で故障しない経済的な日本車の追随で大きな打撃を受けたのは周知のとおりです。今は大変革期に、どれくらい先を見通せるかが勝敗を分けるといわれています。

 当然ながら、スマートシティをIT技術と繋がり、事故を最小化する自動運転で走るクリーンエネルギーのEV開発は、最も投資が集中する分野です。

 GMは今年4月、ホンダとの間でBEV(バッテリー電気自動車)の供給契約を結び、GMが開発したBEVプラットフォームをベースにバッテリーやアッパーボディをホンダと共同開発しています。GMの工場で生産したモデルをホンダ・ブランド車としてホンダに供給する流れです。

 GM子会社でEV開発分野を担当するGMクルーズには、ホンダだけでなくソフトバンクも出資しています。日米連合の進化、拡大が進められているということです。

 フォードも昨年、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)とバッテリー電気自動車(BEV)で連携し、車両共同開発に乗り出すと発表しています。昨年7月にはVWが開発した電動車専用のプラットフォーム(MEB)の提供が決まり、そこにスマート化に必要な異業種も加わっている状況です。

 今後はEV開発で連携する企業が資本提携にまで至るのかが注目されていますが予断を許さない状況です。いずれにせよ、古い頭ではこの変革期を乗り越えられないことは明白で、GMが小型で廉価なEV車を売り出したのは、その覚悟の現れなのかもしれません。

 中国では何百万人もの人々が、移動手段として車より電動スクーターを利用しています。彼らにとって小型EVは無理のないライフスタイルの変化をもたらしているといえます。

 かつてアメリカ市場で故障しない廉価な日本車が席巻したように、今は中国で廉価で安全性の高いアメリカのEV車が人気を集めているのは皮肉なことともいえそうです。中国政府が温暖化対策に本腰を入れ始め、後発メリットで世界最大のEV市場となる中、GMの成果は大きいといえます。

 アメリカが政権交代とともに環境問題に力を入れる方向性が見えてきました。次期大統領予定のバイデン氏は、民主党左派の影響力が増す中、クリーンエネルギー・気候変動対策の一環として、自動車業界で100万の雇用を創出すると表明しています。EV支援はその中心だと指摘されています。

 トランプ氏は自動車メーカーの要請を受けて燃費規制の緩和に動きましたが、多くの予想を上回る大幅緩和だったために混乱が生じ、加えて石油業界への配慮でEV化への支援が遅れた感があります。環境問題への取り組みは企業には負担ですが、混乱するより政府が明確な方向性を打ち出すことはビジネスにとっても重要です。

 バイデン氏は大統領選で再生可能エネルギーやEVへの支持を表明し、バッテリー駆動車向けの奨励金の増額や充電インフラの強化に大型投資を行う方針を示しています。ただ、政府の歳出には議会承認が必要で、口だけに終わる可能性もないとはいえません。

 ただ、企業自体は、世界各国がガソリン車の販売期限を切る方針を打ち出しており、大規模な自動車メーカーの再編も進んでいることから、環境問題や安全性を無視した政策も打てないのは確かです。

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 先月、スイス金融大手UBSと国際監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が明らかにしたのは、保有資産が10億ドル(約1060億円)を超える資産家、いわゆるビリオネア(超富裕層)の総資産額は今年、世界的な新型コロナウイルス危機にもかかわらず、過去最高を記録したことでした。

 恒例の調査報告ですが、コロナ禍で企業の倒産が相次ぎ、航空業界は大幅な人員削減を発表し、失業者が急増する中で、ビリオネアは増える一方という話です。

 報告書によると、世界のビリオネアは7月末時点で2,189人で、総資産額は約10兆2,000億ドル(約1,080兆円)。これまで最高額だった2017年の8兆9,000億ドル(約940兆円)を上回ったとされています。

 USBの分析では、今年の特徴として挙げられるのは、電気自動車テスラや民間人の宇宙旅行をめざすスペースX社を経営するイーロン・マスク氏を代表格に、テクノロジー、ヘルスケア、製造といった業界の「イノベーター(革新者)やディスラプター(破壊者)」の超富裕層が増えていることです。

 従来のエンターテインメントや不動産業界の超富裕層を数で上回りつつあると報告書は指摘しています。それもこの流れは、新型ウイルス危機によって加速しているというわけです。

