安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 この数十年、数の上で外国からの旅行客数でフランスは1位を保ってきました。今年は本来、外来客1億人突破の目標を達成するはずの年でしたが、新型肺炎コロナウイルス(COVID-19)の世界的拡散の影響は予想以上にフランスの観光産業にダメージを与えており、予断を許さない状況に陥っています。

 実はフランス政府は昨年秋、2014年に掲げた2020年までの外来客1億人突破は困難と判断し、2年先送りし2022年までに変えました。理由は2018年11月から始まった1年以上続くマクロン政権への抗議運動やブレグジットによるポンド安、米中貿易戦争最中の中国の経済不振などでマイナス要因が多いとの判断でした。

 このブログに書いた通り、フランスはこれまで幾多の試練にも動じることなく、確実に外国からの旅行客数を伸ばしてきました。2008年の世界金融危機、2015年1月にはパリの風刺週刊紙シャルリー・エブド編集部襲撃事件、同年11月には130人以上の死者を出すパリ同時多発テロが発生した。

 これらのテロを受け非常事態宣言が出され、翌16年にはフランス南部最大の観光地ニースでトラックが歩道に突っ込むテロが発生し80人以上が亡くなりました。ところが、世界観光機関(UNWTO)の統計によれば、16年の外国人旅行客は8,2700万人と前年の8,452万人から2%下回っただけ世界1位で、17年には8,690万人に持ちかえし、18年は8,940万、19年には9,000万人を突破しました。

 仏経済・財務省予算局は19年当初の予測9,400万人を下回ったとして、1億人目標を2年先送りしたわけですが、2024年のパリ五輪を控え、是が非でもそれ以前に1億人を突破したいところです。19年の増加鈍化は黄色いベスト運動とポンド安の影響が大きく、年末には政府の年金制改革に抗議する交通ストライキが1カ月以上続いたことも響いています。

 2018年11月から続いた黄色いベスト運動は、毎週末シャンゼリゼ通りなどの観光スポットでデモ隊が暴徒化し、有名ブティックやレストランが放火、襲撃されました。東京でいえば銀座や渋谷交差点、皇居前、新宿の目抜き通りが毎週、デモ隊に占拠され、それも1年以上続く状況です。

 しかし、COVIT-19の脅威は、テロや為替、ストライキ以上に深刻です。特に増加を続けてきた中国人旅行者の激減は深刻で、ルモンド紙はホテル関係者の話として、1月の中国からの予約のキャンセル率は80%、2月は100%に達したとしています。それも高級ホテルの利用率が高いため打撃は相当なものです。

 昨年はフランスを訪れた中国人旅行者が240万人とされ、これまで増加の一途を辿り、彼らが使うお金も欧米人や日本人を上回っていました。欧州旅行委員会(ETC)によれば、ヨーロッパを観光で訪れる中国人の70%がフランスを訪問先にしており、ドイツの37%、イタリアの30%、英国の22%に比べ、圧倒的人気です。

 今後、春以降の繁忙期に向け、ウイルス蔓延が収束しなければ、そのダメージはテロやストライキどころの話ではなくなる可能性も指摘されています。ホスピタリティーの悪さの批判され続けたフランスの観光産業は、この10年改善に取り組んできましたが、不安も拡がっています。

 現在は観光情報提供のボランティアの若者が紫色のベストを着用し、観光客のケアにあたったり、14カ国語に対応する公式観光ウェブサイトを200万ユーロ投じて立ち上げました。パリ商工会議所は国別接待マニュアルを作成してホテルなどに配っています。

 しかし、ウイルス拡散は想定外です。最近、中国から来ていたウイルス感染が確認されていた高齢の旅行者が死亡しました。白人フランス人以上に中国人に敵意を抱くアラブ系フランス人のタクシー運転手などが、中国人への乗車拒否を行っており、観光を取り巻く環境は悪化しています。フランスで今年はその意味で、この10年で最悪の年になるかもしれません。

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  貧富の差が歴然なマニラ

 東南アジアや中南米、アフリカ諸国の発展が遅れている理由について、表立ってはいわなくとも民度の低さを挙げる人は少なくありません。しかし、それは結果論であって、私の知る限りヨーロッパの植民地時代にできてしまった社会構造が発展の妨げになっている方が圧倒的に大きいと考えています。

 シンガポール人の友人エリックは、オーストラリアのビジネススクールで学び、今はフィリピン、ベトナム、マレーシアの3カ国でモバイル端末向け精密部品の作る会社を経営しています。日本企業とも取引のある彼は、日本に比べ自分の国は「いい加減」だといっていますが、彼のフィリピン批判は格別です。

 「約束はほぼ守ることはないし、嘘をつくことにまったく罪悪感がない」「何か事が起きると、すぐ人に責任転嫁する」「シンガポール人もいい加減なところがあるが、フィリピン人は何倍も信用できない」といった具合だ。にも関わらず、彼はフィリピンに2カ所も生産拠点を持っています。

 活気づくアジアは今、中国リスクに伴い、外資によるアジア地域への投資拡散が進み、フィリピンもその受け皿の1国です。2019年の認可投資額は25%増で過去最高を記録し、国際的批判の多いドゥテルテ政権も70%以上の圧倒的支持率で安定政権を続け、発展が注目されている国の一つです。

 とはいえ、他の先発ASEAN諸国(インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムなど)に比べると、過去50年間のGDP成長率は相対的に低い水準で貧困削減、所得格差是正、インフラ整備などの課題を抱えています。特に貧富の差解消は歴代政府が克服できていない課題です。

 16世紀から19世紀まで380年に渡り、スペイン統治を受けたフィリピンは、ごく一部の支配層と9割の貧困層の構図が完全に定着してしまっています。スペインの植民地の統治方法は、金と権力を持つ一握りの支配層を利用し、政治的混乱を避けて統治させる方法でした。宗主国の圧倒的権力を付託された特別な支配層が既得権益を持ち、他の勢力を抑えつける方法が一般的でした。

 ヨーロッパ列強諸国にとって植民地は奴隷供給と資源獲得が目的だったので、その国を豊かにすることに興味はなく、優秀な人材が増えれば独立運動が起きるリスクもあるので、ごく一部の権力を与える富裕層以外には教育を施すこともなく、奴隷として売り返していた時代がありました。

 それが400年近くも続けば、階層は固定化し、既得権益を持つ者は他の侵入を許さない社会構造が出来上がり、農地所有も許されない圧倒的に多い農民層は諦めの境地に達し、向上心は消え失せました。その後のアメリカや日本統治で平民にも教育が施され増したが社会構造は変わらず、フィリピン人は超貧困なのに幸せな国民といわれる究極の諦めが定着してしまったわけです。

 フィリピンで大学に行くのは富裕層しかなく、私の友人にも圧倒的な富裕層出身者で日本の富裕層以上に恵まれた者も少なくありません。その富裕層は総人口の1%足らずです。その一方で海外に長期出稼ぎにいっている子供たちの仕送りだけで10人近い家族が暮らしているパターンも非常に多いのが現状です。経済発展と共に貧富に差は拡がっています。