 アメリカ的な資本主義の考えからすると、増え続ける超富裕層が、より贅沢な暮らしを望めば、彼らが必要とする豪邸や自家用ジェット、大型ヨットなどの贅沢品市場が活気づき、彼らが欲する新たなサービスが生まれ、彼らの資産運用を手助けする金融サービスも潤い、経済を押し上げることになります。

 超富裕層といわなくても、かつて高所得者だった年金生活者は、高額の年金と所有する資産が所得を産み続け、コロナ禍でもビクともしていません。彼らは外出禁止などでストレスが溜まり、ロックダウンが解除されると日頃より高級なレストランに行き、贅沢品の購入に余念がありません。

 薄利多売の商売をしていたレストランが、高級食材を扱う高級レストランに変身させたことで成功したなどという話も聞きます。フランスでは第1回目のロックダウンが夏のヴァカンス前に解除されたため、ヴァカンス先でレストランでいつもは注文しない高級ワインを飲み、デザートを追加し、例年以上に贅沢した人が急増したという現象がありました。

 今はネットでの買い物が増え、料理の宅配サービスも盛んに行われていますが、町をぶらついて目に飛び込んでくる店舗で衝動買いする機会は激減しています。いわゆる消費の断食状態は断食明けには一挙に消費が伸びるV字回復理論があるため、政府はコロナ対策で巨額の借金を重ねても大丈夫という見通しもあります。

 日本では「デフレ不況脱却と持続的な経済成長の実現」を政府は政策課題に挙げていますが、長期デフレ時代に一般庶民に身についてしまった低額商品に走る消費慣習にコロナ禍が変化を与えるかもしれません。というのもコロナ禍でもビクともしない富裕層は、過去以上に贅沢にお金を使い始めているからです。

 当然ながら、コロナ特需で超富裕層入りする人と、コロナ禍で職を失い路頭に迷う人の明暗がはっきりする時代に入っています。ただ、世界に2,000人しかいない極少数のビリオネアと、それに次ぐ富裕層を除けば、大半のサラリーマンや自営業者は足元に押し寄せるコロナ禍に抵抗する術もなく、戦々恐々としながら生きているのが現実です。

 問題は、富裕層に集まったお金が世界をどう循環するかです。新しいビジネスは新規雇用を生み、富裕層の贅沢志向は新たなサービス業を生み、寄付文化のある欧米の富裕層はメセナや困窮者救済の人道支援にお金を回すかもしれません。

 懸念は寄付文化の低いアジアにビリオネアが増える傾向があることです。Ultra high-net-worth individual(UNHW)というカテゴリーでは総資産額3,000万ドル(約34億円)以上を超富裕層人口と位置づけています。銀行が資産運用対象者にする人たちで、世界に約22万人、その総資産額は27兆ドル(3040兆円)といわれています。

 UNHWを地域別に見ると、2019年は北米、ヨーロッパ、アジアの順ですが、国別に見るとアメリカ、中国、日本、英国の順で特に中国富裕層の増加が顕著です。地域や文化によって富裕層のお金の使い方は違います。

 コロナ特需のIT企業経営者はお金を何に使うのでしょうか。ポストコロナは富裕層のお金の使い方も世界経済に大きな影響を与えそうです。

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 欧州連合(EU)は先週13日、オンライン形式で開いた内相会議で、域内におけるテロ防止策を協議し、イスラム過激派などの同校をより詳細に把握するため、域外との国境管理を強化する方針で一致しました。フランスやオーストリアでイスラム過激派によるテロ事件が相次いだことを受けた措置です。

 EUはこれまでも、テロリストの域内流入について監視し、加盟国同士が情報共有するよう努力していましたが、今回の協議で内相らは「明らかに改善の余地がある」との認識で一致しました。現実は新型コロナウイルス対策に重点が置かれ、テロ対策がおろそかになっている側面もあります。

 この10年間のテロ事件の新たな傾向は、困窮する環境で育ったホームグロウンのローンウルフ型テロリスト(単独犯に近い)が無差別テロを実行する例が明らかに増えていることです。つまり、当局が監視している危険人物同士の接触などテロ計画の事前察知できるテロではないことです。
 
 実行犯はいずれも若く、ネットや刑務所で過激な聖戦思想に看過され、監視リストにはない人物も多く、衝動的とも取れる行動でテロを実行しています。10月16日に起きたムハンマドの風刺画を生徒に見せた中学校教師を殺害したチェチェン人の18歳の男は協力者はいたものの行動は衝動的でした。

 シリアやイラク、リビアなどに潜伏する過激派組織は、ネットを利用して聖戦主義を広め、差別や貧困の逆境で生きる若者にテロを実行することを促しています。新型コロナウイルスの感染拡大の長期化でさらに窮地に追い込まれているマイノリティーの社会的弱者がテロリストになることは容易に想像できます。

 一方、新型コロナウイルスの再拡大が顕著なヨーロッパでは英国が死者累計が5万人超え、フランスやイタリアも今の流れだと5万人に近づいており、今年2度目のロックダウンに入っています。クリスマス商戦たけなわの時期のロックダウンが与える経済への影響は深刻です。

 フランスは死者や重症者の増加が止まらないことから、12月初旬までのロックダウンをクリスマス前まで延長する可能性にカステックス首相が言及しています。どの国もロックダウンがもたらす経済的ダメージを最小化したいところですが、ロックダウンそのものに国民が従わない現象も起きています。

 人の移動を止めればテロは起きにくいはずですが、今は外出許可証に数種類あり、散歩なら1キロ以内1時間はフランスでは可能です。通勤者も多く、地下鉄を狙ったテロも可能です。警察は外出禁止令違反者とテロリストを同時に監視しなければならない状況です。

 EUは年末に英国に離脱移行期間を終了します。難航する貿易協議で合意なき離脱の可能性もあります。合意したとしても今までどおり全てが同じというわけにはいきません。すでにさまざまな混乱が予想されており、この混乱もテロリストにもウイルスにも好都合です。

 個人的には、この逆境を乗り切るためにはEUの結束、リーダーシップは欠かせません。ところが議長国ドイツにせよ、前独国防相のフォンデアライエン欧州委員会委員長にせよ、危機を救うリーダーシップが発揮されているとは見えません。

 欧州全体は今後、イスラム教排除の動きからテロの季節を迎えるのは明白です。鎮静化したように見えたポピュリズムも健在です。ウイルス対策でEUとして足並みを揃えて対策に取り組むことはあまりしていません。やっと経済復興予算が決まった段階ですが、それでは足りない可能性が高まっています。

 アメリカの政権移行で希望が見えてくるかも疑問です。トランプ政権がアメリカ第1主義を抱え、欧州に圧力を加えましたが、実は民主党はもともと内政重視の内向きです。バイデン氏が世界各国との関係を改善したいといってもオバマ時代に外交をみると、けっして明るい未来があるとはいえません。

 それでも欧州には豊富な経験を持つ有能な人材が少なくないので、リーマンショックやギリシャのユーロ危機を乗り越えてきたように乗り越えられると見るのが妥当でしょう。明確な秘策があるとはいえませんが、逆境に直面するEUの真価が問われているのは確かです。

 一見衰退の一途を辿るように見える欧州ですが、悲観的になることなく危機をチャンスに変える若い人材にも期待したいところです。

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 日本ではかつて「想定外」という言葉が流行ったことがあります。今年、地球上の全ての人類を等しく襲った新型コロナウイルスは、まさに想定外の出来事でした。アメリカのトランプ大統領もコロナさえなければ大統領選で苦戦することはなかったでしょう。

 個人的に私はトランプ氏は、アメリカンドリームを追いかける大ギャンブル好きの典型的なアメリカ人だと見ています。何度も失敗を重ねながらも、70歳を過ぎても高い目標に向かって挑戦し続ける姿に勇気づけられる人は世界中にはずです。

 今回は、コロナ禍のカウンターパンチでノックダウン寸前です。それは想定外の事態に見舞われたからです。次元は低いのですが、最近、京橋で画廊を営む友人から聞いた話で、目の前に新たに建設されたホテルが今年、開業まもなくコロナ禍で、想定していた東京オリンピックも延期され、ホテルは閉鎖、建物ごと投機筋に売却されたそうです。