 実は市民の味方のように見えるドゥテルテ大統領も父親は弁護士、母親は学校教師という上流階級出身者です。フィリピンでは政治家の多くが富裕層出身者で貧困とは縁のない人たちです。ほとんどの国民は教育にも関心がなく、たとえば日系企業の工場で働いてもプロ意識はまったくありません。

 スペイン社会に多大な影響を与えているカトリック教会も階層的です。礼拝では上流層信者は前に座り、下層民は後ろです。カトリックの伝統的教えは、生まれた時の境遇は神が与えたもので受け入れるしかないという考えです。これは支配層には都合のいい教えてでもありました。勉強して上の階層に登っていくの不信者の考えというわけです。

 この植民地主義が残した社会構造は、階層毎のメンタリティーは容易に変わることもなく、ネックになっていた農地改革に何度も歴代政府は取り組んでは既得権益者の壁に阻まれてきました。世界中で貧しい国の富裕層は先進国の富裕層より金を持っているといわれるのもヨーロッパの植民地統治が残した罪ともいえるものです。

 それもそれほど遠い過去のことともいえません。私の友人のフィリピン系アメリカ人は南米チリに奴隷として売られていった祖父母を先祖に持っています。話を聞けば気の遠くなるような複雑は歴史を垣間見ることができます。それは民度などという基準で推し量ることはできない歴史です。

 かつて資源と奴隷の供給源であった東南アジアが独立から70年以上経ち、不幸な歴史から抜け出すのは容易な事でないことは事実です。今は中国の覇権主義に脅かされている現実もあります。そんな中、彼らの歴史を理解した上で日本が発展に寄与する意義は大きいといえます。

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 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」は新型コロナウイルス(COVID-19)の集団感染で、中国・武漢の次ぎに世界的注目を集めています。特に日本政府の対応に国外から厳しい視線が向けられ、SNS時代なこともあり、船内の乗客が発信する不満や不安のメッセージに世界は眉をひそめている状態です。

 最も急がれる乗員のウイルス感染検疫についても、お隣の韓国メディアは韓国では1日5,000人の検査が可能(本当とは思えないが)などといっている中、日本では1,000人もできない状態という話もあり、専門家でなければ世界第3位の大国なのにと頭を傾げる話です。

 もう一つ重要な視点は、横浜港に停泊中のダイヤモンド・プリンセス号の船内は乗客も乗員も日本人が中心ではない多文化環境だいうことです。私の専門であるグローバルマネジメントの観点からいえば、日本政府は対応で大きなテストを受けているといえます。

 まず、船内の意思決定はクルーズ船の運営主体であるアメリカに拠点を置くプリンセスクルーズ社に最終権限があり、日本の支社は客集めの販売が中心です。そのため船内のコントロールは日本政府にはできません。乗客も多国籍で今回ウイルス感染の報告もある乗員も多国籍です。そのため日本の各国大使館は心配そうに乗員のケアにあたっています。

 海外からの日本の対応に対する批判の中心は、一貫性に乏しく、体系化されていないことです。未だに正体不明のウイルスとの戦いは、対応が後手後手に回ることもありますが、結果的に船内がカオス(混沌)状態に陥っているのは確かです。

 ロシアは政府として日本政府の対応を厳しく批判している他、アメリカ人乗客の感染も相次ぎ確認される中、アメリカの世論も日本政府が船内に乗客乗員をとどめる対応をとっていることを強く疑問視しています。日本などが入港を拒否したクルーズ船「ウエステルダム」の入港を認めたカンボジア政府に対して、命の危険に晒されていた乗員の感謝はあまりにも大きいものでした。

 今やダイヤモンド・プリンセス号は中国・武漢に次ぐ「第2の感染中心地」といわれており、日本は世界的に評価される対応を取れなければ、中国の対応を批判する資格は失うでしょう。そこで注目すべきは、今回の注目点はグローバルリスクマネジメントで日本の遅れが目立つ点です。

 つまり、欧米諸国に比べ、国内のリスクマネジメントでは、大震災も経験し、SARSの拡散の時も世界的に最も感染者数が少なかったという意味で、優れた医療システムを持っていることが証明されています。ところがダイヤモンド・プリンセス号には、グローバル対応を求められており、そのマニュアルは整備されていません。

 政府の対応は法律やルールばかりが表面化し、日本政府が何をしようとしているのか、その意志が見えてきません。マニュアルが整備されていれば、危険度に応じた適切な対応は速やかに合理的に行われるはずですが、そうはなっていません。

 たとえば、武漢の邦人を日本国内に帰国させる費用も最初は個人負担とされ、批判を受けて政府が負担することになりました。邦人救出という日本政府にとって極めて重大な問題にマニュアルがない証拠です。2013年に起きたアルジェリアの天然ガスプラントで起きた人質テロ事件では、情報収集能力も救出方法もマニュアルがないことが露呈しました。

 今度のダイヤモンド・プリンセス号対応は、加えて外国人の人命に関わる救出も含まれており、迅速で的確な対応ができなければ、日本の評価は下がることは確実です。そこで問題になるのが日本が本当に「国籍に関わらず人間が人間らしく生きる権利を中心に物事に対処しているか」ということです。

 政治的判断は法律に従うだけではできません。時には超法規的対応が必要だったり、緊急に法整備するのが政治家です。役人仕事ではリスクマネジメントはできません。そこには強い意志が必要で批判されるたびに方針を変えるようではカオスに陥るのは時間の問題です。

 ここにおもてなし精神があるとすれば、武漢からの帰国者を収容していた勝浦の地元の人たちが宿泊していた人々を励まし続けたことです。ここには金銭とは関係ない心がありました。おもてなし精神が損得の金目的かどうかが今回は政府に向けられているということです。

 今の時点では、その心はダイヤモンド・プリンセス号の乗員、乗客には伝わっているとは思えません。たとえばフランスは武漢からの帰国者に南仏のヴァカンス用のコテージを与え、広々したスペースと自然があり、感染度が低い若者はテニスを楽しみ、ストレスを最小限に抑えることに努力しました。結果、感染ゼロで開放されました。

 人間が中心であるかは、リスク対応マニュアルにも現れるとことです。今問題になっていることの一つは下船させるかどうかです。豪華船とはいえ、同じ部屋に軟禁状態にあるのは非人間的です。各国は日本政府に自国民の下船要請を行っていますが、本来は要請される前に対応すべき問題だと思います。

 多文化対応という意味でも、人間という普遍性にどこまで答えられるかです。アメリカ人は文句をいうので下船させるが、タイ人は我慢できそうなので下船させないというような差別的扱いは許されません。乗員と乗客の差別も決してあってはならないことです。

 ここで島国日本の排他性が出てしまえば、東京五輪の躓きの種にもなりかねません。貧しい国からの出稼ぎで船内で働く船員たちも命の危険に晒されながら、乗客の世話に追われています。答えは速やかな下船なのでしょうが、日本人を優先し、適切は人間対応にはなっていません。非人間的という烙印を押される前に、迅速な対応が求められていると思います。





 

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 クロス・ラミネィティド・ティンバー(CLT)と呼ばれる集成材で建てられる集合住宅

 フランスで環境に考慮した木造建築に注目が集まっています。本来、フランスの戸建て住宅は、鉄筋コンクリートブロックの工法が一般的ですが、最近、温室効果ガスの削減に貢献する工法として木造建築に熱い視線が向けられ、戸建て住宅だけでなく、マンションの様な集合住宅にも木造建築が出現しています。

 といっても木造建築といえば、フランスでは数百年前のアルザスやノルマンディー、ブルターニュ地方の木組み住宅やシャーレと呼ばれる山小屋、山間部に個人的趣味で北欧スタイルのログハイスを建てる程度で、そもそも木造住宅を建てる大工は近年、激減している状態でした。

 ヨーロッパには「3匹の子豚」の話があり、自立する子豚で狼に食べられないのはレンガづくりの家だけだったという言い伝えがあります。聖書には岩の家に建てた家だけが生き残れるという話もあり、石づくりは外敵から守る意味もあり、文化として定着しています。

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  中世から19世紀まで建てられていたフランスの木造建築物

 最近注目されているいるのは、日本でも知られる欧州初のクロス・ラミネィティド・ティンバー(CLT)と呼ばれる20センチほどの厚さの事前に規格サイズでカットされた集成材を用いて、まるでコンクリートパネルの工法の延長線上のように建てる方法です。コンクリートと木材を組み合わせ、柱と床はコンクリートにし、外壁や家の中の壁は木材にする工法も用いられたりしています。

 最もポピュラーなのはティンバーフレーム工法で、構造部材の中に断熱材が入り、内装は木材かプラスター仕上げで、外装は板張りから石まで施主の好みで決めるというものです。木造建築の注目点は断熱効果が高いことで、防音、遮音にも優れているといわれています。

 今脚光を浴びている理由の一つは、木材だけ、或いは木材を多用することで、コンクリートブロックの製造で排出される二酸化炭素の量に比べると、木材はそれがゼロなので環境に大きく貢献することになります。

 そのため、戸建てだけでなく、木造の集合住宅も現れています。鉄筋コンクリート(RC)に比べ、材料費は高い一方、納期はRCが1フロアに1カ月を費やすのに対して、木造では1週間でできるメリットがあります。人件費の節約にもなります。

 フランスは南西部に地震が発生するので、木造建築の耐震性は証明されておらず、地震のない地域に積極的に建てられていますが、数10年に1回、フランス全土で微震があり、昨年は西部ブルターニュ地方で微震が観測されました。それと暴風雨などで実際に木造住宅に住み人は「きしみがある」という一方、「きしみを含め、生きている木の中に住むのはいい気分」などといっています。

 このブログでは以前、大型の3Dプリンターロボットを使い、10日間で建てられる工法を紹介しましたが、木造建築でも新しい工法が次々に試されています。特に従来のコンクリート住宅に対して耐火性、コスト面、建築期間、輸送など課題はあります。さらに木造建築を設定できる建築家や大工不足の問題もあります。

 今のところ、木造建築はCO2排出という意味では圧倒的な競争力がありますが、最近、フランスでは産業廃棄物を再利用したセメントが製品化段階に入っており、セメント製造過程に必要だった加熱などの工程がないため、CO2排出が最低限に抑えられているメリットがあり、注目されています。

 フランスは木造の工業化が進み、付加価値を高める方向に動いています。環境対策で知恵を絞れば、様々なアイディアが生まれ、ビジネスの可能性も拡がるという意味で、木造建築の今後の展開が注目されるところです。

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 このブログに何度か書きましたが、今年外国人観光客1億人突破をめざす世界1の観光大国フランスのサービスのクォリティは、けっして高くありません。もともと欧米には強い階層性が存在するので、「サービスは権力か金で買うもの」という考え方が定着しています。

 パリの大衆的なカフェやレストランの接客担当者のサービスの悪さは世界的にも知られています。多くの外国人観光客は、ギャルソン(ウェイター)を呼んでも「ジャリブ」(今、行きます)といいながら、なかなか来てはくれません。それどころか来ない時も多々あります。勘定を払えず店を出られないこともしばしばです。

 義理の弟のミカエルが出たシャンベリー大学観光課ではフランス式の接客について徹底して学んでいるかといえば、そんなことはなく、ホテル経営などには熱心でも、観光サービス業のあり方については観念的勉強しかしていません。

 興味深いのは「お客様は神様」といっても、それは払う金額に応じてサービスの質が変わるという認識で、やみくもにサービスするわけでないことです。合理的フランス人らしい考えです。客に忖度し空気を読んで気を回して過剰サービスする日本とは大違いです。

 時には、高級ホテルやレストランでさえ、頭を傾げる質の悪いサービスをするケースもありますが、基本的にサービスする側とされる側の人間としての関係は極端な上下関係ではないという考えです。それは君主制の残る英国よりもフランスの方が平等感が強いかもしれません。

 私は観光都市の別府市で生まれ、周囲に観光業に関わる人が多い環境で育ったこともあり、観光業の裏側までも普通の人よりは知っているつもりです。世界のどこにいっても観光のあり方は気になるところで、何度も取材してきました。多文化ビジネスの観点からも研究してきました。

 日本では、おもてなしを実際にする側は下僕のようにへりくだって立場でサービスするのが基本です。もてなすのは主人ですが、実は今の日本のおもてなしには主人の顔は見えず、もてなしを受ける側が主人になっています。中国ではもてなす主人が円卓の上座に座ります。主賓は主人の両脇座るのが習わしです。

 日本のおもてなしの強みは、もてなす客の立場に立って何が必要かを忖度し、客が要求する前に必要と思われるサービスをすることです。いわゆる「気を回す」「気が利く」というものです。それも少しでもお金を出す客に平等にサービスすることです。多くの外国人観光客が感動する部分です。

 しかし、相手に要求されなくても悟ってサービスするには、マニュアルではなく、空気を読む必要があります。日本的おもてなしの弱みは異文化の空気は読めない点です。つまり、的外れのサービス、必要ないサービス、迷惑するサービスをしてしまう可能性もあるということです。

 それに気を回すサービスには過剰サービスに陥ることもしばしばです。結果、従業員の過剰労働に繫がり、消耗する結果を生む可能性もあります。日本人同士でさえ消耗している場合が多いのに外国人となると、さらにジレンマやストレスに陥る可能性もあります。仕事の生産性という意味でも問題です。

 日本のおもてなし精神は日本文化が生み出したもので、国民性とも大きく関係しています。主体性が乏しく自己主張しない受け身な日本人は、お世話されることを当然と考えます。外から刺激されなければ、自ら主体的に喜びを求めない日本人は、サービスに対しても受け身です。

 たとえば、新型コロナウイルスで厳選できなくなった大型クルーザーの客が、日本食が食べたいのに西洋的な食事しか出てこないと言っているようですが、さまざまな不都合に対して、乗員に直接要求しているのかは疑問です。日本人は黙ってても必要なサービスは受けられると期待し、期待が裏切られると文句を言ったりします。