 友人の画廊はなんとかコロナ禍に持ちこたえているものの、周りで数軒が店をたたんだそうです。40年以上、銀座や京橋で店を営む友人の画廊で最近、40代の夫婦がホームページを見て来店し、モダンなインテリアのマンションに、署名な作家の高額の掛け軸を、さっと買っていったそうです。

 40代の夫婦と掛け軸の関係は、稀だったので驚いたそうですが、同時にコロナ禍でもビクともしない富裕層がいること、それも30代や40代で高額アートを楽しむ人たちがいることに時代の変化を感じたそうです。メディアにはなかなか乗らない話です。

 最近、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)の人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」に
「日産、コロナ禍の意外な勝者か」というコラムが掲載されました。ゴーン元会長失脚後の日産自動車が日本では赤字が膨らみ、苦戦状態を抜け出せないとの報道がありますが、同コラムはポジティブです。

 豪腕のゴーン氏なき後、日産は「危機から数年かけて回復する初期段階にある。ゴーン元会長は規模を重視し、販売目標を設定することでそれを達成した」、だが結果的に「利益を損なう結果となった。とりわけブランド価値は低下させた。ゴーン氏の指導下にあった日産とルノーは新たに「ボリュームよりバリュー」を掲げ、自動車価格と利益率の改善を目指している」と指摘しました。

 その上で「新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)で在庫が洗い出され、運転需要は押し上げられた。日産の自社とディーラーの在庫は9月末時点で53万台と、3月末の80万台から減少」「米国内の自動車価格が7-9月期に前年同期比3%上昇する追い風となった」と指摘し、日産に運勢が来ていると書いています。

 無論、今後、自動車市場がどうなるかは分かりませんが、個人的には日本の自動車メーカーが「ボリュームよりバリュー」に切り替えないことに苛立ってきましたので(それはソニーにもいえる)、適切な判断だと思います。時計や宝飾品なら貴族文化の伝統のある欧米にはかないませんが、自動車産業なら高級高性能は十分狙えるところです。

 政治もビジネスもギャンブル的要素が強く、運が味方するかどうかが成功を大きく左右するといわれています。たとえばフランスのサルコジ氏は就任時、高い人気を誇り、フランス人の多くが期待しましたが、リーマンショックに襲われ、金融機関救済のために公的資金を治安や雇用対策に使えなくなり、政権末期は支持率を下げました。

 リーマンショックは想定外の不運だったわけですが、金融界が抱えていた爆弾に誰も気づくことはなかったためにダメージも大きかったといえます。続くギリシャの財政危機もギリシャ政府が膨らむ財政赤字を隠蔽し続けた国民への背任行為が原因で、ユーロ圏は危機的状況に追い込まれました。

 その後、欧州はシリアやイラクからの大量難民が押し寄せ、財政も治安も圧迫しました。オバマ政権が本腰でシリア内戦に関与しなかったことで、過激派組織イスラム国が力を得たために難民が欧州に押し寄せたのに、今でも欧州ではオバマ氏が英雄視されているのは不思議です。

 世界には不確定要素が渦巻き、想定外のことが次々に起きています。そんな中で適切な判断をして次の有効な一手を打つことは非常に難しく、科学的に分析できないことで「運」という言葉が登場するわけです。個人的には人工知能(AI)が人類に最大限貢献するとすれば、予知能力だと思います。

 18世紀くらいまでは、予知能力は宗教に依存していました。西洋ではキリスト教、東洋ではヨガの行者が世界を予測する能力があるといわれていました。今は投資家が毎日の相場の動きに一喜一憂していますが、欧米のビジネススクールは成功例を分析し、そこに一定の法則を見いい出し普遍化することで「運」を科学しています。

 しかし、強運と思われるトランプ氏もコロナ禍には勝てそうもありません。ただ、非科学的な「運」であれ、科学的な分析による未来予測にせよ、逆境に勝つメンタルの強さが必要なことは明白です。それに科学的分析に、過去のいかなる時期より、グローバルな視点と多面的分析が必要なことは確かです。

 宗教を毛嫌いする人は、人間の霊感を信じる人はいませんが、女性には「女の感」というのもあります。トランプ氏の妻メラニアや娘イヴァンカが何をどうアドバイスしているかも興味深いところです。さらに岩盤支持層といわれた福音派にトランプを支持しなかった人がいることは何を意味しているのでしょか。