 東京五輪でサービス業に関わる人は、多種多様な外国人客を迎え入れ、ストレスも溜まり消耗することも予想されます。おもてなしの強みを強化しながら、弱点を克服するという意味では、的外れのサービスで消耗しないためにも「個別対応」と「聴く力」、「柔軟性」が何より重要です。なぜなら客が必要としていることは多種多様だからです。

 日本人はマニュアル通りに動くのは得意で集団管理(団体客対応)には慣れていますが、個別に対応し、マニュアルにないことも状況に応じて柔軟に対応するのは苦手です。サービスはマニュアルが見えてしまうと効果は半減します。それにサービスの範囲や限度の線引きをしておく必要もあります。

 聴く力は空気を読めない環境では非常に重要です。珈琲が飲めない人に親切心で珈琲で出すような失敗も聞くというプロセスを踏めば避けられます。それにサービスする側の学習能力も試されます。マニュアルにないことは日々起きるからです。その意味で、おもてなし精神への自信は必要ですが過信は禁物です。
 
 


 

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 パリ中心部セーヌ川に浮かぶサン・ルイ島のすっかり観光化したあるブラッスリーで、日本から来た旧友と雑談していた時の話です。いつものようにギターを抱えた男がやってきて、いつもながらの古いシャンソンを歌い始めました。

 するとすぐ側に座っていた歳の頃、60代の女性が「ちょっとギターを貸してくれない? 私にも歌わせて」と言い、歌い出しました。その素晴らしい彼女の弾き語りは、100年前のエコール・ド・パリの時代にワープしたような錯覚を覚えるほど周囲の雰囲気を一変させました。

 丁度、ウディ・アレンの映画『ミッドナイト・イン・パリ』に出てくるような現在とエコール・ド・パリの時代を行ったり来たりする不思議な感覚に襲われる体験でした。見事なギターの響きと美しい歌声にそこにいた客たちは拍手喝采し、その場は盛り上がったかのように見えましたが、悲しいかな、そこは観光ブラッスリー、多くの客は、さっさと次の観光名所へと去っていきました。

 フランスのサロン文化を象徴するカフェは20年前、閉店が相次ぎ、カフェ文化の終焉かとまでいわれました。戦後、パリ6区のサンジェルマン・デ・プレ教会に面したカフェ・ド・マゴなどに哲学者のサルトルやヴォーボワール作家、芸術家が集り、議論に花を咲かせた時代を懐かしむ人さえもいなくなった感があります。

 パリに半世紀住む画家の黒田アキさんは「カフェに座って行き交う人を見ているだけで20年が過ぎました」と私に30年前話してくれました。フランスのカフェは大都市パリでも田舎でも、階層を超えて人々が集まり、お互いの仕事とは関係なく、政治議論や文化的な議論、噂話、カードに興じる重要な市民の交流の場でした。

 また、見知らぬ人同士が気軽に声を掛け合い、会話を楽しむ場でもあり、作家や画家の多くが、カフェで一日を過ごした話も有名です。つまり、そのフランスの政治や文化に重要な役割を果たしてきたカフェ文化は、本当に衰退したのでしょうか。

 現在、カフェで元気がいいのは、100 店舗以上を全国で展開しているフランス系の Colombus Cafe と、アメリカ系のスターバックスコーヒーで、どちらも普通のコーヒーだけでなく、フレーバーコーヒー、軽食、スイーツと「居心地の良い空間」を提供しています。

 カフェは汚い、ギャルソンの愛想が悪いというイメージとは違い、清潔で世界中同じサービスを提供するファーストフード店のようなカフェに若者が集まっています。この2社は、独立店舗だけでなく、大型ショッピングセンター内にも進出し、堅調な伸びを見せています。

 かつてフランスのカフェといえば、エスプレッソ系の濃いコーヒーが基本だったのが、最近、ドリップコーヒーやフレーバーコーヒー、オーガニックコーヒーも若者の間で人気を集めています。では、客同士のコミュニケーションはどうかというと、スマホの登場でスマホに見入る客が増え、同伴者とのコミュニケーションは減っているように見えます。

 世界中から人の集るパリのカフェは、その役割が時代とと共に変化してきたことは確かです。しかし、その人種のダイバーシティは今も魅力を放っているといえそうで。ただ、スマホを通さず、対面で議論するような場面に遭遇することはなくなったといえます。

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 ネット通販大手の楽天がアマゾンとの競争のネックになっている送料の無料化に挑む中、公正取引委員会が独禁法違反の疑いで社内立ち入り検査を行いました。そもそも両者のビジネスモデルは基本的な部分が異なっており、楽天は日本の商店街やデパートの発想で出店企業からの出店手数料ビジネスです。

 出店企業への場所貸し商売なので当然、楽天は出店企業を向いてビジネスをしており、消費者は出店企業と直接売買契約を結ぶようになっています。一方、アマゾンは出店企業の商品を買い上げ、倉庫で一括管理し、消費者に商品を届けるため、売買契約は消費者とアマゾンの間で成立しており、消費者を向いてビジネスといわれてきました。

 配送料に関していえば、そもそも楽天のビジネスモデルでは、出店企業がそれぞれ負担するため、楽天からとやかく言われる筋合いのものではないと企業から反発されています。送料の裁量権を持つアマゾンは配送会社と大型契約して最低価格帯に送料に抑えることできる反面、無料にする分、出店企業にも圧力が加えられているのも事実です。

 今、世界中に拡がるネット通販ビジネスですが、アマゾンの一人勝ちの様相を呈しています。どんなビジネスモデルであっても最終消費者の選択の幅を拡げることは重要なので通販サイトは情報提供の量に力を入れています。サイトの分かりやすさでもアマゾンは優位に立っています。同時に最大の注目点は価格なので配送料を含めた価格で、どこで買うかを決める傾向は強まるばかりです。

 楽天の送料問題に関していえば、とても日本的なものを感じます。それは出店企業と楽天市場を運営する楽天の関係性です。今回、公取委が問題にしている楽天が立場の優位性を利用して不公正なビジネスを出店企業に強要しているのではないかという疑いにも通じるもにです。

 アマゾンの場合は商品は出店企業からアマゾンに渡った時点で、配送料をどうするかはアマゾンの裁量です。たとえば弱小企業の商品でもアマゾンが巨大契約を結ぶ配送会社の価格帯を利用できますが、楽天では企業の自前なので小口だと配送料は高くなってしまい、競争力がなくなります。

 今回の騒動で思い出すには、20年前に苦戦する日本のデパート業界を取材した時のことです。フランスのデパートとの比較も目的でしたが、日本のデパートはテナントに対して非常に高圧的でした。場所を貸し商売させてやっているという態度で出店企業は服従しかない立場でした。

 楽天にも同じような臭いを感じます。楽天のようなプラットフォームビジネスはアメリカが発祥の地で、立場の平等性は一つの鍵です。つまり、出店する側と場所を提供する側は平等の立場でWin Winの関係です。どちらが上という関係ではありません。

 しかし、日本ではたとえば大型量販店のヤマダ電機の創業社長が「メーカーはうちの会社なしには成り立たない」と豪語し「売れる製品を作る主役はわれわれだ」とまでいっていました。各メーカーのエンジニアたちが努力して研究を重ね、ものづくりしている側より、それを得る販売会社が上だという大きな勘違いです。

 この上下関係は縦社会の日本文化から来ているもので、兄弟主義のキリスト教の背景を持つ平等主義とは根本的に異なっています。下請けという言葉も極めて日本的です。三木谷社長は「心の底から皆さんのためになると思ったから」といいながらも、送料無料化を実現しなければ物が売れなくなると迫っています。

 楽天のビジネスモデルでは今回推し進めようとしている購入価格3,980円以上の送料一括無料化で、楽天が負担する義務はありません。出店企業の数で勝負する楽天には小さな店も多く、彼らにとっては送料無料は大きな負担です。

 今は自分が欲しい商品を見つけたら、後はネット上でいかに安く買うかが焦点という場合が少なくありません。そのため、商品についての公平性、客観性を担保する情報誌が売れており、後は自分が決めた商品をどこで安全に安く買うかだけです。楽天のビジネスモデルは在庫を抱えず配送に関与しないことで消費者に向いてない分、弱みが露呈したともいえます。

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 日本の某大手自動車メーカーの幹部から新型肺炎が猛威が奮う中「ようやく中国の生産拠点の規模縮小に大義名分ができた」という話を聞きました。巨大市場を人質に中国共産党が要求する現地生産や技術を奪い取る理不尽な中国企業との合弁、最近では賃金上昇で世界の工場としての魅力がうせている中、中国を離れられない状況の打開がテーマだったといいます。

 つまり、本当は生産拠点は労働賃金の安い東南アジアに移すか、高級車であれば日本に戻したいというのが本音だといいます。ところが、中国で車を売りたければ、中国共産党の高いハードルの要求に答えなければ売らせてくれないという現実に悩まされてきたというわけです。

 皮肉にも中国の富裕層は日本製にこそ魅力を感じており、市場は矛盾しています。中国企業が自力で自社ブランド製品を世界市場に送り込む時代に入ったことで、外国企業は大きな岐路に立たされています。そこに新型肺炎による生産システムの機能停止で、外国企業にとっては中国国内の生産拠点の規模縮小や撤退に大義名分ができたわけです。

 無論、中国が大変な時期に撤退してしまえば心証は悪いでしょう。しかし、人道支援とビジネスは別物。中国政府に一時的に嫌われたとしても、ビジネス続行が不可能という理由は認めざるえないはずだというわけです。

 それに新型肺炎の経済への影響は深刻で、あまりにも中国で作られているものが多いために、中国が活動停止することでパニックに陥っているグローバル企業がすでに出ています。世界中の人々が安価な中国製製品を手にしてきた生産構造は変更せざるを得ない状況です。

 アメリカも外国企業のアメリカ国内生産を迫っていますが、技術の漏洩や理不尽なアメリカ企業との合弁を強要するわけではありません。公平なルールのもとで経済活動が保障されている点は、共に巨大市場を持つ米中の大きな違いです。

 中国共産党によるいじめにおびえてきた外国の大企業は、中国への依存度が高すぎたことが危機に弱いことを思い知らされ、今後、リスク拡散に動くことは確実です。10年前からいわれていた「チャイナ+ONE」は、中国リスクに対して「チャイナ以外のチョイス」に変わろうとしています。

 日本企業も日本製が少々高くても品質において競争力さえあれば、わざわざ中国に工場を建て技術を盗まれながら生産する必要もありません。

 とはいえ人手不足の日本では有能な外国人を雇うしか選択肢がないのも事実です。その意味では依然、開かれた国であり続け、世界標準の労働環境を整備するのは急務です。

 脱グローバル化は、元のナショナルカンパニーに戻ることではなく、国益を重視した上でグローバル対応していくということです。その意味では世界中の人々が働きたい、住みたい国になることが有能な人材を惹きつける鍵だといえます。

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 日本国内外で日本人以外の人と協働する機会が増える中、リーダーシップはどうあるべきかは重要なテーマです。その第1は仕事への情熱で、日本人の仕事熱心さは世界中の人に知られています。しかし、その姿を見ただけでは、文化の異なる人は付いていこうとはしません。

 多文化チームをまとめ上げ、エンゲージメントを高めるための大前提は信頼関係の構築ですが、それ以外に2つの認識が必要です。一つは全体目標の共有です。いったい、チームで取り組む仕事は何のためにやっているのか、その目標は何かということです。手段が目的化しやすい日本では、目先の方法論に目が行きやすいく、目的の共有は忘れがちです。

 たとえば、環境ビジネスで産業廃棄物の巨大処理施設を国内外で運営する企業は、安全性を大きな柱に置いています。しかし、安全性は日々の作業のリスク管理に属する方法論で、目標は施設の社会的役割にあり、いかに効率的、効果的に処理し、環境問題に貢献するかです。

 文化の異なる人々とチームで働く場合は、目標共有そのものが簡単ではなく、丁寧な説明と理解を求める必要があります。日本人の中では説明不要な事項であっても多文化チームでは説明は必要です。目標共有はチームの縦糸で仕事へのコミットメントには欠かせないことです。ただ、間違っても最初から組織のためとか、会社のため、社長や上司のためという考えを全面に出すのは間違いです。

 2つ目の認識は個人の目標を明確にすることです。「このチームに加われば、スキルが磨けるとかキャリアになる」ということです。これも日本企業では会社側が明確なキャリアパスを示す習慣がなく、成果主義だとチーム内の人間関係がギスギスするという理由で個人間の競争原理は十分に機能していません。

 欧米のように自分の仕事ぶりを自己アピールする習慣もないので、海外で昇給や昇進要求するナショナルスタッフに驚かされたりします。評価は個人のモチベーションに大きく影響します。それを日本とは違い、口に出して一人一人に個人的に丁寧に伝える必要があります。

 たとえばミスを繰り返しながらミスを認めない人や、最初は教えた通りにやってくれていたのが、目を離すといい加減になるナショナルスタッフは少なくありません。そんな時、全体の目標と個人の評価の両面から話して改善を求める必要があります。

 異文化環境で豊富な経験を持ち、成果を上げている日本人リーダーに話を聞くと「結果的にそんなことを続けると自分のためにならない」という伝え方は有効だといいます。多文化チームは愛社精神や組織への忠誠心を持たせることは困難は一方、報酬とキャリアという個人目標ははっきりしているからです。

 アジアと欧米では仕事とプライベートの境に違いがあります。欧米ではプライベートは仕事と切り離されているので、職務詳細の契約にないことや残業を強いる上司は嫌われます。逆にアジアでは職場も家庭の延長線上に捉える考え方が強いので、従業員のプライベートに上司が踏み込むこともしばしばです。