 それにトランプ政権は過去の政権が躊躇したイスラエルの首都をテルアビブからエルサレムに移すことを承認し、中東との関係強化を飛躍的に向上させたにも関わらず、アメリカの大統領選を毎回大きく左右するといわれる富豪の在米ユダヤ社会がトランプ氏への資金的支援をしぶった理由は何だったのかも興味深いところです。それも運と実力の範囲内で論じるのでしょうか。

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 アメリカ第1主義を掲げたトランプ大統領の登場で、グローバル化が抱える膳弱な側面が明らかになりました。同時に大国アメリカに頼り続けた同盟国は、アメリカに突き放され、関税や防衛費の増額を迫られ、日本や欧州はトランプ氏が主張する不公平感より、強圧的態度に不満を持ちました。

 しかし、アメリカから見れば、東西冷戦終了以降、経済力を増強してきたアジア諸国、中南米諸国が、未だにアメリカに多大な支出を強いているわりには、アメリカに対するリスペクトはなくなっている現状に不満も溜まっていたでしょう。単純な経済論理で安い労働力を求める企業行動にも問題がありました。

 ポンペオ米国務長官が説明する通り、冷戦後に出来上がった国際慣習の問題点をあぶり出し、正すことがトランプ政権の使命だったといえます。表面上は超ナルシストのトランプ氏の過激発言や、強引な同盟国への圧力のかけ方、虚勢を張る姿勢がひんしゅくを買い、評価が遠のいた感があります。

 一般的に20世紀の2つの大戦と冷戦を挟み、世界は環大西洋から環太平洋時代に入ったといわれていますが、識者の中にはポストコロナの世界を建て直すのは環大西洋の米英だと断言する人もいます。理由は自由主義、民主主義、法治国家の成熟度が世界で最も高く、世界秩序を建て直すには、この2つの国しかないという考えです。

 これは経済の専門家の中に存在する意見で、トランプ政権の4年間の教訓は冷戦後のグローバル化を膳弱にした中国やロシア、イラン、北朝鮮といった独裁権威主義国の正体をあぶり出したことでした。

 特に21世紀型の社会主義を標榜し、グローバル化を悪用し、実は覇権に余念のない中国は不当な方法で技術を盗み、富を蓄え、ウイルスのように蔓延ってきました。

 その意味でトランプ氏が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」というのは、医務は違いますが、あながち間違った認識とはいえないでしょう。フランスやドイツは多極化均衡論の多国間主義なので、ウイルス抑止には弱いので役に立ちませんが、米英ならウイルスから守れるというのも米英に期待する専門家の根拠です。

 中国に甘い日本は、日米同盟を重視しながらも、表向きは国連中心の多国間主義です。その点は欧州連合(EU)と価値観を共有し、バイデン前米副大統領にも近い考えです。バイデン氏の危険性は、パソコンでいえば悪意あるハッカー(悪)に対して非常に脆弱になる可能性が高いことです。

 仮にバイデン氏がアメリカ大統領になっても、対中国政策の強硬姿勢は変わらないとの見方が大勢を占めていますが、問題なのは多国間主義です。

 これまでの自由貿易などのルールを悪用してきた中国は、多国間主義なら、中国の民族弾圧や香港の一国二制度を骨抜きにし、周辺海域を軍事的に支配する強権外交への批判も、これまで以上に「内政干渉」で一蹴できます。

 国際ルールを守ろうとしない他国の行動に対して、多国間主義は制裁を与えることにも弱腰です。それは日本人が考えるより遥に世界に被害をもたらす可能性があるでしょう。

 問題なのは冷戦後の世界がグローバル化の美名のもとに、実は18世紀、19世紀の「支配するかされるか」という帝国主義時代の野蛮な意識しかない国が台頭してきたことでしょう。

 自由と民主主義の価値観のもとに自由貿易システムを構築してきた欧米大国は、世界がこれに追随するとの見方を持っていますが、それは錯覚であり、支配する者が最大限の利益を得るという考えを変えていない国は少なくないのが現実です。

 日本もその考えで明治維新以降、富国だけでなく強兵に走り、最後は痛い目を見て、覇権の野望は持たないと決めているようですが、欧州の帝国主義は日本と異なります。彼らは自らの理念を普遍的で正当性のあるものとして拡大した側面があるからで、そのこだわりは今も米英に存在しています。

 グローバル化は、その米英を弱体化させました。今、アメリカの巨大IT企業であるGAFAには、本来、米英が持っていたような信念や価値観はなく、ビジネスの論理だけで成長してきたものです。

 その典型はFACEBOOKの創設者ザッカバーグ氏で、4年前の選挙でFACEBOOKの政治悪用が問題になるまで「政治に意識がなかった」と公聴会で証言しています。彼らは多様性を重視し、多国間主義で多くは反トランプの民主党支持者です。

 差別を嫌う多国間主義や多様性は耳障りのいい言葉ですが、悪のウイルスが忍び寄ると大きな混乱が生じます。私個人もそうですが国際結婚と同じです。国際結婚は国境を越えて人類が一つになる上で価値あることですが、揉めると同国人同士より怒りと憎しみが拡がります。

 その対立が文化の違いによって生じるのか、それとも個人の問題なのかは見えにくく、あるいは当人が持つ譲れない価値観の問題なのか、見分けるのは困難です。つまり、国際結婚はうまくいけば、同国人同士では得られそうにない気づきや深い愛情を習得できますが、失敗したときの傷は非常に深いといえます。

 グローバル人材の育成やグローバルマネジメントのアドバイスを行ってきた私から見れば、グローバル化は非常に危険に満ちており、一歩間違えばカオスに陥り深手を負うことになります。その脆弱さが露呈し弱体化した例の一つが日産でした。

 トランプ政権4年間の最も大きな功績は、グローバル化に忍び込んだ仮面をかぶった悪のウイルスをあぶり出し、正面から戦ったことだと思います。強力なウイルス対策ソフトが投入されたようなものです。同時に自分の身は自分で守るという鉄則を世界は学んだはずです。

 つまり、グローバル化という前に国家も企業も自ら判断力を持つ自律性を持つことが大切だということです。アメリカはかつてのような圧倒的大国でもなく、民主党は特に世界に関心がありません。ポストコロナの日本は自立した独立国家として自ら考え、自ら判断して行動する必要があるだけでなく、企業もの同じことがいえます。

 長いものに巻かれろ、寄らば大樹の陰という日本の得意技は通用しなくなっています。トランプ政権4年間の教訓は、国際協調の前に独立国家として自律性を持つことの重要性だったと思います。

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 いよいよ英国は欧州連合(EU)離脱の移行期間を年末に終え、貿易協議が妥結するかしないに関わらず、EUを去ることになります。互いにタフネゴシエーターで知られる英国とEUは妥協する姿勢を見せず、今週、貿易協定の最終盤の交渉も難航し、来週に結論は持ち越されるとの報道がありました。

 英国は1国ですが、2016年からの離脱協議で何度も議会で協定案が否決され、今では合意した国際条約である離脱協定を骨抜きにする法案を与党が提出し、EUの怒りを買っています。

 英上院では同法案の目的が骨抜きになる修正を加え、賛成可決しましたが、ジョンソン英首相は下院での巻き返しを目指すと述べ、諦める気配はありません。

 一方、EU側は、バルニエ主席交渉官に権限を与え交渉に当っていますが、彼の背後には27カ国の合意が必要で容易ではありません。民主主義の手続きの煩雑さがブレグジットに露呈した形ですが、民主主義とはそういうものです。

 とはいえ、民主主義の意思決定の背後にある政治勢力は戦後、長い期間、保守とリベラルの闘いの構図が続き、最近は両者の政策の差異が縮まり、フランスのように中道を選択する動きも出ています。

 そもそも各国で保守、リベラルの中身が違うわけですが、英国は労働党出身のブレア政権の時にEU社会党大会に出席し、「古い社会主義は捨てるべきだ」と発言しました。背景には労働党支持者が伝統的な労働組合だけでなく、ホワイトカラーが増え、政治に有効な経済政策が求められるようになったからでした。

 2000年代に入り、遅まきながら、EUの大国であるドイツ、フランスでも最重視されていた社会民主主義にほころびが生じ、ドイツでは保革共存政権が、フランスではサルコジ政権に代表される大幅な自由市場主義化が進みました。