 では、そんなアジアで好感を持たれる上司は、どんなタイプの人でしょうか。一言でいえば、仕事には厳しく、仕事を離れたら面倒見のいい情に厚い上司です。成功している日本人リーダーの多くは、そのメリハリがしっかりしています。このふたつを持ち合わせることは信頼関係構築に極めて重要です。

 オフの時に遊びで時間を共有することも重要です。個人的な相談に乗ることも重要です。無論、一定の距離感も保たなければ、中国では親しくなると、返すつもりもないのに金を貸してくれなどといわれます。しかし、部下への面倒見の良さは日本でも1970年代にはありました。

 日本と異なる文化を持つ人が日本企業で働いて共通して感じることは「目に見えないルールが社内にも社会にも山のようにある」「卵の殻の上をあるいているようで、間違って強く踏むとからが割れてしまう」とよく聞きます。そのルールを本音で語り合う場も信頼関係を築くためには必要です。

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    24時間稼働体制の仏アンジェのコルミ・オペン社の工場 afp.com - Loic VENANCE
 
 最近報じられたフランス西部アンジェのマスク工場がフル稼働しているニュースは非常に興味深いものでした。フランスの製造ラインが24時間稼働すること事態、久方ぶりのことですが、忙しくなった背景に考えさせられることが多いからです。

 世界に拡散する新型肺炎コロナウイルスの感染予防のための感染予防用マスクの需要が急増する中、マスクの製造を行うコルミ・オペン社(カナダのメディコム社の子会社)の工場は、24時間稼働体制で作業員を30人追加雇用しても受注に追いつけない状況が続いています。

 コルミ・オペン社のアンジェ工場は医療用、感染予防用のマスクの生産を行っており、同社によると1日に合計100万枚のマスクを生産し、アジアやフランスを含む欧州諸国に輸出しているそうです。年間1億7,000万枚以上のマスクを生産する同社は現在、なんと5億枚以上を受注し、工場長によれば、2分おきに世界中から注文メールが来ているそうです。

 平常時には、世界市場の8割のマスクは中国と台湾で生産されているのに対して、非常時の現在は両国で地元の需要に応えるため、マスクの輸出を取りやめている状態です。それでも両地域ではマスク需要に供給が追いつず、感染拡大阻止が急務な中国政府は日本や欧州、アメリカからのマスクや医療用防護服を輸入する必要性を認めています。

 当然、中国、台湾だけでなく、世界各地でマスクは必要とされており、特に医療用マスクは医療関係者にとって必須のアイテムなだけにコルミ・オペン社は世界の需要にも答える必要があり、生産能力をはるかに上回る量の注文を受けている状態です。

 実は同社親会社メディコム社の工場は武漢にもあり、手術用ガウンを製造していますが、春節後の再稼働が延期されており、他の同社の中国生産拠点では、他国に輸出する分を中国に供給するよう政府が圧力をかけ、台湾の同社のマスク製造工場も輸出は許可されていないといいます。

 現在、新型ウイルスの感染拡大を防ぐため、着用時に顔面とマスクの間に隙間を作らず、微粒子の菌やウイルスも通さないタイプのマスクの繊維にはポリプロピレンという素材が用いられ、コルミ・オペン社は原料の大部分をフランス国内で入手でき、原料の輸入なしに生産できるメリットがあるため、注文が殺到しているというわけです。

 工場は現在、1日24時間、週末も機械を稼働させ、作業者を30人増員し対応しているにも関わらず、同社によれば、日に日に注文は増えているといいます。欧米医療メーカーの多くが中国国内に生産拠点を持ち、原材料を複数の国から供給しているため、機能していないのとは対照的に、コルミ・オペンの工場は原材料入手を含め国内で生産が完結しているのが特徴です。

 国を跨いだサプライチェーン構築と、どこの国で製品を完成させるかは、グローバル企業にとって重要な問題ですが、グローバル化で世界の工場、中国なしに生産活動が成り立たない多くの製造業は、逆に今回のように中国自体がウイルスの感染拡大で致命傷を負った場合、ビジネスに深酷なダメージを受けざるを得ない現実に接しているということです。

 逆にコルミ・オペン社のアンジェ工場のように自国内で完結している企業は、このグローバルリスクとは無縁で、嬉しい悲鳴をがあげています。原材料の供給まで自国で賄えるのも大きな強みです。

 つまり、コロナウイルス拡散で脱グローバル化が加速する可能性があるということです。単なるコスト削減、効率化だけを追求したグローバル化がカントリーリスクに非常に弱いことを見せつけています人の命と直結した医療品の緊急需要に対して、グローバル生産体制が足かせになっている現実は、警告を意味しているようにも見えます。

 特に中国共産党一途独裁で明らかにリスク管理に弱い中央集権と隠蔽体質、超内向きの中国に身を任せてきたグローバル企業は、その選択を再考する大きな転換期に差し掛かっているように見えます。

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 テロ計画で標的とされた仏ブレストの軍港

 フランスでは、2019年10月3日にパリ警視庁本部で働く職員のミカエル・アルポン容疑者(45=死亡)が同僚の警察官らへナイフで切り付け、4人を殺害した事件が発生しました。事件後、アルポン容疑者がイスラム過激思想に染まっていたことが発覚し、国内の衝撃が走りました。

 警視庁内部、しかも情報処理部門で働いていた公務員が聖戦思想に染まっていたわけですから、裏を返せば警察が過激思想に感化された若者や組織の動向をどの程度掴んでいるかを知る立場にもあったということです。過激派にとって都合の悪い情報が隠蔽されたり、報告されなかった可能性もあります。

 この事件を受け、フランス政府は警察の諜報活動部門で働く職員と国の諜報機関の職員を対象に思想、信条に関する調査を実施し、その結果が1月末に明らかになりました。その報告書によると2014年以降、潜在的な過激化、または影響を受けた周辺の人々の急進化が認められた16人が諜報活動部門から「除外」されたことを明らかになりました。

 詳しい内容は明らかになっていませんが、政府主導で行われた調査は、さまざまな階層で行われたそうです。アルポン容疑者の場合、2015年1月の風刺漫画日刊紙、シャルリ・エブドー編集部襲撃事件直後、ニュースを聞いて職場で狂喜し、同僚と激論になったことが同僚の証言で明らかになっています。にも関わらず、当時、上司には報告されず、把握されていませんでした。

 イスラム過激派によるテロを取り締まる側の警察や国の諜報機関内部に聖戦主義が拡がっていることは予想外の事態で、なおかつその人物が同僚警官を職場で殺害したとなると、深刻といわざるを得ません。それもたとえば反社会組織など一般の犯罪組織と違い、聖戦主義は人の心を支配し、予想不能の行動に出る危険性があります。

 昨年の事件を踏まえ、今年1月15日から、国内治安部隊や警察内部の職員の過激化の有無について、集中監視を実施していることを政府は認めています。さらに採用時の思想チェックや身辺調査の強化、過激化の兆候を職員同士で見極めるトレーニングを全職員に課し、聖戦主義に傾倒している有無を認定する機関も一本化したとしています。