 しかし、英国とフランスを見ると、違いは歴然で、その違いは啓蒙主義から国王と教会権力者をギロチンに掛けたフランスと、その100年前に国王と政治権力、宗教対立を大虐殺も行わず無血で革命を行った英国との違いが、今も民主主義に影響を与えているといえます。

 フランスで10月16日に起きたパリ郊外の中学校の教師が、授業中にイスラム教が禁じるムハンマドの風刺画を見せて、イスラム過激派に斬首された事件は、改めてフランスが血で血を洗う大革命で個人の権利を勝ち取った国の姿を浮き彫りにしたと私は感じました。

 流血の末、国王と既得権益を持つカトリック教会権力者を処刑したフランスは、革命時の1789年の「人間と市民の権利の宣言」を制定し、それは今でも共和国の価値観を規定しています。今回問題になっている表現の自由は、権力からの自由で既存の階級には左右されない権利を意味しています。

 革命に至った啓蒙主義は、国王と教会(背後にはヴァチカン)の従属する無思考状態を脱し、自分で考え、自分で判断することでした。その結果、無思考で盲目的な状態を強いているのは王と教会の権力者だとして、血祭りにしたのが革命だったといえます。

 そこで勝ち取った権利の代表格が表現の自由なので、国内外のイスラム勢力の批判をよそにフランス政府は犠牲となった中学教師パティ氏を表現の自由の殉教者にして国葬、最高位の勲章授与にし、「ムハンマドの風刺画を諦めない」とマクロン大統領は啖呵を切ったわけです。

 権力=悪という考えが染みついているフランスですが、実はそれはフランス革命を正当化するリベラル派の考えで、その考えが浸透している公立学校で教育を受けたフランス人に最も顕著な考えといえます。一方でカトリックが運営する私立、あるいは信仰熱心で革命に抵抗したブルターニュ地方などの人には、別の保守の伝統も存在します。

 そのあたりは、フランスの革命肯定派のリベラルな啓蒙思想を持つ知識人に感銘を受けた日本の知識人が、フランスのリベラル思想を持ち込んだため、フランスの保守を正確に理解することを困難にしています。今でも日本の左派知識人にフランス崇拝者が多いのは、そのためです。

 保守思想研究でエルドマンド・バーグが著した『フランス革命の省察』が有名ですが、今でも保守とリベラルは中身を変えながら存在しています。

 しかし、権力=悪という考えは、今は廃れつつあります。ましてや処刑などとんでもありません。トランプ米大統領が敗北を認めないからといって、民主党側がトランプ氏を処刑するなどありえません。それに英国が名誉革命で無駄な時を浪費したといいますが、私は権力者を処刑しなかったことは誇れる功績だと考えています。

 フランスでは今回のシャルリーエブドの風刺画問題で、表現の自由を金科玉条のように掲げると市民は狂ったように同じ方向を向き、戦闘モードに入る姿に革命の血を感じ、それこそ反対意見が封殺され、言論の自由はどこに行ったのかと思うほどです。

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 テレワークは、今のコロナ禍では効な手段として積極的に導入する企業は少なくありません。感染拡大が深刻な国ではテレワークは推奨から義務に変わり、フランスなどは抵抗する企業に査察が入り、テレワークを強制される企業も出ています。

 コロナ禍はデジタル革命を加速させているのは間違いありませんが、実は国内外を問わず、リーダーのマネジメントそのものにも大きな変化が生じています。理由の一つはパソコンの先にいる部下や同僚が見えにくくなっているからです。

 グローバルビジネスで日本にいながら国際業務に携わる日本人は増えていますが、彼らが身につけるノウハウは今、国内の日本人同士のテレワークにも応用できる点を指摘しておきたいと思います。

 国際業務で多くの日本人が遭遇するのが国による労働観の違いです。与えられた仕事にどうも全力で取り組んでいないように見えるとか、依頼した仕事が遅々として進んでいないとか、最悪の場合は無視され放置されている場合もあります。日本人には考えられない職務怠慢だと怒りが込み上げてきます。

 以前、アメリカのオーディオ機器メーカーの東京支社で働く日本人社員から受けた相談では、日本側が提案したアイディアに対して何週間経っても返事がなく、完全に無視されていることに理解不能と悩んでいました。

 タイの日系企業の製造拠点に対して調達部で働く日本側の担当者は、毎回、指示したことに想定の2倍の時間を要していることにストレスが高まり、怠慢だとして怒りを爆発させたことから、現地のタイ人スタッフに辞められたことを後悔していました。

 日本人は世界的に見て、仕事に対する責任感が強く、始めた仕事はやり遂げるまでやめないのが常識化しています。その常識を生みを隔てた外国のナショナルスタッフに当てはめると、うまくいかないケースが多いのが現状です。

 そんな時に重要になるのがグローバルマネジメントの方法輪ですが、コロナ禍のテレワークでは日本国内の部下や同僚との協業にも応用できそうです。

 まずは想定通りに部下や同僚が動いてくれない時に、職務怠慢と決めつける前に相手の事情を聞くことです。日本人は上下の縦の人間関係には慣れていても、横の関係は苦手です。テレワークの相手がどんな事情を抱えているかを同じ人間として耳を傾けることは重要です。

 テレワークになると、ワーク・ライフ・バランスがオフィスで仕事に集中しているより、プライベートな「ライフ」に足を引っ張られがちです。最初は緊張もあって仕事に集中できても、そのうち在宅業務の要領を得ると適当に手を抜けるようになり、上司からは見透かされることもあります。

 もともと個人別の成果主義ではない雇用形態の日本では、仲間と助け合いながら仕事をするのが普通なので、テレワークは苦戦する人もいます。会社側も成果主義なら個人にプレッシャーを掛けやすいのですが、チームを評価する方が優先されるとテレワークではモチベーションが落ちたりします。

 そこで上司はテレワークしている部下と人間関係を深める必要が生じ、部下のさまざまな事情に耳を傾ける必要があります。つまり、聞き上手の上司になることです。

 2番目は、目標やヴィジョンの共有です。実は上司は部下とは異なる階層、つまり意思決定に近い所にいるので目標やヴィジョンを理解しやすい立場にいます。部下が同じように目標を共有しているというのは錯覚です。しかし、目標やヴィジョンの周知は言葉で伝えればいいというものではありません。

 最も有効なのは問題解決に取り組むときです。テレワークしている相手と遭遇する問題を一緒に考え解決しようとする時は目標やヴィジョン共有のチャンスです。上司と部下が一緒に考えるという作業も日本人にはけっして容易ではありません。

 具体的には「仕事が最近、進んでいないように見えるけど、こちらで何かできることはないか」と部下に聞いてみるのも一つのアプローチです。21世紀のリーダーシップは、部下への一方的命令やパワハラに近いプレッシャーを掛けることではなく、共感しながら部下を支援することです。

 実はグローバルマネジメントでは部下が上司を支えるより、上司が部下を率いることが重要です。問題はその率い方にあるわけですが、上司は部下に見えない全体を見渡せる位置にいます。部下は自分の仕事に集中するだけで全体は見えにくいものです。特に欧米人は全体に関心がありません。

 3番目は、部下の仕事が全体に与える影響を具体的に知ってもらうことです。たとえば、その部下が予定通りに仕事を終えなければ、他のチームメンバーがどの程度影響を受けるかなどです。

 多くの業務はチームでこなす時代、上司はチームの話し合いをリードしながら、自分の仕事が全体に与える影響を自覚してもらう必要があります。職場にいれば、迷惑する同僚が横にいるので気づきますが、テレワークでは、何度、その話し合いを繰り返す必要があります。

 4番目は、リーダー自身に問題がないかを自問することです。テレワーク先の部下がサボっているように見える時、相手を責める前に部下をそうさせている自分のリーダーシップやマネジメントに問題がないかチェックすることです。

 日本の場合、リーダーシップやマネジメントを正式にビジネススクールで学ぶ機会はなく、経験知と上司の教えから学ぶ場合がほとんどです。それに会社への忠誠心など社員のエンゲージメントが他国より高いので、そこに頼りがちです。

 しかし、テレワークではそれは通じません。仕事の進捗の管理もリーダー自らが行う必要があり、ヴィジョンや目標、チームに何が必要かを周知徹底するのもリーダーです。それでもリーダーに従わない部下はいるものです。そこで異文化の協業に役立つグローバルマネジメントを応用するわけです。

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