 昨年、ルドリアン仏外相は、中東情勢について「過激派組織、イスラム国(IS)再び台頭する機会を伺っている。ISは根絶などしていない」との認識を示しました。当然、フランス国内でも聖戦主義の浸透を最も恐れているということです。

 フランスでは今年1月末に西部ブルターニュ地方のフランス最大の軍港のあるブレストで、軍の行事を狙ったテロ計画が発覚し、7人の関係者が逮捕され、テロは未遂に終わりました。逮捕された容疑者の自宅からは爆弾製造マニュアルやISの宣伝資料が見つかっています。

 聖戦主義は刑務所内の受刑者の間で広まることは、すでに認められていますが、まさかテロ対策で先頭に立つ国の組織にまで聖戦主義が入り込んでいたことはショッキングといわざるを得ません。まるでスパイ映画に出てくるような話ですが、笑えない深刻な事態です。

 世の中が自分の価値を認めてくれないという孤立感や絶望感に忍び寄る聖戦主義は、社会の隅に追いやられる移民系の人間に広まりやすい性質があります。アルポン容疑者もカリブ海の仏領マルティニック島出身の黒人で妻はモロッコ人、二人はモスクに通っていたそうです。しかも男は聴覚障害を持ち、能力はあっても昇進はできない状況にあったといわれています。

 聖戦主義は、その活動に加われば、アラーによって絶対的価値が与えられ、異教徒や聖戦主義に従わないイスラム教徒を殺害したら天国に行けると教えられています。差別を受け人生を呪い、自分に価値がないと思い込んでいる人間を命知らずの行動に駆り立てるのは容易です。

 ISがシリアで支配地域を失った後にも、聖戦主義は広まり、世界を危険に晒しています。聖戦主義はコロナウイルス同様、感染拡大しながら変異しており、さまざまなグループも生み出しています。昨年、ISトップのバグダディ容疑者をアメリカの特殊部隊に殺害されたISは、姿を変えながら復活の機会を伺っているといえます。

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 アメリカでは今年も恒例の大統領による一般教書演説が行われ、トランプ大統領は演説で「3年前、われわれは偉大なる米国の復活に乗り出した」と述べ、「その素晴らしい成果を共有する」と議員に語りかけました。

 しかし、トランプ氏の弾劾を主導した民主党のペロシ下院議長は演説後、スピーチ原稿を2つに引き裂き、対決姿勢を鮮明にしました。本人曰く、あれが礼儀を表したものだというわけですが、日本文化との違いを印象づけるものでした。

 今回のアメリカ大統領の一般教書演説は大統領選を控えていることから、政権を奪還したい民主党にとっても極めて重要でしたが、それだけでなく一般教書演説は世界一の大国アメリカの政治的方向性を示すものとして毎年高い注目を集めています。

 ヴィジョンを掲げてゼロから人工的に国づくりしてきたアメリカにとって、その基盤となる価値観の確認や過去の実績、めざす具体的な優先事項を表明する場として、一般教書演説は極めて重要です。そこが歴史の長い国にあるような目に見えない伝統的価値観や暗黙の了解事項が多い国との違いです。

 トランプ大統領は今回、自らが取り組む偉大なアメリカの復活は「過去の歴史にない目標を掲げたアメリカの試みは始まったばかりだ」と演説を締めくくったのも、この国の性格をよく表したものといえます。普通の国の指導者の演説はもっと抽象的で美辞麗句に覆われ、誰も大きな期待はしないものですが、アメリカは違います。

 トランプ氏は民主党との大統領選の戦いを前提に社会主義と真っ向から闘う姿勢を鮮明にしました。これは今世界的注目を集める米中貿易戦争で、覇権の乗り出す中国が21世紀の社会主義モデルを世界に示すと息巻いていることへの対決姿勢を示すものでもあり、日本では考えられない意思表明でした。

 手段が目的化しやすい日本では、抽象的なヴィジョンやコンセプトは、程々にして具体的作業に取りかかるパターンが政治もビジネスも多いものですが、そこは欧米との大きな違いであり、特にヴィジョンで国家を建設した経緯上、アメリカはヴィジョンの共有を最も重視する国といえます。

 これは欧米のビジネススクールが企業においてもヴィジョンを重視する考えが日本よりはるかに強いことからも理解できます。そのため、アメリカの一般教書演説は毎回、非常に練られたものになっており、政権の強い意思を表す場であり、戦略的です。大統領がそこで何に言及するかは世界が注視するほどです。

 たとえば今回は北朝鮮についての言及がありませんでした。2017年のトランプ氏の最初の演説では、金正恩北朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と揶揄し、北朝鮮に対するコミットメントを強調しました。今は金正恩にとってトランプ氏が交渉相手として望ましいため、敵対する姿勢は取りたくなかったともいえます。

 経済実績を含め、少なくとも当初の目標だったオバマ前政権で弱体化したアメリカの世界に対するプレゼンスは取り戻したことを強調し、大統領選挙をあからさまに意識し、アメリカ国民の生活向上のための労働者重視やインフラ整備への巨額投資を表明したのも国民の共感を得るためです。

 多民族、多文化社会のアメリカでは、分かりやすいことも重要で、意味不明なヴィジョンや抽象的表現はインパクトを与えません。民主主義の基本は国民からフィードバックを重視することです。同じように企業も社員と消費者からのフィードバックをどこまで重視できるかが鍵を握ります。その点は日本ではヴィジョン重視と並んで改善の余地があることだと思います。

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ヴィジョンとコンセプトの関係




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 メディアが報じるニュースの優先順位は人命がトップといわれています。それも死者数が多くなればなるほど扱いは大きくなる。新型コロナウイルスによる肺炎の世界的感染拡大は、その意味で最優先のニュースですが、結果、人命だけでなく経済への悪影響の懸念が拡がっています。

 中国がくしゃみをすれば、世界が風邪を引くといわれるほど、世界経済は中国への依存度を深めていますが、観光業もその一つ。10年前から爆買いで注目された中国人観光客に対して日本のみならず、世界で最も外国人観光客が訪れるフランスでも熱い視線が送られてきました。

 日本では中国人観光客が団体旅行をする場合、日本の旅行会社が「身元保証書」を作成するため、その動向は把握しやすいといわれています。日本旅行業協会によると、中国当局が海外への団体旅行を禁止した1月27日から3月末までに訪日予定の保証書が約40万人分あり、大半がキャンセルになると見られ、そこに含まれない大型クルーズ船の団体客やビジネス客まで入れると膨大な数になるそうです。

 この数年は日韓関係の悪化で、韓国人観光客も激減しましたが、中国人観光客の激減はその比ではないようです。私の故郷、九州の別府や近くの湯布院の観光業者も頭を抱えていると伝え聞きます。別府の場合はクルーズ船で韓国経由で訪れる中国人が多かったので、中国政府が自国民の韓国行きを制限した時点から減少は始まっていたそうです。

 一方、フランスでも中国人の爆買いは観光収入を押し上げてきました。パリのギャルリラファイエットなど大型店舗は中国人のために高級ブランド品を揃えたフロアを特別に準備し、中国人店員が案内する徹底ぶりです。某中国企業は2015年の社員の慰安旅行で一行6,400人がパリと地中海沿岸のコート・ダジュール観光で2日ずつ滞在。2都市での出費は、宿泊費も含めて40億円を超えたそうです。

 昨年だけで9,000万人以上の外国人観光客を受け入れたフランスは押しも押されぬ世界一の観光大国ですが、2015年以降頻発したイスラム過激派によるテロは人命に関わるカントリーリスクでした。当然、国内外の観光客は激減し、観光業は決定的ダメージを受けるはずでしたが被害は最小限でした。

 2015年11月のパリ同時多発テロでは1夜で130人が死亡し、2016年7月には南仏ニースで大型トラックが歩道を暴走するテロが発生し、84人が亡くなりました。予想不能なテロは効果を狙って観光スポットで起きるケースが多く、エッフェル塔はこの数年、テロ予告で何度も避難を余儀なくされています。

 さらに2018年暮れから1年以上続く黄色いベスト運動では、毎週土曜日にシャンゼリゼ通りなどでデモ隊が暴徒化し、有名ブティックやレストランが破壊され、昨年12月からは年金改革に抗議するストライキが1カ月以上続き、公共交通機関が止まり、ルーヴル美術館などが閉まり、観光客に影響を与えました。

 普通の国なら渡航を控えるところですが、観光大国フランスは人命に脅威を与えるテロの影響もストライキの影響も最小限に抑えられています。無論、ウイルス感染とテロは違いますが、フランスの客層は非常に幅広いところが日本との違いとして挙げられます。

 数週間も滞在する長期ヴァカンス客から数日滞在の団体客、個人客と幅広く、45を超える世界文化遺産や歴史遺産、自然遺産があり、ワイン、フランス料理、モード、香水と観光資源は底が厚いことも挙げられます。滞在するホテルも高級大型ホテルから高級プティホテル、フランスでしか味わえない中世に建てられたシャトーホテル、1泊3,000円程度のホテル、長期滞在型のコテージまで多種多様です。

 つまり、懐が深く、客層も多様で観光大国としての年輪を感じさせます。格安のLCC便は、観光客誘致のために自治体が航空会社に資金を出し、ヨーロッパ各地からの観光客を誘致しています。全国の観光地は観光で訪れるだけでなく、最終的に一度は住んでみたい多様な町づくりに余念がありません。

 日本の観光地で育った私からすれば、日本の観光ビジネスは昔とそれほど変わっていません。フランスの観光ビジネスの懐の深さ、幅の広さは、残念ながらフランス人の追求する生活の質の高さとも深く関係しており、なかなか追いつけないのが現状です。

 日本では中国人を初め、東南アジアの人々が大挙して訪れた観光地から日本人観光客の姿が激減したという残念な現象も起きています。ブログでは具体的な戦略については書けませんが、東京五輪を前に観光ビジネスは大きな意識転換が必要になっていると私は考えています。

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 デザインを経営の柱にすることを提唱したパオスの中西元男さんにお会いしたのは30年も前のことで、雑誌の取材でご自宅まで押しかけたことを記憶しています。その後、私が顧問を務めるフランス初の国立レンヌ日仏経営大学院の学生を海外研修で受け入れてもらい、お世話になりました。

 中西さんの提唱した戦略デザイン理論は日本を代表する企業に次々に受け入れられた一方、ついぞ経営の心臓部に欠かせない存在になり得てはいないようにも見受けられます。そこに今度はアメリカ発のデザイン思考が経営の新たな手法として注目され、今や経営幹部にとっては必須事項のようにいわれています。

 デザイン思考も過去にブームになった様々なビジネス手法と同じようにやがては消えていく運命なのかは現時点では何もいえませんが、ソリューションという位置づけでいえば、本質的、普遍的なものを持っていると個人的には考えています。

 たとえば新たなビジネスに繋がる製品開発やサービス開発の答えを見つける際、私は人間の肉体を含む自然の森羅万象に答えがあると考えています。たとえば今では当り前のオートフォーカスは人間の目では当り前のことで、脳にある映像の記憶は、デジタル化したデータでカメラで記憶できるようになりました。

 美術を一つのライフワークにしてきた私は根底に芸術的アプローチがあるのですが、伝統的芸術には人間観察、自然観察は欠かせないように、身体と自然に回答を求める行為は人文科学、自然科学にも通じるものです。

 人文科学は人間観察が基本だし、自然科学は自然観察から新たな発見をする作業です。これは言い方を変えれば、人間や自然とのコミュニケーションともいえます。芸術は結果的に、芸術家本人が生み出す作品があり、作品は鑑賞者とコミュニケーションしているともいえます。

 ビジネスの世界でも製品自体は消費者とのコミュニケーションから生まれ、時代のニーズに合ったものをいち早く発見し、先行投資することが重要です。それも市場投入する際にはタイミングも重要で早すぎても遅すぎてもいけないので、ここでもコミュニケーションが重要です。

 マーケティングも消費者との間のコミュニケーションに置きかえることができます。デザイン思考が消費者ニーズを重視するのも消費者との精度の高いコミュニケーションによって競争力のある製品やサービスを提供するためです。

 コミュニケーションは言葉によるだけないことは、一つのコミュニケーション手段である芸術をみれば一目瞭然です。500年前のダヴィンチの「モナリザ」とわれわれは対話することができます。17世紀から18世紀に活躍した作曲家のバッハやヘンデルの名曲を現代人も楽しめます。芸術の世界は時間や空間を超えたコミュニケーションが可能です。

 ソリューションといえば、われわれ人間は貨幣経済がもたらす負の側面を未だに解決できていない問題があります。人類はアリストテレスがギリシアの時代に指摘した「貨幣が手段から目的に変わる危険性」を警告したことに答えを見出していません。つまり、2300年前のアリストテレスと今もわれわれはコミュニケーションをとっているともいえます。

 AI時代とかデジタル革命もコミュニケーション革命と言い換えることもできます。さらにグローバル化が進むことで、地域の歴史風土に根ざした文化の違いがいかに大きな影響を与えているかを再認識され、文化を超えた発信力と相手を理解するための聴く力の重要性が増しています。

 日産のゴーン前会長の日本の司法の後進性を指摘した批判に対して、日本の司法は、どこの国の人でも理解できる理屈と客観性を持って自らの正当性を説明する必要があります。このようなグローバルなコミュニケーション力が今は問われています。

 無論、日本がそれを怠ってきたともいえません。科学技術は文化に左右されない普遍性があり、その分野で日本は世界の誰もが評価できる研究を行い、高い品質の製品を提供し、信頼を集めてきました。これも豊かな表現力を持つ発信でありコミュニケーションです。

 ただ、中身がなければ発信力は上げ底になり、相手も気づくでしょう。それはともかく、コミュニケーションのギブ・アンド・テイクがエネルギーを生み出し、新しいアイディアを生み出すことは確かです。それも人間同士だけではなく、自然界のすべてとのコミュニケーションが解決をもたらすという思考は重要さを増しているように思います。

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